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吸血鬼②
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「だから昨夜の賊がお前だということは分かっている。そして分かっていても、番を失う様なことを私はしない。知らぬふりなどせずとも良い」
大丈夫だと、心配するなと令劉は語るが、それを信じるに値するという確証が明凜には持てない。
持てない以上、やはり知らぬと言うしかないのだ。
「わ、分かりません。令劉様が何をおっしゃっているのか、私には分かりません」
少し、混乱はしていたのだと思う。
冷静に思考を巡らせながらも、昨夜の熱を思い出し血流が早まっている気がした。
吸血鬼などという初めて聞く存在もよく分からない。
情報が錯綜し始めて、とにかく自分が昨夜の賊ではないということだけは突き通さねばと「分からない」を繰り返す。
だからだろうか、伸ばされた令劉の手が自身の手に触れた途端明凜はビクリと身体を震わせてしまった。
「あ……」
明凜の反応を見て令劉は伸ばした手を戻すと、彼はまるで傷ついたかのように眉を寄せ視線を下げる。
そのような顔をされてしまっては、こちらが悪い様な気がしてしまう。
「あ、申し訳ございません。その、驚いてしまって……」
「……いや、私こそ焦りすぎた。今日は本当に話をするだけのつもりなのだ」
どう対応しようかと惑っていたが、令劉の方が冷静さを取り戻したようだ。
改めて真面目な顔になり、「話を聞いて欲しい」と請われる。
どちらにしろ拒否出来なかったとは思うが、令劉の殊勝な態度に明凜は自然と頷いた。
椅子を勧められ座ると、令劉は下女にでも用意させておいたのか机の上にあった茶器で茶を淹れ始める。
目上の者に淹れさせる訳にはいかないので自分がやると言ったが、「私にやらせてくれ」とやんわり断られてしまった。
茶も淹れ終わると、互いに向き合うように座る。
まだ熱い茶を一口啜った令劉は、一息分の間をたっぷり取ってから口を開いた。
「とりあえず、昨夜の賊が明凜かどうかは置いておこう。大事なのはそこではないのだ」
「……はい」
(いえ、大長秋としては大事なのでは?)
思わず突っ込みたくなったが、それは自分の首を絞めることに繋がるので口を閉ざした。
「知っておいて欲しいのは、私が吸血鬼であり明凜は私の番だということだ」
「はあ……その番もよく分かりませんが、まず吸血鬼とはどういう存在なのですか? 僵尸とは違うのでしょうか?」
ひとまず、間者であることを追求される心配はなくなった様なので素直に話に乗った。
この令劉という謎の宦官ではない宦官が、どういった人物なのか知る必要もあると判断したからでもある。
「僵尸? ああ、あれも血を啜るのだったか。確かに似てはいるが……あのような死人と同じにされるのは少々不快だな」
少々と言いつつも、眉間のしわの深さを見ると少々どころではなく不快なのだろうと分かる。
あまり混同しないようにしようと密かに思った。
「吸血鬼とは西の国の……まあ、血を吸う鬼だな。元は死した者が生き血を啜り生きているように振る舞っていたと言うが、どこまで事実なのかは私にも分からない。私自身は、吸血鬼と人の母から生まれたからな」
そう話し始めた令劉は、茶の入った湯飲みを長い指でもてあそびながら思い出話のように語った。
自分は二百年以上前に西の国で生まれたのだ、と。
成人とともに番を求めて旅をし、最終的にこの儀へたどり着いたのだと。
「儀へと来る途中で一度は番を見つけたのだ。だが、その番にはすでに孫も生まれ私の子を産める様な年齢ではなかった」
「え? 番とは複数いるのですか?」
思わず声を上げてしまった。
だが仕方ないだろう。昨夜も先ほども、明凜を番だと言いずっと求めていたと言ったのだ。
ただ一人の存在だから求めていたのではないのだろうか。
「いや? 番とは一人だ。たった一人の魂だけを求める」
驚きの声を上げた明凜に、令劉は憧憬とも取れる眼差しを向ける。
その済んだ空色の目は、ただひたすら明凜を求めていた。
「二百年前に見つけた番は、明凜の前々前世といったところだな」
「前々前世……」
輪廻転生ということだろうか?
だが、明凜自身には確かめようもないこと故にポカンと口を開けることしか出来ない。
「私の子を産めないとはいえ番だ。無理に求めて彼女を不幸にするわけにはいかないと思い旅を続けて離れたのだ。幸か不幸か吸血鬼は不死だ。自身の子に吸血鬼の力が受け継がれるまで死ぬことはない。番が次の生を受け、年頃になるのを待てば良い」
なんとも壮大な話に相槌すら打てない。
これは事実なのだろうか?
令劉が作り話をする理由もないため、嘘とは思わないが……。
「だから、番が再び生まれてくるのを待つ間の戯れと思いこの儀国にて皇帝と契約をしたのだ」
そこまで語ると、途端に美麗な顔が歪みギリリと歯が鳴る。
「その契約が、間違いだった」
大丈夫だと、心配するなと令劉は語るが、それを信じるに値するという確証が明凜には持てない。
持てない以上、やはり知らぬと言うしかないのだ。
「わ、分かりません。令劉様が何をおっしゃっているのか、私には分かりません」
少し、混乱はしていたのだと思う。
冷静に思考を巡らせながらも、昨夜の熱を思い出し血流が早まっている気がした。
吸血鬼などという初めて聞く存在もよく分からない。
情報が錯綜し始めて、とにかく自分が昨夜の賊ではないということだけは突き通さねばと「分からない」を繰り返す。
だからだろうか、伸ばされた令劉の手が自身の手に触れた途端明凜はビクリと身体を震わせてしまった。
「あ……」
明凜の反応を見て令劉は伸ばした手を戻すと、彼はまるで傷ついたかのように眉を寄せ視線を下げる。
そのような顔をされてしまっては、こちらが悪い様な気がしてしまう。
「あ、申し訳ございません。その、驚いてしまって……」
「……いや、私こそ焦りすぎた。今日は本当に話をするだけのつもりなのだ」
どう対応しようかと惑っていたが、令劉の方が冷静さを取り戻したようだ。
改めて真面目な顔になり、「話を聞いて欲しい」と請われる。
どちらにしろ拒否出来なかったとは思うが、令劉の殊勝な態度に明凜は自然と頷いた。
椅子を勧められ座ると、令劉は下女にでも用意させておいたのか机の上にあった茶器で茶を淹れ始める。
目上の者に淹れさせる訳にはいかないので自分がやると言ったが、「私にやらせてくれ」とやんわり断られてしまった。
茶も淹れ終わると、互いに向き合うように座る。
まだ熱い茶を一口啜った令劉は、一息分の間をたっぷり取ってから口を開いた。
「とりあえず、昨夜の賊が明凜かどうかは置いておこう。大事なのはそこではないのだ」
「……はい」
(いえ、大長秋としては大事なのでは?)
思わず突っ込みたくなったが、それは自分の首を絞めることに繋がるので口を閉ざした。
「知っておいて欲しいのは、私が吸血鬼であり明凜は私の番だということだ」
「はあ……その番もよく分かりませんが、まず吸血鬼とはどういう存在なのですか? 僵尸とは違うのでしょうか?」
ひとまず、間者であることを追求される心配はなくなった様なので素直に話に乗った。
この令劉という謎の宦官ではない宦官が、どういった人物なのか知る必要もあると判断したからでもある。
「僵尸? ああ、あれも血を啜るのだったか。確かに似てはいるが……あのような死人と同じにされるのは少々不快だな」
少々と言いつつも、眉間のしわの深さを見ると少々どころではなく不快なのだろうと分かる。
あまり混同しないようにしようと密かに思った。
「吸血鬼とは西の国の……まあ、血を吸う鬼だな。元は死した者が生き血を啜り生きているように振る舞っていたと言うが、どこまで事実なのかは私にも分からない。私自身は、吸血鬼と人の母から生まれたからな」
そう話し始めた令劉は、茶の入った湯飲みを長い指でもてあそびながら思い出話のように語った。
自分は二百年以上前に西の国で生まれたのだ、と。
成人とともに番を求めて旅をし、最終的にこの儀へたどり着いたのだと。
「儀へと来る途中で一度は番を見つけたのだ。だが、その番にはすでに孫も生まれ私の子を産める様な年齢ではなかった」
「え? 番とは複数いるのですか?」
思わず声を上げてしまった。
だが仕方ないだろう。昨夜も先ほども、明凜を番だと言いずっと求めていたと言ったのだ。
ただ一人の存在だから求めていたのではないのだろうか。
「いや? 番とは一人だ。たった一人の魂だけを求める」
驚きの声を上げた明凜に、令劉は憧憬とも取れる眼差しを向ける。
その済んだ空色の目は、ただひたすら明凜を求めていた。
「二百年前に見つけた番は、明凜の前々前世といったところだな」
「前々前世……」
輪廻転生ということだろうか?
だが、明凜自身には確かめようもないこと故にポカンと口を開けることしか出来ない。
「私の子を産めないとはいえ番だ。無理に求めて彼女を不幸にするわけにはいかないと思い旅を続けて離れたのだ。幸か不幸か吸血鬼は不死だ。自身の子に吸血鬼の力が受け継がれるまで死ぬことはない。番が次の生を受け、年頃になるのを待てば良い」
なんとも壮大な話に相槌すら打てない。
これは事実なのだろうか?
令劉が作り話をする理由もないため、嘘とは思わないが……。
「だから、番が再び生まれてくるのを待つ間の戯れと思いこの儀国にて皇帝と契約をしたのだ」
そこまで語ると、途端に美麗な顔が歪みギリリと歯が鳴る。
「その契約が、間違いだった」
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