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14 ずっと言えなかった
しおりを挟むそして私は、ついにあの素敵な牢屋を出ることになった。本当はもう少しいても良かったんだけど、ドノバル王に必死で止められたのだ。
「命の恩人にそんなところにいられては困る」
そう言って、ドノバル王はこれまでアトラスが私にしたことを謝罪し頭を下げてくれた。地下牢にいるアトラスに謝罪させようかとドノバル王に提案されたが、それは丁重にお断りした。あんな最低な男の顔なんか、もう二度と見たくないから。
(メイドはもっとやりたかったな。)
楽しかったメイドの仕事ももう辞めることになってしまった。ドノバル様が私に貴族の位を返還してくれたのだ。それでも続けようと思ったんだけど、メイドの皆が私にそんなことをさせられないと言って聞かないので、やめることにしたのだ。
「私はもう王子の婚約者では無いのよ?気を使わなくてもだいじょうぶなのに、、、。」
同僚だったメイドの一人にそうたずねると、
「だけど、ほら、これからどうなるかわからないじゃないですか?」
と、いたずらっぽく笑っていた。
「メイドをやめてもお茶会はしてくれる?」
私がプリンに聞くと、プリンは笑顔で私の両手を掴んでくれた。
「もちろんです!!絶対に美味しいお菓子、一緒に食べましょう!!」
プリンは、単にお菓子好きかもしれないけど。とにかく私の友達になってくれてありがとう。
「サクラ。」
牢屋の布団を片付けていると、レブロムがやってきた。レブロムが右手に持った赤いバラの花束を見て私の心臓はどくりと大きな音を立てた。
「ありがとう。全部君のおかげだ。」
レブロムは小さく微笑んで言った。
「私こそありがとう。レブロムが、本当のことを皆に伝えてくれたから、私は一人ぼっちにならなかった。」
私はにっこりと笑って、レブロムを見た。貴方のおかげで、私は"王妃になる"ためだけに生きてたんじゃ無いって気づけたの。
「本当にありがとう。そして、おめでとう。貴方ならきっと素敵な皇太子になれるわ。」
皆、皇太子がレブロムになって喜んでいる。無愛想な彼だけど、優しいレブロムを皆が信頼しているのだ。もちろん、私も。
「サクラ。」
レブロムは緊張した面持ちで私の名前を呼んだ。
「俺の婚約者になってくれないか?」
ゆっくりと、レブロムが私に言った。18歳のレブロムには婚約者がまだいない。何度か、レブロムにも婚約の話はあったが、彼が全て拒否していたのだ。
「え?」
私は小さく息を吸った。私は小刻みに震える手をぎゅっと握った。
「兄の婚約者だから言えなかったけど俺はずっと、サクラが好きだった。」
気づいていなかった?いいえ。多分私はずっと気づかないふりをしてたんだわ。結婚式前夜のあの日、レブロムに腕を掴まれたときから。
「レブロム、、、。」
「俺が父の跡を継いで王になる時に、貴方には私の隣にいてほしい。」
レブロムの真っ直ぐな瞳に胸がときめいた。私だって少しずつレブロムへの好意が特別になるのを感じていたのだ。婚約破棄された私をずっと守ってくれていたのは、レブロムだったから。
「もう一回、言って?私のことどう思ってるの?」
王妃になれるから、とかじゃなくて。貴方のことを心の底から愛して生きていきたいの。
レブロムは花束をそっと私に手渡すと、跪いて小さな箱を取り出した。
「サクラのことがずっと好きでした。俺と、結婚してください。」
その言葉は、私がずっと欲しかったもの。
「もちろん、よろこんで。」
そうして、私は大好きな人の婚約者になれたのでした。
◇◇◇
二年後、結婚式前夜。
私はソファーにレブロムと並んで腰掛けていた。レブロムの肩に頭をあずけて肩に腕を絡めた。
「レブロムは私のこといつから好きだったの?」
婚約者になってから二年間、レブロムはまっすぐに私を愛してくれた。アトラスのせいでずたずたになっていた私の心をゆっくりと癒やしてくれたのだ。
「迷子の俺を見つけてくれた時。」
レブロムは照れくさそうに笑って、私の手を握った。確かに、そんなこともあったね。
「あの時、私達初めて会ったんじゃないっけ?」
懐かしくて、思わず笑みが溢れる。
「そうだよ。」
私が10歳で、レブロムが8歳の時。お城裏にある森で迷子になったレブロムを私が見つけたのだ。その時大泣きしていたから、私の中でのレブロムの印象はずっと泣き虫だった。
「サクラは?いつ俺のことを初めて意識した?」
初めてレブロムにときめいたとき。いつだろう。
「二年前、私の手首を掴んでさ、逃げてもいいって、言ってくれたじゃない。覚えてる?」
「覚えてるよ。」
私はぺろりと舌を出した。今だから言えるカミングアウト。
「正直あの時、少しときめいたわ。」
そういった瞬間、レブロムは私のことを抱きしめた。
「サクラ大好き。」
「私もよ。レブロム。」
ぎゅっと抱きしめ返す。
「ずっとサクラを守るから。」
レブロムはそっと私の頬に触れ、そしてゆっくりと私の唇に触れた。
「大好き。」
ねぇ、結婚式前夜って、こんなに幸せな時間だったのね。
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