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2 愛人にするつもりだが?

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10年前。


「ねえ!!離して!!!」

リンの悲鳴のような叫び声が
闇夜に響いた。

必死で抵抗するも
男の力にかなうはずもない。

リンは手首を後ろで縛られ
無理やり引きずられていた。

ここはキヨラ家屋敷の裏門。

「リン!
 おとなしくしろ!
 お前に危害は与えないと
 言っているだろうが!」

コウリュウは
リンを縛る縄を引っ張り
怒鳴りつけた。

コウリュウの後ろには
二人の護衛が控えている。

「いいえ!
 貴方は、、、
 もう私を十分に傷つけたわ!!」

提灯の光に照らされたリンの顔は
怒りで歪んでいる。

「貴方は
 私の父と母を殺したのよ!!」

リンとコウリュウは
1ヶ月前まで許嫁だった。

だが、コウリュウの父は
リンの父を罠に嵌め
罪人としてリンの父を
王に突き出した。

その結果
リンの父は無実の罪で
命を落としてしまったのだ。

「それは俺の責任ではない。」

コウリュウは
絞りだすような低い声で言った。

「いいえ!
 貴方は、、、!
 私を利用して
 父を陥れた、、、! 

 私には
 分かっているの、、!

 貴方は父の仇と同じよ!
 離しなさい!!」
 
コウリュウは
リンの右ほおを思い切り叩いた。

「同じではない!!」

コウリュウはリンから目をそらし
熱を持つ左手をぎゅっと握った。

コウリュウは
自分を落ち着かせるように
息をふう、と吐いた。

「大体、
 お前ひとりでこれから
 どう生きるというのだ!!」

リンは燃えるような目で
コウリュウを睨み付けた。

「貴方には関係ないでしょう?!

 大体、
 私を連れて行って、
 どうするつもりなの?!
 貴方が
 罪人に仕立て上げた男の娘よ?」

コウリュウは
リンを見つめて言った。

「俺はお前を、
 僕の妾にするつもりだ。」

妾、とは
正妻とは別に屋敷に囲う
愛人のことだ。

「絶対に嫌!
 なぜ両親の仇である貴方の
 妾にならなければいけないの?!」

リンは叫びながら
コウリュウに思い切りぶつかった。

「うわっ。」

コウリュウの体がよろけ
縄が手から外れる。

リンは走り出した。
向かう先はもう決めている。

「おい!!待て!!」

リンが向かったのは
屋敷近くの川。

その川の柵の一部が
壊れていることをリンは知っていた。

リンは壊れた柵の前に立つ。

「待て!!
 落ち着いてくれ!!リン!」

コウリュウは
必死で懇願した。

リンはコウリュウをにらみつける。

「貴方の愛人になって
 人生を過ごすくらいなら、、、。

 私は死を選ぶわ。」

そう言ってリンは
背中から真っ黒い川に飛び込んだ。

「リンーーーー!!!」

コウリュウの叫び声が聞こえた。

リンは目を閉じた。

「さようなら、コウリュウ。」

リンの体が
濁流に飲み込まれる。


   ◇◇◇


「え、、、?」

川に落ちていくリンの姿を
一人の少年が偶然見ていた。

少年は桜国、国王の息子スバル。

スバルは生まれたときから体が弱く
いつ死んでもおかしくないと
言われていた。

そのためスバルは
王族にいないものとして
育てられた王子である。

「助けなきゃ、、、。」

護衛の男に背負われたまま
スバルは声を絞り出した。

彼はほんとうはこの夜で
命が尽きるはずだった。

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