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序章 伝説のはじまりは出会いから
第15話 シルファたちの事情
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ノックの音にアレックスが招き入れる返事をすると、遠慮なく扉が開かれて颯爽とイザベルが躍り込んできた。
どうやら、ラヴィーナから新情報を得たようだった。
その内容を聞いたアレックスは、とんでもない厄介ごとに巻き込まれたことに気付き、どうにか避けられないものかと思案する。
「うーん、マジかー……ど、どうしよー」
「どうしようも何もあるまい。そんなのは簡単ではないか」
そんなの些末事だとでも言うように、イザベルが気安く言い放った。
自信満々に言い切るイザベルにアレックスが期待に目を輝かせる。
「おっ、何か良い案でもあるのか!」
「ふん、そんな不届き物は皆殺しにすればよいのだ」
やや鼻息を漏らすように言われたアレックスは、ガッカリとばかりに肩を落とす。
「……あ、マジごめん。お前に期待した俺がバカだったよ」
同じ魔人族として交渉でもしてくれるのかと期待したアレックスだったか、武力行使一択であるとイザベルが断言すれば、アレックスのその反応は当然だった。
「む、何故だ? 今までだってそうであったろうに。歯向かうものは全て殲滅! そう我に教えてくれたのは、我が君、お主ではないか」
何が気に入らないのか、イザベルは眉を寄せて責めるような口調だった。
イザベルを創造してからのこの数カ月。アレックスは彼女とパーティーを組み、ひたすらモンスターを狩り続けてレベルアップに勤しんでいた。
普段であれば、プレイヤーや従者の十数人で狩をするのだが、パーティーメンバーが少ないほど取得経験値が多くなるため、デュオで効率を上げていた。
すると、軍団戦闘で勝てないプレイヤーが、そんなアレックスを狙って盗賊まがいの強襲を掛けてくることが度々あった。
見事返り討ちにしたこともあれば、撤退を余儀なくされたことがあった。当然、その報復を忘れなかった。必ずその襲撃者のギルドを襲撃し、どちらが盗賊かわからないほど奪えるものは何でも奪い、建物や設備も破壊し、文字通り完全に殲滅した。
確かにそんなことを教えたな、と思い出しながらもアレックスが頭を振った。
「いやまあ、それはそうなんだが、それとこれは全く別もんだろ」
「そういうものなのか? もしや、異なる世界だから慎重になっておるのか?」
小首を傾げたイザベルの表情は、とても納得しているようには見えなかった。
「そりゃあ、慎重にもなるだろうよ。リバフロでの常識が全く通用しないんだから……」
「全く腑抜けたものだ。我が君は、至高にして最強の支配者ではないか」
イザベルが容赦なくアレックスの痛いところを衝いてくる。ただそれも、尤もな指摘で、悠長なことを言っている場合ではなかった。
「じゃあ、そのなんだ……シヴァ帝国とヴェルダ王国を相手取って戦争しろというのか?」
「無論だ」
またも断言され、イザベルの性格を魔王らしくしすぎたことを後悔した。
「しっかし、あの少女が魔王だって言うんだから驚きだな」
あの少女――シルファ・イフィゲニア――は、この森の東側にある魔大陸にあるイフィゲニア王国のお姫様であったことを、イザベルの報告でアレックスは知った。
「ふむ、あの小娘が魔王の器かどうかは知らんが、我が君を前にしても尚、挑戦した胆力だけは好感が持てようぞ」
「そうか? スゲー震えていた気がするが――」
「だからだ。震えていたということは、我が君の力をその肌で感じていたのだろう」
しきりに頷くイザベルを他所に、アレックスは報告の内容を思い返す。
話に因ると、その魔大陸は群雄割拠するまさに戦国時代のようであり、大小様々な魔人族の国々が覇を唱えるべく競い合っているらしい。その中でも大国といわれる八つの国があり、その王が魔人族の八天魔王と呼ばれる存在で、魔王を名乗っているのだとか。
その均衡は、一年ほど前に崩れた。以前は、中堅魔王だったサイラス・シヴァが下位の魔王を取り込んで属国としたことで、シヴァ王国からシヴァ帝国にその呼び名を変えて戦火を広げているという。
それに対抗すべく、イフィゲニア王国とヴェルダ王国が同盟を組み、その進撃を食い止めようとしたのだが、既にヴェルダ王国はシヴァ帝国と裏で繋がっていた。
いざ戦場でシヴァ帝国を迎え撃とうとしたとき。
味方であるはずのヴェルダ王国から背後を衝かれ、その混乱の最中にシルファの父である魔王が討たれ、イフィゲニア王国軍は壊滅的な被害を受けた。
城でその知らせを聞いたシルファが、王都襲撃に備え陣頭指揮を採ろうとしたところで、魔人族らしからぬ保身に走った自国の兵士に捕らえられそうになった。それを間一髪ラヴィーナに助けられ、二人でこの森に逃げ込んだとのことだった。
その行動を予測していたヴェルダ王国の兵士が、この森で待ち伏せをしていたのだろう。ラヴィーナの話では、本来それはあり得ないはずらしいのだが、待ち受けていたのは事実だ。
ただそれも、その魔人族たちをガサラムが指揮する城壁東方旅団が殲滅してしまった。アレックスからした正当防衛なのだが、帝都シュテルクストが転移してきたことで、少なくない数のヴェルダ王国の兵士を下敷きにした可能性もある。
とどのつまり、ヴェルダ王国との衝突は避けられない。
「その、なんだ。ヴェルダ王国だけではなく、シヴァ帝国も攻めてくるって言うのは間違いないんだよな?」
システム通知でも、敵対関係になったという告知があったことから、それは間違いなかった。それでも、極めて重要なことであるため、アレックスはもう一度確認するように問う。
「そうらしいぞ。あのラヴィーナ曰く、通信魔法で戦闘突入の連絡がされていることは間違いないらしいのだ。しかも、それから音信不通となれば、間違いなく攻めてくるらしいぞ。何と言っても――」
「聖地なんだろ? ここが魔人族にとって」
皆まで言われなくてもアレックスもそれくらいのことは察しがついていた。
「ふむ、わかっているではないか」
「わかっているというより、そんな場所だと聞かされれば嫌でも想像がつくもんだ」
現代のみならず過去を遡っても地球では、聖戦なんてものがあるくらいだ。体験したことが無くとも、知識としてそれを知っているアレックスは、ここが襲撃されることは想像に難くない。
「よし、それじゃあ、明日はみんなの進捗確認と合わせて、その防衛対策の会議を行うから、朝の九時ごろに軍議の間に集まるように伝えてくれないか?」
「承知した、我が君」
腹を決めたアレックスがそう指示を出すと、イザベルが跪き頭を垂れる。が、その場を立ち去らない。
「どうした? もう行って、いいぞ……」
アレックスの問い掛けに顔を上げたイザベルが舌なめずりをし、白銀の双眸を細めアレックスを見つめていた。
「行っていいぞとは、我が君……もしや忘れている訳ではないだろうね」
「えっ」
「ご褒美を用意すると言ったではないか。忘れたとは言わせないぞ」
あまりの眼光にアレックスが椅子を蹴飛ばす勢いで立ち上がって後退る。
ただ逃げ道は無く、そのままイザベルに迫られ、壁伝いに背を擦りながら逃げたアレックスは、寝室の扉の所まで来て、その扉が開いたせいで寝室に倒れ込んでしまった。
すかさず、イザベルが馬乗りになった。
「我が君も素直ではない。逃げながらもやる気満々ではないか」
「ち、違う! てか、やる気満々って、な、何が! しかも、褒美と言っておきながらお前の望みなんじゃないのか!」
必死に抵抗する素振りを見せながらも、そのシチュエーションに興奮し始めたアレックスのその抵抗は弱く、あれよあれよと上半身を脱がされてしまった。自室に戻ってきていたアレックスは、実験も兼ねてアイテムボックスの中にあった平服に、漆黒のプレートアーマーから装備を変えていたのだ。
アレックスから綿麻の白いシャツを剥ぎ取ったイザベルが、それを後ろへと放り投げる。
イザベルに覆い被さられた状態のアレックスは、その拍子で彼女の右肩に掛かっているドレスがずり落ちたことで、露出が増したその白い肌に視線が誘導され、空唾を呑み込む。そして、目の前のイザベルの吐息を感じ、反応し始める。
(で、できるのか? いやいや、そーじゃない! いや、でも……)
理性を保とうと必死に抗うも、視線を彷徨わせて流されそうになる。
「い、イザベル――」
イザベルの名を呼んだ丁度そのとき。扉のノブが回され、執務室の扉が開く音がした。
「アレックス様ぁー、どこにいらっしゃいやがるんです?」
その特徴的な口調からアニエスだとすぐにわかった。
「え、なに? ちょっと待って……イザベルとアレックス様ぁ?」
「やあ、アニエス。どうしたんだ?」
どうしたんだは無いだろ! と最悪の言葉のチョイスに、アレックスは後悔したが、もう遅い。
「ななななな、なぁーにが、どうしたんだ? じゃ、ねえですよ!」
そのあと、金色に輝く九尾を逆立たせて発狂したアニエスから説明を求められ、全てを説明したが中々信じてもらえないのだった。
どうやら、ラヴィーナから新情報を得たようだった。
その内容を聞いたアレックスは、とんでもない厄介ごとに巻き込まれたことに気付き、どうにか避けられないものかと思案する。
「うーん、マジかー……ど、どうしよー」
「どうしようも何もあるまい。そんなのは簡単ではないか」
そんなの些末事だとでも言うように、イザベルが気安く言い放った。
自信満々に言い切るイザベルにアレックスが期待に目を輝かせる。
「おっ、何か良い案でもあるのか!」
「ふん、そんな不届き物は皆殺しにすればよいのだ」
やや鼻息を漏らすように言われたアレックスは、ガッカリとばかりに肩を落とす。
「……あ、マジごめん。お前に期待した俺がバカだったよ」
同じ魔人族として交渉でもしてくれるのかと期待したアレックスだったか、武力行使一択であるとイザベルが断言すれば、アレックスのその反応は当然だった。
「む、何故だ? 今までだってそうであったろうに。歯向かうものは全て殲滅! そう我に教えてくれたのは、我が君、お主ではないか」
何が気に入らないのか、イザベルは眉を寄せて責めるような口調だった。
イザベルを創造してからのこの数カ月。アレックスは彼女とパーティーを組み、ひたすらモンスターを狩り続けてレベルアップに勤しんでいた。
普段であれば、プレイヤーや従者の十数人で狩をするのだが、パーティーメンバーが少ないほど取得経験値が多くなるため、デュオで効率を上げていた。
すると、軍団戦闘で勝てないプレイヤーが、そんなアレックスを狙って盗賊まがいの強襲を掛けてくることが度々あった。
見事返り討ちにしたこともあれば、撤退を余儀なくされたことがあった。当然、その報復を忘れなかった。必ずその襲撃者のギルドを襲撃し、どちらが盗賊かわからないほど奪えるものは何でも奪い、建物や設備も破壊し、文字通り完全に殲滅した。
確かにそんなことを教えたな、と思い出しながらもアレックスが頭を振った。
「いやまあ、それはそうなんだが、それとこれは全く別もんだろ」
「そういうものなのか? もしや、異なる世界だから慎重になっておるのか?」
小首を傾げたイザベルの表情は、とても納得しているようには見えなかった。
「そりゃあ、慎重にもなるだろうよ。リバフロでの常識が全く通用しないんだから……」
「全く腑抜けたものだ。我が君は、至高にして最強の支配者ではないか」
イザベルが容赦なくアレックスの痛いところを衝いてくる。ただそれも、尤もな指摘で、悠長なことを言っている場合ではなかった。
「じゃあ、そのなんだ……シヴァ帝国とヴェルダ王国を相手取って戦争しろというのか?」
「無論だ」
またも断言され、イザベルの性格を魔王らしくしすぎたことを後悔した。
「しっかし、あの少女が魔王だって言うんだから驚きだな」
あの少女――シルファ・イフィゲニア――は、この森の東側にある魔大陸にあるイフィゲニア王国のお姫様であったことを、イザベルの報告でアレックスは知った。
「ふむ、あの小娘が魔王の器かどうかは知らんが、我が君を前にしても尚、挑戦した胆力だけは好感が持てようぞ」
「そうか? スゲー震えていた気がするが――」
「だからだ。震えていたということは、我が君の力をその肌で感じていたのだろう」
しきりに頷くイザベルを他所に、アレックスは報告の内容を思い返す。
話に因ると、その魔大陸は群雄割拠するまさに戦国時代のようであり、大小様々な魔人族の国々が覇を唱えるべく競い合っているらしい。その中でも大国といわれる八つの国があり、その王が魔人族の八天魔王と呼ばれる存在で、魔王を名乗っているのだとか。
その均衡は、一年ほど前に崩れた。以前は、中堅魔王だったサイラス・シヴァが下位の魔王を取り込んで属国としたことで、シヴァ王国からシヴァ帝国にその呼び名を変えて戦火を広げているという。
それに対抗すべく、イフィゲニア王国とヴェルダ王国が同盟を組み、その進撃を食い止めようとしたのだが、既にヴェルダ王国はシヴァ帝国と裏で繋がっていた。
いざ戦場でシヴァ帝国を迎え撃とうとしたとき。
味方であるはずのヴェルダ王国から背後を衝かれ、その混乱の最中にシルファの父である魔王が討たれ、イフィゲニア王国軍は壊滅的な被害を受けた。
城でその知らせを聞いたシルファが、王都襲撃に備え陣頭指揮を採ろうとしたところで、魔人族らしからぬ保身に走った自国の兵士に捕らえられそうになった。それを間一髪ラヴィーナに助けられ、二人でこの森に逃げ込んだとのことだった。
その行動を予測していたヴェルダ王国の兵士が、この森で待ち伏せをしていたのだろう。ラヴィーナの話では、本来それはあり得ないはずらしいのだが、待ち受けていたのは事実だ。
ただそれも、その魔人族たちをガサラムが指揮する城壁東方旅団が殲滅してしまった。アレックスからした正当防衛なのだが、帝都シュテルクストが転移してきたことで、少なくない数のヴェルダ王国の兵士を下敷きにした可能性もある。
とどのつまり、ヴェルダ王国との衝突は避けられない。
「その、なんだ。ヴェルダ王国だけではなく、シヴァ帝国も攻めてくるって言うのは間違いないんだよな?」
システム通知でも、敵対関係になったという告知があったことから、それは間違いなかった。それでも、極めて重要なことであるため、アレックスはもう一度確認するように問う。
「そうらしいぞ。あのラヴィーナ曰く、通信魔法で戦闘突入の連絡がされていることは間違いないらしいのだ。しかも、それから音信不通となれば、間違いなく攻めてくるらしいぞ。何と言っても――」
「聖地なんだろ? ここが魔人族にとって」
皆まで言われなくてもアレックスもそれくらいのことは察しがついていた。
「ふむ、わかっているではないか」
「わかっているというより、そんな場所だと聞かされれば嫌でも想像がつくもんだ」
現代のみならず過去を遡っても地球では、聖戦なんてものがあるくらいだ。体験したことが無くとも、知識としてそれを知っているアレックスは、ここが襲撃されることは想像に難くない。
「よし、それじゃあ、明日はみんなの進捗確認と合わせて、その防衛対策の会議を行うから、朝の九時ごろに軍議の間に集まるように伝えてくれないか?」
「承知した、我が君」
腹を決めたアレックスがそう指示を出すと、イザベルが跪き頭を垂れる。が、その場を立ち去らない。
「どうした? もう行って、いいぞ……」
アレックスの問い掛けに顔を上げたイザベルが舌なめずりをし、白銀の双眸を細めアレックスを見つめていた。
「行っていいぞとは、我が君……もしや忘れている訳ではないだろうね」
「えっ」
「ご褒美を用意すると言ったではないか。忘れたとは言わせないぞ」
あまりの眼光にアレックスが椅子を蹴飛ばす勢いで立ち上がって後退る。
ただ逃げ道は無く、そのままイザベルに迫られ、壁伝いに背を擦りながら逃げたアレックスは、寝室の扉の所まで来て、その扉が開いたせいで寝室に倒れ込んでしまった。
すかさず、イザベルが馬乗りになった。
「我が君も素直ではない。逃げながらもやる気満々ではないか」
「ち、違う! てか、やる気満々って、な、何が! しかも、褒美と言っておきながらお前の望みなんじゃないのか!」
必死に抵抗する素振りを見せながらも、そのシチュエーションに興奮し始めたアレックスのその抵抗は弱く、あれよあれよと上半身を脱がされてしまった。自室に戻ってきていたアレックスは、実験も兼ねてアイテムボックスの中にあった平服に、漆黒のプレートアーマーから装備を変えていたのだ。
アレックスから綿麻の白いシャツを剥ぎ取ったイザベルが、それを後ろへと放り投げる。
イザベルに覆い被さられた状態のアレックスは、その拍子で彼女の右肩に掛かっているドレスがずり落ちたことで、露出が増したその白い肌に視線が誘導され、空唾を呑み込む。そして、目の前のイザベルの吐息を感じ、反応し始める。
(で、できるのか? いやいや、そーじゃない! いや、でも……)
理性を保とうと必死に抗うも、視線を彷徨わせて流されそうになる。
「い、イザベル――」
イザベルの名を呼んだ丁度そのとき。扉のノブが回され、執務室の扉が開く音がした。
「アレックス様ぁー、どこにいらっしゃいやがるんです?」
その特徴的な口調からアニエスだとすぐにわかった。
「え、なに? ちょっと待って……イザベルとアレックス様ぁ?」
「やあ、アニエス。どうしたんだ?」
どうしたんだは無いだろ! と最悪の言葉のチョイスに、アレックスは後悔したが、もう遅い。
「ななななな、なぁーにが、どうしたんだ? じゃ、ねえですよ!」
そのあと、金色に輝く九尾を逆立たせて発狂したアニエスから説明を求められ、全てを説明したが中々信じてもらえないのだった。
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