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41. 正妃様と想い人
しおりを挟む「アリスは…父さんが守った大切な人だ。好きにならないなんて、できなかったよ。」
ルーカスの言葉が信じられなかった。
「私を……許して……くれるの?」
アリスの声は震えた。
「もちろん……。最初から、アリスは悪いことをしてないだろ。」
ルーカスは穏やかな表情をくずさない。
「で、でも……私は……なにもできなかったわ。」
アリスは国民のため様々な行動を起こしたが、それらは全て中途半端に終わり、最終的に城を追い出されてしまった。
「いいや。違う。アリスの行動は沢山の人を救ってた。少なくとも、みんなに希望を残したのはアリスだ。みんなのヒーローに君はすでになっている。」
アリスはスウェルド国内の困窮する村人たちに対して、食事を提供し、少しでも支援を届けようと試みた。また、王家の支出を削減しようとした。さらに、アリスは国を変えるために王レオナルドを説得しようとした。しかし、レオナルドは変わらず、スウェルド国も変わらなかった。
それでも、ルーカスは言ってくれた。アリスは沢山の人を救っていたと。
「だから、頼む。足を怪我したまま、一人で行ってしまわないでくれ。少しでも俺に罪悪感があるのなら……俺にアリスを守らせてくれ。」
「……ルーカス。」
「俺たちは同じ夢を持ってる。父さんから受け継いだ夢。そうだろ?」
「ええ……。」
「アリスの怪我が治るまで……3か月もかからないだろう。それまで俺と一緒に夢の食堂の計画を練ってくれないか?」
「だけど……。」
ーーーー貴方を危険にさらしたくないの。
「頼む。アリスに……いなくなってほしくないんだ。」
ーーーー旅人さんと同じ心を持った人……。
誰よりもアリスを恨んでいるはずの旅人さんの息子は、アリスに生きてほしいと望んでいる。それだけで、アリスは救われる気がした。
「ルーカスが……それを望むのなら……断るなんてできないわ。」
ーーーー貴方の傍にいることで、少しでも罪を償えるなら……私はルーカスの傍にいるわ。
「ありがとう、アリス。」
耳元で囁いたルーカスは、優しくアリスを抱きしめた。ルーカスの大きいからだが風を遮って温かい。
「な、アリス。俺が初めてアリスを好きになった時はいつだと思う?」
「わ、わからないわ。」
「五年前、初めてアリスを見たときから、俺はアリスに惹かれていた。」
「5年前……?」
「ああ、5年前、俺はアリスが、農村で村人たちにご飯を配っているのを見たんだ。その時、アリスのことをなんて美しい人なんだろうって、目を離せなくなったんだよ。思えばあの時から、俺はアリスに心を奪われたままだ。」
ルーカスはアリスをじっと見つめた。
「アリスは……父さんの想いを背負って、十分に戦った。ひとりで、よく頑張ったよ。」
ルーカスの言葉が、ゆっくりと心の中にしみこんでいく。少しずつ、心が癒されていく。
「だからこれからは、誰かに頼ってもいいんだ。その一人目に、俺がなるよ。」
一筋の涙がアリスの目から零れ落ちた。
「ありがとう……ルーカス……。」
アリスはずっと誰かに認めてもらいたかったのだと気づいた。
「ほら、今日はもう遅い。家に帰ろう。」
空に流れ星が落ちた。流れ星が落ちる前に願い事を言えたら、願いが叶うという。もしも今1つだけ願いが叶うとしたら、きっとルーカスの幸せを祈るだろうと思った。
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