上 下
52 / 73

51. 国王様と痛み

しおりを挟む

 ーーーーレオナルドには、窓の外がどう映っているのかな?

  次の村に向かう一本道を馬車は進んでいる。

「もう少しで、休憩の村につきそうだね。」

 遠くに村が見えてきた。

「疲れた……もう休みたい。」

 レオナルドは弱音を漏らす。

 たぶん村には、貧しい人たちが沢山住んでいるだろう。それはレオナルドが生まれて初めて見る風景だ。

 ーーーー初めて村に着いた時、レオナルドは何を思うのかな?

 レオナルドはリュカの父親を捜してくれると約束してくれたレオナルド。やっぱり彼は、わがままなだけの王じゃないとリュカは感じる。

「楽しみだね。」

 ーーーーねえ、レオナルド。この国を救うのは貴方じゃないかな。


 ◇◇◇


 ーーーー馬鹿なやつ。

 レオナルドは横目でちらりとリュカを見た。急に泣き出すかと思えば、名前を呼ばれて笑顔になる。

「もうすぐ村に着くよ。」

 窓の外を覗くリュカをレオナルドはぼんやりと見つめる。手を伸ばし、彼女の銀色の髪に触れる。

「なーに?」

 リュカは首を傾げた。当初の警戒心はなくなっている。

 ”ただのレオナルドだよ”

 リュカにとってレオナルドは王ではないのだという。

 ーーーー平民のくせに。

 レオナルドの心には腹立たしさと戸惑いと、ほんの少しの嬉しさが入り混じっている。リュカは不思議な女だ。レオナルドは過去を思い出して、怒りに支配されることはよくある。そうなると、怒りをコントロールする方法がレオナルドにはわからない。だが、リュカと一緒にいると、不思議と怒りが収まるのだ。その理由はわからない。

 ーーーーリュカが、馬鹿だからだ。

「陛下。今日の休憩場所につきました。」

 兵士の言葉にレオナルドははっとする。

 ーーーー僕は王だ。

 顔をしかめ、レオナルドは馬車を降りた。

 馬車から出ると、だんだんと太陽は沈みかけていた。冷たい風が吹き、リュカが体を震わせている。
 
 国王が村に訪れているにも関わらず、村人たちはレオナルドを睨みつけている。彼らの服は泥に汚れていて、家々は壊れそうなほど痛んでいる。

 レオナルドは息を飲み込んだ。どこからか、臭いにおいがする。やつれた村人たちの目は怒りに燃え、敵意が滲むような視線を向けている。

 ーーーー頭が痛い……。

 レオナルドは頭を押さえてうずくまった。そこに広がっているのは、彼が今まで見たことのなかった世界だ。

 『ねえ、レオナルド!お城の外に行きましょう。食べるものが無くて、苦しんでいる人たちが沢山いるのよ!』

 昔、アリスに言われた言葉が頭をよみがえる。城の外に出ていく彼女を必死になって止めた時だったと思う。彼女は、レオナルドにそう訴えたのだ。

 ーーーー僕は知らない……!僕は何も悪くない!

 レオナルドはその場にうずくまり、目をつぶった。頭が割れるよな痛みに襲われ、吐き気がする。うずくまったレオナルドの背中を、リュカがそっとさすった。

「なぜあいつらは僕を睨む……?!僕は何もしていない……。」

 頭を押さえて、レオナルドはうめく。

「レオナルドが……貴族で、国王だから。みんな……重い税で苦しんでいるからだよ。」

 淡々とリュカが言った。

 ーーーー裏切者!!ついさっき、僕はお前にとって王ではないといったではないか!

 レオナルドは拳を握り締めた。

「僕は何も決めていない!フィリップス公爵がそうすると決めただけだ!」

「そうかもしれないけれど、レオナルドはスウェルド国の国王なんだよ。」

「うるさい!うるさい!うるさい!!どうすればいいんだよ!?とにかく僕は、これ以上あの目で見られたくない!どうすればあいつらは……僕を恨まなくなるんだよ?!」

 頭が痛くてたまらない。村人たちからの視線には堪えるのは苦痛だ。

 ーーーー僕は悪くない!僕のせいじゃない!

「良い方法があるよ。レオナルド。」

 優しい声で、リュカがレオナルドの名前を呼ぶ。レオナルドは閉じていた目を開き、リュカを見つめた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛してほしかった

こな
恋愛
「側室でもいいか」最愛の人にそう問われ、頷くしかなかった。  心はすり減り、期待を持つことを止めた。  ──なのに、今更どういうおつもりですか? ※設定ふんわり ※何でも大丈夫な方向け ※合わない方は即ブラウザバックしてください ※指示、暴言を含むコメント、読後の苦情などはお控えください

彼女にも愛する人がいた

まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。 「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」 そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。 餓死だと? この王宮で?  彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。 俺の背中を嫌な汗が流れた。 では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…? そんな馬鹿な…。信じられなかった。 だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。 「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。 彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。 俺はその報告に愕然とした。

余命わずかな私は家族にとって邪魔なので死を選びますが、どうか気にしないでくださいね?

日々埋没。
恋愛
 昔から病弱だった侯爵令嬢のカミラは、そのせいで婚約者からは婚約破棄をされ、世継ぎどころか貴族の長女として何の義務も果たせない自分は役立たずだと思い悩んでいた。  しかし寝たきり生活を送るカミラが出来ることといえば、家の恥である彼女を疎んでいるであろう家族のために自らの死を願うことだった。  そんなある日願いが通じたのか、突然の熱病で静かに息を引き取ったカミラ。  彼女の意識が途切れる最後の瞬間、これで残された家族は皆喜んでくれるだろう……と思いきや、ある男性のおかげでカミラに新たな人生が始まり――!?

【完結】お世話になりました

こな
恋愛
わたしがいなくなっても、きっとあなたは気付きもしないでしょう。 ✴︎書き上げ済み。 お話が合わない場合は静かに閉じてください。

「わかれよう」そうおっしゃったのはあなたの方だったのに。

友坂 悠
恋愛
侯爵夫人のマリエルは、夫のジュリウスから一年後の離縁を提案される。 あと一年白い結婚を続ければ、世間体を気にせず離婚できるから、と。 ジュリウスにとっては亡き父が進めた政略結婚、侯爵位を継いだ今、それを解消したいと思っていたのだった。 「君にだってきっと本当に好きな人が現れるさ。私は元々こうした政略婚は嫌いだったんだ。父に逆らうことができず君を娶ってしまったことは本当に後悔している。だからさ、一年後には離婚をして、第二の人生をちゃんと歩んでいくべきだと思うんだよ。お互いにね」 「わかりました……」 「私は君を解放してあげたいんだ。君が幸せになるために」 そうおっしゃるジュリウスに、逆らうこともできず受け入れるマリエルだったけれど……。 勘違い、すれ違いな夫婦の恋。 前半はヒロイン、中盤はヒーロー視点でお贈りします。 四万字ほどの中編。お楽しみいただけたらうれしいです。

旦那様、最後に一言よろしいでしょうか?

甘糖むい
恋愛
白い結婚をしてから3年目。 夫ライドとメイドのロゼールに召使いのような扱いを受けていたエラリアは、ロゼールが妊娠した事を知らされ離婚を決意する。 「死んでくれ」 夫にそう言われるまでは。

婚約したのに好きな人ができたと告白された「君の妹で僕の子を妊娠してる」彼に衝撃の罰が下される。

window
恋愛
「好きな人がいるから別れてほしい」 婚約しているテリー王子から信じられないことを言われた公爵令嬢フローラ。 相手はフローラの妹アリスだった。何と妊娠までしてると打ち明ける。 その日から学園での生活が全て変わり始めた。テリーと婚約破棄した理由を知った生徒の誰もがフローラのことを同情してくるのです。 フローラは切なくてつらくて、いたたまれない気持ちになってくる。 そんな時、「前から好きだった」と幼馴染のレオナルドから告白されて王子と結婚するよりも幸せな人生を歩むのでした。

愛を求めることはやめましたので、ご安心いただけますと幸いです!

風見ゆうみ
恋愛
わたしの婚約者はレンジロード・ブロフコス侯爵令息。彼に愛されたくて、自分なりに努力してきたつもりだった。でも、彼には昔から好きな人がいた。 結婚式当日、レンジロード様から「君も知っていると思うが、私には愛する女性がいる。君と結婚しても、彼女のことを忘れたくないから忘れない。そして、私と君の結婚式を彼女に見られたくない」と言われ、結婚式を中止にするためにと階段から突き落とされてしまう。 レンジロード様に突き落とされたと訴えても、信じてくれる人は少数だけ。レンジロード様はわたしが階段を踏み外したと言う上に、わたしには話を合わせろと言う。 こんな人のどこが良かったのかしら??? 家族に相談し、離婚に向けて動き出すわたしだったが、わたしの変化に気がついたレンジロード様が、なぜかわたしにかまうようになり――

処理中です...