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20.くちづけ

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お店から出た俺とルネアは、歩いて城に戻っていた。お昼御飯を食べたら遂に父上にルネアを紹介するのだ。
 
「アリアさん・・・心配ですね。探しものが早くみつかるといいんですが。」

と、ルネアが呟く。まだ会ったことがないアリアのことを心配するなんて、本当に優しい子だ。

「きっと大丈夫だ。アリアは強い人だから。そういえば父上に会ったときも、アリアは臆していなかったな。」

「そうなんですか?」

「ああ。10歳のとき城にもどったんだが、その時アリアが父上に言ったんだよ。
ルカを傷つけたら、いくら国王様でも絶対に許しません。絶対に守ってくださいってさ。」

あの日の言葉は今でも鮮明に思い出せる。

「まぁ!素敵な話です・・!!そういえばルカ様は、なぜアリアさんとシャッキーさんのお店で暮らしていたのですか?」

「ああ。なんでも父上が二人のお店の常連だったらしくて・・・それで5歳の時にこの家に、預けられたらしいんだが・・・」

そう言いながら、違和感を感じていた。愛人の子供とはいえ、なぜ衣服店の店員に俺を預けたんだろう。

城の中で強く生きることに必死で、あまり深く考えたことがなかった。

アリアとシャッキーは何者なんだ?

「ルカ様・・・。軽率な質問をしてしまって申し訳ありません。」

俺が黙ったせいで心配させてしまったらしい。

「謝ることはないさ。実は俺も詳しいことを知らないんだ。会ったときに、父上に事情を聞いてみるよ。」

聞いたところで、きっと答えてくれないだろうが。18歳の誕生日。その日まで生き延びればきっと全てが明らかになるはずだ。
 
「・・・ルカ様」

突然、ルネアが俺の名前を低い声で呼ぶ。

「どうした?」

「何者かにつけられています。人混みを利用して上手く逃れましょう。振り向かず、前を向いて歩いてください。」

ルネアが耳元でささやいた。

俺を守っているはずの護衛は人混みに押されて少し後ろを歩いている。あいつら、あまり役に立たないな。

「分かった。」

「この先にある裏路地に隠れて、追手が通り過ぎるのを待ちます。それから、ドレスを私に貸してください。」

「ああ。」

袋に入ったドレスを渡されたルネアは俺をじっと見つめた。

「驚かないでくださいね?」

「え?」

返事より先にルネアは大通りの裏路地に俺を引っ張った。それから目にも止まらぬ速さで袋から出したドレスを着た。

「体を寄せて、ルカ様の顔を隠してください。」

ルネアは俺の頭の後ろに手を回すと、ぐっと引き寄せた。

そうか、キスをしている男女に見せかけて追手を撒くつもりなのか。先程まで騎士団服を来ていたルネアがドレス姿に変わったとは思わないだろう。

「もう少しです・・・」

そうささやくルネアの唇がすぐそばにある・・・。

ルネアはちらりと大通りを見ると、大きく息を吐いた。追手は俺たちに気が付かずに通り過ぎていったようだ。

「上手く行きましたね。しかしまだ油断できません。急ぎましょう。」

そう言うとルネアはドレスを着たまま、裏路地を歩き出した。

ピンク色の華やかなドレスを着たルネア。
ラベンダー色の長い髪によく似合っていて・・・ものすごくかわいい。

こんな状況なのに、俺はルネアから目を離せなかった。

城の門の前までたどり着く。
ここまでくればひとまず安心だ。

ルネアはそっとドレスを脱ぎ、俺をじっと見つめた。

「あの、ルカ様・・・。」

ルネアが顔を真っ赤にしてうつむいている。

「なんだい?」

ルネアは人差し指で自分の唇に触れた。

「あの・・・唇、ぶつかっていませんでしたか?わたし、必死で・・そのルカ様のお顔を隠さなきゃって思いまして。」

思わず俺はルネアの手を引き、そしてルネアの唇に自分の唇を押し当てた。

青い瞳が大きく開かれ、俺を見つめている。

「少し、ルネアの唇が触れていた。だから・・・そのお返しだ。」

嘘だ。ルネアは俺の唇に触れていない。ただあまりにもルネアが可愛くて・・・。

「そ、れは、あの・・・申し訳ありません!」

ルネアはドレスの袋を抱きかかえると駆け足で城に戻っていった。その後ろ姿を見つめて、俺は頭を抱えてうずくまる。

ーーーやってしまった。

言い訳のしようがない。
ルネアは仮の婚約者。

ルネアが望まないことはしないと、誓ったはずなのにーーー。
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