最強メイド!おぼっちゃまたちをお守りします!

緋村燐

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最強メイド!誕生のお話。

第28話 最強メイド!

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 ビルの裏に回り込んだ私は警戒しながら裏口から中に入る。
 特に見張りがいるわけでもなかったから思ったよりすんなり潜入できた。

 一階と二階に人がいないのは確認済みだけど、三階にいるやつらが降りてこないともかぎらない。
 警戒はおこたらないようにしないと。

 警戒しながら階段を上がって、二階に行くまで人には会わなかった。
 ホッと一息ついてから、確実に人がいる三階へと階段をふみ出す。
 すると、ちょうど誰かが下りてくる足音が聞こえた。

 すぐに陰《かげ》になるところにかくれて待ち構える。
 三階から下りて来たってことは誘拐犯の仲間に違いはない。
 私は下りて来た男の人の背後からわき腹に拳《こぶし》を入れた。

「ぐあっ! なっ⁉ お、お前こないだのメイド小娘! お前があの坊ちゃんを助けに来たのか⁉」

 脇を押さえながら声を上げた男はこの間街で襲《おそ》ってきたうちの一人みたい。
 なら、なおさら手加減しなくていいよね。

「しっつれーします!」

 私はすぐに男のみぞおちにもパンチを入れて、かがんだところにひざ裏から蹴《け》りを入れた。
 そうして倒れ込んだ男の人。
 私はオフィスの方から適当にガムテープを借りて、男の手足と口にぐるぐると巻きつけた。

「んーんー⁉」

 暴れてうごめいて、大きな芋虫みたい。

「よしっと、簡易的な拘束だけどちょっとの間だけだから大丈夫だよね」

 男を動けなくした私は、また気を引きしめて階段を上った。


 三階の廊下には誰もいなくて、もしかしたらさっきの人が見張りだったのかもしれないって思う。
 今三階にいる人たちが街で襲ってきた覆面《ふくめん》ってことは、杏くんの周りにいる梶くん以外の男の人たちはみんな人間かもしれない。
 たぶん、梶くん以外にヴァンパイアはいない。
 油断はしない方が良いけれど、苦戦しそうな人が少なそうでちょっと安心した。

 中からは少しだけど話し声が聞こえてくる。
 特に梶くんの声は比較的高めだからよく聞こえた。

「脅迫の連絡でちゃんとこっちの要望も伝えてくれたか?」

 他の人の声はくぐもっていたけれど、「ああ」とかなにか肯定するような声が聞こえる。

「そうそう。社長夫人が持ってるっていうルビーのネックレス。こっちはそれが目当てだからな」

 ルビーのネックレス? 《朧夜》が今回の誘拐に加担《かたん》したのってそれが理由なの?

 思わぬ形で《朧夜》の思惑が聞けた。
 でもそれ以上は話題が変わったのか声が聞こえてこない。

 よし、じゃあ突入だね。

 私は腰からクロちゃんを引き抜き、カチカチッと伸ばしていく。
 普通の棒術で使うものより短い黒い棒。
 人間のハンターである孤月家が対ヴァンパイアとしてあみ出した棒術なんだって。
 人間より早い動きについていくためには長い棒だと次の動きが遅くなるんだとか。

 部屋に入る前に、私は背筋を伸ばして深呼吸する。
 杏くんという人質がいる以上ミスは許されない。
 杏くんを傷つけられる前に周りの人たちを確実にしていかないと。
 深呼吸を繰り返しながらおばあちゃんの言葉を思い出す。

『大変なときほど冷静になるんだよ、望乃。冷静になって、状況をしっかり把握するんだ』

 うん。戦闘中だからって、熱くなり過ぎると周りが見えなくなっちゃうんだよね?

『大丈夫、私が教えた棒術は相手がヴァンパイアであってもたたきのめすんだから』

 おばあちゃんが現役だった頃の武勇伝もたくさん聞いたね。

『感覚を研ぎ澄ますんだよ』

 うん。分かってるよ、おばあちゃん。

 頭の中に浮かんだおばあちゃんの顔がニヤリと不敵な笑みを浮かべる。

『私が教えたことを全て出来たなら、お前は最強のハンターになれるよ!』

 うん! 私、頑張るよ!

 最後に大きく息を吸って、私はドアを開け放った。

 バタン!

「な、なんだ⁉」
「あ、お前あのときの!」

 ドアが勢いよく開けられたことで驚き慌てる男たち。
 そんな中、梶くんだけが私の姿を見て楽しそうに笑ったのが見えた。
 でも今は梶くんに構っていられない。
 この中で一番強いだろう梶くんに手間取っているときに他の人たちに邪魔されたくないからね。
 私は無言で慌てている彼らを確実に仕留めて行った。

「ははっ、やるねぇのんちゃん」

 立っているのが私と梶くんだけになってから、彼は楽しそうに声を上げる。
 男たちがやられても余裕の表情で、しかも彼らを手助けしようともしなかった。

 もしかしたら杏くんを人質にして大人しくしろとか言われるかもと警戒してたのに、それもなかったし。
 余裕の笑みを浮かべてただ見ているだけとか……結局はただの協力者ってことなのかな?

「でもどうやってここに来たのかな? 杏くんのスマホは電源切っておいたし、GPSは使えないはずなんだけど?」
「それを教える義理はないよね?」

 答えながら、やっぱりお母さんの言う通り電源は切られてたんだなって思った。

「確かにそっか。でもまた君一人だけ? さっき俺にかなわなかったこと、忘れちゃった?」
「……」
「あ、それともやっぱり《朧夜》に来る気になった?」
「そんなことある訳ないよね?」

 ふざけた調子でふざけたことを口にするから、さすがに無言ではいられなかった。
 でも冷静さは失わない。
 梶くんから視線を外さず、周囲にも意識を配った。

 周囲に倒れている男たちはやっぱりみんな人間だったし、確実に急所をついた。
 しばらくはまともに動けない。

「ははっ、まあこんな風にこいつら倒しちゃってるもんな。それはないか」

 本当に、何が楽しいのかずっと嫌な笑みを浮かべている梶くん。
 その余裕の笑み、今くずしてやるんだから!

「じゃあ、まだわからなかったのかな? 力の差ってやつが」

 笑みを浮かべたままの梶くんがその瞬間ピリつく気配をまとった。
 それを受け止めて、私はクロちゃんを構える。

「そうだね。ちゃんと私の本当の強さ、知ってもらってからじゃないとね」
「……そういう生意気なことを言うのは可愛くないよ、のんちゃん?」

 初めてスッと笑みを消した梶くんは、言い終えると同時に動き出した。

「そこっ!」

 人間だったら見えないくらいの速さで近づいた梶くんにクロちゃんを突きつける。

「おっと!」

 でも梶くんはすぐに反応して避けた。

「武器があるからさっきよりはマシそうだね?」

 顔から笑顔は消えてもその様子はまだ余裕そう。

「マシ、ね」

 舐めないで!
 私はクロちゃんを突きつけた方へ体も移動する。
 よけられたと余裕だった梶くんは、更に追って来たクロちゃんに「くっ」と苦し気な声を出す。
 クロちゃんはよけられたけれど、脇をかすめることは出来た。

「へぇ……確かに強気なことを言うだけはあるね」

 やっと余裕さを無くした梶くん。
 でもまだ私のことをあなどっている感じはあった。

 いいよ。
 そうやって侮っているうちに決着をつけさせてもらうんだから!

「……行くよ」

 私は一言だけ告げて、猛攻《もうこう》を開始した。
 クロちゃんを突き、払い、打つ。
 次の動作へのロスが少ないのを利用して、梶くんのスキを突いて攻め立てる。

「くっ! このっ!」
「杏くんは返してもらうよ!」

 宣言をして、私は最後に梶くんの背後に回り込みその背中を打った。

「ぐぅっ!」

 うめいてひざをついた梶くんはしばらく動けないと思う。
 その間に私は杏くんのもとへ向かった。

「杏くん! 大丈夫?」

 口に貼られたガムテープをはがし、手の拘束を解きながら聞く。

「ちょっ、もうちょっと優しくはがしてくんねぇ? ヒリヒリするんだけど」
「少しずつの方が痛いでしょ?」

 文句を言うくらいには元気みたいだから大丈夫かな?
 拘束されていたから少し痛そうに体をほぐしていたけれど、普通に立ち上がれたし問題はなさそう。

 私はすぐにスマホを取り出してデジタルアシスタントを起動させる。
 音声読み込み中のマークが出たことを確認して「お母さんに電話」とつげた。
 電話がかけられると、私からの連絡を待っていたっぽいお母さんはワンコールもならないうちに出た。

『杏くんの救出成功?』
「うん!」
『了解!』

 お互いに簡潔なやり取り。すぐに通話も切られた。
 でもそれだけで十分。
 このあとお母さんはここに突入するっていうハンターに連絡を入れるんだろうから。

「くっ……マジかよ……」

 じざをついたままうめくように梶くんが私を見つめる。
 痛みに耐《た》え、驚きに満ちた顔。
 でも怒りや憎しみみたいな感情は見て取れなかった。
 むしろ――。

「のんちゃんの本気の姿、メチャクチャキレイだな……ヤバイ、もっと気に入った」
「……何言ってんの?」

 痛くて辛いはずなのに、何故か笑い出す梶くんがちょっと不気味だ。
 ちょっと引いてる私に、梶くんは三度目の勧誘を口にする。

「なあ、のんちゃん。本当に俺と《朧夜》に来ねぇ? もっと君の闘う姿が見たい。俺のパートナーになってよ」
「お・こ・と・わ・り!」

 一音一音、ハッキリと、強く拒否した。
 まったく、何度断れば気が済むのか。

「あーあ、今のはマジの勧誘だったんだけどな。フられちゃったか」

 残念そうに笑った梶くんは、辛そうにしながらもゆっくり立ち上がる。
 まだ立てる力があったなんて。
 私はクロちゃんを構えて警戒態勢を取る。
 手負いの梶くんに何が出来るかってところだけれど、油断は禁物だからね。
 梶くんはそんな私を見て嬉しそうに笑う。

「まあ、簡単には諦めないけど」
「……」

 本当に、何を言ってるんだろう。
 何度誘われたって私がうなずくわけないのに。

「でも今回は逃げるが勝ちかな? 捕まったら元も子もないし」
「逃げられないよ。今他のハンターもここに突入してくるから」
「あ、やっぱり? さっきのはその連絡だったんだ?」

 流石にそれくらいは気づいていたみたい。
 ヘラヘラ笑っている梶くんは逃げる手立てでもあるんだろうか?

「それ以上ケガをしたくなかったら大人しく捕まった方がいいと思うけど?」

 警戒したまま捕まることをすすめるけど、彼は二ッと口角だけを上げる笑みを浮かべた。

「ここはケガをしてでも逃げるところだろ?」
「え?」

 ガシャァン!

 聞き返すと同時に、梶くんは近くの窓を割った。
 その行動に驚いている間に、彼は「また会おうな!」と言い残して外に飛び出てしまう。

「なっ⁉」

 とっさに追うべき? と思ったけれど、動けそうにないとはいえ犯人たちが床にうずくまる中、杏くんを一人残すことは出来ない。
 私は優先順位を考えて、梶くんを追うのを諦めた。
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