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16.引きこもり生活も悪くない
しおりを挟む「シエリ様・・・。
夜食を届けに参りました!」
「ありがとう。入って。」
こっそりとドアを開け、ニューナを部屋に引き入れる。
私が引きこもり生活を始めてから一週間が経ち、監視の目は少しずつ緩んできた。毎日バルコニーを登ってくるのは危険過ぎる。ここ数日は監視がとぎれる隙を狙って、ニューナに部屋のドアから入ってもらっていた。
「あら。レレナ!貴方もいたの!」
部屋に入ったニューナは先客を見て驚きの声をあげる。
「ええ。シエリ様に繕い物を手伝って貰っていたの。」
部屋の中には、すでにメイドのレレナが繕い物をしている。レレナはお昼ごはんを持ってきてくれたのだが、その代わりに彼女の仕事を手伝っていたのだ。
「沢山助けてもらっていますから。」
引きこもり生活を続ける私を城の使用人たち可哀想に思い、温かく接してくれた。
"嫉妬に狂った恐ろしい女"という噂が流れているにも関わらず、彼らは私を信じてくれている。
「気にしないでください。シエリ様。ウルブス王子付きの使用人は誰も信じてませんから!」
彼らは辛い状況を理解し、私に励ましの言葉をかけてくれる。部屋でじっとしていられなくて、繕いの仕事を手伝い始めたのだった。
山になった衣服の隣で、針を動かす私を見て、ニューナが肩をすくめる。
「シエリ様は本当に働きものですねぇ。大変な状況なんですから・・・ゆっくりしていてもいいんですよ?」
「ふふふ。私は皆にお世話してもらってばかりだわ。せめて部屋の中で出来ることくらいさせてくださいな。」
私の隣に座るレレナがにっこりと笑う。
「そう言われたら、手伝ってもらいたくなっちゃうでしょ?私、縫い物苦手だしさ。」
レレナは私より3歳歳下。人懐っこくて、可愛いのだ。
「どんどん任せてくださいな。」
私は針と糸を駆使し、丁寧に服を繕っていった。細かな縫い目を気にかけながら、慎重に作業を進める。
こうしていると、色んなことを忘れられるのだ。外で流れる酷い噂や、私に執着する恐ろしい王子のことを。
「お上手ですねぇ。」
ニューナは私の縫った跡を見ながら、感心の表情を浮かべる。実のところ、ここ数日修繕ばかりしていたので、縫い物の腕はかなり上達している。
「ニューナ見て!この髪留ね、シエリ様に作ってもらったのよ!可愛いでしょう!」
修繕だけに飽き足らず、服や髪飾り作りを始めていた。
「まあ!かわいい!シエリ様すごいですね!」
「その・・・時間だけはあるのですよ。ニューナも欲しいですか?」
「欲しいです!」
「是非・・・作らせてくださいな。」
城の皆の衣服を修繕をしながら、縫い物を楽しむ日々。苦しみに耐えるだけの引きこもり生活かと思っていたけれど・・・思いの外楽しい。
次の日は、若手シェフのリリックがレレナと一緒にやってきた。
「あの、シエリ様。俺にもレレナと同じ髪飾りを作ってくれませんか。」
リリックは頬をかきながら、私に頼んできた。もちろんいいけれど・・・
「リリックがつけるのですか?」
「いいえ。その、好きな人にプレゼントしたくて・・・。レレナがシエリ様なら作ってくれるというので。」
「そういうことなら、もちろん作りますよ!その子の好きな色を教えてください!」
そうやって頼み事を引き受けているうちに、私はなぜか彼らの恋愛相談役になっていた。
「シエリ様ー、聞いてくださいよ!」
話を聞いたり、励ましの言葉をかけたりしながら、皆とどんどん仲良くなっていく。
「相談役として・・・私はふさわしいでしょうか?」
「いいんですよ。シエリ様がにこにこ聞いてくれるだけで、悩みが安らぐんですから。」
ニューナが隣でくつろぎながら言う。
「そう言ってもらえると・・・嬉しいです。」
城の皆に優しくされて、引きこもり生活の居心地はどんどん良くなっていく。
私の部屋にメイドやシェフ達が出入りしていることを、ウルブスは気づいているだろうけど、とやかく言ってこなかった。
社交界には、私のとんでもない噂が流れている。ウルブスと婚約破棄しても、次に嫁ぎ先を見つけられるはずがない。
そう思って、あの男は油断しているのだろう。ここ最近は気が向いた時に、声をかけてくるくらい。二週間も婚約者が引きこもっているにも関わらず。
"愛してる"なんて絶対に口だけだ。
「なんだか・・・平和ですねぇ。」
ニューナが呟いたとき
「この男好き女!!私からウルブス様を奪いやがって!!!」
ドアの向こうから、マリィの叫び声が聞こえる。私はニューナと顔を見合わせた。
◇◇◇
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