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三章 中間テストと告白

告白……させちゃった①

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 帰りのショートホームルームも終わり、日高くんと教室を出る前に美智留ちゃん達からエールが送られた。
「頑張って!」
 と言われたけれど、そこまで意気込むことかな?
 まあ、私のことが好きなの? なんて聞くのは自意識過剰っぽくて恥ずかしいし、言葉にするにはちょっと勇気がいるけれど。
 取りあえず分かった、と返して私は日高くんと学校から出た。

「で? 話って? 場所変えた方が良いか?」
 早速聞かれて少し考える。
 あまり人に聞かれたいことでもないし……。
「出来れば人が少ないところが良いかな?」
 そう答えると、日高くんは人の悪い笑みを浮かべて「じゃあ」と提案する。
「俺の部屋に来るか?」
「日高くんの部屋? 一人暮らしのアパートに?」
 聞き返しつつ考える。
 確かに日高くんの部屋なら誰かに聞かれる心配もないか。
 それに日高くんの部屋ってちょっと見てみたいし。

「うん、そうしようか」
 これで場所は決まった、と思ったんだけど。
「いや待てよ!」
 何故か提案してきた本人に非難するように止められた。
「お前な、少しは危機感ってものを持て!」
 ええぇ? どうして私、叱られてるの?
「提案したのは日高くんじゃない」
「そりゃ、そうだけど!」
 と叫んで額に手を当てる日高くん。
「あーもう! とにかく別の場所だ、俺の部屋は無し!」
「……自分が言ったくせに」
 訳分からないし、不満も露わに口を尖らせた。
 でも駄目だと言われてしまったなら仕方ない。他の場所にするしかないか。

 考えた末、近くで一番大きい公園を選んだ。
 子連れの母親、小学生、のんびりしているお爺さんなど、多様な人がいるけれどそこそこ広さがあるし、樹木も多い。
 この中の一角で話すくらいなら、特に気に留める人もいないだろうと思ったから。
 私達は自動販売機で飲み物を買って空いているベンチに座った。
 ペットボトルのお茶を一口飲んで、どう話そうか少し悩む。
 隣を見ると、新発売と書かれてあった炭酸飲料をごくごくと飲む日高くん。
 私は意を決して、さくらちゃんの言っていた通りに聞いてみることにした。

「日高くんって、私の事好きなの?」
 瞬間、ぶふーーーっ! と盛大に炭酸飲料を吹き出す日高くん。
「ええ⁉ ちょっ、早く拭かないと」
 慌ててポケットティッシュを出した私は、日高くんの制服を拭きながら思った。

 日高くんが私を好きなんてやっぱりありえないよね。
 思いもしない事言われてこんなに派手に吹き出しちゃうくらいだもの。
 そう考えながら拭き終わると、ガシッと手首を掴まれた。
「お、まえなぁ……ストレートすぎるんだよ」
 唸る様に言われて、怒らせてしまったのかと思う。
「あ、ごめんね。やっぱりそんな事ないよね?」
 変な事言ってごめん、と謝った。
 なのに日高くんは眉間にシワを寄せて更に不機嫌そうになる。

 ええー? ちゃんと謝ったのに。

「間違ってなんかねぇよ」
「え?」
「好きだっつってんの」
「…………………………え?」
 今なんて言ったんだろう?
 聞こえてるはずなのに、理解出来ないみたいに頭の中でリフレインしている。

 好きだっつってんの――。

「えええ⁉」
 大きな声に、比較的近くにいたお爺さんがこっちを見たけれど構っていられない。
「え? どうして? いつから? 何で私⁉」
 とにかく驚き、出てきた疑問を次々と口にする。

 日高くんは苦虫を噛み潰したような顔で一度私から目を逸らし。
「まだ言うつもりはなかったってのに……」
 と呟くと、軽く睨むように私を見た。
「でもハッキリ言っておかねぇと、お前変な風に勘違いしそうだからな」
「勘違いなんて……」
 しない、とは言えなかった。
 日高くんの言葉が本当なら、確かに私は勘違いしただろう。
 彼が私を好きだなんてありえないと思っていたから。

「しっかり落とされたのはお前にメイクされた日だよ。面白そうなヤツとしか思ってなかったのに、あの日のお前は綺麗だったし、可愛かったし、カッコ良かった」
「……」
 もはやポカーンとするしかない。
 綺麗で可愛くてカッコ良かったって。それ誰の事?
 しっかりメイクしていたし、可愛いって言われるのはまだ分かる。
 でも綺麗、しかもカッコイイってどこから来たの?

「メイクしてオシャレに着こなして、あれ、俺の好みだったし。それにお前分かってねぇみてぇだけど、メイクしたときのお前って周りから見たら確実に美人だからな?」
「ええぇ?」
 美人と言われて、私は困ったような苦笑いを浮かべる。
 いや、流石にそれはないんじゃないかな?
 確かに化粧映えする顔だとは思うけど、元が元だし美人とまでは……。
「何よりメイクしているときのお前、すげぇカッコ良かったんだよ」
「え?」
 それこそ、本当に? と思う。
 中学のときは同じ趣味の友達以外とメイクのことを話すとウザがられていたし、男子になんて平凡顔に化粧したってちょっと変わるだけじゃん、と言われていた。
 それが、カッコイイ?

「真剣にやってるってのがすぐに分かるくらい空気が変わったし。なんか、動きも洗練されてる感じで神聖なものでも見ている気分だったし……」
 思い出しながら話しているのか、少し瞼を伏せて日高くんは話す。
「そんなカッコ良くて綺麗なお前が俺だけを見てるって思うとゾクゾクした。そして最後に出来に満足したのか笑顔になっただろ? もうあれ、恋に落ちて下さいって言ってるのかと思うくらいだったぜ?」
「……」

 な、なによそれ……。
 日高くんが言っているのって、私の事なんだよね?
 信じられないけれど、彼は言い終えると真っ直ぐに私を見た。
 嘘じゃないってことは、流石に分かる。
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