異世界タイムスリップ

緋村燐

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異界を渡るマレビト

マレビト④

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 そのまま握った手を引かれて、隣の鳥居のある部屋へ進む。
 アキラ先輩とくつを履いて、鳥居の前に立つとゴクリとつばをのみこんだ。

 普通に神社とかにある鳥居っぽいよね?
 特に不思議な感じはしないけど……。

「では、トビラを開くわね」

 私たちの後ろに立ったミチさんが宣言して手を合わせた。
 ピンと背筋を伸ばして神様に願う姿はりんとしてて、こっちまで緊張感が高まる。

「時空のトビラよ。マレビトの通る道を開きたまえ」

 マレビト?

 聞きなれない言葉に頭の中に疑問が浮かんだけれど、それを口にする前に鳥居に変化が起こった。

 中央部分がキラキラって光って、その光がどんどん広がっていく。
 広がった光の中は夜空みたいにキラキラした星がちりばめられた真っ暗闇。
 光が鳥居の柱まで到達とうたつすると、鳥居のくぐる部分が全部夜空みたいになった。

 ここに入るの?
 ちょっと怖いけど……でも同じだけワクワクする。

 不思議な現象げんしょう遭遇そうぐうしてるって事実にドキドキした。
 思わず握っていたアキラ先輩の手に力を入れると、逆に怖がってると思われたのかな?

「大丈夫?」

 って心配そうに聞かれた。

「大丈夫です。なんていうか、ちょっとワクワクしちゃって」
「ワクワク?」

 私の答えが予想外だったのかな?
 ちょっと驚いたようなアキラ先輩。
 でも、すぐに「ふはっ」って笑った。

「さすがは神秘学研究部の新入部員ってところかな。たのもしいよ」

 くったくなく笑う様子がなんだかかわいい。
 ほっこりして、ちょっとはあった怖さもなくなっていった。

「じゃあ、行こう」
「はいっ」

 手を引かれて、一歩足を進める。
 星がキラキラとまたたく夜空に向かって行くみたい。

「ばあちゃん、行ってきます」

 かるく振り返ってミチさんにあいさつをしたアキラ先輩にならって私もミチさんを見る。
 手を合わせたままのミチさんは、優しく、でも力強い笑顔でうなずいてくれた。

「行ってらっしゃい、異界を渡るマレビトたち」

 その言葉を聞いてまた一歩進むと、ミチさんのいる和室の光景が星空に侵食しんしょくされるように消えていく。
 全部見えなくなって、私とアキラ先輩だけが夜空にポツンと浮かんでいるみたいになった。

 不思議。
 感覚的には普通に立っているだけなのに、周りが全部星がちりばめられた夜空みたいだから浮かんでるみたいに錯覚さっかくしちゃう。

 シンとして音のない世界は本当に宇宙にでも投げ出されたような気分になってちょっと怖さが戻ってきちゃった。
 でもすぐにまた変化がおとずれる。
 アキラ先輩が手に持っていた巾着袋――渡り鏡が光りはじめたんだ。
 その光が足元に落ちたと思ったら、一方向にのびて行って光の道が出来た。

「さ、行こうか」
「あ、はい」

 また手を引かれて歩きはじめる。
 何となくずっとつないだままだったけど、いいのかな?
 なんだか離すタイミングを逃しちゃったような気もする。

 そうしてつながってる手を見ていたら、アキラ先輩に「離さないでね」と言われた。

「近くにいれば大丈夫なはずだけど、離れたら時空の流れに巻き込まれて帰れなくなるから」
「え?」
「だから念のため、ここにいるときはつないだままでいて」
「わ、わかりました!」

 帰れなくなるって言葉に怖くなって思い切りにぎり返す。
 「強すぎ」って笑われたけど、帰れなくなるのはこまるもん!

「そ、それより、マレビトって何ですか? さっきミチさんが言ってましたけど」

 あまりに笑われるから、誤魔化す意味も込めて疑問に思っていたことを聞いてみた。

「ああ……マレビトはまれなる人って書いて……まあ、めずらしい能力を持った人のことを言うんだ。俺みたいに時空を渡る力や、ばあちゃんみたいに時空のトビラを開く力を持つ人のこと」

 そういう能力を持った人をそうじてマレビトって呼ぶんだって。
 へぇー、って感心してたらもう一つ気になる言葉があったことを思い出した。

 異界を渡るマレビトってミチさんは言ってたよね?
 異界ってどういうことだろう?

 それも聞こうとしたんだけれど、目的の場所についちゃったみたい。
 光の道が途切れて、ぽっかりと白い穴があいてる。
 四角い白い穴。
 ここに入るってことだよね。

「この先がラナさんのお母さんの前世の世界だ。覚悟は良い?」
「はい!」

 覚悟はもうとっくに出来てる。
 必要なのは一歩をふみ出すちょっとの勇気だけ。
 その勇気も、アキラ先輩が手を引いてくれるだけで簡単に手に入る。

「行くよ」

 げたアキラ先輩と一緒に、私は白い穴に入って行った。
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