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第二十話:国王の正体 Side カイル
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(馬鹿な男だ。)
医務室を出たカイルは足早に国王ゴベアの部屋に向かった。セラ・スチュワートとエドワーズの婚姻について報告しなくてはいけない。カイルは国王ゴベアから直接二人を結婚させるようにと命令を受けていた。最終的にはどんな手を使ってでも、セラとエドワーズを結婚させなくてはならないのだ。
(あまり野蛮な手は使いたくないんだけどな。)
そんなことを思ってはいるが、命令を遂行するために手を汚すことをいとわないのが、カイルという男である。
国王の部屋に入ると、怪しげな雰囲気が漂っており、全身を黒いフードで覆った国王ゴベアが椅子の上に座っている。国王ゴベアが座る椅子の周りには魔法陣が作られており、禍々しい煙が立ち込めていた。
「カイルか……。セラ・スチュワートの件はどうなった……?」
しわがれた声で、国王ゴベアはカイルに尋ねた。国王ゴベアの頬はげっそりと痩せこけており、目だけがぎらぎらと光っている。この10年ほど、国王ゴベアはめったに人前に姿を現さず、部屋に引きこもっていた。
「セラ・スチュワートはエドワーズとの婚姻を拒否しています。」
「なんだと?!」
国王ゴベアは声を荒げて、顔をしかめた。魔法陣から強い風が吹き、カイルは一歩後ずさりした。
「母親に似た……愚かな女よ……。」
国王ゴベアはセラの母親の婚約者であったが、婚約破棄され、シアラを失った過去がある。国王ゴベアにとって決して忘れられない忌々しい記憶だ。
「この状況をどういたしましょうか?」
カイルは国王ゴベアに慎重に尋ねた。
「三日後だ……。」
重々しい口調で、国王ゴベアは告げる。
「3日後、もしもセラ・スチュワートが婚姻に同意しなければ、その女は全てを失うだろう。セラ・スチュワートにも、そう伝えておけ……!」
「かしこまりました。」
「くっはっはは、娘もまた……両親と同じ道を歩むことになるか……それもまた良いな……。」
国王ゴベアの笑い声が響く中、カイルは国王の部屋を出た。
(邪悪な王……か。)
カイルは先ほどユリウスに言われた言葉を反芻した。間違いなく、国王ゴベアは邪悪な王である。
17年前、国王ゴベアは闇の魔術に通じ、魔物を操ることができるようになった。それは、聖女デュナウが絶対にしてはいけないと通じた禁忌である。国王は自らの魔力を高めるために、半分魔物となっていた。
(国王は日に日に理性を失い、魔物に近くなっている……。)
魔物の生命力の源は魔力である。半分魔物となった国王ゴベアは自らの魔力を保つために、時折時折村に行っては、魔力を持った赤子を襲っていた。最近、魔力を持った貴族の子供が減っているは、国王ゴベアの仕業である。国王ゴベアは貴族から魔力を奪い、王家だけが魔力を使えるようにしようと企んでいる。
(一人息子が魔力を持たないなんて、皮肉だな。)
だが、何の因果か、唯一生まれてきた息子エドワーズは魔力を持たない。まるで呪われているかのように。
(俺は命令に従うだけだ。)
カイルは自分に言い聞かせる。カイルは国王ゴベアが魔物と通じ、人々に危害をもたらしていることを知っている。だが、自分一人にどうすることもできないと諦めていた。
17年前に起こったスチュワート家の悲劇。
それは、国王ゴベアが魔物を操ってスチュワート家を襲わせたのである。
◇◇◇
医務室を出たカイルは足早に国王ゴベアの部屋に向かった。セラ・スチュワートとエドワーズの婚姻について報告しなくてはいけない。カイルは国王ゴベアから直接二人を結婚させるようにと命令を受けていた。最終的にはどんな手を使ってでも、セラとエドワーズを結婚させなくてはならないのだ。
(あまり野蛮な手は使いたくないんだけどな。)
そんなことを思ってはいるが、命令を遂行するために手を汚すことをいとわないのが、カイルという男である。
国王の部屋に入ると、怪しげな雰囲気が漂っており、全身を黒いフードで覆った国王ゴベアが椅子の上に座っている。国王ゴベアが座る椅子の周りには魔法陣が作られており、禍々しい煙が立ち込めていた。
「カイルか……。セラ・スチュワートの件はどうなった……?」
しわがれた声で、国王ゴベアはカイルに尋ねた。国王ゴベアの頬はげっそりと痩せこけており、目だけがぎらぎらと光っている。この10年ほど、国王ゴベアはめったに人前に姿を現さず、部屋に引きこもっていた。
「セラ・スチュワートはエドワーズとの婚姻を拒否しています。」
「なんだと?!」
国王ゴベアは声を荒げて、顔をしかめた。魔法陣から強い風が吹き、カイルは一歩後ずさりした。
「母親に似た……愚かな女よ……。」
国王ゴベアはセラの母親の婚約者であったが、婚約破棄され、シアラを失った過去がある。国王ゴベアにとって決して忘れられない忌々しい記憶だ。
「この状況をどういたしましょうか?」
カイルは国王ゴベアに慎重に尋ねた。
「三日後だ……。」
重々しい口調で、国王ゴベアは告げる。
「3日後、もしもセラ・スチュワートが婚姻に同意しなければ、その女は全てを失うだろう。セラ・スチュワートにも、そう伝えておけ……!」
「かしこまりました。」
「くっはっはは、娘もまた……両親と同じ道を歩むことになるか……それもまた良いな……。」
国王ゴベアの笑い声が響く中、カイルは国王の部屋を出た。
(邪悪な王……か。)
カイルは先ほどユリウスに言われた言葉を反芻した。間違いなく、国王ゴベアは邪悪な王である。
17年前、国王ゴベアは闇の魔術に通じ、魔物を操ることができるようになった。それは、聖女デュナウが絶対にしてはいけないと通じた禁忌である。国王は自らの魔力を高めるために、半分魔物となっていた。
(国王は日に日に理性を失い、魔物に近くなっている……。)
魔物の生命力の源は魔力である。半分魔物となった国王ゴベアは自らの魔力を保つために、時折時折村に行っては、魔力を持った赤子を襲っていた。最近、魔力を持った貴族の子供が減っているは、国王ゴベアの仕業である。国王ゴベアは貴族から魔力を奪い、王家だけが魔力を使えるようにしようと企んでいる。
(一人息子が魔力を持たないなんて、皮肉だな。)
だが、何の因果か、唯一生まれてきた息子エドワーズは魔力を持たない。まるで呪われているかのように。
(俺は命令に従うだけだ。)
カイルは自分に言い聞かせる。カイルは国王ゴベアが魔物と通じ、人々に危害をもたらしていることを知っている。だが、自分一人にどうすることもできないと諦めていた。
17年前に起こったスチュワート家の悲劇。
それは、国王ゴベアが魔物を操ってスチュワート家を襲わせたのである。
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