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4.王妃は街に出る

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「フィリナ様!」

「顔色が悪いようですが、だいじょうぶですか?フィリナ様!」

アレックスに連れられてフィリナが街に降りると、人々はいつものように彼女に笑顔を向けた。

「だいじょうぶよ。心配してくれてありがとう。」

皆に恨まれているのだと思いこんでいたフィリナは、人々の対応に驚きーー同時にほっとしていた。

「ね?皆、フィリナ様を心配しているでしょう?」

少し後ろを歩くアレックスはそう囁いた。

「え、ええ。」

フィリナは上手く、アレックスの顔を見ることができない。

(私を・・・救いたかった・・・て、どういうことだろう。)

アレックスの言葉と熱い目線が頭から離れない。

心臓がドクンドクンと音を立てていた。

次から次へと人々がフィリナの元にやってきては、励ましの言葉をかけてくれる。

(皆、なんて優しいんだろう。)

人々の優しさに触れて、フィリナの心は決まった。

この国の王にリリックがふさわしくないのは、明らかだ。皆のためにも、リリックの退位を承認しよう。そして

(責任をとって、私も王妃をやめよう。)

フィリナはそう強く誓った。

「フィリナ様。さぞお辛いでしょう。」

街の御婦人達が、フィリナを取り囲んで口々に言った。

「フィリナ様はまだ若いのですから、さっさとあんな男を忘れて、新しい人を見つけてくださいな。」

「そうです。皆、王妃様を救いたいと思って、王様の退任を要求しているんですから。」

「あんな男の為に、フィリナ様が苦しむことはないんですよ!」

「えーと?」

(ど、どういうこと??)

状況がつかめないフィリナにアレックスが説明してくれた。

皆が、リリックが浮気をしてフィリナを苦しめていた事を知っていること。

リリックが国王である限り、フィリナは解放されないだろうと、皆が考えていること。

これまでフィリナがしてきたことに、国民皆が感謝していること。

「リリック国王が退任したあと、皆が望んでいるのは、フィリナ新女王様の誕生と、フィリナ様の幸せなのですよ。」 

「だから・・・皆、私に優しいのね。」

アレックスは深く頷いた。

「フィリナ様を慕っているのですよ。」

アレックスの言葉にフィリナは唇をまた強く噛んだ。

(泣いてしまうわ。ほら、笑って。こんなところで泣いたらだめ。)

涙を必死に堪えるフィリナにアレックスは気がついていた。彼は庭師として、ずっとフィリナを見守り慕ってきたのだ。

アレックスに見られないように涙を拭うフィリナ。彼は本当は、フィリナの涙を自分の手で拭ってあげたかった。

  ◇◇◇
  

城への帰り道。
綺麗な桜の花が咲く中で、アレックスは王妃の名前を呼んだ。

「フィリナ様。」

「なぁに?」

フィリナ様は柔らかく微笑んで、アレックスを見つめた。城を出るときよりずっと穏やかな表情をしている。

「俺が庭師になると決めた理由は・・・、フィリナ様が、幼い頃、俺が渡した花に喜んでくれたからです。」

「・・・そうだったの。」

フィリナ様の頬がピンク色に染まった。
その目はゆらゆらと揺れている。

「ずっと貴方を見てきました。王に裏切られ、城の庭で一人涙を流すフィリナ様を・・・支えたいのです。」

「気づいて・・・いたの・・・。」

泣いているフィリナをアレックスは慰めて差し上げたかった。だが、彼が近づくとフィリナは泣くのをやめ、無理に笑顔を作ってしまう。

これまでアレックスにできることは、フィリナがより心安らぐ庭を作ることだけだった。

「俺は・・・

フィリナ様が弱みを見せられる場所を作ってあげたいのです。

貴方を、ずっと愛していたから。」

今までずっと伝えられなかった想い。
アレックスは素直にフィリナに伝える。

フィリナがリリックと離縁すれば大勢の男がフィリナに求婚するだろうと、アレックスは分かっていた。

だからこそ、誰よりも早く。

「あっ、あのっ、その、わたしはっ。」

顔を真っ赤にして、しどろもどろになっているフィリナにアレックスは優しく微笑んだ。

「いつまでも、貴方を待ちますから。」

夕暮れが、二人を優しく包んでいた。

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