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一章 メイクオタク地味子

お化け屋敷③

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「……へ?」
 端正な顔が間抜けに固まった。
「こんな……こんなに美形なのに!」
 感情のままに叫んだ私は日高くんに詰め寄る。
「どうして肌乾燥させてるの⁉」
「……はい?」
「唇もカサカサだし、良く見たらクマも出来てるじゃない⁉」
「……えっと」
「髪だってごわごわ! 伸ばすならもうちょっと気を使ってよ!!」
「……」
 ひとしきり言い切って私は肩で息をする。

 やってしまった。
 学校でメイクをしない様地味子を通していたのに……。
 突然始まったケンカに驚いて、日高くんの本当の姿に混乱して。
 色々と許容範囲を越えたこともあって、メイクしたい欲求が爆発してしまった。

 だって、肌や髪の状態も許せなかったけれど、終いには顔の傷口を乱暴に拭ったんだよ⁉
 ちゃんと清潔にして紫外線対策もしないと傷跡が残ってしまうんだよ⁉
 それなのにあんな風に拭って……。
 キレイな顔だったから尚更許せなかった。
 もう我慢の限界だったの。
 だから、仕方ないよね。
 日高くんが引いてしまうくらいぶっちゃけてしまったのは……。

「……えっと……。取りあえず、出るか? あいつ動き出したら面倒だし」
 そう言って日高くんはスタッフのお兄さんを指さす。
 つい存在を忘れかけていたけれど、確かに動き出したら面倒だ。
 私は日高くんの言葉に頷き、立ち上がる。
 非常口を出る前に「メガネ返して」と言われ、ずっと握りしめていたことに気付いた。
 壊れてはいないけれど、レンズに手あかがついてしまっている。
「あ、ごめん。今拭くから」
 慌ててバッグから眼鏡拭きを取り出すけど、「いいよ」とメガネを取られてしまった。
 見えづらいだろうに、早く地味男に戻りたいのかメガネを掛けて顔を隠すように髪をセットし直した。
 その様子を見て純粋にもったいないな、と思う。
 あんなに美形なのに隠してしまうなんて、と。


 非常口から外に出ると、少し離れたところに他のみんなが固まって立っていた。
「お、来た来た。遅かったな」
 私たちに気付いた工藤くんが片腕を上げて手招きする。
「ごめんなさい。待たせちゃって」
「それはいいの。でも突然停電なんてビックリしたよね。このお化け屋敷だけみたいだけど」
 美智留ちゃんのその言葉を聞いて、もしかしたらさっきのスタッフのお兄さんが何かしたのかもしれないと思った。
 スタッフなら電源がどこにあるかとかも知っていてもおかしくないし。

 まあ、でも他の人にまで危害が加えられなかったんだから良かったのかもしれない。
 あのお兄さんはクビになるだろうけど。
 まあ、自業自得だ。
 でもお兄さんの言い分だと、クビになったのも日高くんのせいだとか言いそう。
 もう会いたくはないね、面倒だ。

「でも灯里ちゃんたちが一番遅かったよね? 何かあったの? 大丈夫?」
 さくらちゃんが心配してそう言ってくれる。
 でもさっきのことを話すわけにはいかない。
 日高くんがケンカしたとか信じてくれそうにないし、それに日高くんも知られたくない様だったし。
 何より話してしまって、その流れで私が色々ぶっちゃけてしまったことも話さなくてはならなくなったら困る。

 そうだ、その辺りの口止めもしておかないと。
 そう思って、私は日高くんの腕を掴んだ。
「え? 何――」
 驚いている日高くんの声をさえぎるように私は口を開く。
「暗かったからちょっと日高くんがケガしちゃったの。私手当てするから、みんなは遊んでて。後で電話するから」
「え? 大丈夫? ケガしたってどこを?」
 私の言葉に花田くんが日高くんを心配するけど、今は早く別行動をとりたかった。
「口元をちょっと切っちゃっただけだから大したことないよ。でも手当はしなきゃね」
 言いながら、日高くんの腕をぐいぐい引っ張る。

「お、おい。……倉木さん?」
 戸惑い気味な日高くん。
 でもちゃんと話をするべきだと思っているのは彼も同じはずだ。
「大したことないから私だけで大丈夫。皆は楽しんでて!」
 そう言って私は日高くんを引っ張りながら皆から離れて行った。
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