異世界タイムスリップ

緋村燐

文字の大きさ
上 下
13 / 41
異界を渡るマレビト

異世界②

しおりを挟む
「あれ? 眼鏡なくなった? でもちゃんと見えるな?」

 不思議そうに眼鏡のあった辺りをさわるアキラ先輩。
 そう、今のアキラ先輩はイケメンの素顔をさらけ出したままの状態だった。
 しかもいつもはぴょんぴょんはねている髪が後ろにでつけるような形に整えられていて、普段のモサッと感がまるでない。
 兵士っぽい格好でちょっと男らしさもあるせいか、今まで見た中で一番カッコ良かった。

 ちょっ、ちょっと待って。
 もしかしなくても、帰るまでずっとこの格好なんだよね?
 このいまだに慣れるどころかさらに緊張しちゃいそうな格好のアキラ先輩と一緒にいるの?
 も、持ちそうにないんだけど!?

 すでにバクバクと鼓動が大きくなってきてるのに、無理に決まってる!

 早くもギブアップしそうな気分でいたら、切れ長な焦げ茶の目が私に向けられた。

「ラナさん、その服装も似合ってるね」
「っ!」

 その顔で自然とそんなこと言っちゃダメです!
 何ですか!?
 天然タラシですか!?

 もはや言葉も出せなくて心の中で叫びまくる。

「でも……何だか普通の一般人が着ているものとは違うね?」
「え? あ、そういえば」

 不思議そうに首をかしげて道を行く人たちと私を見比べるアキラ先輩。
 同じく見比べて疑問に思った私はやっと普通に話すことが出来た。
 ……まだ心臓はドキドキなってるけどね。

「アキラ先輩も兵士っぽい格好で一般人とは違う感じですけど……」
「たしかに。なにか特殊な職業タイプなのかもしれないね」

 考えてもわからないし、そのうちわかるよねってことで服装の話は終わりにした。

「それで、これからどうするんですか? お母さんを救うにはこの時代で病気の原因になったことを突き止めて回避かいひしなきゃならないんですよね?」

 確認すると、アキラ先輩は大きくうなずいた。

「ああ、そうだよ。そのためにはまずこの世界でラナさんのお母さんの前世となる人を探さなきゃならない」
「あ……」

 また世界って言った。
 この時代で、じゃないの?

「近くにはいるはずなんだ。その人と会えれば鏡が教えてくれるんだけど……」
「あ、あの!」

 さっきから覚えていた言葉の違和感。
 ミチさんが言ってた“異界”や、今いるここを国や時代じゃなくて“世界”って言うアキラ先輩。
 なんだかおかしいと思っていたそれを聞こうと思った。

 でも、ちゃんと聞く前に近くで大きな音がひびく。

 ドガァァァン!

 ブオォォォ!

 何かがこわれる音と、何か大きな動物の鳴き声みたいな音。
 その音だけで緊迫した状況が伝わってくる。

「なんだ!?」
「魔物だ! しかも大型のやつ!」
「なんだよ! 警備兵は何してやがる!」

 道行く人も騒然そうぜんとなって色々言ってる。
 その言葉が分かることも不思議だったけど、それ以上に聞こえてきた言葉が不思議だった。

 警備兵は、まあわかる。
 でも魔物って?
 珍しい動物を見てそう言ってるのかな?

 ゾウか何かでも出たのかなって思って見ていたら、「こっちに来るぞ!」っていう悲鳴みたいな声が聞こえる。
 このままここにいるのは危ないかな?って思っているうちにその魔物とやらの姿が見えた。

「え……?」

 なに、あれ?

 ブオォォォ!

 大きな鳴き声に耳を塞ぎたくなる。
 その生き物は思った通りゾウに似ていた。
 でも、長い鼻はあってももう一つの特徴である大きな耳はなくて……。
 なにより明らかに私の知っているゾウのばい近い大きさだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

嘘つきと言われた聖女は自国に戻る

七辻ゆゆ
ファンタジー
必要とされなくなってしまったなら、仕方がありません。 民のために選ぶ道はもう、一つしかなかったのです。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

生贄姫の末路 【完結】

松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。 それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。 水の豊かな国には双子のお姫様がいます。 ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。 もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。 王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

番が見つけられなかったので諦めて婚約したら、番を見つけてしまった。←今ここ。

三谷朱花
恋愛
息が止まる。 フィオーレがその表現を理解したのは、今日が初めてだった。

王命を忘れた恋

須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』  そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。  強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?  そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。

聖女のわたしを隣国に売っておいて、いまさら「母国が滅んでもよいのか」と言われましても。

ふまさ
恋愛
「──わかった、これまでのことは謝罪しよう。とりあえず、国に帰ってきてくれ。次の聖女は急ぎ見つけることを約束する。それまでは我慢してくれないか。でないと国が滅びる。お前もそれは嫌だろ?」  出来るだけ優しく、テンサンド王国の第一王子であるショーンがアーリンに語りかける。ひきつった笑みを浮かべながら。  だがアーリンは考える間もなく、 「──お断りします」  と、きっぱりと告げたのだった。

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

処理中です...