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11.公爵の企み
しおりを挟むスウェルド城王の間。王座にレオナルドの姿はなかった。
”アリスを投獄せよ”と命令を出した後、レオナルドは部屋に閉じこもっている。その代わりに、フィリップス公爵が兵士たちに指示を出していた。
「必ずアリスを捕まえろ!!抵抗するなら、殺しても構わん!」
フィリップス公爵は、兵士たちに向かって叫んだ。レオナルドはアリスを捕まえるよう命じただけだ。だがフィリップス公爵は混乱に乗じて、アリスを亡き者にしようとしている。
ーーーーついにあの女を排除できる!
フィリップス公爵の心は高ぶっていた。
「正門と裏門の兵士たちが厳重に見張っております。城の外に出ることは不可能でしょう。」
部下の言葉に、フィリップス公爵は高らかに笑う。
「くははっははは!すべて私の思い通りだ……!」
フィリップス公爵は少し声を落として部下に尋ねる。
「ロゼッタはどうしている?」
「安静になさっていますよ……。ロゼッタは見事に役目を果たしましたね……。」
「くくっ。褒美をやらないといけないな……。」
ロゼッタ暗殺事件は、全てフィリップス公爵の陰謀である。フィリップス公爵は、ロゼッタを利用してアリスを陥れるため、長い間チャンスを窺っていた。
◇◇◇
今朝、フィリップス公爵はアリスが料理を作ることを知り、その機会を逃すまいとロゼッタをパーティに派遣した。彼女に、血液カプセルと気を失う薬を渡し、命令する。
『アリスの料理に毒が入ったように見せる演技をするのだ。レオナルド陛下の目の前で……。』
血液カプセルはフィリップスが外国の商人から特別に購入したもの。これを噛むとまるで血液が口から噴出したように見せることができる。
『かしこまりました。フィリップス公爵。』
ロゼッタは余裕の表情でフィリップスの命令を受けた。ロゼッタは元々野心家で気が強い女だ。彼女もまた、アリスを陥れる機会を狙っていたのだ。
そしてパーティの中で、ロゼッタは自ら血液カプセルを使って血を吐き、倒れこんだ。それによってアリスが毒を入れてロゼッタを暗殺したように見せかけたのだ。
『く、苦しい……レオナルド様……。』
『ロゼッターーーー!!』
騙されたレオナルドはアリスがロゼッタの暗殺を企んだと思い込み、アリスの投獄命令を出してしまった。全てが、フィリップス公爵の思い通りになっている。
◇◇◇
上機嫌で報告を待っていたフィリップス公爵だったが、時間が経ってもなかなか新しい知らせが届かなかった。
「遅い!アリスはまだ捕まっていないのか!」
フィリップス公爵はイライラして兵士を怒鳴りつけた。
「申し訳ありません。元正妃は北塔から姿を消し、まだ見つかっておりません。」
「なぜ女一人を見つけられない!出口はふさがっているはずだ。絶対にアリスは城の中にいるのだから、必ず見つけだせ!」
「はいっ!」
フィリップス公爵は眉間に深くしわを寄せ、自分の髪を引っ張った。
————忌々しい女め……!
フィリップス公爵はアリスを強く嫌っている。タラ-レン家とフィリップス家は本来敵対関係にあるが、彼は個人的にアリスを好ましく思っていなかった。
”贅沢はやめ、国民のためにできることをするべきなのです!”
アリスは節約を訴えながらも、自分だけはまるで貴族ではないような振る舞いをしていた。フィリップス公爵は彼女の偽善的な行動や、国民がアリスを救世主のように尊敬していることに我慢ならない。
ーーーーあの女は危険だ……。
国民はアリスを支持する姿勢が強まっている。それがスウェルド王家の権威が揺らがし、王家の崩壊をもたらしかねない。
「北塔の隅に、隠し出口が見つかりました!アリスはそこから逃げ出したようです!」
「なんだと!?」
兵士の報告にフィリップス公爵は怒鳴り声をあげた。
「なぜ今まで気が付かなかったんだ!!」
「その……一部兵士たちが捜索を怠っていたようで……。」
「馬鹿なことを言うな!早く城の外に出てアリスを追え!あの女はスウェルド王国を滅ぼす反逆者なのだ!あの女の足ならまだ遠くには行っていないはずだ。絶対に逃がな!」
フィリップス公爵の怒声が夜の王宮に響き渡った。
◇◇◇
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