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23.婚約者だろ?

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「ほら、口開けて。」

レオがそう言って、手に持ったスプーンを差し出した。スプーンの中には湯気を立たせたスープが入っている。直前に、レオが一口飲んだ。

「な、なんでですか?!自分で食べれます!」

動揺する私を見て、レオは楽しそうにしている。

「しょうがないだろ。毒見をしなくちゃならないんだから。ほら。」

「ううう」

腹ペコの私は空腹にあがらえず、口を開けた。

レオはスプーンに食事を載せると、自分で一口食べたあと私にそのまま食べさせた。

(恥ずかしすぎるんですが?!)

「毒なんて入っているんですか?」

「しょっちゅうな。」

レオは平然と答える。

「なら、、私が先に食べなきゃ駄目じゃ無いですか!」

スプーンを奪い取ろうとするも、華麗にかわされる。

「俺は毒に耐性があるから良いんだよ。」

結局、皿の料理を全て平らげるまでレオは私にスプーンを渡さなかった。私はただ、口を開けて咀嚼していただけである。

(いつ、食事に毒が入っているか分からない中で、レオ様は生きてきたんだ。)

「いつか、レオ様に料理を作ってあげたいです。」

レオは眉をあげる。

「作れるのか?」

「はい!料理は私の得意分野ですから!」

レオは優しく私の頭を撫でる。

「楽しみだな。」

レオの言葉には、そんなこと叶うわけない、という思いが透けて見えた。

「絶対、食べてもらいますから!約束ですからね!」

「ああ。」

レオは私の顔を見ずに頷くと、ベットに倒れ込んだ。

「オリビアは不思議だな。貴族の令嬢なのに、医療本は読むし、料理はする。アダムズには、掃除が上手いと褒めていたしな。」

レオは私の頬に触れた。なぜだかわからないけど、この部屋にいると私達はお互いに触れたくなってしまう。

レオに触れるのも、触れられるのも嫌じゃ無かった。

(婚約者だから?)

多分、違う。

(でも、婚約者だから良いよね。)

想いが通じ合っていてもそうじゃなくても、私達が婚約者だってことは変わらない事実なのだ。

「普通の、貴族の令嬢としては出来損ないでしたから。」

私は笑いながら言う。

「辛かった、か?」

レオは長いまつげをゆっくりと瞬く。
私はベットに寝転がり天井を見つめた。

「辛かった、時もありました。だけど、助けてくれる人達がいたから、ここまで生きてこれました。」

医療団の皆に会わなかったら、私は今頃どうしていたんだろう。想像するだけで恐ろしい。

「オリビアを助けてくれる人がいて、本当に良かったよ。」

私よりずっと辛い境遇を生きてきたはずのレオは、にっこりと笑った。

「そろそろ、寝れるか?時間は分からないだろうけど、もう遅い。」

レオが体を起こし、触れていた右肩から暖かさが消える。

(寂しい。)

俯いて、ベットのシーツを握りしめる。

「どうした?」

「えっと、、。」

なんと言っていいか分からず、私は唇を噛んだ。

「心細いのか?」

レオの言葉に私は大きく頷く。
レオはまたベットに座った。

「なら、一緒に寝るか?」

「え?」

私は目を見開いてレオを見る。

「一応、俺たちは婚約者だ。悪いことではないだろ。嫌じゃないか?」

「嫌じゃ、ないです。」

レオはベットに寝転がり、隣をポンポンと叩いた。

「おいで。」

「失礼します。」

レオは私を後ろからぎゅっと抱きしめた。

(どうしよ、どうしよどうしよ、、、。)

心臓がドクンドクンと音を立てる。

「もう、別れも近いしな。」

と、レオは呟く。
私はレオの腕をぎゅっと握った。

「お別れなんか、絶対にしませんから!!」



   ◇◇◇


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