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17.愛し合っていたの!
しおりを挟む「ねぇ!!聞いてるの!!さっさと出てきなさいよ!!シエリ!」
部屋のドアが乱暴にノックされる。
「マリィさん・・・。ドアを叩くことをやめてください・・・!私はこの部屋を出ませんよ!」
だが王子の愛人マリィはドアを叩くのをやめない。隣に座るニューナがささやく。
「マリィ、ウルブス王子に飽きられて、城から出ていけと言われたみたいですよ?」
なるほど。
ウルブスがなぜ態度を急に変えたのかが理解できた。きっと彼は、マリィのことが面倒になったんだ。彼女を追い払うためには、私と婚約破棄しないほうが都合がいいもの。
「ねぇ、シエリ!あんたのせいで、私はウルブス様と引き離されるのよ!!ねぇ!聞いてるの!!」
私は怒りと呆れで顔をしかめた。
なぜこの人は、全てを私のせいにするのだろう。
「私のせいでは・・・ないですよ。マリィさん。」
静かに言い返す。
マリィは私の言葉を聞くことはない。金切り声で騒ぎ立てる。
「あんたが引きこもったから・・・、ウルブス様は私を手放さなくちゃいけなくなったんだ!あんたのせいで、彼は私を愛せなくなったんだ!!」
昔の私だったら、マリィに言われるままだったろう。だけど、今は・・・もう大人しいだけの私ではいたくない。
「違います・・・!ウルブス様が貴方を手放したのは彼自身の問題・・・!私には何の関係もありません!!」
ドンッ!!
ドアを強く強く叩いたマリィは涙混じりの声で叫んだ。
「それならなぜ、あなたが引きこもった後に、彼が私を愛さなくなったのか・・・教えてちょうだいよ!!」
マリィの涙に、私は言葉を失った。
「私は・・・ウルブス様を誰よりも愛しているし、愛されていたのよ!!」
マリィはドアの向こうで号泣している。彼女が鼻をすする音が聞こえる。
どうしたらいいんだろう。私がニューナと顔を見合わせたとき
「まだ城にいたのか。マリィ。さっさと出ていけと言っただろう?」
ウルブスの気だるそうな声がした。
騒ぎを聞きつけてやってきたんだろう。
「なぜなの?!ウルブス様!私を愛していると言ってくれたじゃない!なぜ突然私を手放すの?!」
マリィの悲壮な声が聞こえる。
「残念だけど・・・もう君を愛していないんだ。僕は"真実の愛"を見つけてしまったんでね。」
「そんな・・・!」
ドアの向こうで、ウルブスがどんな表情をしているのかわからないけれど・・・とにかく冷たい声が聞こえてくる。
「さぁ、さっさと城から立ち去って二度と僕の前に姿を現さないでくれないか?君のしつこさにはもううんざりなんだ。」
「・・・嘘つき!!愛してるって、いつか王妃にしてくれるって言ったじゃない!!」
「君みたいな身分の低い下女が王妃になんてなれるはずないだろう?あぁ、身の程のわきまえない馬鹿な女は嫌いだよ。」
ウルブスは手を叩き、護衛を呼ぶ。
「この女を外に連れ出せ!抵抗するなら、容赦はするな!」
「そんな!!ねぇ!ウルブス!やめて!!」
マリィの怒りと悲しみを帯びた叫び声は、少しづつ小さくなってついに聞こえなくなった。
「ねぇ、シエリ。出てきてよ。君と話したいんだ。聞こえていただろう?マリィなんかよりずっと君を愛しているんだよ。」
ウルブスがドア越しに私に言う。
こんなにも心が冷える"愛している"があるだろうか。ウルブスは・・・嘘つきだ。
私は立ち上がりドアノブに手をかけた。
「シエリ様・・・。」
ニューナが心配そうに私を見上げる。
「だいじょうぶです。」
私はにっこりと微笑んでみせた。
いつまでもウルブスから逃げているわけにはいかない。
震える手で私はドアを開けた。
だいじょうぶ、だいじょうぶと自分に言い聞かせる。
「お久しぶりぶりですね。ウルブス様。」
私は王子の横顔を見つめながら、動揺を悟られないよう大きく息を吸った。
「おや。ようやく出てきてくれたんだね。シエリ。」
私が出てくるのが予想外だったのかウルブスは少し戸惑っている。
「なぜ・・・あのような嘘の噂を流したのですか?ウルブス様。私は貴方に・・・真実を伝えるようにお願いしたはずです。」
ウルブスはにやりと笑う。それから私に大股で近づき、乱暴に私の手首を掴んだ。
「やめてくださいっっ。」
「身の程をわきまえる必要があるのは、君も同じだよ。シエリ。僕の"愛"に甘えて、いつまで引きこもっているつもりだい?」
怒りを沈めるため深く息を吐き出し、ウルブスを睨みつける。
「"愛"だなんて・・・嘘をつくのはやめてください・・・!貴方は・・・私を利用しようとしてるだけです!」
ウルブスは頭を垂れ、切なそうな表情を作って言った。
「なぜ分かってもらえないんだろうな。僕は君を愛してる。だから、"嫉妬深くて乱暴な令嬢"シエリと婚約破棄しないでいるんだろう?」
「っその噂だって・・・貴方が流した嘘の噂ですよね・・・!?」
ウルブスはまるで自分が誠実であるかのように振る舞うのが上手い。
この男が流した許しがたい嘘の噂。
気にしていないふりをしていたが、それは確かに私の心を傷つけていた。
「だが・・・今さら君を誰が信じる?」
ウルブスは薄笑いを浮かべ、耳元でささやく。
「し・・・真実は私が絶対に明らかにしてみせます・・・!」
ウルブスは頭を振り、私の手首を強く握りしめた。
「君が何をしようと、僕は何も失わない。引きこもるのは勝手だが・・・その期間が長くなるほど、君の評判は落ちるのさ。」
「・・・。」
「ははは。せいぜい、引きこもって抵抗すればいいさ・・・どうせ無駄だけどね・・・。」
そう言ってウルブスはその場を去っていった。力が抜けた私はその場に座り込む。
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