【完結】妊娠した愛妾の暗殺を疑われたのは、心優しき正妃様でした。〜さよなら陛下。貴方の事を愛していた私はもういないの〜

五月ふう

文字の大きさ
上 下
50 / 80

49. 国王様と純愛

しおりを挟む
「始めてアリスと出会ったのは、6歳か、5歳の時らしいが、はっきり覚えていない。とにかく物心ついた時からずっとアリスはずっとそばにいた。」

 最初は戸惑いながらも、レオナルドは徐々に自分とアリスについて話し始めた。言葉に詰まることもあったが、しだいに滑らかに話せるようになっていく。リュカは黙って、レオナルドの言葉に耳を傾けていた。

「昔のアリスは…僕にとってすべてだったんだ。逆に、アリスにとっても僕がすべてだった。」

 レオナルドは、母親を幼少期に亡くし、父親も気軽に話せる間柄ではなかった。広い城の中で、レオナルドは孤独な日々を送り、友達は一人もいなかった。周囲の人々からは異なる存在として扱われ、自分の弱さを示すことは許されない。

 皇太子レオナルドが心を開ける唯一の存在は、アリスだけ。

 だからこそ、レオナルドにとってアリスはなくてはならない人だった。彼にとって、アリスは自分の脆さを受け入れてくれる唯一の相手であり、アリスの存在が彼を保つ力だったのだろう。

 「本当に、大切な人だったんだね。」

 「……お前には、僕とアリスがどれほど強く結びついていたのか、わかるまい……。」

 リュカはレオナルドがアリスに対してどれだけの想いを寄せていたかっわかった。レオナルドがアリスの名前を口にするたび、彼の顔には苦悩が浮かぶ。今にも泣きだしてしまうのではないかと心配になるほど。

 ーーーーレオナルドがこんなに大切に思っていたのに、なんでアリスは城を去ってしまったんだろう?

 リュカはレオナルドとアリスの間に何が起こったのか、何も知らない。

「だが、アリスは……僕を裏切ったんだ。外の世界に出た後アリスは……僕を見捨てた!」

 再び、レオナルドの目に怒りが戻る。
 
「外の世界に出たアリスはおかしくなったんだ。二人でいることが幸せだったはずなのに!それなのに、アリスは僕以外の何かよくわからないものにとりつかれてしまった!」

 レオナルドは頭をかきむしる。

 ーーーーそうか、アリス様は外の世界で、私たちが苦しんでいることを知ったんだ…。

 外の世界を知ったアリスと、知らないレオナルド。二人の間に亀裂が生まれるのは避けられなかったかもしれない。

「僕がどれだけの気持ちで、アリスの帰りを待ち焦がれていたか、分かっているか?それなのに…彼女は外の世界の人々を救いたいと言い出した!アリスを洗脳した者たちを、絶対に許さない!」

「レオナルド……。」

 充血したレオナルドの目からは涙がこぼれ、顔は苦痛で歪んでいる。何年も前の出来事をレオナルドは今も憎しみと悲しみを抱えて、鮮明に覚えているのだろう。

 ーーーーアリス様を待つ一週間が本当につらかったんだろうな。

 リュカもまた、父親が姿を消した際には恐怖に震えながら待っていた。もし父親が帰ってきて、スウェルド兵を助けようと言ったなら、リュカも怒り心頭になっていただろう。

 レオナルドはそれから、何が起こったのかを怒りを込めて語っていった。

 どれだけ時間が経っても、アリスが元に戻ってくれなかった。彼女はレオナルドを置いて、外に出てしまうようになる。愛人のロゼッタが妊娠したことで、ようやく救われるかと思ったが、ロゼッタは嘘をついてた。そして、毒殺未遂事件が起こり、レオナルドはアリスを疑った。そして今、アリスは生きているかわからない。

 ーーーーどうして……こんなにも二人はすれ違わなければいけなかったんだろう?

 レオナルドの話を聞いて、リュカは胸が締め付けられる。確かにアリスは正しい選択をしたかもしれないけれど、レオナルドの孤独さにもっと気が付いてあげて欲しかった。

「アリスが、先に僕を裏切った……だから、僕はあいつを城から追い出してやったんだ……!」

 レオナルドは苦悩に満ちた表情で叫んだ。悲痛な叫びに、思わずリュカの目から涙が零れ落ちた。

「……なぜお前が泣くんだ?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】お世話になりました

こな
恋愛
わたしがいなくなっても、きっとあなたは気付きもしないでしょう。 ✴︎書き上げ済み。 お話が合わない場合は静かに閉じてください。

愛してほしかった

こな
恋愛
「側室でもいいか」最愛の人にそう問われ、頷くしかなかった。  心はすり減り、期待を持つことを止めた。  ──なのに、今更どういうおつもりですか? ※設定ふんわり ※何でも大丈夫な方向け ※合わない方は即ブラウザバックしてください ※指示、暴言を含むコメント、読後の苦情などはお控えください

婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました

Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。 順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。 特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。 そんなアメリアに対し、オスカーは… とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

寡黙な貴方は今も彼女を想う

MOMO-tank
恋愛
婚約者以外の女性に夢中になり、婚約者を蔑ろにしたうえ婚約破棄した。 ーーそんな過去を持つ私の旦那様は、今もなお後悔し続け、元婚約者を想っている。 シドニーは王宮で側妃付きの侍女として働く18歳の子爵令嬢。見た目が色っぽいシドニーは文官にしつこくされているところを眼光鋭い年上の騎士に助けられる。その男性とは辺境で騎士として12年、数々の武勲をあげ一代限りの男爵位を授かったクライブ・ノックスだった。二人はこの時を境に会えば挨拶を交わすようになり、いつしか婚約話が持ち上がり結婚する。 言葉少ないながらも彼の優しさに幸せを感じていたある日、クライブの元婚約者で現在は未亡人となった美しく儚げなステラ・コンウォール前伯爵夫人と夜会で再会する。 ※設定はゆるいです。 ※溺愛タグ追加しました。

2番目の1番【完】

綾崎オトイ
恋愛
結婚して3年目。 騎士である彼は王女様の護衛騎士で、王女様のことを何よりも誰よりも大事にしていて支えていてお護りしている。 それこそが彼の誇りで彼の幸せで、だから、私は彼の1番にはなれない。 王女様には私は勝てない。 結婚3年目の夫に祝われない誕生日に起こった事件で限界がきてしまった彼女と、彼女の存在と献身が当たり前になってしまっていたバカ真面目で忠誠心の厚い騎士の不器用な想いの話。 ※ざまぁ要素は皆無です。旦那様最低、と思われる方いるかもですがそのまま結ばれますので苦手な方はお戻りいただけると嬉しいです 自己満全開の作品で個人の趣味を詰め込んで殴り書きしているため、地雷多めです。苦手な方はそっとお戻りください。 批判・中傷等、作者の執筆意欲削られそうなものは遠慮なく削除させていただきます…

その眼差しは凍てつく刃*冷たい婚約者にウンザリしてます*

音爽(ネソウ)
恋愛
義妹に優しく、婚約者の令嬢には極寒対応。 塩対応より下があるなんて……。 この婚約は間違っている? *2021年7月完結

大好きなあなたを忘れる方法

山田ランチ
恋愛
あらすじ  王子と婚約関係にある侯爵令嬢のメリベルは、訳あってずっと秘密の婚約者のままにされていた。学園へ入学してすぐ、メリベルの魔廻が(魔術を使う為の魔素を貯めておく器官)が限界を向かえようとしている事に気が付いた大魔術師は、魔廻を小さくする事を提案する。その方法は、魔素が好むという悲しい記憶を失くしていくものだった。悲しい記憶を引っ張り出しては消していくという日々を過ごすうち、徐々に王子との記憶を失くしていくメリベル。そんな中、魔廻を奪う謎の者達に大魔術師とメリベルが襲われてしまう。  魔廻を奪おうとする者達は何者なのか。王子との婚約が隠されている訳と、重大な秘密を抱える大魔術師の正体が、メリベルの記憶に導かれ、やがて世界の始まりへと繋がっていく。 登場人物 ・メリベル・アークトュラス 17歳、アークトゥラス侯爵の一人娘。ジャスパーの婚約者。 ・ジャスパー・オリオン 17歳、第一王子。メリベルの婚約者。 ・イーライ 学園の園芸員。 クレイシー・クレリック 17歳、クレリック侯爵の一人娘。 ・リーヴァイ・ブルーマー 18歳、ブルーマー子爵家の嫡男でジャスパーの側近。 ・アイザック・スチュアート 17歳、スチュアート侯爵の嫡男でジャスパーの側近。 ・ノア・ワード 18歳、ワード騎士団長の息子でジャスパーの従騎士。 ・シア・ガイザー 17歳、ガイザー男爵の娘でメリベルの友人。 ・マイロ 17歳、メリベルの友人。 魔素→世界に漂っている物質。触れれば精神を侵され、生き物は主に凶暴化し魔獣となる。 魔廻→体内にある魔廻(まかい)と呼ばれる器官、魔素を取り込み貯める事が出来る。魔術師はこの器官がある事が必須。 ソル神とルナ神→太陽と月の男女神が魔素で満ちた混沌の大地に現れ、世界を二つに分けて浄化した。ソル神は昼間を、ルナ神は夜を受け持った。

処理中です...