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43.正妃様と恋心
しおりを挟む「国王様のことはどう思っているんだ?」
ルーカスの問いに、アリスは考え込む。彼女の思考はレオナルドに向かい、遠くを見つめた。
ーーーーレオナルド。今、貴方は、どこで何をしているのかしら?
自分を信じてくれなかったレオナルドへの寂しさは今も心に残っている。アリスは苦しむ人達を助けたかったし、スウェルド国を救う使命を強く感じていた。しかし、その想いがレオナルドに届かないもどかしさで、アリスは焦っていたかもしれない。レオナルドの孤独さに気が付いていたのに、寄り添ってあげられなかった。
「今ならもっと……落ち着いて素直に、レオナルドと話せるかもしれないって思うわ。」
もしもレオナルドが城の外で苦しんでいる人がいると気が付いてくれたなら、国はきっと大きく変わる。かなわない願いだとわかっているけれど……それでも期待を捨てきれない。
「そうか……国王様と食堂のレシピについて話し合おうか?」
ルーカスが冗談っぽく笑う。
「試食を手伝ってもらおうかしら。レオナルドは……舌が肥えてるはずだから。」
「そりゃあいいや。」
実際にはレオナルドはアリスの料理を一度も味わったことがなかった。再びレオナルドと会うことがあるのかアリスにはわからない。しかし、アリスが元正妃として誰かを救う道を歩む限り、彼女の前に敵として立ちふさがるのだろう。もしかしたら、いつかアリスは彼と対峙する日が来るのかもしれない。そう思うと心が重くなる。
「国王様のこと……今も好きなんだな。」
「え?」
ルーカスの言葉に、アリスは驚きの表情を浮かべた。
「どうして、そう思うの?」
焦ってアリスが尋ねると、ルーカスはすこし考えた後で答えた。
「なんとなくだが、アリスはまだ国王様のことを信じているし……会いたいと思ってるんだなって感じてさ。」
「……。」
アリスはルーカスを見つめて黙り込む。
確かに、心のどこかでまだほんの少しだけ、レオナルドを信じている。いつか、会えたら嬉しいと思っているのは確かだ。
だけど、ルーカスにアリスがいまだにレオナルドを好きだと誤解されるのは納得できなかった。
「……違うの。」
ぼそりと、アリスは呟く。
「違う?」
アリスは深く頷いた。
「そっか。良かった。」
ルーカスは嬉しそうに笑った。彼の笑顔を見ていると、ドキドキして、心の中が温かくなる。
岩に腰を下ろし、青空に浮かぶ白い雲を眺める。穏やかな日差しがアリスを照らし、ますます自分の心を隠すことを難しくしていた。
ーーーー私はルーカスが好きなんだわ。
アリスはルーカスを好きになった理由は何だろうかと考える。
ーーーー同じ夢を持っていたから?それとも、過去の自分を肯定してくれたからかしら。一番辛いとき傍にいてくれたから好きになってしまったの?ルーカスの思いやりと優しさが心地良かったからかしら?
だが同時にアリスはルーカスの気持ちに応えることができない理由も考えてしまう。きっと、旅人さんの存在は二人の間に残り続けるだろう。それに、一度、永遠の約束を破ってしまった人間が再び結婚していいとは思えない。
ーーーーだめね……。
好きになったらいけないと思えば思うほど、逆に彼への気持ちが深まってしまいそうだ。
アリスはつい、ルーカスを目で追ってしまう。ルーカスのことばかり考えてしまうし、この瞬間が続いてほしいと望んでしまう。
ーーーー違う形であなたに会えていたら、貴方と結婚できていたかしら。
アリスはぼんやりと水面を見つめた。
ーーーーでも恥ずかしがって何もいえなかったでしょうね。
その日は、魚が沢山釣れた。
「そろそろ一度、家に帰ろうか?」
しばらくして、ルーカスがアリスに尋ねた。
「考えることがあるから、もう少しここにいるわ。」
アリスは微笑んでそう答えた。少し、ルーカスから離れて、落ち着かなくてはいけない。
「いなくならないでくれよ。」
「だいじょうぶ、心配しないで。」
アリスはにっこりと笑い、ルーカスに手を振った。
◇◇◇
ルーカスがその場を去った後。アリスがぼんやりと彼のことを考えていると、突如声をかけられた。
「君が……ルーカスのお嫁さんか?」
顔をあげると、坊主頭の大柄な男が険しい顔でアリスを見ている。
”ルーカスのお嫁さん”
その言葉にアリスはすこし動揺した。
「……ええ。」
少し顔を赤くして、アリスは頷いた。
すると男は勢いよく頭を下げると、深刻な表情と切羽詰まった声で言った。
「すまない!俺のせいでルーカスが……。」
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