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3.なかなか家に帰れない

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(サイラス視点)

「フォックス王子が行方不明になったのはいつからだ?」

城に着くと、僕はフォックス護衛担当の兵士たちにたずねた。

「二時間ほど前・・・城下町のレストランで食事をとっていらっしゃったのですが、フォックス様がお手洗いに行かれた後、見失ってしまいました。」

顔面蒼白で報告する兵士たちを見ていると可哀そうになってくる。僕は頭を押さえてため息をついた。あの第二王子はあまりにも自由すぎる・・・。日中は基本的に僕かアルフが傍にいるが、夜間はそうはいかない。行方不明というか、逃走というか・・・。いつになったらフォックスは、自分が王子だということを自覚してくれるのだろう。

「まぁ・・・気にするな。」

軽く兵士の肩を叩く。

「サイラス様・・・申し訳ありません。」

「謝るな。さぁ、フォックス王子を探そう。あいつがいなくなったレストランに案内してくれ。それから一応、城の中どこかにいるかもしれないから、城内の散策を続けること。何か情報が手に入ったら、なんでもいいから僕に伝えてくれ。」

「はっ。」

兵士たちに指示を出し、僕はレストランに向かった。

「今日中に見つかるといいけどな・・・。」

早くシエリの元に帰りたかった。最近のザイラス国の城下町は物騒で一人で家に残していくのは心配だし・・・何より彼女と寝る前の時間が僕にとって最高の幸せなのだ。まだ出会って一ヶ月だが、シエリへの愛はとどまるところを知らない。僕に対する緊張がどんどん薄れ、シエリはおしゃべりになっている。小鳥のようなシエリの声をききながらワインを飲む贅沢といったら・・・。

「サイラス様!つきましたよ!」

兵士に声をかけられて我に変わる。

「ここか。」

王族が行くとは思えない普通の居酒屋。”王子らしい”行動を好まないフォックスらしくはあるが、何故あいつはここに来たんだろう。酒を飲みたいだけなら、いつもアルフと三人で行く常連店があるのに・・・。

「フォックス王子がここに来た理由を聞いているか?」

「はい・・・。その今日の夕方、この居酒屋に例の山賊が来るという情報が入りまして、フォックス様はこの居酒屋に来ると言い出しました。」

僕は頭を抱えた。
そんな危険なことを・・・せめて僕を連れていけよ、フォックス。

最近、ザイラス国では山賊による事件が大問題となっている。貴族の令嬢が誘拐されて身代金を要求されたり、貴族の屋敷に侵入し財宝を盗み取って言ったり・・・。近頃、フォックスは躍起になって彼らを捕まえようとしていた。

「なぜ僕に知らせなかったんだ?」

「それが・・・サイラス様は婚約者様を愛するのに忙しいから、邪魔しないでおきたいと、フォックス様がおっしゃっていまして・・・。」

「はああ・・・。」

深くため息をつく。
邪魔しないでおきたい・・・だなんて、建前だ。俺がいると無茶をとめられるから黙っていたに違いない。

「フォックス王子がいなくなる前、何か言っていなかったか?」

「特には・・・ただ・・・。カウンターで酒を飲んでいる男たちを、睨みつけていたような・・・。」

なるほど。状況が少しずつ掴めてきた。
フォックスは山賊の幹部とリーダーの顔を知っている。おそらくこの居酒屋で似た顔の男たちを見つけたんだろう。奴らを逃がさないよう、裏口からこっそり後をつけたんじゃないだろうか。

「サイラス様!!フォックス様の新情報です!」

レストランに兵士が一人駆け込んできた。

「どうした?」

大体の見当はついているが、僕は兵士に尋ねた。

「はい、先程、フォックス王子からの伝言を受けとったという男が現れまして!
 フォックス様はこの居酒屋で山賊を見かけ彼らの後を追っているそうです。」

「それで・・・?」

ああ嫌な予感がする。

「フォックス様は急いで隣町に向かい、山賊を捕まえようとしているようです。急ぎサイラス様も隣町に来るようにと王子はおっしゃっているそうでして。」

兵士の言葉に僕は再び頭を抱えた。フォックスが山賊を捕まえたい思いは誰よりも大きいとは思っていたが・・・まさか隣町まで行ってしまうとは思わなかった。奴が危険な任務に挑戦することはよくあることだが、相手は山賊。勇気がある、で片付けられる話ではない。

「すぐに隣町に向かう。」

思ったより長丁場になりそうだ。
早くシエリが待つ家に帰りたい・・・。


    ◇◇◇

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