妹が吸血鬼の花嫁になりました。

緋村燐

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1.妹が吸血鬼の花嫁!?

護衛のイケメン〜一日目〜 後編

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「それじゃあ僕は説明と承諾のために職員室に行きますね。聖良先輩は先に教室に行っててください」

 校門前で愛良達と別れた後、浪岡君はそう言って職員室の場所を聞き別行動をとった。


 赤井も浪岡君もいなくなってホッと一息つく。


 やっと落ち着けた。


 家を出たばかりのときは良かったけど、学校が近付くにつれて人が多くなり明らかに注目されていたから。

 まあ、それは仕方ないと思う。

 中身はどうあれ、赤井達はアイドルかモデルかと言わんばかりの整った容姿をしているんだから。


 でも、赤井達が注目される分には良いけどそれに私達も巻き込まれるのは勘弁して欲しい。

 愛良は可愛いからまだ良いけど、私は平凡な顔だから余計キツい。


 丸顔だし、いつも眠そうな目してるって言われるし、髪は天パなのか癖っ毛なのか判別出来ない程度に緩くうねってるし。

 せめて私も愛良みたいに綺麗なストレートなら良かったのに……。


 まあ、こんな所で自分の容姿を嘆いても仕方ない。

 取り敢えずこの三日間耐えるしか無いよね。


 重い溜息を吐きながら、私は教室に向かった。



 ……っていうか、突然の転校や引っ越しで忙しいんだから、ギリギリまで登校する必要無いんじゃない?

 ふと気付く。

 でもどうなんだろう?
 転校なんて初めてのことだし、第一あり得ないくらい短い期間でのことだ。

 普通の転校がどんなものかも分からないし、今回の場合もその普通が当てはまるのかも分からない。


「……」

 結局、言われるままに学校来るしかないってことかな……?


 そんな風に考えているうちに教室に着いた。

 自分の席に向かいながら友達に「おはよう」と声をかける。

 すると席に鞄を置くと同時に、仲の良い友達が数人勢い良く近付いて来た。

「おはよう聖良。早速だけどさっき一緒に登校してきたイケメン誰⁉」

 友人一同を代表するかの様に有香ゆかが開口一番に叫んだ。


 てっきり転校のことを聞かれるのかと思っていた私は呆気に取られる。


 友達の転校よりイケメンが気になるとか、友達甲斐ないよ⁉

 ……ちょっと悲しくなった。


 軽く周りを見ると、有香達以外の女子もイケメンが気になるのか聞き耳を立てているみたいだ。

 何とも言えない気分で小さくため息を吐いた私は、仕方なく説明を始める。


「あの人達は城山学園の生徒で――」

 と、私の転校のことと今日から三日間彼が護衛する事になった経緯をかいつまんで話した。

「何それうらやましい!」

 有香の叫びの後にも「いいなぁ」とか「ホントに⁉」とかいう声が続いている。

 それと同時に転校のことを知らなかったほとんどのクラスメートが「転校って本当なの⁉」と騒めいた。


 聞き耳を立てていた女子だけでなく、男子も騒ぎに参加して最終的には他のクラスの生徒まで聞きつけて来る始末。

 次から次へと質問攻めにあう状態で、教室内は混沌としかけた。
 そうならなかったのはチャイムが鳴って担任の先生が来たからだ。

 もちろんすぐには収まらなかったけれど、他のクラスの生徒を帰し、みんなに席に着くように何度も促してやっとHRを始めることが出来た。


 先生は早口で出席を取ると、同じく早口で連絡事項を告げる。

 HRの時間があと少ししかないから急いでるんだろう。


 ……うん、私のせいじゃないと思うけど……ごめんなさい。


 心の中でだけは謝っておいた。

「最後に、急な話だが香月が明後日を最後に転校することになった」

 そう告げた先生の言葉に少しだけ教室内が騒めく。


 私が転校することはさっきクラス中――いや、クラス以外にもだけど――広まっている。

 でも、先生の口から聞くまで冗談なんじゃないかと思っていた人がほとんどの様だった。

 マジなのかよ、とか信じられないと言った声が聞こえてきた。


 でもそんな騒めきは序の口だったみたい。


 先生の「入ってきなさい」という言葉の後に、浪岡君が教室に入ってくる。

「そして転入先の事情により、今日から三日間香月と行動を共にする浪岡将成くんだ。みんなもフォローしてあげるように」

 先生自身納得出来ていないのか、半ば投げやりな口調で言い放つ。


「初めまして。本当にわずかな時間ですが、よろしくお願いします」

 年上女子たちをノックダウンさせてしまうよな微笑みを浮かべて、浪岡君は挨拶をした。


 もうその後は混沌の再来だ。

 先生にもどうにも出来ない。


 日直のHRを終える声も聞こえているのかどうか。

 いや、寧ろ日直HRを終わりますって言った? 浪岡君にキャーキャー言ってて忘れてるんじゃないの?


 それでも先生は一時限目の授業があるのかさっさと教室から出て行ってしまう。

 止める人がいなくなって混沌は更に増した。


 混沌の中心には浪岡君。
 でも半分とばっちりに近い感じで私も巻き込まれてる。


 ……これ、どうやって収集つければいいの?


 怒涛の質問に答えることも出来ず、私はただただ頭を抱えた。

 黙々とお昼ご飯を食べている私の隣には笑顔の浪岡君。

 その周囲を女子生徒が囲んでいる。


 彼女達のお目当ては言うまでもなく浪岡君。
 可愛いとかキャーキャー言っている。

 浪岡君は困っている様子ではあるものの笑顔を崩さず対応していた。


 ……食べづらい……。


 自分が囲まれている訳じゃないけれど、すぐ隣に人だかりっていうのは結構食べづらかった。


「やっぱり有香の席に移動した方が良かったかも……」

 ウンザリした気分で呟くと、一緒にお弁当を食べていた有香が反応した。


「聖良が移動したら浪岡君も付いて来ちゃうんだから、結局は同じでしょ?」

 すでに諦めの体勢になっていた有香は、そう言うと一緒にお弁当を食べていた他の二人に視線をやる。

 二人ともお弁当そっちのけで浪岡君に話しかけている。

 同じ穴のムジナというか、何と言うか……。


 とにかく、有香以外の友達も周りの女子と同類になっていた。


「まあ、こっちはこっちで話しましょ」

 二人の友人を生暖かい目で見ていたら有香が切り替えて話し出した。


「昨日も話したけど、土曜に引っ越しするなら金曜の放課後にどこかでお別れ会するしかないわよね?」
「うん、そうだねぇ」

 昨夜SNSで最後に話していた内容がそれだった。
 金曜の放課後にお別れ会をするのは全員一致ですぐに決まったんだけれど、場所をどこにするのかがなかなか決まらなかった。

 カラオケ、ファミレス、ショッピング。

 案は色々出て来るんだけれど、話せば話すほどこっちがいい。いや、やっぱりこっちがいい。と迷走していったため今日学校で話そうという事になったんだ。

「どこにしようか? やっぱり私は買い物がしたいんだけど……」

 引っ越しするにあたって買い足したいものもあるし、と付け加えて話していると、有香は「その前に」と話を中断させた。

 何よ? というように彼女を見ると、ジトリとした眼差しを向けられる。


 な、なに? 私何かマズイ事でも言った?


 僅かに怯んだ私に有香は思いもよらなかったことを口にした。

「浪岡君、登下校中も護衛としてついて来るんでしょう? ってことは、お別れ会には浪岡君も一緒に来るってことになるよね?」

「…………!!!」

 数拍停止してからその事実に思い至った。


 そうだよ!
 家に一旦帰ってからだと時間が少なくなるから、当然学校帰りそのまま行こうとしてたもん。

 という事は必然的に浪岡君はついて来るだろうな。

 もし一度家に帰ったとしても、また外に出ると言ったらついてきそうな気がする。
 私を守るために来てるって言ってたし。

 となると、一度家に帰ってから浪岡君達を帰して、それから家を出るしか……。

 そんな風に策を練っていると――。


「聖良先輩?」

 突然掛けられた浪岡君の声に思わずビクリと震えた。

 その声が少し冷ややかに感じたのは、私が浪岡君の目をかいくぐろうと思考を巡らせていたからだと思いたい。


「な、何? 浪岡君」
「学校以外で出かける場合は事前に言っておいてくださいね? 僕にもそれなりに都合というものがあるので」

 話はちゃんと聞いていましたよ。と言うようにニッコリと笑顔を向けられた。


「う、うん。分かった……」

 周りにいる女子から矢継ぎ早に質問を受けているのに、どうやって聞き分けていたんだろう?
 返事をしながらそう疑問に思った。


 複数の人が話しているのを聞き分けるなんて、聖徳太子みたいだね。

 なんて思っていると、有香が少し大きめに息を吐いた。

「ってことは、お別れ会浪岡君も同行決定ってことね……」

 疲れたような、軽く脱力したような声。


「え?……あ、そうだね……」

 こっちの話しを聞かれていた事に驚いたけれど、今の浪岡君の言葉は暗に出掛けるなら付いて行きますよ、って意味だった。


 うーん、やっぱり浪岡君の目をかいくぐるのは無理かぁ……。


 さっきの耳ざとさを見る限り、どう逃げようとも見つけられてしまいそうだ。


「でもそうなると、ショッピングは却下だね」
「え⁉」

 有香がうーん、と唸って発した言葉に私はそんな! と声を上げる。

「何で? 別に浪岡君がいても買い物くらい出来るでしょ? 却下なんて納得いかない!」

 ショッピング希望の私は食らいつく様に言った。
 でも、有香はそんな私をジトリとした目で見る。

「……あたし達の買い物って、どんな店行くと思ってるの?」

「どんな店って……」


 私の一番の目的は、引越しに伴う必要な物を買う事で……。
 と言っても大してお金がある訳じゃ無いから、細々とした物を数個買うくらい。私の買い物はそんなに時間はかからない。

 後の残りの時間は……そうだなぁ、いつもみたいに雑貨屋とか行くんじゃ……。

「……あ」

 そこまで考えてやっと気付いた。

「分かった? 浪岡君連れてなんかいけないでしょう?」

「……うん……」


 私達の行く様な店って、ハッキリ言って女の子しか行かない様な可愛らしい雑貨のお店だった。

 たまに男のお客さんも見るけれど、それは彼女に連れられて仕方なくって感じだったし。

 女子グループの中に男一人ってだけでも居づらいだろうに、そんな女の子女の子した様な店になんて浪岡君を連れて行けない。


 護衛として付いてきてるだけなんだから気にしなければいい、と言ってしまえばそれまでだけれど、気にしない訳にはいかない。

 となると他には何があったっけ?
 カラオケとかファミレスとか……。

「……無難にファミレスかな?」
 そう言って卵焼きを口に入れた有香。

「うーん……」
 私は箸を持つ手を止めて考えてみるけれど、他に良い場所も思いつかない。


「そうだね。まあ、そんな遠くに行くわけじゃないしまたすぐに会えるでしょ」

 そのときまた色々行けばいいんだし、と考えて私は昼食を再開させた。


 ふと視線を感じてそちらを見ると、浪岡君が悲しそうな――と言うか、申し訳なさそうな目をこちらに向けていた。

 でもすぐに周りの女子との会話に戻っていたから気のせいだったのかもしれない。


 その視線が気のせいじゃなくて、何を意味するのか知るのはもうしばらく後のことだった。

***

 お昼休みも終わってから、他の二人にもお別れ会はファミレスに決まったことを伝える。

 二人と話し合わずに決めたことに少しは文句でも言われるかと思ったけれど、彼女たちはそんなことより浪岡君も一緒という事に舞い踊る勢いで喜んでいた。


 確かに浪岡君は可愛いけどさぁ……。
 それほど舞い上がるほどのことかなぁ?

 だって三日しか会う事ないんだよ?
 それ以降は会う確率ほぼないんだよ?

 恋とかに発展するどころか、連絡先交換でもしなければ友達になれるかどうかも際どいところだよ?


 と、二人の様子に有香と一緒に呆れたりしながら何とか一日が過ぎた。



「そろそろ愛良達も来る頃だから、私達は先に帰るね」

 帰りのHRも終わって有香達と少し話をしてから私は鞄を手に取った。

「うん、じゃあまた明日ねー」

「浪岡君もバイバイ」


 三人に手を振って教室を後にする。

 当然浪岡君も一緒なんだけど、なんか私より浪岡君に別れの挨拶してる方が多い気がするんですけど?

 友達以外の人も浪岡君に手を振ってるし。


 まあ浪岡君は可愛いし、今日一日だけでも人気者になっちゃったからねー。

 別に私が皆から半無視状態だからってひがんでるわけじゃないですから。
 僻んでるわけじゃないですから!
 大事なので二回言った。


 とまあ、そんな感じで校門の所まで来たんだけど……。

「あれ? 愛良達まだ来てないの? いつもならもう来ててもおかしくないのに」

 言いながら周囲を見回してみる。
 やっぱり見当たらない。


「もう少ししたら来るんじゃないですか? 少し待ってみましょう?」

 浪岡君の提案に「そうだね」と返すと、軽く沈黙が訪れる。

 どうしよう。
 待つのは良いけど会話が……。

 朝は愛良と、不本意ながら赤井もいたから会話には困らなかったけど、浪岡君と二人だと共通の話題が少なくて何を話したら良いのかすぐには思いつかない。


「そういえば」

 私が秘かに頭を悩ませていると、浪岡君から話を振ってきた。

「聖良先輩はショッピングしたかったみたいですけど、何か欲しい物でもあるんですか?」

 一瞬、何でショッピングしたかったこと知ってるのかな? と疑問に思ったけれど、昼休みに話していたのを聞かれていたことを思い出して納得する。

 ってか、浪岡君あれだけ話しかけられてたのによくそこも聞いてたな……。


 やっぱり耳ざとい――いや、これはもう地獄耳のレベルかな?


「欲しい物っていうか……。引越しするでしょう? だから必要な物とか足りない物を買おうかと思って」

「え? 引越しのための物って……。田神先生何も言って無かったんですか?」

「え?」

 どういう事だろう?

「土曜日に引越しで、月曜日から転入するって事くらいしか……」

 私は昨日のことを思い出しながら答えていく。


「あ、あとはベッドとか生活に必要な物は用意するって言われたかな?」

「ああ、そうですか……。ちゃんと伝わってなかったんですね」

 軽く脱力した様なため息をつき、困り笑顔で浪岡君は続けた。


「田神先生が言った必要な物っていうのは、着替えや個人的私物以外の全てですよ」

「は?」

「着替えやスマホなどはもう持っているでしょうし、こっちで準備する訳にもいかないのではぶかれますけど。それ以外、ベッドからドライヤー、歯ブラシなどは用意しますよ?」

「え? ホントに?」


 歯ブラシとかタオルとかを買おうと思っていた私は、それすらも用意すると言われて呆気に取られる。


「ホントです。それらを用意するための三日間ですから。それに、住んでみて足りない物は田神先生に言えば用意してくれるはずですよ?」


 ポカン、と口を開けて固まってしまう。

 なんと言うか……至れり尽くせりだ。


 そりゃああっちが勝手に決めた転校で、こっちには断ることは出来ないって言うんだからそれくらいしてもらわなきゃ釣り合わないという気はするけれど……。


 まあ、買い物の必要性がなくなったのは助かるかな?


 全て甘えてしまっても良いんだろうかという気持ちも少しあったけれど、すでに準備しているものを遠慮するのもどうかな、となかば無理矢理納得させる。


「そうだったんだ……」

 他に言葉が出てこなくて、そう答えた。


 そんな会話がひと段落した頃、聞き慣れた声が聞こえてくる。

「あ、お姉ちゃん! ごめんね待たせて」

「ううん、そ――」

 そんなに待ってないから、と続けようとした言葉は紡がれることはなかった。

 何?
 何なの?


 愛良……何で赤井と手なんか繋いでるわけ⁉


 表情にはあまり出さなかったけど、私はかなりの衝撃を受けていた。

 でもその疑問を軽々口にして良いものかも分からず、口を閉ざして固まる。


 そんな私とは対照的に、浪岡君は呆れた様な息を吐く。

「……もしかしてまた迷ったんですか? 零士先輩」

「……は?」

 迷った? 赤井が?


 疑問の声を上げる私とは違い、愛良は困り笑顔で答えた。

「そうなの。学校でも何度も迷ったんだけど、帰りも散々迷いかけて……」

 その続きは言葉を濁したけれど想像に難くない。


 帰りも散々迷いかけたから、最終手段で愛良が手を繋いで連れてきた、と……。


 ……ぷっ!

 ヤバイ、本気で笑えるんだけど。


 確かに昨日方向音痴なんじゃないかと思ったけれど、まさか本当にそうだったとは!

 迷子になって手を繋いでもらうとか、ちっちゃな子供か⁉

 愛良、あんたより年下なんだけど!


 見た目だけはイケメンな赤井が、ちっちゃな子供と変わりない様子を見て思わず吹き出しそうになった。

 顔を背けて片手で口を押さえて、何とか笑いをかみ殺す。

 でも肩が震えてしまうのは仕方がない。


 何とか笑いを堪え抜いて、ふと冷静になった。


 でも、護衛なのに道に迷って護衛対象から離れちゃうとか……。

 護衛の意味無くない?


 こんなんで愛良を守れるのか……とても不安になった。


 そんな私の心配をよそに、愛良は笑顔で会話を続けている。

「こんなに格好いいのに迷子になっちゃうとか、何か可愛いですよね」

「……」
「……」
「……」

 三人揃って押し黙ってしまう。


「あ、勿論浪岡君も可愛いよ!」

 微妙になった雰囲気に、愛良は何を思ったのか浪岡君に向かって慌てて言った。

「……」
「……」

 これまた黙り込むしかない男二人。

 仕方なく私は色んな思いを込めてため息を吐き、口を開いた。

「愛良……。男に“可愛い”は褒め言葉じゃ無いから……」

 と……。
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