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婚約破棄したいのですが。

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「お前など、好きになるわけないだろう?お前には死ぬまでこの家のために働いてもらう。」

幼馴染であり婚約者のアストラ・ノックスは私にそう言った。それは私が婚約者としてノックス家に来た初めの日のことだった。

「嫌よ。」

私はアストラを睨みつけて言った。大嫌いな男のためになぜ必死で働かなければならないのか。私は貴方の奴隷になるためにここにきたわけじゃないの。

「だがお前に帰る場所などないだろう?」

アストラは薄笑いを浮かべた。確かに私は、もう二度と帰ってくるなと、何度も念押しされて実家を出てきた。実家は没落貴族で酷く貧乏だった。大きくなった娘を食わせる金銭的余裕すら、両親には無かった。

「俺はお前の親から、お前を安値で買ったのさ。」

アストラの言葉は真実であった。私が何度、婚約者の家族に虐められているから帰りたいと手紙を書いても、両親から連絡が返ってくることはなかった。

(助けてくれるわけ、ないわよね、、、。)

父はお金が無いのにギャンブルばかりしていて、母は心の病でいつも寝込んでいた。もしかしたら手紙は読まれてすらいないかもしれない。

  
  ◇◇◇

私の名前はリュカ。フラノ国没落貴族の娘である。お金が無いせいで、小さい頃から苛められてばかりだった。

没落したとはいえ、社交界に全く参加しないわけにはいかない。だが時代遅れで汚れたドレスばかり着ていた私は酷くみじめで、虐めやすかったんだろう。

その中でもアストラは学生時代、私を酷く虐めていたグループのリーダーだった。

「リュカ!!まだ晩御飯ができないの?!」

義理の母ルムノは私に向かって怒鳴った。彼女は私に一度も笑みを向けてくれたことはない。ルムノは私に全ての家事を押し付け、ひたすらに文句を言う。

「待ってください。少し前に来客があったので、その片づけをしているのです。」

テーブルのお茶を急いでお盆に乗せる。急な来客に対応するのも、私の仕事だ。

「言い訳をしない!!なぜ事前に段取りよく料理を作って置かないの!」

ルムノは金切り声で喚いている。なぜ急な来客に対応しながら料理が作れると思うのか。それで料理が冷めていたら、貴方は文句を言うのでしょう?

「無理なことを言わないでください。義理母様!私だって必死なのです。」

私は大きくため息をついた。この家に来てから一ヶ月、私は疲弊しきっていた。

「そんな生意気な口を聞くなら、この家から出ていきなさいよ?そんなことしたら、無一文で、野垂れ死ぬだけだと思うけどねぇ?」

「、、、。」

もしも野垂れ死んでしまったとしても、この家にいるよりはマシだろう。婚約者のアストラは外に愛人を作って、家に帰ってこない。ひたすら義理の母に苛められ、こき使われる毎日は地獄だった。

「なーに?その目は?!本当に嫌な子!」

ルムノなんて、大嫌いでどうでもいい存在なはずなのに、なぜこうも毎回傷ついてしまうのだろう。実の母を思い出すからだろうか。

「申し訳、ありません。」

私は悪いことなど、一つもしていないのに。つい謝ってしまう自分が惨めで仕方なかった。

なぜ、私はこんなにも不幸なのだろう?彼がいなければ、私はとうの昔にこの家を逃げ出している。
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