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第三章 動乱と日常【魔族内乱編】
第07話 城塞都市パルジャ
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パルジャ救援のことなどすっかり忘れ、アイトルたちが謁見の間でテレサ防衛の部隊編成を議論していたころ。
マルーン王国――城塞都市パルジャの惨状は、とても信じられるものではなかった。
見るも無残に打ち破られた城壁、城壁の破片が当たって崩れた建物、焼け焦げて崩れた建物。
そして、いたるところに魔獣により食い散らかされた人であったであろう、おびただしい数の残骸が散乱していた。
建物が燃えたあとの嫌な臭いだけではなく、生臭い血の臭いが漂っており、幾多の戦場を駆け巡った勇者たちでさえ、その光景は耐え難く、みな口を押えて胃の奥底から込み上げる衝動を必死に堪えていた。
それだけ、不条理な暴力によって市街地は凄惨を極めていた。
一一日前、死の砂漠谷の魔獣たちが、マルーン王国を襲っているとの救援依頼を受けたカズマサたち勇者パーティーは、一〇日目にマルーン王国の王都入りを果たしていた。
国王への到着の挨拶もほどほどにし、救援先であるパルジャ――マルーン王国北部最大の城塞都市――へ急いだのだが、遅かった。
そのパルジャは、魔族との戦闘で重要な防衛拠点として厚さ一五メートルの強固な城壁で守られていた。
そして、先月、中級魔族討伐の戦勝祝いで華やかに飾られた美しい街並み。
その双方は、見る影も無く、破壊尽くされていた。
「これは酷いな……」
「ああ……」
カズマサとユウゾウは、この惨状を目の当たりにして眉根を顰めていた。
二人揃ってただただ言葉にならないといった表情で立ち尽くしていた。
マサヒロに至っては、顔面蒼白で何も言えない様子だった。
今や勇者パーティーの一員となった元冒険者三人や帯同してきた帝国兵士もまた然り。
数少ない生存者の話を聞く限りでは、襲ってきたのは魔獣だけで、少数ではあるもののトロールやワイバーンといった上級魔獣もいたという。
その数、約二千の魔獣たちが大挙して押し寄せ、必死の抵抗もむなしく、つい二日前に城門のみならず城壁も打ち破られた。
パルジャ守備隊の三千の王国兵士は、全滅と言っても過言ではないほどに壊滅し、生存者は三〇〇人にも満たなかった。
その奮闘のおかげで魔獣もその数を、千以下に減らしているはずだという。
勇者パーティーは、その討伐が任務。
拠点となるはずだったパルジャは陥落し、兵士もほとんど残っていない。
領主も逃げ出したあとで、それを知った最後の希望の冒険者たちも姿を消した。
勇者たち救援部隊が進むパルジャの目抜き通りには、王国兵、市民を問わず負傷者たちが打ち上げられた魚のように不規則に横たわっていた。
救護施設に納まりきれない負傷者がそんな不衛生な道端に転がっていたのだ。
情報収集をカズマサたちに任せたアオイは、ひたすら魔力が続く限りその怪我人の治療に時間を費やした。
「うぅ……痛みが消えていく、ありがとうございます」
「ありがとうございます、アオイ様」
「ああ、流石は癒し戦姫のアオイ様じゃ。ありがたや」
などとと、治療を終えるたびにみな口々に感謝を口にする。
「到着が遅れてごめんなさい」
アオイは、それしか言えなかった。
それでも、勇者たちを責める声は、一切聞こえてこなかった。
今、パルジャに残っている人たちは、何も好き好んで残っている訳ではない。
逃げたくても怪我で動けなかったり、家族の行方を捜索していたりと、残らざるを得なかった。
これは例外だが、「行く当てもなしに、今更生まれ故郷を離れとうないわい」と、豪気にも死を覚悟している老人たちが少なからず存在した。
どんな理由にせよ今残っている彼らから見た勇者たちは、まさに救世主だった。
いくら覚悟をしたとしても、やはり死ぬのは怖い。
パルジャの住民たちは、ホット胸を撫でおろしたことだろう。
アオイは、そんなプレッシャーに胸を締めつけられるような思いをしながら救援活動に尽力した。
――――――
勇者たちは、一先ず拠点とした領主の館で休んでいると、物見に行かせていた帝国騎士たちから、魔獣の集団を発見したとの報告を受けた。
その数、八〇〇ほどで、住人の証言と合致する上級魔獣――トロールやワイバーン――の姿を確認したそうだ。
それでも、その殆どがサンドスパイダーやサンドリザードマンといった中級魔獣らしく、勇者たちと近衛騎士団一個大隊がいれば十分対応可能な数だ。
だからといって慢心するほど勇者たちも馬鹿ではない。
「なあ、魔族がいないのにそれは変じゃないか?」
カズマサは、魔人がいないにも拘らず、違う種類の魔獣が一緒に行動していることに気付いたが、そこまでだった。
その場にいないだけで、どこかに隠れており、意図的に魔獣たちを操っているのだろうという結論に達してしまった。
このときの勇者たちは、魔獣が本来の力を取り戻していることを知らなかった。
防衛任務が本来の役割であったが、城壁が崩壊している今、勇者たち一行は、これ以上被害を出さないために討伐へ向かうことにした。
「これ以上、住民に負担を強いてはならん。長旅でみな疲れているところ申し訳ないが、装備を整え、完全に日が暮れた二時間後に出撃しよう」
「いつでも準備はできている」
「俺も大丈夫っすよ」
カズマサの言葉にユウゾウとマサヒロたちは、準備万端でやる気に満ち溢れていた。
「おまえたちにも期待している。だが、無理はするなよ」
「「「はいっ!」」」
カズマサは、リーダーらしくイシアルを見つめながらギーネたちにも声を掛けるのを忘れない。
「回復は私に任せてくださいね」
最後にアオイがそう言い、全員で頷き合った。
早速、近衛騎士団の隊長たちと進軍経路などの作戦を打ち合わせる。
一方、思案顔のアオイは、一歩離れた位置からその様子を眺めていた。
誰しもが予想できなかったように、アオイもまたここまで被害が甚大だとは思ってもいなかった。
復讐は、お預けかしら……と、住人の安全と復讐を天秤に掛けるアオイ。
「ここに康平くんは来ていないみたいだし……先ずは目の前のことに集中しないとっ」
魔王討伐を目指すと言ったコウヘイの言葉を信じたアオイは、魔族領に近いマルーン王国に来ている可能性を考えていた。
しかし、コウヘイは、パルジャとは正反対の南、しかも、サーデン帝国の領地、テレサの冒険者ギルドに居るのだった。
マルーン王国――城塞都市パルジャの惨状は、とても信じられるものではなかった。
見るも無残に打ち破られた城壁、城壁の破片が当たって崩れた建物、焼け焦げて崩れた建物。
そして、いたるところに魔獣により食い散らかされた人であったであろう、おびただしい数の残骸が散乱していた。
建物が燃えたあとの嫌な臭いだけではなく、生臭い血の臭いが漂っており、幾多の戦場を駆け巡った勇者たちでさえ、その光景は耐え難く、みな口を押えて胃の奥底から込み上げる衝動を必死に堪えていた。
それだけ、不条理な暴力によって市街地は凄惨を極めていた。
一一日前、死の砂漠谷の魔獣たちが、マルーン王国を襲っているとの救援依頼を受けたカズマサたち勇者パーティーは、一〇日目にマルーン王国の王都入りを果たしていた。
国王への到着の挨拶もほどほどにし、救援先であるパルジャ――マルーン王国北部最大の城塞都市――へ急いだのだが、遅かった。
そのパルジャは、魔族との戦闘で重要な防衛拠点として厚さ一五メートルの強固な城壁で守られていた。
そして、先月、中級魔族討伐の戦勝祝いで華やかに飾られた美しい街並み。
その双方は、見る影も無く、破壊尽くされていた。
「これは酷いな……」
「ああ……」
カズマサとユウゾウは、この惨状を目の当たりにして眉根を顰めていた。
二人揃ってただただ言葉にならないといった表情で立ち尽くしていた。
マサヒロに至っては、顔面蒼白で何も言えない様子だった。
今や勇者パーティーの一員となった元冒険者三人や帯同してきた帝国兵士もまた然り。
数少ない生存者の話を聞く限りでは、襲ってきたのは魔獣だけで、少数ではあるもののトロールやワイバーンといった上級魔獣もいたという。
その数、約二千の魔獣たちが大挙して押し寄せ、必死の抵抗もむなしく、つい二日前に城門のみならず城壁も打ち破られた。
パルジャ守備隊の三千の王国兵士は、全滅と言っても過言ではないほどに壊滅し、生存者は三〇〇人にも満たなかった。
その奮闘のおかげで魔獣もその数を、千以下に減らしているはずだという。
勇者パーティーは、その討伐が任務。
拠点となるはずだったパルジャは陥落し、兵士もほとんど残っていない。
領主も逃げ出したあとで、それを知った最後の希望の冒険者たちも姿を消した。
勇者たち救援部隊が進むパルジャの目抜き通りには、王国兵、市民を問わず負傷者たちが打ち上げられた魚のように不規則に横たわっていた。
救護施設に納まりきれない負傷者がそんな不衛生な道端に転がっていたのだ。
情報収集をカズマサたちに任せたアオイは、ひたすら魔力が続く限りその怪我人の治療に時間を費やした。
「うぅ……痛みが消えていく、ありがとうございます」
「ありがとうございます、アオイ様」
「ああ、流石は癒し戦姫のアオイ様じゃ。ありがたや」
などとと、治療を終えるたびにみな口々に感謝を口にする。
「到着が遅れてごめんなさい」
アオイは、それしか言えなかった。
それでも、勇者たちを責める声は、一切聞こえてこなかった。
今、パルジャに残っている人たちは、何も好き好んで残っている訳ではない。
逃げたくても怪我で動けなかったり、家族の行方を捜索していたりと、残らざるを得なかった。
これは例外だが、「行く当てもなしに、今更生まれ故郷を離れとうないわい」と、豪気にも死を覚悟している老人たちが少なからず存在した。
どんな理由にせよ今残っている彼らから見た勇者たちは、まさに救世主だった。
いくら覚悟をしたとしても、やはり死ぬのは怖い。
パルジャの住民たちは、ホット胸を撫でおろしたことだろう。
アオイは、そんなプレッシャーに胸を締めつけられるような思いをしながら救援活動に尽力した。
――――――
勇者たちは、一先ず拠点とした領主の館で休んでいると、物見に行かせていた帝国騎士たちから、魔獣の集団を発見したとの報告を受けた。
その数、八〇〇ほどで、住人の証言と合致する上級魔獣――トロールやワイバーン――の姿を確認したそうだ。
それでも、その殆どがサンドスパイダーやサンドリザードマンといった中級魔獣らしく、勇者たちと近衛騎士団一個大隊がいれば十分対応可能な数だ。
だからといって慢心するほど勇者たちも馬鹿ではない。
「なあ、魔族がいないのにそれは変じゃないか?」
カズマサは、魔人がいないにも拘らず、違う種類の魔獣が一緒に行動していることに気付いたが、そこまでだった。
その場にいないだけで、どこかに隠れており、意図的に魔獣たちを操っているのだろうという結論に達してしまった。
このときの勇者たちは、魔獣が本来の力を取り戻していることを知らなかった。
防衛任務が本来の役割であったが、城壁が崩壊している今、勇者たち一行は、これ以上被害を出さないために討伐へ向かうことにした。
「これ以上、住民に負担を強いてはならん。長旅でみな疲れているところ申し訳ないが、装備を整え、完全に日が暮れた二時間後に出撃しよう」
「いつでも準備はできている」
「俺も大丈夫っすよ」
カズマサの言葉にユウゾウとマサヒロたちは、準備万端でやる気に満ち溢れていた。
「おまえたちにも期待している。だが、無理はするなよ」
「「「はいっ!」」」
カズマサは、リーダーらしくイシアルを見つめながらギーネたちにも声を掛けるのを忘れない。
「回復は私に任せてくださいね」
最後にアオイがそう言い、全員で頷き合った。
早速、近衛騎士団の隊長たちと進軍経路などの作戦を打ち合わせる。
一方、思案顔のアオイは、一歩離れた位置からその様子を眺めていた。
誰しもが予想できなかったように、アオイもまたここまで被害が甚大だとは思ってもいなかった。
復讐は、お預けかしら……と、住人の安全と復讐を天秤に掛けるアオイ。
「ここに康平くんは来ていないみたいだし……先ずは目の前のことに集中しないとっ」
魔王討伐を目指すと言ったコウヘイの言葉を信じたアオイは、魔族領に近いマルーン王国に来ている可能性を考えていた。
しかし、コウヘイは、パルジャとは正反対の南、しかも、サーデン帝国の領地、テレサの冒険者ギルドに居るのだった。
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