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第五章 宿命【英雄への道編】
第11話 白銀の竜
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青白い光に包まれた神殿の最奥。
白銀の竜を幽閉した巨大な結晶の檻に引き寄せられた僕が、両手を伸ばして触れた瞬間だった。
白銀の竜の瞼が開き、お互いの視線が交わる。
露になった青白い瞳は、一切の穢れを知らないかのように透き通るほど澄みきっていた。
いっとき目を見張った僕は、どこか懐かしい感覚に心が満たされていくのを感じ、次第に顔が綻ぶ。僕は、透明感のある瞳に見つめられ、すっかり心を奪われていた。
途端、優しい声が僕の頭の中に染み込むように響いた。
『コウスケ……また会えたね』
名前が微妙に違うけど、僕を指しているのは明らかだ。そもそも、そんな些細なことを指摘する余裕はなく、幸せな時間はほんの一瞬で終わりを告げる。
結晶の表面をゆっくりと蠢いていた幾多の魔法陣が、激しく交差するように動き回りはじめた――刹那、結晶の中心部からぱっと閃光が走って僕の視界を襲う。
顔を覆う暇もなく、突如、結晶が砕け散り、衝撃波が僕を吹き飛ばす。
衝撃でアーチ状の天井を支えていた柱に亀裂が入り、瞬く間に倒壊した。大きな破壊音を伴わせて倒れた柱が粉塵を巻き上げる。
音が静まり、暫くしてから目を開けると、柱の一部だった破片が目の前に転がっていた。
「いてて……」
尻もちをついた僕が、腰の辺りを摩りながら立ち上がる。鎧を着ていても痛いものは痛い。目を細めて辺りを見回すと、霧なのか煙なのか……白い何かが立ち込めており、視界が悪い。
白銀の竜どころか、他のみんながどうなったのかさえもわからなかった。
「こ、コウヘイ?」
声がした方向に振り向くと、尻もちをついたエルサがいた。
「エルサっ、大丈夫!」
エルサへと歩み寄った僕が右手を差し出す。僕の方へと伸ばされたエルサの右手を掴んで引き寄せる。
「あ、ありがとう。って、コウヘイ! 正気に戻ったの?」
そう言えば! と僕は改めて身体を見下ろした。足踏みをしたり、両手を握ったり開いたりを繰り返す。
「うん、どうやらそうみたい」
「良かったー」
「そ、それより他のみんなは!」
未だ視界が晴れず、よく見えない。
「イルマっ! エヴァっ!」
二人の名を呼んでも返事が無い。
最悪の事態を想像し、心臓の鼓動が直接聞こえてきそうだ。
「イルマ―! エヴァー!」
「エルサっ、呼ぶより魔法眼で――」
口元に両手を添えて叫んでいるエルサに、僕が魔法眼で魔力反応を見てもらおうとしたときだった。
「ここじゃー。エヴァとミラも無事じゃよ」
イルマの声を聴いて安堵する。しかし、エヴァが答えないのはどういうことだろうか。
エルサと一緒に声がした場所へ向かうと、額に脂汗をかいて顔が真っ青のエヴァが身を震わせて座り込んでいた。
「知らん。気付いたらこの調子じゃった」
僕はまだ何も言っていないのに、僕の視線から意図を悟ったイルマがそっけなく答える。
「そっか……」
再びエヴァへと視線を向けると、震えながらもミラを庇うように抱き締めており、何やらぶつぶつと呪文を紡ぐように口を動かしている。
「どうしたの、エヴァ。どこか痛むの?」
何を言っているのか聞こえないため、僕は屈んでエヴァの声へと耳を傾ける。
わなわなと震え、かすれたその声は、独特な響きがあった。
「無理、無理よ……無理無理無理、無理よ……」
壊れたレコードのように、同じ言葉を繰り返すばかり。エヴァらしからぬその様は異様で、視線が一点に固定されていた。
エヴァの視線に誘導されるように僕がそれをなぞる。
シルエットしかわからなかったけど、尻尾のようなものがゆらゆらと揺れている。
羽ばたくような仕草から、あの白銀の竜だと瞬時に理解した。
なるほど……意識した途端、全身をピリつかせる力の波動をひしひしと感じ、じっとりとした汗をかく。
エヴァは、危険察知でドラゴンの強大な力を感じ取ったのだろう。いつも勝気な彼女は、絶望的な力の差を感じて心が挫けてしまったようだ。
ただ、そんな考察をしている暇は無い。
「ドラゴンが動いてる!」
僕が叫ぶと、一斉にエルサとイルマも僕の視線の先を見た。
『ドラゴン……か。何とも……冷たい、冷たい、言い方。アドは、悲しい……』
言葉の通り、悲しみを帯びた声が響き、僕の胸を締め付ける。まるで白銀竜と同調しているかのように、僕も悲しくなった。
僕はどうしてしまったのだろう?
理解を超えた現象に戸惑っていると、突風が吹き荒れる。僕は慌てて右腕で顔を覆うも、直ぐに風が止んだのを感じて腕を下ろす。
と、白銀の竜の様子が視界に飛び込んできた。煌く翼を大きく広げ、首をもたげる様子が!
「やばいっ!」
竜種特有の動作からドラゴンブレスの前兆だろう。僕たちとの距離は二〇メートルほど。それでも、ドラゴンブレスの射程を考えると全然安心できない。
リトルドラゴン対策として、アリエッタさんから冒険者ギルドの魔獣図鑑を借りて予習をしていた。
図鑑曰く、ドラゴンブレスの射程は、体長の二倍から三倍と記載されていた。
目の前の白銀竜の体長は、約一〇メートル――全然安心できない!
咄嗟にエルサたちの前に出た僕は、左腰に吊ったラウンドシールドを構えて来る衝撃へと備える。
が、それは杞憂に終わった。
白銀の竜からブレスが吐かれることはなく、代わりに口から出たのは咆哮だった。
長々と続くその雄叫びが自然と僕の心を懐かしさで満たす。理由は、先程と同じでわからない。
腹にズシリと響く挑戦的な咆哮――それでいて、慣れ親しんだ声に聞こえた。
身構えていたはずなのに、不思議といつの間にか自然体で立っていた。
ラウンドシールドを腰に吊り直し、辺りを窺う余裕さえあったほどだ。
エヴァがミラを守るために体勢を変えてその場に蹲っている。
エヴァも怖いハズなのに凄いなと感心した。
弓を構えたエルサを右手で制止し、何やら詠唱を開始していたイルマの口を左手で塞いで止めさせる。
何やら抗議の言葉を発した二人には、「大丈夫」と、ただそれだけ答えた。
僕の言葉に何を勘違いしたのか、エルサがクシャっと顔を歪める。おそらく、つい先程の約束を再び破られたとでも思ったのだろう。
ただ……そうじゃない。そうじゃないんだ。
言葉で説明するのは難しい。
ひとしきり吠えて満足したのか、白銀の竜が嬉しそうに尻尾をぶんぶん振り回す。犬みたいな行動に、思わず笑みがこぼれる。
すると、神殿の青白い光を反射して煌く身体がより一層輝いた。魔法特有の淡い粒子を伴う輝き。魔力のオーラが白銀の竜を包み込むように光輝いたのだ。
再び僕と目を合わせた白銀の竜が、いきなり僕に向かって跳躍すると、エルサとイルマの叫び声が重なった。
「「コウヘイ!」」
回避行動を開始した二人が、身動ぎ一つしない僕に気付いて叫んだのだ。
白銀の竜との距離が瞬く間に縮まり、僕の視界を圧迫すると思いきや――その迫る大きさが一向に変わらない。むしろ、小さくなっているような気がする。
その不思議な事態に目を疑っていると、既に避けられないタイミング――
僕の胸に飛び込んできたそれを受け止め、そのまま後ろに倒れ込んでしまった。
思わぬ事態に腰を抜かしたと言った方が、正しいかもしれない。本来であれば、そうはならないほど軽く、優しい衝撃だった。
「やっと会えたのだ、コウスケ。アドは……アドは、コウスケに会えてとってもとっても嬉しいのだぁ」
頭の中に響いていた声音とは違い、やけに幼い声が聞こえる。
僕の胸に両手を突いて見つめてくるそれを、目を擦りながら何度も確認する。
白銀の竜の姿は無く、やけにちんまりとした女の子がいた。
しかし、女の子と言う表現が正しいかどうかは、とても微妙だ。
煌く白銀の髪に透き通るような青白い瞳。雪のように真っ白な肌の露出は少なく、殆どが鱗で覆われていた。
まるで竜の鱗で作った鎧を装備しているかのよう。おまけに、手や足の指がドラゴン特有の漆黒のかぎ爪であり、尻尾がゆらゆらと見え隠れしている。
先程の輝きは、人化の魔法だったのかもしれない。人間の女の子の顔をしているのに、色々と竜の特徴を残している。
「えーっと、先ずは、どいてもらっていいかな?」
「えっ、なんで? アドは、このままがいいのだ」
見当違いな返答と共に、嬉しそうにしている幼子の無邪気な笑顔があった。
「じゃあ、悪いけど――」
「うわぁ!」
このままではどいてくれなさそうだったため、僕は無理やり起き上がる。
すってんころりんと、今度は少女が後ろ向きに倒れ込んだ。少し強引だったかも。
「ご、ごめん、大丈夫?」
両脚を広げた真ん中に両手を突き、何が起きたのかわかっていないような惚けた顔をしている幼子――アドに、僕が慌てて手を差し伸べる。
確証は無いけど、「アド」が名前だと思う。
「なんでなのだ?」
差し出した僕の手を一瞥し、アドが僕のことを見上げてくる。その様は、仔犬が飼い主を見上げるような愛くるしさがあった。
いや、トカゲか? 色が濃い瞳の部分が爬虫類のように縦長なのだ。
「なんでって……いや、立たせてあげようかと」
「高い高いはどうしたのだ?」
「えっ?」
「えっ? っじゃないのだ! こういうとき、コウスケはいつも高い高いしてくれたのだ!」
両腕を上げたアドは、ワクワク顔でなおも僕を見つめて続けた。
「ねえ、やっと、また会えたのに……コウスケは嬉しくないのだ?」
アドが一際大きな瞳に涙を湛え、いまにも泣き出してしまいそうに眉根を寄せた。
このとき僕は、こう思わずにはいられなかった。
え、ナニコレ……と。
僕は、不測の事態に固まった。
目の前にいるトカゲ幼女が、白銀竜の人化形態であることは明らかだ。
僕を誰かと勘違いしているのもまた然り。
その名前が、「コウスケ」であり、僕の名前に酷似しているのが非常に気になる。それでも、この状況を呑み込めずに僕は、答えを求めて視界を彷徨わせるのだった。
白銀の竜を幽閉した巨大な結晶の檻に引き寄せられた僕が、両手を伸ばして触れた瞬間だった。
白銀の竜の瞼が開き、お互いの視線が交わる。
露になった青白い瞳は、一切の穢れを知らないかのように透き通るほど澄みきっていた。
いっとき目を見張った僕は、どこか懐かしい感覚に心が満たされていくのを感じ、次第に顔が綻ぶ。僕は、透明感のある瞳に見つめられ、すっかり心を奪われていた。
途端、優しい声が僕の頭の中に染み込むように響いた。
『コウスケ……また会えたね』
名前が微妙に違うけど、僕を指しているのは明らかだ。そもそも、そんな些細なことを指摘する余裕はなく、幸せな時間はほんの一瞬で終わりを告げる。
結晶の表面をゆっくりと蠢いていた幾多の魔法陣が、激しく交差するように動き回りはじめた――刹那、結晶の中心部からぱっと閃光が走って僕の視界を襲う。
顔を覆う暇もなく、突如、結晶が砕け散り、衝撃波が僕を吹き飛ばす。
衝撃でアーチ状の天井を支えていた柱に亀裂が入り、瞬く間に倒壊した。大きな破壊音を伴わせて倒れた柱が粉塵を巻き上げる。
音が静まり、暫くしてから目を開けると、柱の一部だった破片が目の前に転がっていた。
「いてて……」
尻もちをついた僕が、腰の辺りを摩りながら立ち上がる。鎧を着ていても痛いものは痛い。目を細めて辺りを見回すと、霧なのか煙なのか……白い何かが立ち込めており、視界が悪い。
白銀の竜どころか、他のみんながどうなったのかさえもわからなかった。
「こ、コウヘイ?」
声がした方向に振り向くと、尻もちをついたエルサがいた。
「エルサっ、大丈夫!」
エルサへと歩み寄った僕が右手を差し出す。僕の方へと伸ばされたエルサの右手を掴んで引き寄せる。
「あ、ありがとう。って、コウヘイ! 正気に戻ったの?」
そう言えば! と僕は改めて身体を見下ろした。足踏みをしたり、両手を握ったり開いたりを繰り返す。
「うん、どうやらそうみたい」
「良かったー」
「そ、それより他のみんなは!」
未だ視界が晴れず、よく見えない。
「イルマっ! エヴァっ!」
二人の名を呼んでも返事が無い。
最悪の事態を想像し、心臓の鼓動が直接聞こえてきそうだ。
「イルマ―! エヴァー!」
「エルサっ、呼ぶより魔法眼で――」
口元に両手を添えて叫んでいるエルサに、僕が魔法眼で魔力反応を見てもらおうとしたときだった。
「ここじゃー。エヴァとミラも無事じゃよ」
イルマの声を聴いて安堵する。しかし、エヴァが答えないのはどういうことだろうか。
エルサと一緒に声がした場所へ向かうと、額に脂汗をかいて顔が真っ青のエヴァが身を震わせて座り込んでいた。
「知らん。気付いたらこの調子じゃった」
僕はまだ何も言っていないのに、僕の視線から意図を悟ったイルマがそっけなく答える。
「そっか……」
再びエヴァへと視線を向けると、震えながらもミラを庇うように抱き締めており、何やらぶつぶつと呪文を紡ぐように口を動かしている。
「どうしたの、エヴァ。どこか痛むの?」
何を言っているのか聞こえないため、僕は屈んでエヴァの声へと耳を傾ける。
わなわなと震え、かすれたその声は、独特な響きがあった。
「無理、無理よ……無理無理無理、無理よ……」
壊れたレコードのように、同じ言葉を繰り返すばかり。エヴァらしからぬその様は異様で、視線が一点に固定されていた。
エヴァの視線に誘導されるように僕がそれをなぞる。
シルエットしかわからなかったけど、尻尾のようなものがゆらゆらと揺れている。
羽ばたくような仕草から、あの白銀の竜だと瞬時に理解した。
なるほど……意識した途端、全身をピリつかせる力の波動をひしひしと感じ、じっとりとした汗をかく。
エヴァは、危険察知でドラゴンの強大な力を感じ取ったのだろう。いつも勝気な彼女は、絶望的な力の差を感じて心が挫けてしまったようだ。
ただ、そんな考察をしている暇は無い。
「ドラゴンが動いてる!」
僕が叫ぶと、一斉にエルサとイルマも僕の視線の先を見た。
『ドラゴン……か。何とも……冷たい、冷たい、言い方。アドは、悲しい……』
言葉の通り、悲しみを帯びた声が響き、僕の胸を締め付ける。まるで白銀竜と同調しているかのように、僕も悲しくなった。
僕はどうしてしまったのだろう?
理解を超えた現象に戸惑っていると、突風が吹き荒れる。僕は慌てて右腕で顔を覆うも、直ぐに風が止んだのを感じて腕を下ろす。
と、白銀の竜の様子が視界に飛び込んできた。煌く翼を大きく広げ、首をもたげる様子が!
「やばいっ!」
竜種特有の動作からドラゴンブレスの前兆だろう。僕たちとの距離は二〇メートルほど。それでも、ドラゴンブレスの射程を考えると全然安心できない。
リトルドラゴン対策として、アリエッタさんから冒険者ギルドの魔獣図鑑を借りて予習をしていた。
図鑑曰く、ドラゴンブレスの射程は、体長の二倍から三倍と記載されていた。
目の前の白銀竜の体長は、約一〇メートル――全然安心できない!
咄嗟にエルサたちの前に出た僕は、左腰に吊ったラウンドシールドを構えて来る衝撃へと備える。
が、それは杞憂に終わった。
白銀の竜からブレスが吐かれることはなく、代わりに口から出たのは咆哮だった。
長々と続くその雄叫びが自然と僕の心を懐かしさで満たす。理由は、先程と同じでわからない。
腹にズシリと響く挑戦的な咆哮――それでいて、慣れ親しんだ声に聞こえた。
身構えていたはずなのに、不思議といつの間にか自然体で立っていた。
ラウンドシールドを腰に吊り直し、辺りを窺う余裕さえあったほどだ。
エヴァがミラを守るために体勢を変えてその場に蹲っている。
エヴァも怖いハズなのに凄いなと感心した。
弓を構えたエルサを右手で制止し、何やら詠唱を開始していたイルマの口を左手で塞いで止めさせる。
何やら抗議の言葉を発した二人には、「大丈夫」と、ただそれだけ答えた。
僕の言葉に何を勘違いしたのか、エルサがクシャっと顔を歪める。おそらく、つい先程の約束を再び破られたとでも思ったのだろう。
ただ……そうじゃない。そうじゃないんだ。
言葉で説明するのは難しい。
ひとしきり吠えて満足したのか、白銀の竜が嬉しそうに尻尾をぶんぶん振り回す。犬みたいな行動に、思わず笑みがこぼれる。
すると、神殿の青白い光を反射して煌く身体がより一層輝いた。魔法特有の淡い粒子を伴う輝き。魔力のオーラが白銀の竜を包み込むように光輝いたのだ。
再び僕と目を合わせた白銀の竜が、いきなり僕に向かって跳躍すると、エルサとイルマの叫び声が重なった。
「「コウヘイ!」」
回避行動を開始した二人が、身動ぎ一つしない僕に気付いて叫んだのだ。
白銀の竜との距離が瞬く間に縮まり、僕の視界を圧迫すると思いきや――その迫る大きさが一向に変わらない。むしろ、小さくなっているような気がする。
その不思議な事態に目を疑っていると、既に避けられないタイミング――
僕の胸に飛び込んできたそれを受け止め、そのまま後ろに倒れ込んでしまった。
思わぬ事態に腰を抜かしたと言った方が、正しいかもしれない。本来であれば、そうはならないほど軽く、優しい衝撃だった。
「やっと会えたのだ、コウスケ。アドは……アドは、コウスケに会えてとってもとっても嬉しいのだぁ」
頭の中に響いていた声音とは違い、やけに幼い声が聞こえる。
僕の胸に両手を突いて見つめてくるそれを、目を擦りながら何度も確認する。
白銀の竜の姿は無く、やけにちんまりとした女の子がいた。
しかし、女の子と言う表現が正しいかどうかは、とても微妙だ。
煌く白銀の髪に透き通るような青白い瞳。雪のように真っ白な肌の露出は少なく、殆どが鱗で覆われていた。
まるで竜の鱗で作った鎧を装備しているかのよう。おまけに、手や足の指がドラゴン特有の漆黒のかぎ爪であり、尻尾がゆらゆらと見え隠れしている。
先程の輝きは、人化の魔法だったのかもしれない。人間の女の子の顔をしているのに、色々と竜の特徴を残している。
「えーっと、先ずは、どいてもらっていいかな?」
「えっ、なんで? アドは、このままがいいのだ」
見当違いな返答と共に、嬉しそうにしている幼子の無邪気な笑顔があった。
「じゃあ、悪いけど――」
「うわぁ!」
このままではどいてくれなさそうだったため、僕は無理やり起き上がる。
すってんころりんと、今度は少女が後ろ向きに倒れ込んだ。少し強引だったかも。
「ご、ごめん、大丈夫?」
両脚を広げた真ん中に両手を突き、何が起きたのかわかっていないような惚けた顔をしている幼子――アドに、僕が慌てて手を差し伸べる。
確証は無いけど、「アド」が名前だと思う。
「なんでなのだ?」
差し出した僕の手を一瞥し、アドが僕のことを見上げてくる。その様は、仔犬が飼い主を見上げるような愛くるしさがあった。
いや、トカゲか? 色が濃い瞳の部分が爬虫類のように縦長なのだ。
「なんでって……いや、立たせてあげようかと」
「高い高いはどうしたのだ?」
「えっ?」
「えっ? っじゃないのだ! こういうとき、コウスケはいつも高い高いしてくれたのだ!」
両腕を上げたアドは、ワクワク顔でなおも僕を見つめて続けた。
「ねえ、やっと、また会えたのに……コウスケは嬉しくないのだ?」
アドが一際大きな瞳に涙を湛え、いまにも泣き出してしまいそうに眉根を寄せた。
このとき僕は、こう思わずにはいられなかった。
え、ナニコレ……と。
僕は、不測の事態に固まった。
目の前にいるトカゲ幼女が、白銀竜の人化形態であることは明らかだ。
僕を誰かと勘違いしているのもまた然り。
その名前が、「コウスケ」であり、僕の名前に酷似しているのが非常に気になる。それでも、この状況を呑み込めずに僕は、答えを求めて視界を彷徨わせるのだった。
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