【完結】妊娠した愛妾の暗殺を疑われたのは、心優しき正妃様でした。〜さよなら陛下。貴方の事を愛していた私はもういないの〜

五月ふう

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56. 国王様と口づけ

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レオナルドは、幻覚を見たまま、村の中に入っていく。

「待って!レオナルド!」

 村の真ん中で、レオナルドは両手を地面につけて叫ぶ。

「アリス!アリス!どこに行ったんだ!帰ってきてくれ!僕に笑いかけてくれ!僕にどうしたらいいか教えてくれ!」

 苦しくて仕方なくて、レオナルドは叫んだ。その様子をリュカは呆然と見つめる。彼になんと声をかけたらいいかわからなかった。

 レオナルドは国王で、リュカは平民である。リュカの言葉は、レオナルドを傷つけてしまうのかもしれない。
 
  そこに、一人の少女が歩いてきてレオナルドに近づいた。ぼろぼろの服をきた小さな女の子。

「お兄ちゃん大丈夫?悲しいの?」

 その少女はお水を手に、レオナルドの顔を覗き込んだ。

「なぜ……君は僕に優しくするんだい?」

「だって悲しんでいる人がいたら傍にいてあげてってママが言ってたから。」

 少女はただ優しくレオナルドの頭を撫でてくれた。

「だいじょうぶ。なんにも怖いものはないよ。」

 少女の言葉で、レオナルドの頭の中にアリスの言葉がよみがえる。

『外の世界にも、優しい人はいるわ!レオナルドも外の世界に行ったらきっとわかるわ。』

 ーーーー君のいう通りだったよ、アリス。僕が間違っていた。

 少女から水を受け取り、レオナルドは一口飲んだ。

「ありがとう。君の名前は何と言うんだい?」

「ルルだよ。」

「ありがとう、ルル。君は優しい子だ。」

 そう言って、レオナルドはルルの頭を撫でた。ルルの髪は汚れていたけれど、レオナルドは気にも留めなかった。

「君のために、僕ができることをしよう。僕は国王で……全ての責任は僕にあるから。」

 貧困に苦しむ人々を見ると、頭がひどく痛む。だが、この痛みをレオナルドは受け入れなくてはいけないのだと気が付いた。
 
 ーーーー見ないふりをしていたのは、僕だから。

 レオナルドは立ち上がり、リュカを振り返った。彼女は目に涙をいっぱいにためて、レオナルドを見つめている。

「レオナルドは……悪くないっ!あなたは……優しい人だもん!」

 レオナルドはまっすぐに、リュカの元に歩いて行った。誰よりも、レオナルドを恨んでいたはずのリュカ。だが彼女は、ずっとレオナルドの傍にいてくれた。

 ”レオナルドはレオナルドだよっ!”

 人生で初めて、レオナルドを王としての存在以外で見てくれた人。

「ありがとう。リュカ。」

 穏やかな表情でレオナルドはリュカに言った。

「レオ…ナルド。」

 頬から流れる涙をぬぐって、レオナルドはリュカの頬にキスをした。

   ◇◇◇
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