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8.そばにいるよ
しおりを挟む「あ、あ、ありがとうございます!」
自分の部屋に着くと、私はサイラス様に顔を見られないよう深く頭を下げた。
そもそも異性と関わると挙動がおかしくなる私だが・・・いつもの十倍動揺している。鏡を見なくても、顔が赤くなっているのが分かる。
だって、しょうがない。
今まで異性と関わった経験はないんだから。手を触れるのだってー大事なのだ。
「気にしないで。それより、シエリ・・・顔が赤くないか?」
サイラスが私の顔をのぞき込む。その顔は真剣だ。なぜ、私が動揺しているのか全く分かっていない。
な、なんで?この人・・・わざと?
「だいじょうぶです!」
「そうか。それならばいいんだが。少しここで待っていてくれ。シエリに渡したいものがあるんだ。」
そう言って、サイラスは部屋を出ていった。渡したいものって、なんだろう?
時計を見ると、もうすっかり遅くなっていた。普段ならばもう眠っている時間だ。
「おまたせ。」
部屋に帰ってきたサイラスは、大量の紙を抱えていた。
ん?
「はい。これはシエリへのプレゼント。」
サイラスに渡されたのは、シンプルな白いペン。
「この紙は・・・?」
サイラスは真剣な眼差しで私の両肩を掴んだ。
「あのっ。」
私はひたすら瞬きを繰り返す。
そういえば、隣国のザルトル国はスキンシップが多い国なんだったな・・・。
彼が平然としているのも、この距離間が友人同士で普通だからなんだろう・・・ううう。
「あの男の非道を、全て書き記してしまえばいいんじゃないかと思ってさ。シエリは優しいから直接話したら、いくらあの男がクソ野郎でもかばってしまう気がして。」
「・・・確かに良いかもしれません。」
ウルブスに強い口調で詰め寄られると、私は言い返すことができない。意志が弱い私でも文書を付き出すくらいはできるんじゃないかな。
「あの男の最低さを、書き記してやります!」
サイラスから渡された紙とペンを手に取り意気込む。
「その意気だよ。全て暴露してやろう。」
親指を突き立てて笑うサイラスが眩しい。
「ありがとうございます。サイラス様。これを書けば・・・これからどうしたら良いのか見えてくる気がします。」
「真実さえ明らかになれば、皆シエリの味方さ。少なくとも僕は、君の味方だからね。」
「あ、ありがとうございます・・・!」
なぜサイラスはこんなにも優しいのだろう。優しすぎて逆に不安になってくる。
「よしっ。」
私はペンを紙に走らせ、婚約初日の出来事から、ウルブスの酷い行為を一つずつ振り返っていった。
書き始めて数時間が経ち、日付が変わってもなお、私は書き続けた。
あの王子は最初から、私を愛そうとしていなかった。気が弱くて地味だから、なんでも言うことを聞くだろう。王子はそう考えて、私を見下していたんだ。
ずっと放置していたくせに、少し騒ぎを起こすと面倒になって婚約破棄を要求した。常に上から威圧し、私を脅すことで全てを思い通りに動かそうとして・・・ああ、やっぱり考えれば考えるほど最低な奴だ。
「負けたく、ない。」
ウルブスへの怒りから思わず声が溢れた。
「だいじょうぶ。シエリは負けないよ。」
「え?!」
後ろから声が聞こえて、私は思わず振り向いた。そこにはサイラスが椅子に腰掛けて私を見ていた。
私がウルブスへの恨みを書き出し始めて数時間が経つ。サイラスはとっくに部屋で休んでいるとと思っていた。
ずっとこの部屋にいらっしゃったんですか・・・?
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