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外伝 ~エルサ編~ 夢の続き

第09話 謎の少女四人組

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 エルフ族の女の子と目を合わせたままエルサが固まって動けずにいると、新たな声が聞こえてきた。

「ミリア、どうしたんだ?」
「ユリア、あっち」

 別の少女が現れ、ミリアと呼ばれた少女がエルサの方を指差した。

「え、ヒューマン!」

 ミリアの隣までやってきたユリアの姿を見て驚愕した。

 ほど良く日焼けした肌に映える燃えるようなくせっ毛の赤髪の少女は、ヒューマンだった。

「ヒューマン?」

 エルサの言葉をオウム返しし、獅子のように輝く黄色い瞳がエルサを射抜く。
 持っていたロングソードを肩に担ぎ、エルサを品定めするように頭からつま先までじっくり観察しはじめた。

「あ、えーっと……」

 エルサは思わずしどろもどろになる。

 ど、どうしよー。

 エルサは、内心パニックに陥った。
 
 エルサは、発見されないように近付き、声の主の正体がヒューマンであれば、そのことをベルンハルトたちに報告するつもりだった。

 それも全て、ミリアに驚き、つい声をあげてしまったせいで台無しになった。
 ばっちり姿を見られてしまっては、もう後には引けない。

「あら、ダークエルフじゃない? こんな場所で出会うなんて珍しいわね」
「えっ、なんでわかったの!」
「はあああー? そんな褐色の肌に白銀の髪で銀色の瞳よ! もう、身体全体でダークエルフって叫んでいるようなものじゃない。バカなの! ねえー、あんたバカなの!」

 お人形のように可愛らしい金髪碧眼の少女は、現れるなり、その見た目から発せられたとは信じられないようなバカにした声音で指摘した。

 いや、実際にバカと言われてしまった……二度も。

「……ローラ」
「な、何よ、ディビー……」
「言い方……」
「あ……」

 また一人、変な少女が現れ、エルサは何が何だがわからなくなった。

「ま、魔族うううー!」
「「「はあああー!」」」

 エルサがそう叫ぶと、金髪碧眼のローラ以外が素っ頓狂な声をあげた。

「だ、だってライトグリーンの髪って言ったら魔族でしょ!」

 エルサは、ライトグリーンのお河童頭をしたディビーの頭を指差して叫んだ。

 エルサは小さいころに読んだ物語に出てきた魔人の髪の色がライトグリーンだったことからそう言ったのだが、全くの偏見である。

 確かに魔人は、得意な魔法系統の色に髪質が変化する特徴があるのだが、それはまた別の話。

「私の両親は人間よ!」

 ディビーは当然反論するのだが……

「いえ、あながち間違いでは無いかもしれませんわよ、ディビーさん」
「「「「え!」」」」

 エルサは、突然ローラの口調が淑女らしくなったことに驚き、他の三人はローラの発言に反応した。

「それに、ユリアだってその燃えるような赤髪は、獅子獣人の特徴よ」
「「「!!!」」」

 エルサのことを無視し、その少女四人組は勝手に盛り上がっていた。

 えっ、ナニコレ?
 わたしは、帰っても、良いよね?

 ローラに因る種族の起源講座が始まり、エルサは完全に蚊帳の外であった。

 エルサが忍び足でその場を去ろうとした、そのとき。

「ちょっと、そこのあなた。何か聞きたいことがあったのではなくて?」

 ローラが突然エルサの方を向き声を掛けてきた。

「え、いえ、特に……何も……」

 ヒューマンのことを良く知らないエルサであったが、見た目からローラたちは一〇歳にも満たない子供に見えたのだが、ローラから異様な圧力を感じた。

「そう、精霊の樹海から来たのではなくて?」
「え、何でわたしたちが移住して来たってわかるの!」
「移住? てっきり迷ったのかと思っていたのだけど……そう、移住ね……」
「あ……」

 エルサは、良く言えば素直なのだが、ヒューマン相手にそれは非常に不味い。

 何と言ってもエルフ族は、獣人と同じ蛮族扱いで奴隷狩りの対象なのだが、容姿端麗なせいで、奴隷商人に高く売れるため、盗賊たちの恰好の的なのである。

 もし、エルサたちが移住してきたことがヒューマンの大人たちに知られでもしたら、大問題である。
 
 ただ、ローラは、そんなことを話すつもりは毛頭ない。

 単純にエルサのことを、外に興味を持って出て来たは良いが、道に迷ったダークエルフだと思っていた。

「わ、わたしたちは強いわよ! ヒューマンなんかに捕まらないよーだ!」

 そんなことを知らないエルサは、内心で自分の発言を後悔しながらその場から一目散に逃げる。

「あー、わたしのバカバカバカあああー!」

 叫びながら身体強化を使用し、風のようにその場から離れようとした。

 が、

「ぐふっ!」

 後ろから凄い勢いで体当たりされ、エルサは顔面から滑るように着地した。

「うー、口の中に土が……それより、降りてよ……」

 起き上がろうとするエルサだったが、ローラが上に乗っており、できなかった。

「あら、ごめんあそばせ。いきなり逃げるあなたが悪いのよ」

 そう謝るローラであったが顔は笑っていた。

 ヒューマン、それも自分より幼い子供に捕まるなど思っていなかったエルサは、完全に遊ばれていると思い完全に心が折れた。

 でも、どうやらその少女四人組は他のヒューマンとは違い、エルサたちダークエルフに興味は無いらしい。

 当然と言えば当然かもしれない。
 一〇歳にも満たない子供たちが盗賊や奴隷商人と繋がりを持っているはずも無かった。

 むしろ、そんな密告めいたことをされたら、エルサは本気でヒューマンを嫌いになるところだった。

 それでは、態々追っかけてきた理由を聞いてみると、ここ西の森周辺のことを教えるつもりだったらしい。

「へー、じゃあここは東の森っていうのね」
「そうよ。まあ、名前が無いからわたしたちが住んでいるテレサ村から見て、東にあるからってだけだけどね」

 今更淑女ぶっても遅いと仲間から指摘され、ローラの口調は素に戻っていた。
 実のところローラは、そのヒューマンが住むテレサ村領主の娘らしかった。

 立場的には族長の娘であるエルサと変わりは無いのだが、ヒューマンは口調も気にしなければいけないのか、とエルサはどうでもいいことを考えていた。

「それで、そんな大所帯だとここで暮らすのは難しいわよ。畑でも耕すなら別だけど、そんなことしないでしょ?」
「うん、わたしたちは自然の恵みを糧に生活しているから……」
「そうよね。あと、わたしのパパはそんな偏見は持っていないけど、バステウス連邦王国が近いし、そこから盗賊が流れてくる危険もあるしね」
「そうなんだー。盗賊には苦い思いしかないなー」

 エルサは、一時捕虜になったときのことを思い出し苦笑い。

「まあ、世界樹から離れればマナが薄いのは仕方が無いことよ」

 ローラの知識の多さに驚きだが、あっけらかんとした性格のようで彼女には好感がもてた。

「へー、世界樹のことも知っているんだね。ヒューマンを侮っていたかも」
「ああ、ヒューマンは、魔法が苦手だものね。エルフからしたら下等生物も良いところだわ」

 エルサは、小さいころからヒューマンは、魔法の扱いが下手な癖に、傲慢で狡賢い下等生物だと教わっていたのだが、エルサを凌ぐ身体強化魔法や色々な種族の起源もまた然り、大陸のことを知っているローラの聡明さに、認識を改めることになる。

「わたしからアドバイスするとしたら、もう少し北上することね」
「北に行ったら何があるの?」
「ここよりもマナスポットが多いわね」
「マナスポット?」
「ああ、魔力溜まりのことよ」
「あ、違うの。よくその言葉を知ってるなと思って」
「はい? そんなの常識じゃない」

 眉間に皺を寄せ、見下すような表情に、一瞬、イラっとしたが、後ろの三人がもの凄い勢いで首を左右に振っていることから、ローラが特別なのだとエルサは悟った。

「それはいいとして、その森はベルマンの森っていうのだけれど、熊獣人のベルマン伯爵が治める領地だから、交流も持てると思うわよ。きっと、ダークエルフが作るポーションなら高く売れるだろうし、それで食料品とか生活必需品の購入代金に充てたら良いと思うわ」

 そのあとも話は続き、注意すべきことなど色々教わった。

 その見返りという訳では無いが、エルサはローラたちに身の上話をしたりした。
 その他にもたわいのない話で盛り上がり、日が暮れる時間が迫ってきたため、エルサはローラたちと別れた。

 そして、ある約束を交わすのだった。

 エルサは、仮拠点に戻ってくるなり、ローラから教わったことをベルンハルトに報告した。
 当然、厳しく叱られたのは言うまでもない。

 その後、ベルマンの森へ調査探索が行われ、全てローラの言う通り住みやす場所であることが判明した。

 そして、フォルティーウッドのダークエルフたちはベルマンの森に定住し、エルサはその先ずっと幸せに暮らすことに……はならなかった。

 移住し安定した暮らしを送れるようになったのは間違いなかったが、ローラに簡単に捕まったことが相当悔しく、エルサの訓練は激しさを増した。

 カロリーナの指導の元訓練をしたのは当然だが、その訓練が終わっても人目を盗んで魔法の訓練などを一人で行っていた。

 時には、ベルマンの森で魔獣狩りをする冒険者たちの魔法を魔法眼で盗み見して、使える魔法の数を増やした。

 そうして着実にエルサは成長していた。

 保有魔力も増加し、一日二〇発までなら魔法を使用できる量となっていた。
 ただし、魔力弁障害の影響で丸々消費して良い訳では無かった。

 時が経つに連れ、漏れ魔力の量も増大していった。
 エルサの症状は深刻化していたのだ。

 魔力弁障害だとわかって四年が経ち、ついにエルサは寝たきりの生活を余儀なくされた。

 応急処置としてマジックポーションを服用し、魔力の枯渇を防いだが、それは焼け石に水状態で、直ぐにエルサの魔力は霧散してしまった。

 そこで、アメリアは巫女の継承儀式を行うことを決心した。

 それは、シュタウフェルン家に伝わるスキル譲渡魔法で、巫女は代々その魔法により魔力自動回復のスキルを継承してきた。

 本来は、シュタウフェルン家を守るために魔法を撃ち続ける砲台の役割を担っていたためだが、いつしか、精霊王に捧げる魔力を少しでも多くするためと認識がすり替えられていた。

 どちらの解釈にせよ、アメリアには無用の長物と化していた。

 怪我の後遺症で戦闘はもはやできない。
 更に、精霊の樹海を飛び出した今、安寧の祈願を行うどころか巫女の役職は廃止されている。

 その儀式はエルサが床に伏せっている間に行われ、その事実も伏せられた。
 この継承魔法は、本来巫女が自分の寿命を察知して次代の巫女へ継承する魔法であるため、かなり多くの生命力を消費する。
 それはアメリアの寿命を縮める行為であり、それを知ったエルサが悲しまないようにするためであった。

 継承儀式の影響を心配されたアメリアは、まだ七〇歳という若さのため、その影響はなさそうだった。

 表面上は……

 巫女の継承儀式は無事成功し、エルサは見事回復して元のように生活できるようになった。

 いきなり回復したエルサは、疑問に思うところがあったが、継承儀式の事実を知らなかったため、幸運に恵まれたと思っていた。
 実際、奇跡が起こったと里のみんなから言われれば、そう信じたのは自然のことだろう。

 しかし、その幸運も長くは続かなかった。

 継承の儀式からそれほど時がたたないうちに、エルサはまた寝たきりとなってしまうのだった。
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