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第三章 動乱と日常【魔族内乱編】
第15話 ミラの想い
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ミラの魔力をポーションで補えるか確認できたあとも、コウヘイとミラは、色々と他愛もない話をしながら一時間ほど二階の部屋で過ごした。
二階の部屋に西日が差し込む時間帯となっても誰一人として戻ってこないため、二人揃って一階の様子を見に行くことになった――――
「まだやってるよ……」
「そうみたいですね……」
一階へ降りてみると、イルマとエヴァがさっきと同じ会話をしていた。
「じゃかりゃ、ほんりょだと言っておりょうがっ!」
「何を仰るのれす、うえいしぇんふぇりゅとはとっくにめちゅぼーしてますわよ」
「ほんろーに、にゃんど同じことを言えばわかりゅのら」
ただ、イルマは同じ話をしていることはわかっているようで安心した。
いや、安心できないかな?
それよりも、エルサは完全に酔い潰れてテーブルに突っ伏していた。
「これは強制終了するかな」
自然に終わるのを待っても無理そうだったので、イルマとエヴァの後ろに立った僕は、二人にヒールを掛けた。
「じゃから、本当だと言っておろうがっ!」
「何を仰るのです! ウェイスェンフェルト王朝はとっくに――」
「酔いは醒めたかな?」
「む、コウヘイ。良いとこで水を差す出ない」
「そ、そうよ。イーちゃんが適当なことばかり言うんだからっ。これは、はっきりさせないと気が済まないわ」
一気に酔いが醒めたせいなのか、矛先が僕に向いた。
「何言ってるんだよ。もう仲間なんだし、これからいくらでも機会があるから、またの機会にしてよ。エヴァは、パーティー登録しに行かなくていいの?」
先程ミラに言われたことを引用して二人を仲裁した。
それを聞いたミラは、嬉しそうに微笑んでいた。
「あっ、そうよね。ささっ、行きましょうか、コウヘイ」
エヴァの変わり身の早さは見事だった。
「何を! エヴァっ、逃げるのか!」
「ああ、もうっ。コウヘイ、先に行ってるから早く来なさいよー」
エヴァは、酔いが醒めてもイルマが絡んでくるのが鬱陶しいのか、そう言い残して足早に白猫亭を出て行ってしまった。
「大分盛り上がったみたいだね?」
「ふんっ、エヴァは油断ならぬ。さっきも口調が変わっていたであろうに!」
「まあ、それくらい別にいいじゃない。むしろ丁寧だったし」
ヒールを掛けた途端、エヴァは淑女のような言葉遣いになっていた。
更に、咄嗟に口を押えて続く言葉を止めていた。
「ま、まあそうじゃが……しかし、気を付けるのじゃぞ」
「はいはい、じゃあエルサを上まで連れて行かなきゃいけないから手伝ってくれる?」
「うむ、仕方がないのう」
イルマは、エヴァのことをまだ疑っているようだったけど、僕は相手にしなかった。
酔いつぶれたエルサをこのままにしておく訳にもいかず、二階へ連れて行きベッドに寝かせた。
ヒールを掛けてもエルサは、目を覚まさなかった。
今までの疲労が出たのかもしれない。
「それじゃあ、僕は冒険者ギルドに行ってくるけど、二人はどうする?」
「わしはちょっと行ってみたいところがあってな。構わんじゃろ?」
へー、イルマに用事があると言われてちょっと意外な感じがした。
「うん、元々自由行動にしているから問題ないよ。でも、もうすぐ暗くなる時間帯だから気を付けてね」
「なんじゃ、コウヘイまでわしを子供扱いするのか?」
そんな口調の人物を子ども扱いする訳がない。
「ミラはどうする?」
イルマを無視し、今度はミラに問い掛けた。
「えっと、イルマさんが出かけるなら、私はエルサさんが起きて誰もいなかったら寂しいと思うので残っています」
「そっか、何か悪いね」
「いえいえ、私は買い物に一度出ていますから大丈夫です」
「わかった。じゃあ、宜しく頼むよ」
ミラはそう言ったけど、パーティーの物資購入に付き合わせただけなのに、何とも謙虚な子だこと。
まあ、本人がそう言うならと、エルサの世話をお願いすることにした。
そして、僕はエヴァの後を追うべく冒険者ギルドへと向かった。
――――――
コウヘイが冒険者ギルドへ向かうために部屋を出たあと、イルマもどこかへ出かけた。
そして、白猫亭の四人部屋には、ミラと酔いつぶれて眠っているエルサの二人だけとなった。
「コウヘイさんの手……温かかったな……」
ミラは、コウヘイから魔力を譲渡されたときに握られた手の感触を思い出していた。
「お父さんがいたらあんな感じなのかな?」
そう、ふいに口を衝いて出た言葉に、ミラは頬を朱に染めた。
「わ、私ったら何言っちゃってるのよっ」
「ん……コウヘイ……」
エルサのうわ言にぎょっとなったミラは、それが寝言であることを確認し、ホッと胸を撫でおろした。
「でも、お父さんっていうほど年も離れていないから……お、お兄ちゃん、かな?」
今度は身体を掻き抱いてモジモジし始めた。
◆◆◆◆
魔力を失った原因がコウヘイにあるとニンナから言われたが、ミラはそれを信じていなかった。
ミラが気を失ったとき、コウヘイがかなり離れた場所にいたこと。
コウヘイのスキルは、直接手を触れないと発動しないこと。
コウヘイがそうニンナに説明し、即座に否定をしたとき、その場にいたミラにとって、その理由は納得のいくものだった。
むしろ、コウヘイたちの重荷になってしまったのではないかと、心配したほどであった。
ミラは、何不自由なくとは言い難いが、それなりに冒険者として立派にやっていたとの自負があった。
それでも、ずっと一人でいることを寂しく思っていた。
ニンナの要請で強制的にコウヘイに引き取られる形になったミラだが、それでも優しく接してくれるコウヘイ、エルサやイルマに感謝していた。
マジックポーションで実験しようと言われたとき、魔力が生成できなくなったミラのことを心配しているのを感じた。
そのことが……本当に嬉しかった。
仲間って、こういうことを言うのかな、と思ったと同時に、それが成功したらコウヘイたちと一緒にいられる理由がなくなってしまうと、不安で苦しかった。
結果、マジックポーションで回復可能なことが判明したが、それは本当にごく少量だった。
それが幸いしたのかは不明だが、パーティーを抜けろと言われず、ミラは心底安心した。
おかしな話かもしれないが、ミラ自身は、魔力が回復しようがしまいがどうでも良いと考えていた。
その場合、コウヘイたちにとってのミラは、戦力外のお荷物にしかならない。
それでも……
それでもミラは、一緒にいられるのであれば、それで良かった。
だって、もう一人は寂しい……と、ミラは不安に押し潰されるような思いをしながらコウヘイの実験に臨んでいたのであった。
そんな心の内を一切感じさせずに――
実験が成功し、一気にその不安が堰を切ったように溢れ出し、まるで釘を刺すように、
「はい、ポーションで回復することがわかったとしても、もう私たちはずっと一緒ですよ。だって、仲間なんですから」
などと、言ってしまい、それをミラは後悔した。
コウヘイが笑顔で答えてくれはしたものの、それは引きつった笑顔で、無理やり言わせた感が強かったのだ。
そのあと、コウヘイのスキルで魔力を受け取れるか試すことになった。
その感覚がとても心地よく、ミラは幸せな気分で満たされた。
包まれるように握られた手の温かさと、全身が優しく包み込まれるような魔力の温かさにミラは、心身ともに安らぎを感じた。
それは、未だかつて感じたことのない安心感だった。
ミラが幼少期を過ごした修道院のマザーは、とても優しかった。
しかし、ミラと同じような境遇の子供たちが沢山いたため、修道院での生活は決して楽な物ではなかった。
ミラが冒険者になってからもまた然り、パーティーを組んだ冒険者が全滅したりと、楽どころか不運続きだった。
そんな不気味な話をしたにも拘わらず、コウヘイはミラを受け入れた。
◆◆◆◆
そのときのことを思い出したミラは、魔力を譲渡されたときのことを再び思い出して幸せな気持ちになった。
コウヘイは、このファンタズムの世界では極めて珍しい黒の髪と黒の瞳といった風貌で、身体が大きい。
そんな見た目故に、はじめてコウヘイの姿を見たミラは、怖がった。
しかし、この二日間で払拭された。
よく考えてみたら、がっしりとしたその体躯は強そうで心強い。
更に、目鼻立ちがくっきりしており、あの森の王者といわれるフェンリルもかくや勇ましい顔立ちでカッコイイ、などとミラは、コウヘイの評価を更新していた。
「はっ、また私は何を考えているよ。コウヘイさんにはエルサさんがいるんだから」
別にコウヘイとエルサは、恋仲ではないのだが、ミラはそんな誰対する言い訳かわからないことを言い、気持ちよさそうに眠っているエルサの寝顔を窺った。
「私もあんな風に女性らしかったらな……い、妹なら大丈夫かな?」
最早、コウヘイにとって大事な存在になれれば良とミラは考えていた。
そんなミラは、エルサが眠っている横で、一人身悶えるのだった。
二階の部屋に西日が差し込む時間帯となっても誰一人として戻ってこないため、二人揃って一階の様子を見に行くことになった――――
「まだやってるよ……」
「そうみたいですね……」
一階へ降りてみると、イルマとエヴァがさっきと同じ会話をしていた。
「じゃかりゃ、ほんりょだと言っておりょうがっ!」
「何を仰るのれす、うえいしぇんふぇりゅとはとっくにめちゅぼーしてますわよ」
「ほんろーに、にゃんど同じことを言えばわかりゅのら」
ただ、イルマは同じ話をしていることはわかっているようで安心した。
いや、安心できないかな?
それよりも、エルサは完全に酔い潰れてテーブルに突っ伏していた。
「これは強制終了するかな」
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「そ、そうよ。イーちゃんが適当なことばかり言うんだからっ。これは、はっきりさせないと気が済まないわ」
一気に酔いが醒めたせいなのか、矛先が僕に向いた。
「何言ってるんだよ。もう仲間なんだし、これからいくらでも機会があるから、またの機会にしてよ。エヴァは、パーティー登録しに行かなくていいの?」
先程ミラに言われたことを引用して二人を仲裁した。
それを聞いたミラは、嬉しそうに微笑んでいた。
「あっ、そうよね。ささっ、行きましょうか、コウヘイ」
エヴァの変わり身の早さは見事だった。
「何を! エヴァっ、逃げるのか!」
「ああ、もうっ。コウヘイ、先に行ってるから早く来なさいよー」
エヴァは、酔いが醒めてもイルマが絡んでくるのが鬱陶しいのか、そう言い残して足早に白猫亭を出て行ってしまった。
「大分盛り上がったみたいだね?」
「ふんっ、エヴァは油断ならぬ。さっきも口調が変わっていたであろうに!」
「まあ、それくらい別にいいじゃない。むしろ丁寧だったし」
ヒールを掛けた途端、エヴァは淑女のような言葉遣いになっていた。
更に、咄嗟に口を押えて続く言葉を止めていた。
「ま、まあそうじゃが……しかし、気を付けるのじゃぞ」
「はいはい、じゃあエルサを上まで連れて行かなきゃいけないから手伝ってくれる?」
「うむ、仕方がないのう」
イルマは、エヴァのことをまだ疑っているようだったけど、僕は相手にしなかった。
酔いつぶれたエルサをこのままにしておく訳にもいかず、二階へ連れて行きベッドに寝かせた。
ヒールを掛けてもエルサは、目を覚まさなかった。
今までの疲労が出たのかもしれない。
「それじゃあ、僕は冒険者ギルドに行ってくるけど、二人はどうする?」
「わしはちょっと行ってみたいところがあってな。構わんじゃろ?」
へー、イルマに用事があると言われてちょっと意外な感じがした。
「うん、元々自由行動にしているから問題ないよ。でも、もうすぐ暗くなる時間帯だから気を付けてね」
「なんじゃ、コウヘイまでわしを子供扱いするのか?」
そんな口調の人物を子ども扱いする訳がない。
「ミラはどうする?」
イルマを無視し、今度はミラに問い掛けた。
「えっと、イルマさんが出かけるなら、私はエルサさんが起きて誰もいなかったら寂しいと思うので残っています」
「そっか、何か悪いね」
「いえいえ、私は買い物に一度出ていますから大丈夫です」
「わかった。じゃあ、宜しく頼むよ」
ミラはそう言ったけど、パーティーの物資購入に付き合わせただけなのに、何とも謙虚な子だこと。
まあ、本人がそう言うならと、エルサの世話をお願いすることにした。
そして、僕はエヴァの後を追うべく冒険者ギルドへと向かった。
――――――
コウヘイが冒険者ギルドへ向かうために部屋を出たあと、イルマもどこかへ出かけた。
そして、白猫亭の四人部屋には、ミラと酔いつぶれて眠っているエルサの二人だけとなった。
「コウヘイさんの手……温かかったな……」
ミラは、コウヘイから魔力を譲渡されたときに握られた手の感触を思い出していた。
「お父さんがいたらあんな感じなのかな?」
そう、ふいに口を衝いて出た言葉に、ミラは頬を朱に染めた。
「わ、私ったら何言っちゃってるのよっ」
「ん……コウヘイ……」
エルサのうわ言にぎょっとなったミラは、それが寝言であることを確認し、ホッと胸を撫でおろした。
「でも、お父さんっていうほど年も離れていないから……お、お兄ちゃん、かな?」
今度は身体を掻き抱いてモジモジし始めた。
◆◆◆◆
魔力を失った原因がコウヘイにあるとニンナから言われたが、ミラはそれを信じていなかった。
ミラが気を失ったとき、コウヘイがかなり離れた場所にいたこと。
コウヘイのスキルは、直接手を触れないと発動しないこと。
コウヘイがそうニンナに説明し、即座に否定をしたとき、その場にいたミラにとって、その理由は納得のいくものだった。
むしろ、コウヘイたちの重荷になってしまったのではないかと、心配したほどであった。
ミラは、何不自由なくとは言い難いが、それなりに冒険者として立派にやっていたとの自負があった。
それでも、ずっと一人でいることを寂しく思っていた。
ニンナの要請で強制的にコウヘイに引き取られる形になったミラだが、それでも優しく接してくれるコウヘイ、エルサやイルマに感謝していた。
マジックポーションで実験しようと言われたとき、魔力が生成できなくなったミラのことを心配しているのを感じた。
そのことが……本当に嬉しかった。
仲間って、こういうことを言うのかな、と思ったと同時に、それが成功したらコウヘイたちと一緒にいられる理由がなくなってしまうと、不安で苦しかった。
結果、マジックポーションで回復可能なことが判明したが、それは本当にごく少量だった。
それが幸いしたのかは不明だが、パーティーを抜けろと言われず、ミラは心底安心した。
おかしな話かもしれないが、ミラ自身は、魔力が回復しようがしまいがどうでも良いと考えていた。
その場合、コウヘイたちにとってのミラは、戦力外のお荷物にしかならない。
それでも……
それでもミラは、一緒にいられるのであれば、それで良かった。
だって、もう一人は寂しい……と、ミラは不安に押し潰されるような思いをしながらコウヘイの実験に臨んでいたのであった。
そんな心の内を一切感じさせずに――
実験が成功し、一気にその不安が堰を切ったように溢れ出し、まるで釘を刺すように、
「はい、ポーションで回復することがわかったとしても、もう私たちはずっと一緒ですよ。だって、仲間なんですから」
などと、言ってしまい、それをミラは後悔した。
コウヘイが笑顔で答えてくれはしたものの、それは引きつった笑顔で、無理やり言わせた感が強かったのだ。
そのあと、コウヘイのスキルで魔力を受け取れるか試すことになった。
その感覚がとても心地よく、ミラは幸せな気分で満たされた。
包まれるように握られた手の温かさと、全身が優しく包み込まれるような魔力の温かさにミラは、心身ともに安らぎを感じた。
それは、未だかつて感じたことのない安心感だった。
ミラが幼少期を過ごした修道院のマザーは、とても優しかった。
しかし、ミラと同じような境遇の子供たちが沢山いたため、修道院での生活は決して楽な物ではなかった。
ミラが冒険者になってからもまた然り、パーティーを組んだ冒険者が全滅したりと、楽どころか不運続きだった。
そんな不気味な話をしたにも拘わらず、コウヘイはミラを受け入れた。
◆◆◆◆
そのときのことを思い出したミラは、魔力を譲渡されたときのことを再び思い出して幸せな気持ちになった。
コウヘイは、このファンタズムの世界では極めて珍しい黒の髪と黒の瞳といった風貌で、身体が大きい。
そんな見た目故に、はじめてコウヘイの姿を見たミラは、怖がった。
しかし、この二日間で払拭された。
よく考えてみたら、がっしりとしたその体躯は強そうで心強い。
更に、目鼻立ちがくっきりしており、あの森の王者といわれるフェンリルもかくや勇ましい顔立ちでカッコイイ、などとミラは、コウヘイの評価を更新していた。
「はっ、また私は何を考えているよ。コウヘイさんにはエルサさんがいるんだから」
別にコウヘイとエルサは、恋仲ではないのだが、ミラはそんな誰対する言い訳かわからないことを言い、気持ちよさそうに眠っているエルサの寝顔を窺った。
「私もあんな風に女性らしかったらな……い、妹なら大丈夫かな?」
最早、コウヘイにとって大事な存在になれれば良とミラは考えていた。
そんなミラは、エルサが眠っている横で、一人身悶えるのだった。
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