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プロローグ
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スウェルド王国園庭。 曇り空が広がる秋の日。
国王レオナルドは、正妃アリスを憎しみのこもった目で睨みつけ、叫んだ。
「アリス……!!君がロゼッタの食事に毒を入れたんだろ……?自分の『正妃』としての地位がそんなに大切なのか?!」
今日は正妃アリスの誕生日を祝うパーティ。園庭には正妃の誕生日を祝うため、大勢の貴族たちが集まっている。主役である正妃アリスは自ら料理を作り、皆にふるまっていた。
平和に進んでいたパーティは突如終わりを迎えた。レオナルドの愛人であるロゼッタが、気を失って倒れてしまったのだ。ロゼッタは気を失う直前、アリスが作ったイチゴのタルトを口にしていた。
「私は……ロゼッタの食事に毒を入れていないわ。」
アリスは毅然とした表情を浮かべて、はっきりとした口調で答えた。
銀色の髪に、透き通った緑の瞳を持つアリス。22歳を迎えたアリスは、多くの国民に慕われている。
「でもロゼッタが倒れたのは……君が作った料理を食べた直後だ!アリス……君は嫉妬に狂って、ロゼッタを傷つけたんだ!!僕の最愛の人を!!」
国王レオナルドは顔を真っ赤にして叫ぶ。茶色い髪に金色の瞳。国王レオナルドはアリスより二歳年下の20歳。レオナルドのふるまいにはまだ幼さが残っている。
――――最愛の人……ね。
アリスは小さくため息をつく。いくら愛人が大切だとしても、今日はアリスの誕生日。皆の前で、ロゼッタを最愛の人と公言することが、アリスを傷つけると思わないのだろうか?
「まだ……毒を盛られたと決まったわけじゃないでしょう?ロゼッタが単に貧血で倒れた可能性もあるし……。」
突如倒れたロゼッタは医務室に運ばれ、現在看護を受けている。なぜ彼女が倒れたのか、その原因は全く分かっていない。
しかし、レオナルドはアリスの仕業であると断定している。
「いや違う!それまで愛らしく微笑んでいたロゼッタが、突然血を吐いて倒れたんだぞ!?君が食事に何かを仕込んだんだ!!」
「落ち着いて……レオ……。」
「ロゼッタだけでなく、僕たちの子供まで亡き者にするつもりだったのだな‼」
愛人ロゼッタがレオナルドの子供を妊娠したとわかったのは、つい一週間前のことだ。ロゼッタは下級貴族の娘であり、本来ならばレオナルドと結ばれる身分ではなかった。
――――僕たちの子供……。
アリスにとって、レオナルドの言葉はひどく重いものだった。結婚して、8年も経つにも関わらず、アリスとレオナルドの間には子供がいない。
ロゼッタの妊娠は、長い間跡継ぎの問題に悩まされていたスウェルド王家にとって喜ばしい出来事。だからこそアリスは、レオナルドの愛人を受け入れようと努力していた。
「私は……絶対にそんな卑劣な真似はしていないわ。」
アリスはまっすぐにレオナルドを見つめる。風がアリスの銀色の髪をふわふわと揺らしていた。
「君は嘘をついている……ロゼッタに子供ができたとわかってから……君はずっとロゼッタを虐めていたんだろう?」
レオナルドは、真正面からアリスを見つめる。レオナルドとアリスの身長はほとんど変わらない。
「いいえ。私は……あなたが何人の愛人を作ろうとも……彼女たちを虐めたことはないわ。」
実際、スウェルド城にはロゼッタの他にも大勢レオナルドの愛人がいたが、アリスは愛人たちに親切に接していた。
――――嫌がらせを受けていたのは私の方よ‥‥‥。
アリスはレオナルドの愛人から馬鹿にされ、ひそかに嫌がらせを受けていたのだが……アリスはそれに気づかないふりをしていた。
レオナルドは、アリスの言葉を信じようとしない。
「君には幻滅した。」
レオナルドの言葉が、園庭に響く。
「アリス……君とは幼いころから婚約者だった。その温情でこれまで君を正妃として扱ってきたが……今日をもって君から、正妃としての地位を取り上げる‼」
レオの言葉を聞いていた人々は息を飲んだ。アリスの実家であるタラ-レン家は、スウェルド国で大きな権力を持つ。さらに、国民から絶大な支持を集めるアリスを、根拠のない罪で正妃から降ろすことは考えられなかった。
アリスは小さく微笑みを浮かべる。
「私は10年以上……貴方の傍にいた。それなのに……私の言葉を決して信じようとしないのね。」
アリスの声には悲しみが込められていた。だが彼女は決して、涙を流さない。
――――貴方のために、涙なんか流してあげないから。
レオナルドは冷徹な目でアリスを見つめる。
「アリス・タラ-レン。未来の国王を傷つけたお前の罪は重い。後日、しかるべき処罰が下るだろう。それまでは部屋から出ず、謹慎しているように。」
アリスは静かに頭を下げた。
「かしこまりました、陛下。」
――――絶対に惨めな姿をみせないわ
背筋を伸ばし、堂々と園庭を歩いていく。出口に到着したアリスは微笑みを浮かべ、振り返った。
「それでは皆様。私はここで失礼いたします。気にすることなく、引き続きパーティを楽しんでくださいね。」
彼女の声は優雅で、悲しみを隠し切っている。アリスの去り行く背中には、彼女の誠実さと高潔さが感じられた。
―――ねぇ、大嫌いよ。レオナルド。
城に仕える従者の多くは、アリスの無実を信じている。しかし、若い王の前では、誰も声をあげることができなかった。
◇◇◇
国王レオナルドは、正妃アリスを憎しみのこもった目で睨みつけ、叫んだ。
「アリス……!!君がロゼッタの食事に毒を入れたんだろ……?自分の『正妃』としての地位がそんなに大切なのか?!」
今日は正妃アリスの誕生日を祝うパーティ。園庭には正妃の誕生日を祝うため、大勢の貴族たちが集まっている。主役である正妃アリスは自ら料理を作り、皆にふるまっていた。
平和に進んでいたパーティは突如終わりを迎えた。レオナルドの愛人であるロゼッタが、気を失って倒れてしまったのだ。ロゼッタは気を失う直前、アリスが作ったイチゴのタルトを口にしていた。
「私は……ロゼッタの食事に毒を入れていないわ。」
アリスは毅然とした表情を浮かべて、はっきりとした口調で答えた。
銀色の髪に、透き通った緑の瞳を持つアリス。22歳を迎えたアリスは、多くの国民に慕われている。
「でもロゼッタが倒れたのは……君が作った料理を食べた直後だ!アリス……君は嫉妬に狂って、ロゼッタを傷つけたんだ!!僕の最愛の人を!!」
国王レオナルドは顔を真っ赤にして叫ぶ。茶色い髪に金色の瞳。国王レオナルドはアリスより二歳年下の20歳。レオナルドのふるまいにはまだ幼さが残っている。
――――最愛の人……ね。
アリスは小さくため息をつく。いくら愛人が大切だとしても、今日はアリスの誕生日。皆の前で、ロゼッタを最愛の人と公言することが、アリスを傷つけると思わないのだろうか?
「まだ……毒を盛られたと決まったわけじゃないでしょう?ロゼッタが単に貧血で倒れた可能性もあるし……。」
突如倒れたロゼッタは医務室に運ばれ、現在看護を受けている。なぜ彼女が倒れたのか、その原因は全く分かっていない。
しかし、レオナルドはアリスの仕業であると断定している。
「いや違う!それまで愛らしく微笑んでいたロゼッタが、突然血を吐いて倒れたんだぞ!?君が食事に何かを仕込んだんだ!!」
「落ち着いて……レオ……。」
「ロゼッタだけでなく、僕たちの子供まで亡き者にするつもりだったのだな‼」
愛人ロゼッタがレオナルドの子供を妊娠したとわかったのは、つい一週間前のことだ。ロゼッタは下級貴族の娘であり、本来ならばレオナルドと結ばれる身分ではなかった。
――――僕たちの子供……。
アリスにとって、レオナルドの言葉はひどく重いものだった。結婚して、8年も経つにも関わらず、アリスとレオナルドの間には子供がいない。
ロゼッタの妊娠は、長い間跡継ぎの問題に悩まされていたスウェルド王家にとって喜ばしい出来事。だからこそアリスは、レオナルドの愛人を受け入れようと努力していた。
「私は……絶対にそんな卑劣な真似はしていないわ。」
アリスはまっすぐにレオナルドを見つめる。風がアリスの銀色の髪をふわふわと揺らしていた。
「君は嘘をついている……ロゼッタに子供ができたとわかってから……君はずっとロゼッタを虐めていたんだろう?」
レオナルドは、真正面からアリスを見つめる。レオナルドとアリスの身長はほとんど変わらない。
「いいえ。私は……あなたが何人の愛人を作ろうとも……彼女たちを虐めたことはないわ。」
実際、スウェルド城にはロゼッタの他にも大勢レオナルドの愛人がいたが、アリスは愛人たちに親切に接していた。
――――嫌がらせを受けていたのは私の方よ‥‥‥。
アリスはレオナルドの愛人から馬鹿にされ、ひそかに嫌がらせを受けていたのだが……アリスはそれに気づかないふりをしていた。
レオナルドは、アリスの言葉を信じようとしない。
「君には幻滅した。」
レオナルドの言葉が、園庭に響く。
「アリス……君とは幼いころから婚約者だった。その温情でこれまで君を正妃として扱ってきたが……今日をもって君から、正妃としての地位を取り上げる‼」
レオの言葉を聞いていた人々は息を飲んだ。アリスの実家であるタラ-レン家は、スウェルド国で大きな権力を持つ。さらに、国民から絶大な支持を集めるアリスを、根拠のない罪で正妃から降ろすことは考えられなかった。
アリスは小さく微笑みを浮かべる。
「私は10年以上……貴方の傍にいた。それなのに……私の言葉を決して信じようとしないのね。」
アリスの声には悲しみが込められていた。だが彼女は決して、涙を流さない。
――――貴方のために、涙なんか流してあげないから。
レオナルドは冷徹な目でアリスを見つめる。
「アリス・タラ-レン。未来の国王を傷つけたお前の罪は重い。後日、しかるべき処罰が下るだろう。それまでは部屋から出ず、謹慎しているように。」
アリスは静かに頭を下げた。
「かしこまりました、陛下。」
――――絶対に惨めな姿をみせないわ
背筋を伸ばし、堂々と園庭を歩いていく。出口に到着したアリスは微笑みを浮かべ、振り返った。
「それでは皆様。私はここで失礼いたします。気にすることなく、引き続きパーティを楽しんでくださいね。」
彼女の声は優雅で、悲しみを隠し切っている。アリスの去り行く背中には、彼女の誠実さと高潔さが感じられた。
―――ねぇ、大嫌いよ。レオナルド。
城に仕える従者の多くは、アリスの無実を信じている。しかし、若い王の前では、誰も声をあげることができなかった。
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