3 / 16
3 遊郭からは出られない
しおりを挟む「助けなきゃ、、、!」
スバルがそう言うと
自分を背負っている護衛アガリが
こちらを振り向いた。
彼にはもう、
自力で歩く力は無い。
「落ち着いてください。
スバル様。
近くにいる男が
助けを呼んでくれています。」
アガリは少し強い口調で
スバルに言った。
アガリとスバルは
屋敷の影から
川の様子を見ていた。
リンと名を呼んだあの男は
二人に気づいていないだろう。
「ゴホッゴホッ。」
スバルは咳き込む。
長い間熱が下がらず、
精魂はもう尽きようとしていた。
死ぬ前に蛍がみたい。
スバルの願いを聞いて
アガリが外に連れ出してくれたのだ。
「あまり関わらないほうが
良さそうです。
蛍は残念ですが
行きましょう。スバル様。」
橋の側にいる男が
半狂乱で助けを呼んでいる。
「あの女性が
助かりますように。」
スバルは手を合わせ月に祈った。
自ら身を川に投げるほどの絶望は
どれほど大きなものだろうか?
スバルは
自分はすぐに死ぬのだと
とうの昔に諦めていた。
だが、
まだ神様が死ぬなと
言っているのかもしれない。
リン、と呼ばれていたあの女性の
燃えるような瞳が
少年の脳裏に焼き付いていた。
俺はまだ生きるよ。
だからリンも生きてくれ。
いつか俺が
貴方を救いに行くから。
スバルはリンを思い浮かべ
必死で念じた。
スバルはリンのことを何も知らない。
だが、リンならば
スバルが持つ深い絶望を
理解してくれるような気がした。
「ゴホッゴホッ。」
スバルの咳には
血が混じっている。
「スバル様。
だいじょうぶです。
すぐに屋敷に戻ります。
なんとか堪えてください。」
アガリはスバルを
背負って歩き出した。
この近くに
桜国王族の別荘があり、
スバルはそこで療養していた。
「だいじょう、だ、、。」
◇◇◇
「あ?女?」
夏の夜。
川辺で酒を飲んでいた男は
目を細めた。
その男は夜目が効く。
遊郭の番頭として働いており、
男が行動する時間は
基本的に夜だからだ。
男は川に飛び込み
流れてきたリンを助け上げた。
「ふん。
良い拾いものを
したかもしれねーな。 」
リンの整った顔立ちを見て
男はにやりと笑った。
「こっちは命の恩人だ。
しっかり働いてもらうぜ。」
◇◇◇
当時、
17歳であったリンは
目が覚めたその日から遊郭で
花魁として働くことになった。
求められるままに
客に体を売る日々。
その中で
リンは少しずつ
感情を失っていった。
◇◇◇
時は10年後に戻る。
リンは
キョウノスケがいる部屋出て
自室に戻っていた。
最近はめっきり客に
指名されることは減った。
おそらく、
リンに近づくと呪われる
という噂のお陰だろう。
リンは黙って
串で髪を梳かしていた。
パンッとふすまが開く。
「おい。お客様だ。」
店の番頭はリンにそう言った。
私を川から助け、
花魁として利用している番頭。
もう10年共に遊郭にいるが
親しみを覚えたことは
一度もない。
「どなた様でしょう。」
リンは小さい声で番頭に尋ねた。
「コウリュウ様だよ。
馬鹿なことはせず
丁重に接客するんだ。
いいな?」
コウリュウ、
リンはその名前を聞き
ぐっと右手の拳を握った。
「できません。」
番頭に聞こえないよう
リンは本当に小さく呟いた。
1
お気に入りに追加
200
あなたにおすすめの小説
愛するひとの幸せのためなら、涙を隠して身を引いてみせる。それが女というものでございます。殿下、後生ですから私のことを忘れないでくださいませ。
石河 翠
恋愛
プリムローズは、卒業を控えた第二王子ジョシュアに学園の七不思議について尋ねられた。
七不思議には恋愛成就のお呪い的なものも含まれている。きっと好きなひとに告白するつもりなのだ。そう推測したプリムローズは、涙を隠し調査への協力を申し出た。
しかし彼が本当に調べたかったのは、卒業パーティーで王族が婚約を破棄する理由だった。断罪劇はやり返され必ず元サヤにおさまるのに、繰り返される茶番。
実は恒例の断罪劇には、とある真実が隠されていて……。
愛するひとの幸せを望み生贄になることを笑って受け入れたヒロインと、ヒロインのために途絶えた魔術を復活させた一途なヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID25663244)をお借りしております。
【完結】伯爵の愛は狂い咲く
白雨 音
恋愛
十八歳になったアリシアは、兄の友人男爵子息のエリックに告白され、婚約した。
実家の商家を手伝い、友人にも恵まれ、アリシアの人生は充実し、順風満帆だった。
だが、町のカーニバルの夜、それを脅かす出来事が起こった。
仮面の男が「見つけた、エリーズ!」と、アリシアに熱く口付けたのだ!
そこから、アリシアの運命の歯車は狂い始めていく。
両親からエリックとの婚約を解消し、年の離れた伯爵に嫁ぐ様に勧められてしまう。
「結婚は愛した人とします!」と抗うアリシアだが、運命は彼女を嘲笑い、
その渦に巻き込んでいくのだった…
アリシアを恋人の生まれ変わりと信じる伯爵の執愛。
異世界恋愛、短編:本編(アリシア視点)前日譚(ユーグ視点)
《完結しました》
あなたを愛するつもりはない、と言われたので自由にしたら旦那様が嬉しそうです
あなはにす
恋愛
「あなたを愛するつもりはない」
伯爵令嬢のセリアは、結婚適齢期。家族から、縁談を次から次へと用意されるが、家族のメガネに合わず家族が破談にするような日々を送っている。そんな中で、ずっと続けているピアノ教室で、かつて慕ってくれていたノウェに出会う。ノウェはセリアの変化を感じ取ると、何か考えたようなそぶりをして去っていき、次の日には親から公爵位のノウェから縁談が入ったと言われる。縁談はとんとん拍子で決まるがノウェには「あなたを愛するつもりはない」と言われる。自分が認められる手段であった結婚がうまくいかない中でセリアは自由に過ごすようになっていく。ノウェはそれを喜んでいるようで……?
暗殺者の彼と私の秘密
下菊みこと
恋愛
いつか復讐してやるぞと資金を貯めていたら、チャンスが向こうからやってきたお話です。
主人公は母を暗殺され、それが父の手によるものだと確信しています。何故なら早速葬儀の直後から父が愛人を後妻にしたからです。義妹にあたる父と義母の娘は、主人公を傷つけるため母の死を嘲笑います。
そんな主人公に、復讐のチャンスが訪れました。義母が従者の手によって殺されたのです。
小説家になろう様でも投稿しています。
嫌われ王妃の一生 ~ 将来の王を導こうとしたが、王太子優秀すぎません? 〜
悠月 星花
恋愛
嫌われ王妃の一生 ~ 後妻として王妃になりましたが、王太子を亡き者にして処刑になるのはごめんです。将来の王を導こうと決心しましたが、王太子優秀すぎませんか? 〜
嫁いだ先の小国の王妃となった私リリアーナ。
陛下と夫を呼ぶが、私には見向きもせず、「処刑せよ」と無慈悲な王の声。
無視をされ続けた心は、逆らう気力もなく項垂れ、首が飛んでいく。
夢を見ていたのか、自身の部屋で姉に起こされ目を覚ます。
怖い夢をみたと姉に甘えてはいたが、現実には先の小国へ嫁ぐことは決まっており……
【完結】殿下は私を溺愛してくれますが、あなたの“真実の愛”の相手は私ではありません
Rohdea
恋愛
──私は“彼女”の身代わり。
彼が今も愛しているのは亡くなった元婚約者の王女様だけだから──……
公爵令嬢のユディットは、王太子バーナードの婚約者。
しかし、それは殿下の婚約者だった隣国の王女が亡くなってしまい、
国内の令嬢の中から一番身分が高い……それだけの理由で新たに選ばれただけ。
バーナード殿下はユディットの事をいつも優しく、大切にしてくれる。
だけど、その度にユディットの心は苦しくなっていく。
こんな自分が彼の婚約者でいていいのか。
自分のような理由で互いの気持ちを無視して決められた婚約者は、
バーナードが再び心惹かれる“真実の愛”の相手を見つける邪魔になっているだけなのでは?
そんな心揺れる日々の中、
二人の前に、亡くなった王女とそっくりの女性が現れる。
実は、王女は襲撃の日、こっそり逃がされていて実は生きている……
なんて噂もあって────
少し先の未来が見える侯爵令嬢〜婚約破棄されたはずなのに、いつの間にか王太子様に溺愛されてしまいました。
ウマノホネ
恋愛
侯爵令嬢ユリア・ローレンツは、まさに婚約破棄されようとしていた。しかし、彼女はすでにわかっていた。自分がこれから婚約破棄を宣告されることを。
なぜなら、彼女は少し先の未来をみることができるから。
妹が仕掛けた冤罪により皆から嫌われ、婚約破棄されてしまったユリア。
しかし、全てを諦めて無気力になっていた彼女は、王国一の美青年レオンハルト王太子の命を助けることによって、運命が激変してしまう。
この話は、災難続きでちょっと人生を諦めていた彼女が、一つの出来事をきっかけで、クールだったはずの王太子にいつの間にか溺愛されてしまうというお話です。
*小説家になろう様からの転載です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる