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1.王子様は愛人と一緒です
しおりを挟む「どういうことですか・・・?私は、ウルブス様の婚約者としてここに来たはずで・・・。その女性は・・・?」
ここはデンバー国本宮殿。第二王子ウルブスの部屋。
私が婚約するはずのウルブスは、見知らぬ女と手を繋いで、私を待っていた。
私はデンバー国有数の名家の一人娘シエリ・ウォルターン。17歳。華やかなドレスに圧倒的に負ける地味な顔。どんくさい私は、これまで異性に見向きもされなかった。
それなのに、急にウルブスに婚約を申し込まれるなんて、最初からおかしいとは思ってたんだ。
でもまさか城に来た初日に、愛人と一緒にお出迎えされるなんてね・・・。
「よく来てくれたね。シエリ。
"婚約者"として君を歓迎するよ。」
爽やかな笑顔を浮かべて、ウルブスが私に言うがーー言葉に行動が伴っていない。
なぜ婚約者を愛人と一緒に部屋で待っているの?
「えっと、彼女は・・・?」
私がちらりと目線を向けると、女性はにっこりと微笑んだ。
「彼女はマリィ。僕の愛する人だよ。」
柔らかい癖のある茶髪。
整った顔立ちのウルブスは悪びれもなく私に言った。彼は隣にたつ金髪の女性の腰に手を回している。
ちょっと待ってくださいな。
私、今から貴方と結婚するはずでは?
「あ、あの・・・?それではこの婚約は・・・?」
だめだ、上手く言葉が出てこない。
気が弱くて、緊張しい。
言いたいことを言えない私。
ウルブス王子との婚約も、自分の意志でなく、両親が決めたことだ。
「ああ、安心してくれ。婚約破棄してくれ、なんて言うつもりはないよ。」
「・・・そう、ですか。」
それは、良いこと・・・?
ウォルターン家にとっては間違いなく良いことなんだろうけど。父には二度と帰ってくるなと言われて、私は城に来た。
王族とのつながりは、貴族にとって大切なことだから。
「君はただ、僕の婚約者として何も言わずに、この城で平和に暮らしていればいいだけさ。」
つまり、愛人がいても文句をつけずにお飾りの妻のままでいろと言うわけですか。
"王子の婚約者"として城にやって来たのに、王子の部屋には彼の愛人がいた。
これ以上惨めなことがあるだろうか。
怒りと悲しみが同時に込み上げてくる。
「シエリ、わかったかい?」
有無を言わせないウルブスの口調に、私はつい頷いてしまった。
「は、はい。」
きっと、ウルブスは私が言い返せないだろうと最初から分かっていたんだ。だから、私を彼の婚約者に選んだ・・・。
「だいじょうぶ。公の場では君を愛する妻として大切に扱うよ。特に君の父上に心配させるようなことはしないと誓う。」
「あ、ありがとうございます。」
なぜ、私はお礼を言っているのだろう。
ウルブス王子は優しい口調で、最低なことを言っているのに。
彼が必要なのは、身分が高いが文句をつけない大人しい女。私は、彼に利用されるだ
けだ。
「良かったわね。シエリちゃん。」
ウルブスの愛人であるマリィが目を細めて私に言った。
金髪に豊満な体つきのマリィ。目を見張るほどの美人だ。社交界では見たことがないから、きっと平民の女性だろう。
「良かった・・・?そもそも、なぜ貴方がここにいるのですか?」
ふいに怒りが込み上げてきた。
あまりにも、私を馬鹿にしすぎだ。
愛人がいるならせめて、私に気づかれない努力くらいしたらいいのに。
マリィは私をあざ笑った。
「ウルブスが貴方に会うよう私に頼んだの。彼は私を愛していることを隠しておくつもりはなかったのよ。誠実だと思わない?」
怒りで顔が熱くなってくるのが分かる。
どこが誠実なの?
「お、思いません!」
勇気を振り絞って言うと、ウルブスは私を睨みつけた。
「マリィを虐めるのはやめてくれないか?君は優しい子だと聞いていたんだが・・・見込み違いだったかな。
これ以上何か言ったら、従者への態度を理由に婚約破棄させてもらうよ。」
「そんな・・・」
シエリは言葉に詰まり、呆然とウルブスを見つめた。
地味でどんくさい私だって、幸せな未来を夢見ていたのに。目の前が真っ暗になっていく。
「わかったらさっさと部屋を出ていってくれ。用があるときは僕から声をかける。君から僕の部屋には何があっても入ってはいけないよ。」
ウルブスは私にそう言い放った。
「ふふふふっ。」
マリィの笑い声が部屋に響く。
「さ、早く出ていって?」
マリィが私の腕を掴んで、外へと追い出す。彼女の爪が肌に食い込んで痛い・・・。
バタンッ
閉じられたドアを私は呆然と見つめていた。
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