8 / 30
8.そばにいるよ
しおりを挟む「あ、あ、ありがとうございます!」
自分の部屋に着くと、私はサイラス様に顔を見られないよう深く頭を下げた。
そもそも異性と関わると挙動がおかしくなる私だが・・・いつもの十倍動揺している。鏡を見なくても、顔が赤くなっているのが分かる。
だって、しょうがない。
今まで異性と関わった経験はないんだから。手を触れるのだってー大事なのだ。
「気にしないで。それより、シエリ・・・顔が赤くないか?」
サイラスが私の顔をのぞき込む。その顔は真剣だ。なぜ、私が動揺しているのか全く分かっていない。
な、なんで?この人・・・わざと?
「だいじょうぶです!」
「そうか。それならばいいんだが。少しここで待っていてくれ。シエリに渡したいものがあるんだ。」
そう言って、サイラスは部屋を出ていった。渡したいものって、なんだろう?
時計を見ると、もうすっかり遅くなっていた。普段ならばもう眠っている時間だ。
「おまたせ。」
部屋に帰ってきたサイラスは、大量の紙を抱えていた。
ん?
「はい。これはシエリへのプレゼント。」
サイラスに渡されたのは、シンプルな白いペン。
「この紙は・・・?」
サイラスは真剣な眼差しで私の両肩を掴んだ。
「あのっ。」
私はひたすら瞬きを繰り返す。
そういえば、隣国のザルトル国はスキンシップが多い国なんだったな・・・。
彼が平然としているのも、この距離間が友人同士で普通だからなんだろう・・・ううう。
「あの男の非道を、全て書き記してしまえばいいんじゃないかと思ってさ。シエリは優しいから直接話したら、いくらあの男がクソ野郎でもかばってしまう気がして。」
「・・・確かに良いかもしれません。」
ウルブスに強い口調で詰め寄られると、私は言い返すことができない。意志が弱い私でも文書を付き出すくらいはできるんじゃないかな。
「あの男の最低さを、書き記してやります!」
サイラスから渡された紙とペンを手に取り意気込む。
「その意気だよ。全て暴露してやろう。」
親指を突き立てて笑うサイラスが眩しい。
「ありがとうございます。サイラス様。これを書けば・・・これからどうしたら良いのか見えてくる気がします。」
「真実さえ明らかになれば、皆シエリの味方さ。少なくとも僕は、君の味方だからね。」
「あ、ありがとうございます・・・!」
なぜサイラスはこんなにも優しいのだろう。優しすぎて逆に不安になってくる。
「よしっ。」
私はペンを紙に走らせ、婚約初日の出来事から、ウルブスの酷い行為を一つずつ振り返っていった。
書き始めて数時間が経ち、日付が変わってもなお、私は書き続けた。
あの王子は最初から、私を愛そうとしていなかった。気が弱くて地味だから、なんでも言うことを聞くだろう。王子はそう考えて、私を見下していたんだ。
ずっと放置していたくせに、少し騒ぎを起こすと面倒になって婚約破棄を要求した。常に上から威圧し、私を脅すことで全てを思い通りに動かそうとして・・・ああ、やっぱり考えれば考えるほど最低な奴だ。
「負けたく、ない。」
ウルブスへの怒りから思わず声が溢れた。
「だいじょうぶ。シエリは負けないよ。」
「え?!」
後ろから声が聞こえて、私は思わず振り向いた。そこにはサイラスが椅子に腰掛けて私を見ていた。
私がウルブスへの恨みを書き出し始めて数時間が経つ。サイラスはとっくに部屋で休んでいるとと思っていた。
ずっとこの部屋にいらっしゃったんですか・・・?
47
お気に入りに追加
1,710
あなたにおすすめの小説

【完結】幼い頃から婚約を誓っていた伯爵に婚約破棄されましたが、数年後に驚くべき事実が発覚したので会いに行こうと思います
菊池 快晴
恋愛
令嬢メアリーは、幼い頃から将来を誓い合ったゼイン伯爵に婚約破棄される。
その隣には見知らぬ女性が立っていた。
二人は傍から見ても仲睦まじいカップルだった。
両家の挨拶を終えて、幸せな結婚前パーティで、その出来事は起こった。
メアリーは彼との出会いを思い返しながら打ちひしがれる。
数年後、心の傷がようやく癒えた頃、メアリーの前に、謎の女性が現れる。
彼女の口から発せられた言葉は、ゼインのとんでもない事実だった――。
※ハッピーエンド&純愛
他サイトでも掲載しております。

目の前で始まった断罪イベントが理不尽すぎたので口出ししたら巻き込まれた結果、何故か王子から求婚されました
歌龍吟伶
恋愛
私、ティーリャ。王都学校の二年生。
卒業生を送る会が終わった瞬間に先輩が婚約破棄の断罪イベントを始めた。
理不尽すぎてイライラしたから口を挟んだら、お前も同罪だ!って謎のトバッチリ…マジないわー。
…と思ったら何故か王子様に気に入られちゃってプロポーズされたお話。
全二話で完結します、予約投稿済み

隣国の王子に求愛されているところへ実妹と自称婚約者が現れて茶番が始まりました
歌龍吟伶
恋愛
伯爵令嬢リアラは、国王主催のパーティーに参加していた。
招かれていた隣国の王子に求愛され戸惑っていると、実妹と侯爵令息が純白の衣装に身を包み現れ「リアラ!お前との婚約を破棄してルリナと結婚する!」「残念でしたわねお姉様!」と言い出したのだ。
国王含めて唖然とする会場で始まった茶番劇。
「…ええと、貴方と婚約した覚えがないのですが?」

上辺だけの王太子妃はもうたくさん!
ネコ
恋愛
侯爵令嬢ヴァネッサは、王太子から「外聞のためだけに隣にいろ」と言われ続け、婚約者でありながらただの体面担当にされる。周囲は別の令嬢との密会を知りつつ口を噤むばかり。そんな扱いに愛想を尽かしたヴァネッサは「それなら私も好きにさせていただきます」と王宮を去る。意外にも国王は彼女の価値を知っていて……?

玉の輿を狙う妹から「邪魔しないで!」と言われているので学業に没頭していたら、王子から求婚されました
歌龍吟伶
恋愛
王立学園四年生のリーリャには、一学年下の妹アーシャがいる。
昔から王子様との結婚を夢見ていたアーシャは自分磨きに余念がない可愛いらしい娘で、六年生である第一王子リュカリウスを狙っているらしい。
入学当時から、「私が王子と結婚するんだからね!お姉ちゃんは邪魔しないで!」と言われていたリーリャは学業に専念していた。
その甲斐あってか学年首位となったある日。
「君のことが好きだから」…まさかの告白!

婚約者様。現在社交界で広まっている噂について、大事なお話があります
柚木ゆず
恋愛
婚約者様へ。
昨夜参加したリーベニア侯爵家主催の夜会で、私に関するとある噂が広まりつつあると知りました。
そちらについて、とても大事なお話がありますので――。これから伺いますね?

婚約破棄されたので、隠していた力を解放します
ミィタソ
恋愛
「――よって、私は君との婚約を破棄する」
豪華なシャンデリアが輝く舞踏会の会場。その中心で、王太子アレクシスが高らかに宣言した。
周囲の貴族たちは一斉にどよめき、私の顔を覗き込んでくる。興味津々な顔、驚きを隠せない顔、そして――あからさまに嘲笑する顔。
私は、この状況をただ静かに見つめていた。
「……そうですか」
あまりにも予想通りすぎて、拍子抜けするくらいだ。
婚約破棄、大いに結構。
慰謝料でも請求してやりますか。
私には隠された力がある。
これからは自由に生きるとしよう。

婚約を解消してくれないと、毒を飲んで死ぬ? どうぞご自由に
柚木ゆず
恋愛
※7月25日、本編完結いたしました。後日、補完編と番外編の投稿を予定しております。
伯爵令嬢ソフィアの幼馴染である、ソフィアの婚約者イーサンと伯爵令嬢アヴリーヌ。二人はソフィアに内緒で恋仲となっており、最愛の人と結婚できるように今の関係を解消したいと考えていました。
ですがこの婚約は少々特殊な意味を持つものとなっており、解消するにはソフィアの協力が必要不可欠。ソフィアが関係の解消を快諾し、幼馴染三人で両家の当主に訴えなければ実現できないものでした。
そしてそんなソフィアは『家の都合』を優先するため、素直に力を貸してくれはしないと考えていました。
そこで二人は毒を用意し、一緒になれないなら飲んで死ぬとソフィアに宣言。大切な幼馴染が死ぬのは嫌だから、必ず言うことを聞く――。と二人はほくそ笑んでいましたが、そんなイーサンとアヴリーヌに返ってきたのは予想外の言葉でした。
「そう。どうぞご自由に」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる