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1.妊娠・・・て

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「ガイゼル王の子供を妊娠したので、 
 報告しに参りました。」

アメリアは
にっこりと笑ってそう言った。
ここはハイガルク城2階王の間。

アメリアは今朝、
王の子供を妊娠したと言い張って
城に無理やり入ってきた。

本来ならば、彼女は
城に入れる身分ではない。
私は夫であり、
ハイガルク国の王であるガイゼルを
ちらりと見た。

「ガイゼル、、ほんとうなの?」

ガイゼルは
真っ青な顔でぎこちなく私を見た。
その顔で、
私は全てを察する。
あぁ、ほんとうなのね。

私は気持ちを落ち着けるために、
大きくため息をついた。
私の名前はレイシャ・カナートン。
この国の有力貴族の娘であり、
来月には
正式なガイゼルの正妃になる予定だ。

本来ならば、
もうすでに結婚してるはずだったが
前国王の喪に服すために、
結婚が延期になっていた。

あぁ、悲しい顔をしたらだめよ、
レイシャ。
動揺しないの。
私は自分にそう言い聞かせる。

幼い頃からガイゼルの許嫁であり
正妃になるための教育を
徹底して受けてきた。
どんなことがあっても
動じず、冷静でいられるように。

「はっきりしてガイゼル。
 アメリアの言うことは、
 本当なの?」

強い口調でガイゼルに
問いかける。
嘘だと言ってよ。

「ご、ごめん、レイシャ。
 ほんとうだと、思う、、多分。」

おどおどとガイゼルが答えた。
子供ができてるようなことをしてるのに、
多分なんて、
曖昧な表現良くできるわね。

「それで、アメリアをどうするの??」

私はガイゼルを睨みつけて言った。
この浮気男!

「子供を妊娠してしまったんだから、
 城に迎えるしか、無いだろう、、?」

ガイゼルはしどろもどろになりながら
そう答えた。
私は唇を噛んだ。

あんな、身元の分からない女を
城に入れるなんて
冗談じゃないわよ。

それにアメリアの言葉が
本当だという証拠は
どこにもない。

下手をしたら、
王家の血を全く引いていない子供が
王位継承権を持ってしまうことになるのだ。

「城に住まわせてくださるのですね!
 ありがとうございます!」

ガイゼルの言葉を聞いて、
アメリアがわざとらしく言った。

「まだ、
 決まったわけじゃないわよ!」

私はアメリアに釘を差した。
アメリアについてきちんと調べるまで
城に入れるわけにはいかない。

「でも、ガイゼル様は
 入れてくれると言いました。

 ねぇ、ガイゼル様、
 私、貴方の子供ができたのだから、
 当然私を、妻にしてくれますよね?」

アメリアは階段を駆け上がり、
ガイゼルの側まで擦り寄った。

その階段は、
貴方が登っていい場所ではないのよ、
アメリア。

「戯言を言わないで頂戴!
 ガイゼルの妻になるのは
 私だととっくに決まっているの!!」

生憎だがこの国では
一夫多妻制を採用していない。

城に入れるとしても、
使用人の一人として、
住まわせることになるだろう。
アメリアは私を無視して
ガイゼルの手に触れた。

「ねぇ、ガイゼル様。
 こんな怖い女とは
 婚約破棄して、
 私と結婚しましょうよ?」

ガイゼルは
アメリアの手を振り払おうとせず
黙って俯いた。

ねぇ、
貴女の婚約者が
酷く言われてるのに、
なぜ言い返してくれないの?
ガイゼル。

結局、アメリアは婚約者候補として、
城に住むことになった。

   ◇◇◇
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