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第五話:王子様は操り人形 Side エドワーズ
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ロマリア城、皇太子エドワーズの部屋。
「くそっ。なんで俺があんな田舎町まで行かなきゃならないんだ。」
王子エドワーズは側近のカイルにぶつぶつと不平を漏らしていた。
ロマリア国第一王子エドワーズ・ロマリア、17歳。彼はこれから、名も知らぬ田舎の村で、セラ・スチュワートに会わなくてはならない。
『セラ・スチュワートと結婚し、子を成せ。』という父親であるゴアル国王からの命令は端的で、突然下された。
だが、力を持たないエドワーズは父の命令に従うしかない。彼には生まれつき魔力が無い。それは、彼の強力なコンプレックスであり、自分自身の評価を著しく下げている。
「妃候補のセラは聖女のように美しい女性だと聞いたよ。きっと結婚したら幸せになれるさ。」
そう言って側近のカイルは、部屋の中央に魔法陣を描きだした。この魔法陣でセラのいる田舎村に移動するのだ。少し前、セラに送った手紙を作成したのもカイルである。
『君に会うのが楽しみだ』
なんて、歯の浮くようなセリフ。言いたくなかったが、仕方なかった。エドワーズには力が無いのだから。
(こいつには絶対に俺の気持ちはわからんだろう。)
カイル・ジャクソンは、公爵家ジャクソン家の次男であり、非常に優れた魔法使いだ。彼はエドワーズの幼馴染で、同い年の17歳。銀色の短髪に青い瞳を持っている。カイルはゴアル国王からの信頼が厚い。
(お前が第一王子だったなら、父上はさぞお喜びだったのだろうな。)
カイルは側近として常にエドワーズに仕えている。エドワーズが魔力を持っていないことを悟られないよう、カイルはエドワーズに魔法をかけ続けている。エドワーズは一人で行動することが許されておらず、常にカイルが彼に随行していた。それが、どうしてもエドワーズには我慢ならない。
「何がそんなに気に食わないんだ?美女で魔法使いの女性と結婚できるんだぞ?」
「そう言う問題ではない。なぜ俺は、父上の操り人形でなくてはならない?」
エドワーズはカイルを睨みつける。だがカイルは肩をすくめると、魔法を唱え、エドワーズを空に持ち上げた。カイルはいつも、エドワーズが言うことを聞かないと空中に浮かせてしまう。
「おいっやめろっ!下ろせっ!」
「そりゃあできないな。エドワーズをセラ・スチュワート嬢のところに連れて行かなくちゃいけないんだからさ。」
カイルの魔法に逆らうことができず、エドワーズは足をばたつかせた。皇太子の部屋に意味もなく飾られている装飾品のロバが目に入る。そのロバさえ、エドワーズを馬鹿にしているように感じた。
(ああ、俺に魔法が使えればっ!)
カイルは、エドワーズの抵抗を全く気にする様子はなく、そのまま彼を魔法陣の中央にたたせた。
「おいっ!俺はいかない!知らない女と結婚なんてしないぞ!」
「いいや。国王の命令は絶対だ。エドワーズはセラ嬢に求婚しないといけないのさ。」
「俺は俺だっ!」
カイルはエドワーズの肩に手を置く。
「俺たちはお互いに自由がない。どうせなら賢い操り人形になろうぜ。」
妙に達観したカイルの口調にひどく腹が立つ。もしも、なにか奇跡が起こって魔法が使えるようになったなら、まずはカイルを羽交い絞めにしてやろうとエドワーズは決めている。
「嫌だねっ!」
だが次の瞬間に、エドワーズはカイルの魔法でセラが暮らす村ルストに瞬間移動していた。
「ああ、なんで俺は魔力が無いんだ!」
エドワーズの空しい声が、草原の風に吹かれていく。
「さあ歩こう。神殿は山の中だ。」
村の入り口に立ったカイルは大きく息を吸ってそう言った。
◇◇◇
エドワーズはカイルと共に、山の中にある神殿にたどり着いた。
(ここがセラとかいう女が暮らす場所か。)
エドワーズは森に囲まれた神殿を睨みつける。鳥の鳴き声がひどく耳障りだった。
「そんなしかめっ面をするな。今からプロポーズだぞ?」
あくびをしながら言うカイルをエドワーズは睨みつける。
(お前が無理やり連れてきたんだろうがっ!)
「ん?」
「なんでもねーよ!」
カイルには妙な圧があり、逆らえない。あんな恥ずかしい手紙をセラに送るつもりはなかったが、エドワーズは高いところが苦手だ。魔法で浮かされると、つい従ってしまうのだ。
神殿に入ると、人々が聖女デュナウの像の前にひざまずき、祈りをささげている。
「聖女デュナウ様。天から私たちを聖なる力でお守りください。」
ロマリア王国は今から417年前に、聖女デュナウ・ロマリアによって建国された。かつて魔物によって荒廃していた西大陸を、当時最も優れた魔法使いである聖女デュナウが救ったのだ。聖女デュナウの率いる軍は魔物に壊滅的な打撃を与え、荒廃した大地を再生させ、現在の平和で繁栄するロマリア王国を築き上げた。聖女デュナウ・ロマリアの功績は国土を救い、人々の心に刻まれる存在となったのだ。
(俺は本当に、聖女デュナウの子孫なのだろうか。)
エドワーズは顔をしかめて、舌打ちをする。
(聖女の子孫であるはずの俺はなぜ、魔力を持たずに生まれてきたのだ?)
「くそっ。なんで俺があんな田舎町まで行かなきゃならないんだ。」
王子エドワーズは側近のカイルにぶつぶつと不平を漏らしていた。
ロマリア国第一王子エドワーズ・ロマリア、17歳。彼はこれから、名も知らぬ田舎の村で、セラ・スチュワートに会わなくてはならない。
『セラ・スチュワートと結婚し、子を成せ。』という父親であるゴアル国王からの命令は端的で、突然下された。
だが、力を持たないエドワーズは父の命令に従うしかない。彼には生まれつき魔力が無い。それは、彼の強力なコンプレックスであり、自分自身の評価を著しく下げている。
「妃候補のセラは聖女のように美しい女性だと聞いたよ。きっと結婚したら幸せになれるさ。」
そう言って側近のカイルは、部屋の中央に魔法陣を描きだした。この魔法陣でセラのいる田舎村に移動するのだ。少し前、セラに送った手紙を作成したのもカイルである。
『君に会うのが楽しみだ』
なんて、歯の浮くようなセリフ。言いたくなかったが、仕方なかった。エドワーズには力が無いのだから。
(こいつには絶対に俺の気持ちはわからんだろう。)
カイル・ジャクソンは、公爵家ジャクソン家の次男であり、非常に優れた魔法使いだ。彼はエドワーズの幼馴染で、同い年の17歳。銀色の短髪に青い瞳を持っている。カイルはゴアル国王からの信頼が厚い。
(お前が第一王子だったなら、父上はさぞお喜びだったのだろうな。)
カイルは側近として常にエドワーズに仕えている。エドワーズが魔力を持っていないことを悟られないよう、カイルはエドワーズに魔法をかけ続けている。エドワーズは一人で行動することが許されておらず、常にカイルが彼に随行していた。それが、どうしてもエドワーズには我慢ならない。
「何がそんなに気に食わないんだ?美女で魔法使いの女性と結婚できるんだぞ?」
「そう言う問題ではない。なぜ俺は、父上の操り人形でなくてはならない?」
エドワーズはカイルを睨みつける。だがカイルは肩をすくめると、魔法を唱え、エドワーズを空に持ち上げた。カイルはいつも、エドワーズが言うことを聞かないと空中に浮かせてしまう。
「おいっやめろっ!下ろせっ!」
「そりゃあできないな。エドワーズをセラ・スチュワート嬢のところに連れて行かなくちゃいけないんだからさ。」
カイルの魔法に逆らうことができず、エドワーズは足をばたつかせた。皇太子の部屋に意味もなく飾られている装飾品のロバが目に入る。そのロバさえ、エドワーズを馬鹿にしているように感じた。
(ああ、俺に魔法が使えればっ!)
カイルは、エドワーズの抵抗を全く気にする様子はなく、そのまま彼を魔法陣の中央にたたせた。
「おいっ!俺はいかない!知らない女と結婚なんてしないぞ!」
「いいや。国王の命令は絶対だ。エドワーズはセラ嬢に求婚しないといけないのさ。」
「俺は俺だっ!」
カイルはエドワーズの肩に手を置く。
「俺たちはお互いに自由がない。どうせなら賢い操り人形になろうぜ。」
妙に達観したカイルの口調にひどく腹が立つ。もしも、なにか奇跡が起こって魔法が使えるようになったなら、まずはカイルを羽交い絞めにしてやろうとエドワーズは決めている。
「嫌だねっ!」
だが次の瞬間に、エドワーズはカイルの魔法でセラが暮らす村ルストに瞬間移動していた。
「ああ、なんで俺は魔力が無いんだ!」
エドワーズの空しい声が、草原の風に吹かれていく。
「さあ歩こう。神殿は山の中だ。」
村の入り口に立ったカイルは大きく息を吸ってそう言った。
◇◇◇
エドワーズはカイルと共に、山の中にある神殿にたどり着いた。
(ここがセラとかいう女が暮らす場所か。)
エドワーズは森に囲まれた神殿を睨みつける。鳥の鳴き声がひどく耳障りだった。
「そんなしかめっ面をするな。今からプロポーズだぞ?」
あくびをしながら言うカイルをエドワーズは睨みつける。
(お前が無理やり連れてきたんだろうがっ!)
「ん?」
「なんでもねーよ!」
カイルには妙な圧があり、逆らえない。あんな恥ずかしい手紙をセラに送るつもりはなかったが、エドワーズは高いところが苦手だ。魔法で浮かされると、つい従ってしまうのだ。
神殿に入ると、人々が聖女デュナウの像の前にひざまずき、祈りをささげている。
「聖女デュナウ様。天から私たちを聖なる力でお守りください。」
ロマリア王国は今から417年前に、聖女デュナウ・ロマリアによって建国された。かつて魔物によって荒廃していた西大陸を、当時最も優れた魔法使いである聖女デュナウが救ったのだ。聖女デュナウの率いる軍は魔物に壊滅的な打撃を与え、荒廃した大地を再生させ、現在の平和で繁栄するロマリア王国を築き上げた。聖女デュナウ・ロマリアの功績は国土を救い、人々の心に刻まれる存在となったのだ。
(俺は本当に、聖女デュナウの子孫なのだろうか。)
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