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最強メイド!誕生のお話。
第22話 報告
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覆面男たちは無事撃退したけれど、さすがにこの後のん気に遊びに行くわけにはいかない。
紫苑くんにはかなりぐずられたけれど、私たちは屋敷へ帰った。
「柊! 杏! 紫苑!」
いまだ不機嫌な紫苑をなだめながらみんなでリビングルームにいると、三人の名前を叫びながら美奈都さんが入ってきた。
「おかーさん!」
とたんに満面の笑みになった紫苑くんは、かけ寄って来る美奈都さんに飛びついてぎゅうっと抱きしめられていた。
「良かった……無事で」
愛しい息子の存在を確かめるようにしばらくぎゅっとすると、美奈都さんは立ち上がって柊さんと杏くんも抱きしめる。
二人は流石に恥ずかしそうだったけれど、美奈都さんが心配してくれてるんだってことは分かってるからか文句は出て来なかった。
「本当に無事で良かった。誘拐されそうになったって聞いた時は血の気が引いたわ」
息子たちの存在をひとしきり確かめてやっと落ち着けたらしい美奈都さん。
ずっと引っついている紫苑くんのふわふわな髪を優しくなでている。
なでられて幸せそうな紫苑くんは、そのまま笑顔で「だいじょーぶだよ」と美奈都さんに説明した。
「ののねーちゃんすごくてカッコイイから、わるいやつはみんなにげちゃうの!」
「すごくてカッコイイ?」
聞き返す美奈都さんに、柊さんと杏くんが答える。
「本当にすごかったよ。ほとんど一人で蹴散《けち》らしてたからね」
「強いんだろうなとは思ってたけど、あそこまでとは思わなかったからちょっとビビった。まあ、カッコ良かったけど」
いつもはちょっと素っ気ない杏くんからもほめられて、さすがに照れるなぁと思っていたら美奈都さんが私の方を見る。
「望乃ちゃん、この子たちを守ってくれて本当にありがとう。あなたに護衛を頼んで良かったわ」
「あ、えっと……はい」
ここで依頼ですから、なんて言うのは野暮《やぼ》ってやつだよね。
そう思って素直にお礼の言葉を受け取った。
でも、そこに無邪気な紫苑くんの声が上がる。
「あ、でもねー。はしたないのは、めーなんだよ?」
「え? はしたない?」
とたん、美奈都さんと紫苑くん以外の表情が固まった。
紫苑くん、それは言わなくていいからぁ!
またしてもわからない美奈都さんは、柊さんと杏くんに説明を求めて視線を送る。
でも、今回は二人とも説明しづらい感じで目をそらしてしまった。
そうだよね、スカートたくし上げたなんて男の子の口から言えないよね。
ごめんねーと思っていると、答えがないことで本人に聞けばいいとでも思ったのか美奈都さんは私に視線を向けた。
「あーそのですね。クロちゃん……私の武器の携帯場所がちょっと問題だったみたいで……」
仕方ないので私の口から一通り説明させてもらう。
「あらあら」
口元に手をそえた美奈都さんは、チラリと柊さんと杏くんを見てクスッと小さく笑った。
声は聞こえなかったけれど、その口が『青春ねぇ』と動いているのが見える。
「そうね、確かに年頃の女の子がスカートたくし上げちゃあダメよね」
私に視線を戻した美奈都さんは三兄弟の味方をする。
うーん、やっぱりダメなのかぁ……カッコイイと思ったんだけどな。
「もしよかったら、携帯しやすそうなバッグを見つくろってあげるわ。お礼も兼《か》ねて」
「え? 良いんですか?」
依頼人である美奈都さんから個人的にものを貰うのはよくないのかもしれないけれど、「親友の娘へのプレゼントよ」と言われたから二つ返事で受け入れちゃった。
他の携帯方法に悩んでいたから、正直助かるし。
その少し後には三人のお父さんもいつもより早く帰って来て、今日の夜はそのまま家族でゆっくり過ごしていた。
ほほ笑ましい雰囲気に、私も混ざりたいなぁなんて思ってしまう。
でも家族水入らずの邪魔をしちゃあダメだよね。
それに、今日のことはしっかり報告しなきゃならないし!
というわけで、お風呂も早々にすませた私は部屋のカーテンを開けて太ってきた月を見上げながらお母さんに電話をかけていた。
『……そう、やっぱりヴァンパイアがからんでいるのね』
玲菜さんが催眠術をかけられていたと報告すると、そんな神妙《しんみょう》な声が返ってくる。
「やっぱり《朧夜》が関係してるのかな?」
『でしょうね』
確認も込めた質問に、すぐ肯定の言葉が返ってきた。
『でも、催眠術をかけたのが男の子らしいってところが引っかかるのよね』
「あ、やっぱり?」
組織の構成員と言えば普通は大人。
《朧夜》はヴァンパイアの犯罪組織だから、子どもも働いていてもおかしくはないんだろうけれど……。
『これは、学園の方も本当に警戒しなきゃならないわね』
子どもと言っても何歳くらいの子かはわからない。
玲菜さんの催眠はもうしっかり解けていて、意識がハッキリしていない間のことは記憶にないから催眠をかけられたことすら覚えていない。
それがヴァンパイアの催眠術だ。
男の子とぶつかったことを聞けたのは催眠が解けるか解けないかってところだったから。
今はもう全く覚えていないだろうから、聞いたってなんのこと?って返ってくるだけだ。
だから学園の中に入れる年齢なのかは分からない。
でも、警戒は必要ってことだよね。
『残り一週間、気を引きしめて警戒してちょうだい』
「うん、もちろん!」
いつものように元気よく返事をした。
『……』
「お母さん?」
あとの用事はないから切るところなんだけれど、電話向こうのお母さんがなぜかだまり込んでしまう。
どうしたの? と聞き返そうとすると『望乃ちゃん』と呼ばれる。
「なあに?」
『護衛任務は大事だけれど、望乃ちゃん自身のことも大事にしてね?』
「お母さん……」
仕事上のことではなく、純粋に母親としての心配。
お母さんからの想いを感じ取って、無性《むしょう》に会いたくなってしまう。
会って、ギューッと抱きつきたい衝動《しょうどう》にかられる。
でも、任務はまだ一週間ある。
放り出して帰るわけにはいかない。
それに、どうせなら依頼を成功させて『よく頑張ったね』ってほめてもらいたいし。
「……うん、分かった。ケガに気をつけつつ、頑張るね」
いつもよりしっかりと返事をした。
紫苑くんにはかなりぐずられたけれど、私たちは屋敷へ帰った。
「柊! 杏! 紫苑!」
いまだ不機嫌な紫苑をなだめながらみんなでリビングルームにいると、三人の名前を叫びながら美奈都さんが入ってきた。
「おかーさん!」
とたんに満面の笑みになった紫苑くんは、かけ寄って来る美奈都さんに飛びついてぎゅうっと抱きしめられていた。
「良かった……無事で」
愛しい息子の存在を確かめるようにしばらくぎゅっとすると、美奈都さんは立ち上がって柊さんと杏くんも抱きしめる。
二人は流石に恥ずかしそうだったけれど、美奈都さんが心配してくれてるんだってことは分かってるからか文句は出て来なかった。
「本当に無事で良かった。誘拐されそうになったって聞いた時は血の気が引いたわ」
息子たちの存在をひとしきり確かめてやっと落ち着けたらしい美奈都さん。
ずっと引っついている紫苑くんのふわふわな髪を優しくなでている。
なでられて幸せそうな紫苑くんは、そのまま笑顔で「だいじょーぶだよ」と美奈都さんに説明した。
「ののねーちゃんすごくてカッコイイから、わるいやつはみんなにげちゃうの!」
「すごくてカッコイイ?」
聞き返す美奈都さんに、柊さんと杏くんが答える。
「本当にすごかったよ。ほとんど一人で蹴散《けち》らしてたからね」
「強いんだろうなとは思ってたけど、あそこまでとは思わなかったからちょっとビビった。まあ、カッコ良かったけど」
いつもはちょっと素っ気ない杏くんからもほめられて、さすがに照れるなぁと思っていたら美奈都さんが私の方を見る。
「望乃ちゃん、この子たちを守ってくれて本当にありがとう。あなたに護衛を頼んで良かったわ」
「あ、えっと……はい」
ここで依頼ですから、なんて言うのは野暮《やぼ》ってやつだよね。
そう思って素直にお礼の言葉を受け取った。
でも、そこに無邪気な紫苑くんの声が上がる。
「あ、でもねー。はしたないのは、めーなんだよ?」
「え? はしたない?」
とたん、美奈都さんと紫苑くん以外の表情が固まった。
紫苑くん、それは言わなくていいからぁ!
またしてもわからない美奈都さんは、柊さんと杏くんに説明を求めて視線を送る。
でも、今回は二人とも説明しづらい感じで目をそらしてしまった。
そうだよね、スカートたくし上げたなんて男の子の口から言えないよね。
ごめんねーと思っていると、答えがないことで本人に聞けばいいとでも思ったのか美奈都さんは私に視線を向けた。
「あーそのですね。クロちゃん……私の武器の携帯場所がちょっと問題だったみたいで……」
仕方ないので私の口から一通り説明させてもらう。
「あらあら」
口元に手をそえた美奈都さんは、チラリと柊さんと杏くんを見てクスッと小さく笑った。
声は聞こえなかったけれど、その口が『青春ねぇ』と動いているのが見える。
「そうね、確かに年頃の女の子がスカートたくし上げちゃあダメよね」
私に視線を戻した美奈都さんは三兄弟の味方をする。
うーん、やっぱりダメなのかぁ……カッコイイと思ったんだけどな。
「もしよかったら、携帯しやすそうなバッグを見つくろってあげるわ。お礼も兼《か》ねて」
「え? 良いんですか?」
依頼人である美奈都さんから個人的にものを貰うのはよくないのかもしれないけれど、「親友の娘へのプレゼントよ」と言われたから二つ返事で受け入れちゃった。
他の携帯方法に悩んでいたから、正直助かるし。
その少し後には三人のお父さんもいつもより早く帰って来て、今日の夜はそのまま家族でゆっくり過ごしていた。
ほほ笑ましい雰囲気に、私も混ざりたいなぁなんて思ってしまう。
でも家族水入らずの邪魔をしちゃあダメだよね。
それに、今日のことはしっかり報告しなきゃならないし!
というわけで、お風呂も早々にすませた私は部屋のカーテンを開けて太ってきた月を見上げながらお母さんに電話をかけていた。
『……そう、やっぱりヴァンパイアがからんでいるのね』
玲菜さんが催眠術をかけられていたと報告すると、そんな神妙《しんみょう》な声が返ってくる。
「やっぱり《朧夜》が関係してるのかな?」
『でしょうね』
確認も込めた質問に、すぐ肯定の言葉が返ってきた。
『でも、催眠術をかけたのが男の子らしいってところが引っかかるのよね』
「あ、やっぱり?」
組織の構成員と言えば普通は大人。
《朧夜》はヴァンパイアの犯罪組織だから、子どもも働いていてもおかしくはないんだろうけれど……。
『これは、学園の方も本当に警戒しなきゃならないわね』
子どもと言っても何歳くらいの子かはわからない。
玲菜さんの催眠はもうしっかり解けていて、意識がハッキリしていない間のことは記憶にないから催眠をかけられたことすら覚えていない。
それがヴァンパイアの催眠術だ。
男の子とぶつかったことを聞けたのは催眠が解けるか解けないかってところだったから。
今はもう全く覚えていないだろうから、聞いたってなんのこと?って返ってくるだけだ。
だから学園の中に入れる年齢なのかは分からない。
でも、警戒は必要ってことだよね。
『残り一週間、気を引きしめて警戒してちょうだい』
「うん、もちろん!」
いつものように元気よく返事をした。
『……』
「お母さん?」
あとの用事はないから切るところなんだけれど、電話向こうのお母さんがなぜかだまり込んでしまう。
どうしたの? と聞き返そうとすると『望乃ちゃん』と呼ばれる。
「なあに?」
『護衛任務は大事だけれど、望乃ちゃん自身のことも大事にしてね?』
「お母さん……」
仕事上のことではなく、純粋に母親としての心配。
お母さんからの想いを感じ取って、無性《むしょう》に会いたくなってしまう。
会って、ギューッと抱きつきたい衝動《しょうどう》にかられる。
でも、任務はまだ一週間ある。
放り出して帰るわけにはいかない。
それに、どうせなら依頼を成功させて『よく頑張ったね』ってほめてもらいたいし。
「……うん、分かった。ケガに気をつけつつ、頑張るね」
いつもよりしっかりと返事をした。
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