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9.騙されていたんだ
しおりを挟む「サ、サイラス様?!まだいらっしゃったんですか!」
時計を見るともうとっくに日付を超えて、午前2時になろうとしている。
もう、そんな時間・・・?!
紙にペンを走らせることに夢中になっていた私は、サイラスがまだ部屋にいることに気づいていなかった。
「ああ。」
「もう遅いですし・・・部屋でお休みなさってください!」
うかつだった。サイラス様に声をかけるのを忘れていたなんて。
サイラスは首を振った。
「いいや。ここで見守ってるよ。」
「ですが・・・。」
「気にしないで。僕はいざという時の為の護衛だから・・・ウルブスが君を城に連れ戻しに来るかもしれないだろ。」
わざわざ私のために、あの男がそんなことするだろうか?想像がつかない。
「そうかも、しれませんが・・・サイラス様に申し訳ないですし・・・。」
こんな遅くまで二人きりなのは、緊張しますし。
「嫌なんじゃなくて、申し訳ないだけなら、見守らせてくれないか?心配なんだ。」
「は、はい・・・。ありがとうございます。」
ううう。優しい。優しすぎる。
「なぜ・・・サイラス様はこんなにも親切なんですか・・・?」
思わず疑問が声にでた。
「シエリが辛い思いをしてるのを見ていると、放っておけなくてね。実は僕も昔・・・元婚約者に酷い目に遭わされたことがあるんだ。」
ぽつりとサイラスが呟いた。
「いったいなにが・・・?」
「僕の婚約者だった女性は・・・結婚式の一週間前に、家の財宝を根こそぎ奪っていなくなったんだ。」
「え!!」
思わず大声がでた。
そんなことって・・・。
サイラスは頭を抱えた。
「自分でも恥ずかしいよ。僕が愛し合っていると思っていた女性は・・・強盗団の一味だったんだ。彼女は最初から僕に財産目当てで近づいたらしい。」
驚きのあまり、私は言葉を失った。
「それ以来、どうも・・・臆病になってしまってね。」
「と、当然ですよ!そんなことがあったのに、私を助けようとしてくれるなんて・・・サイラス様は神様です!」
両手の拳を握りしめて訴えた。
私の顔が間抜けだったのか、サイラス様はお腹を抱えて笑い出した。
「あははは。神様って!僕が間抜けなだけさ。」
「間抜けじゃないです!!騙す方が悪いに決まってるじゃないですか!」
私はカバンを漁り、持ってきていたペンを取り出した。実は自分でペンを持っていたのだが・・・プレゼントが嬉しくて黙っていたのだ。
「サイラス様・・・ペンをお返しします。」
「なぜだい?」
私は一枚紙を手渡した。
「サイラス様も、一緒に書きましょう?全部、書き出したら、きっと心が楽になりますよ。」
サイラスはじっと私を見てから、微笑みを浮かべて私のペンを指さした。
「そうしたら、シエリのペンを貸してくれないか?」
「これ・・・ですか?」
花柄のピンク色のペン。サイラスが
使うのにふさわしいと思わないけど・・・。
「ああ。さっきのペンはシエリにプレゼントしてしまったからね。」
あの白いペン・・・私が貰っていいんだ。
嬉しくなって、私は両手でピンク色のペンをサイラスに差し出した。
「あの・・・そしたら、私もこのペン、差し上げます。」
そう言ったら、サイラスは目を丸くした。
「あっ、そうですよね!!あの・・・えっと・・・。」
女物のペンを騎士様が使うはずないのに私は何を言ってるんだ!
サイラスは嬉しそうに笑って、ペンを受け取ってくれた。
「ありがとう。大切に使うよ。」
◇◇◇
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