地味男はイケメン元総長

緋村燐

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一章 メイクオタク地味子

遊園地②

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「さて、と。日高は寝不足なんだろ? 今のうちに少しでも寝ておけよ。少しは気分も良くなるだろ」
 花田くんの言葉に、日高くんは無言で頷いて目を閉じた。
 そんな日高くんに花田くんは日陰を作る位置に立って、私たちの方を見る。
「倉木さんは……休んでいれば大丈夫そうかな?」
「うん、久しぶりに乗ったからビックリしちゃってるだけだと思う」
 三人の中では私が一番軽症だと思う。
 花田くんは私の言葉を聞いて安心した様に頷き、そしてさくらちゃんの方を見た。

「宮野さんは、乗る前から無理してたよね? 何で慎也が苦手な人いるか聞いたとき言わなかったの?」
 少し怒気を含ませた声にドキリとする。
 花田くんも気付いてたんだ。
「乗る前にも本当に大丈夫か俺聞いたよね?」
「うっ……ごめんなさい」
 気持ち悪いのも相まって顔を上げられない様だ。
 さくらちゃんはうつむいてただ謝る。

 無理してでも、好きな人と一緒に乗りたかったのかな。
 予想でしかないけど、そんな感じなんだと思う。
 それに……。

「花田くん、それぐらいで……。きっと一人だけ無理だって言って皆を困らせたくなかったんだよ」
 あの時そんなことを言ったら、誰かが一緒に待っていることになっただろう。
 皆で楽しもうって時にそんな水を差すようなこと言えなかったんじゃないかな?
「まあ、気持ちは分からなくはないけどさ……」
 怒りを吐き出すように溜息をついた花田くんは続けて言った。
「乗れないなら俺が一緒に待ってても良かったのに。俺、別にそこまで絶叫もの好きなわけじゃないし」
 その言葉に私は衝撃を受ける。

 二人きりにさせるの、そっちの手もあったかー!

 協力を頼まれたのはジェットコースターに向かっている途中だったから、その時にはもうその手は使えなかったんだけれど……。
 何だかショックで俯いてしまった。

「え? 何? 倉木さんどうした?」
「ううん、何でもない。気にしないで……」
「ええー……?」
 ちょっと花田くんを困らせてしまったけれど、話せる事じゃないからそのままにしておく。
 メイクの事しか興味なかったけれど、もうちょっと恋愛とか人間関係の方も学んだ方が良いかなぁ……。
 自分のふがいなさに、そんなことを思ってしまう。
 しばらくして、更に二つくらい絶叫ものを乗って来たという二人が戻って来た。

「三人とも、具合はどうだ? 動けそうか?」
 工藤くんに聞かれて私とさくらちゃんは「大丈夫」と返事をする。
 さくらちゃんはまだ少し元気がなさそうだけど、具合が悪いというよりはさっき花田くんに叱られたからじゃないかな、と思う。

「日高は? おーい」
 日高くんは……ぐっすり寝ていた。
 横になっている訳でもなく、ベンチに座ったままの態勢でよく眠れるなぁと感心する。
 これはかなりの寝不足だったに違いない。
 肌も荒れるわけだ。
 でもみんなも来たしそろそろ起こさなきゃ。

「日高くん皆来たよ。そろそろ起きて」
 隣に座っていた私が肩を叩いて起こそうとする。
 でも控えめな叩き方だったからか起きる気配はない。
 これじゃだめだ。
 ほっぺでも突けば起きるかな?
 そう思って顔に手を近付けると――。

 ガシッ

 寝ていたはずの日高くんにその腕を掴まれた。
「っ! え?」
 掴まれたことにも驚いたけれど、メガネの奥で開いた目が鋭くこっちを睨んでいるように見えてビクリとする。
 息を詰まらせていると、鋭い目が何度か瞬き見開かれる。
「……あれ?……えっと、倉木?……さん?」
「あ、うん。……おはよう」
 何と言えばいいか分からず、朝の挨拶をしてみる。

「やっと起きたか。じゃあ次はどうする? もう一つ大人しめなアトラクション乗るか? それか昼飯? ちょっと早いけど」
 工藤くんが提案すると、美智留ちゃんが「私はどっちでもいいけど」と答える。
 さくらちゃんもどっちでもいいと言ったけれど、工藤くんは「もう一つくらい乗ろうぜ?」なんて言う。
 でも。
「丁度昼の時間だと混むし、今食べた方がいいかもね」
 と言う花田くんの言葉に私は同意した。

 そして日高くんの。
「腹減った……。俺、朝食ってなかったから……」
 という言葉でお昼にすることが決定した。
 工藤くんは不満そうだったけれどね。

 というか、朝ご飯食べなよ日高くん!
 寝不足の上朝食抜きとか……美容以前に健康に悪い!
 メイクだけじゃなく生活改善もしたくなってきた。
 ダメだ。
 やっぱり私は日高くんに近付かない方がいい。
 そう決意し、昼食の時はテーブルも別になるように座って日高くんから距離を取る。

 ……なのに。
 昼食後、体験型のアトラクションに行こうという事になり、お化け屋敷に決定したんだけど……。

 そこで日高くんと一緒に入ることになってしまったんだ。
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