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3 遊郭からは出られない

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「助けなきゃ、、、!」

スバルがそう言うと
自分を背負っている護衛アガリが
こちらを振り向いた。

彼にはもう、
自力で歩く力は無い。

「落ち着いてください。
 スバル様。

 近くにいる男が
 助けを呼んでくれています。」

アガリは少し強い口調で
スバルに言った。

アガリとスバルは
屋敷の影から
川の様子を見ていた。

リンと名を呼んだあの男は
二人に気づいていないだろう。

「ゴホッゴホッ。」

スバルは咳き込む。

長い間熱が下がらず、
精魂はもう尽きようとしていた。

死ぬ前に蛍がみたい。

スバルの願いを聞いて
アガリが外に連れ出してくれたのだ。

「あまり関わらないほうが
 良さそうです。

 蛍は残念ですが
 行きましょう。スバル様。」

橋の側にいる男が
半狂乱で助けを呼んでいる。

「あの女性が
 助かりますように。」

スバルは手を合わせ月に祈った。

自ら身を川に投げるほどの絶望は
どれほど大きなものだろうか?

スバルは
自分はすぐに死ぬのだと
とうの昔に諦めていた。

だが、
まだ神様が死ぬなと
言っているのかもしれない。

リン、と呼ばれていたあの女性の
燃えるような瞳が
少年の脳裏に焼き付いていた。

俺はまだ生きるよ。
だからリンも生きてくれ。

いつか俺が
貴方を救いに行くから。

スバルはリンを思い浮かべ
必死で念じた。

スバルはリンのことを何も知らない。

だが、リンならば
スバルが持つ深い絶望を
理解してくれるような気がした。

「ゴホッゴホッ。」

スバルの咳には
血が混じっている。

「スバル様。
 だいじょうぶです。

 すぐに屋敷に戻ります。
 なんとか堪えてください。」

アガリはスバルを
背負って歩き出した。

この近くに
桜国王族の別荘があり、
スバルはそこで療養していた。

「だいじょう、だ、、。」


  ◇◇◇

「あ?女?」

夏の夜。

川辺で酒を飲んでいた男は
目を細めた。

その男は夜目が効く。

遊郭の番頭として働いており、
男が行動する時間は
基本的に夜だからだ。

男は川に飛び込み
流れてきたリンを助け上げた。

「ふん。
 良い拾いものを
 したかもしれねーな。 」

リンの整った顔立ちを見て
男はにやりと笑った。

「こっちは命の恩人だ。
 しっかり働いてもらうぜ。」



  ◇◇◇

当時、
17歳であったリンは
目が覚めたその日から遊郭で
花魁として働くことになった。

求められるままに
客に体を売る日々。

その中で
リンは少しずつ
感情を失っていった。

  
 ◇◇◇


時は10年後に戻る。

リンは
キョウノスケがいる部屋出て
自室に戻っていた。

最近はめっきり客に
指名されることは減った。

おそらく、
リンに近づくと呪われる
という噂のお陰だろう。

リンは黙って
串で髪を梳かしていた。

パンッとふすまが開く。

「おい。お客様だ。」

店の番頭はリンにそう言った。

私を川から助け、
花魁として利用している番頭。

もう10年共に遊郭にいるが
親しみを覚えたことは
一度もない。

「どなた様でしょう。」

リンは小さい声で番頭に尋ねた。

「コウリュウ様だよ。

 馬鹿なことはせず
 丁重に接客するんだ。

 いいな?」

コウリュウ、
リンはその名前を聞き
ぐっと右手の拳を握った。

「できません。」

番頭に聞こえないよう
リンは本当に小さく呟いた。



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