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36.貴方の笑顔を Side ポール

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【Side ポール】

「君には……負けたよ。」

 ポールはまっすぐにマティアを見つめた。彼女を睨みつけるのではなく、素直な気持ちで彼女を見つめるのは久しぶりだ。

(なんで君はこんなにも綺麗なんだい?)

 黒髪に青い瞳。見ているだけで、心ときめく。ずっと大好きだった幼馴染は、どんなに遠ざけようとしてもまっすぐにぶつかってきてしまう。

 (僕は君を守りたい。)

 マティアを守るためには、彼女を遠ざけるしかないと思っていた。だが、彼女がドントール国王を倒そうとしていることでポールの中に何かが変わり始めている。

(離縁して、君をドントールに追い返したとしても、きっと一人でも自分の父親と戦おうとするんだろう?)

 マティアの愚直なまでの覚悟に、ポールは心が揺れ動く。愛さないと誓っていた。マティアを傷つけてでも、彼女が幸せになってほしかった。

「ポール、貴方……。」

 だが、マティアはポールを守ろうとしてしまう。馬鹿みたいに愚直に。ならば、これ以上、彼女を”憎むふり”をすることに意味があるとは思えない。

 鳥の鳴き声が聞こえ、太陽の光がマティアを照らす。マティアの澄んだ優しい瞳は幼いころから変わらない姿でポールを見つめていた。

 「負けた……て?」

 大きな目を見開いて、マティアはポールに尋ねた。

 (ずっと君に適わないよ……マティア。)

 「どんなに言っても、君は聞きやしない。どうせ、自分から危険に飛び込んでいってしまうんだろう。」

 「だって私はどうなったってかまわないから。ポール、貴方のお嫁さんとして、リックストンに来た時から……覚悟はできているわ。」

 マティアは最初から、同盟など仮初で皆に恨まれるとわかっていたのだろう。彼女が持っている覚悟はどんなものだろう。

 ”マティアは守ろうとしている。自分の命を犠牲にしてもな”

 テオの言葉が頭をよぎる。マティアの覚悟は、彼女を破滅へと導きかねない。

 (こんなことになるなら、最初から彼女を愛していればよかった。)

 さんざんマティアを傷つけて、今更マティアを守りたいだなんて、あまりにも自分勝手だ。

「マティア。君の覚悟は痛いほどわかった。だけど、一つだけ約束してくれないか?」

 (なぁ、マティア。君はきっとテオと一緒にいる方が幸せになれる。俺は君の敵国の皇太子だ。)

「なぁに?」

「自分の命を何より大切にしてくれ。もしもその約束を守ってくれるなら……君の目指す未来を……手助けしたい。」

(それでも、君が守りたいと望むから。僕は君を助けたいよ、マティア。)
「ポール。」

 マティア震える声でその名を呼んだ。そして彼女は顔を覆い、泣き笑いの表情を浮かべる。

 「ね、ポール。笑ってちょうだい。」

 (笑う?)

 ポールはぎこちなく笑った。その表情を見たマティアは満面の笑みを浮かべる。

 「こんなに嬉しいことはないわ。ねえ、ポール。このまま一生、貴方の笑顔を見られないのかと思っていたの。」

    ◇◇◇



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