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45.正妃様の正体
しおりを挟む「そんな……。」
セスの話を聞いて、アリスは呆然としてその場に座り込んだ。
ーーーールーカスがいなくなってしまう……。
なぜルーカスが3か月間だけ、家族になってほしいとアリスに頼んだのか、そのわけが少しわかった。もしも犠牲者になってしまったら、今後家族が作れないかもしれない。もしかしたら死んでしまうかもしれない。
そう思った時に、きっとルーカスは家族が欲しくなったのだ。
「ひどい……。」
アリスは右の拳で、地面を思い切りたたきつけた。
ーーーーなぜこんなに恐ろしい法律を作ることができたの……?
湧き上がってくるスウェルド国に対する怒りをアリスはこらえられなかった。なぜ罪のない国民をこんなに追い詰めようとするのか。
「フィリップス……。」
アリスの口から、憎き公爵の名前が零れる。
今、スウェルド国を動かしているのは、国王レオナルドではなくフィリップス公爵である。アリスを陰謀に嵌め、スウェルド城から追い出した男。アリスがいなくなり、タラ-レン家は権力を失っただろう。そうなればフィリップス公爵の暴挙を止められるものはいない。
「本当にすまない。だが……俺はこのままルーカスを見殺しにするつもりはない。それを伝えたくてここにきたんだ。」
セスは覚悟を決めた表情をしている。
「ルーカスを助けてくれるの……?」
「ああ、俺たちは……。」
セスが何かを言いかけたとき。
「アリス!セス!」
ルーカスが二人の名前を呼んだ。
アリスがなかなか帰ってこないのを心配して、ルーカスが川沿いに戻ってきたのだ。
「ルーカス……3か月後に何があるか聞いたわ。」
ルーカスは天を仰いだ。
「余計なことを……。」
セスはルーカスを見つめて言った。
「ルーカス……俺たちは、スウェルド国と戦うと決めた!このままスウェルド国に従っていたら……俺たちは全てを失ってしまう!」
ーーーースウェルド王国と戦う?
「やめろ……子供たちはどうするんだよ!」
「子供たちのためさ。今戦わなくちゃいつ戦うんだよ?!俺だけじゃない、村の大人たちの半分以上が戦う意思を決めてる。ルーカスを一人犠牲にするわけにはいかない!」
「こんな少ない人数で、兵士に対抗できるわけないだろう?」
「いいや。反乱は各地で起きている!隣の東村でも、反乱がおきているんだ!誰かその反乱をまとめるリーダーさえいれば、大きな力になる。スウェルド王国を倒せるはずなんだ!」
アリスは、目を閉じてセスの言葉を聞いていた。
フルート村はスウェルド国に対して反乱を起こそうとしている。村人たちは現在のスウェルド国の支配に不満を抱き、限界を感じているのだ。
ーーーー私にできることは何?
反乱軍はリーダーを必要としている。セスは、まだ反乱軍はまだリーダーがいないため、力を発揮できていないと言った。反乱を指導し、統率するリーダーがいれば、状況は変えられるかもしれない。
ーーーー今、私が動かなくちゃ、ルーカスを失ってしまうんだわ!
アリスは閉じていた目を開けた。
ーーーーねえ、覚悟を決めるなら、今よね。
「私が……スウェルド国を倒すためのリーダーになるわ。」
自信に満ちた笑顔を浮かべて、アリスは言った。
「今、戦わなくてはいけないのよ。」
各地で反乱が勃発している今だからこそ、国の未来を変えるため、アリスにできることがあるはずだ。
「何を言っているんだ?ルーカスのお嫁さん……?」
首をかしげるセス。その隣でルーカスは何かを言いたそうな顔をしている。
「リーダーが必要なんでしょう?」
旅人さんは、アリスがヒーローになると信じてくれていた。
旅人さんの信頼に応えるため、アリスは自分を信じなくちゃいけない。自身を隠すことはもう意味がない。隠れていても何も変わらないだろう。
ーーーー見ていて、旅人さん。
アリスは頭に巻いた布を勢いよくとった。銀髪が風に吹かれて舞う。
「銀髪……。」
驚くセスにアリスはにっこり笑って言う。
「私は正妃アリスよ。馬はあるかしら。東村に向かうわ。」
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