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第二章 遭遇【精霊の樹海編】
第14話 募る不安
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デミウルゴス神歴八四六年――七月一五日。
三日三晩、降りやまない雨によるせいか、それともダンジョンの魔獣異変によるせいか……
ここテレサの町の目抜き通りを行く人々の足取りは重く、表情は暗い。
カッパーランク以下の冒険者がダンジョン探索禁止になってから、早くも一週間が経とうとしていた。
カッパーランクの冒険者は、一人前といわれるシルバーランクの一つ手前であり、それほど高い能力を必要としない。
それが故、半人前の冒険者を、異変が起こっているダンジョンへ入れないための策でもあった。
但し一言に半人前と捨て置くことも難しい。
それは、シルバーランクへのランクアップ試験には、知識などの筆記試験があることから、読み書きができない者たちにとって、難攻不落の壁となって立ちはだかっているからだ。
そのため、カッパーランク冒険者が全体の半数を占めているのが、識字率の低いこの世界での冒険者事情である。
魔獣相手に文字の読み書きなど関係ないと思われるかもしれないが、シルバーランクからは、要人、商人や旅人などの護衛や遺跡調査といったクエストが増え、ある程度の教養が求められる。
そんなこともあり、戦闘の実力がありながらもカッパーランクに留まらざるを得ないテレサの冒険者たちも足止めをくらい、くだを巻いて酒に興じる外無かった。
そもそも、ここテレサは、ダンジョンが発見される前は、二、三〇〇人ほどの小さな農村で、特に特産物と呼べるほどの珍しいものはなく、貧村といっても過言ではなかった。
それが、ダンジョン発見により、人口千人の町へと発展した。
冒険者ギルドが設置される前からも、クエストへ向かう冒険者たちが休憩のために立ち寄ることはあったが、テレサに冒険者ギルドが設置されたことに因り、急激にその数を増やした。
訪れる冒険者の数が、一〇〇人、二〇〇人と増えれば、人口も五〇〇人、八〇〇人と増えていった。
現在は、住人となっている冒険者も数多くいるが、出入を計算しても五〇〇人近い冒険者が常に滞在していた。
その冒険者が活動しているからこそ賑わいを見せていた目抜き通りも、ダンジョン探索規制により、活動できる冒険者が一〇〇人にも満たなければ、このあり様も想像に難しくないだろう。
一般的な割合からいえば、少なくとも二〇〇人がシルバーランク以上でもおかしくないが、ダンジョンがあるとはいっても、しょせんは帝国の南方の辺境という土地柄のため、有力な冒険者はあまり多くはない。
農作業の合間に、腕に覚えのある若者が、ゴブリンなどの下級魔獣討伐や薬草採取で、生活費の足しを稼いでいる程度だった。
それは、村人にちょっと毛が生えた程度で、冒険者としてのランクは低い。
他の国なら国境を越えて他国の冒険者が移動してくることもあるが、サーデン帝国の南は、交流が禁止されているバステウス連邦王国であるため、それも期待はできない。
だからという訳でもないが、ガーディアンズを難なく捻った、帝都から来たという冒険者に、期待したのだったが……
「今日も閑古鳥が鳴いていますね……」
何とは無しにそう呟いたアリエッタは、待てど暮らせどクエスト受注にやってくる冒険者がいないことに、本日、何度目かわからないため息を漏らした。
ダンジョン探索は当然で、こうも雨が降りしきる中、薬草採取のクエストを受けようという冒険者がいるはずもない。
すると、アリエッタの後方から歩いてきた人物が、
「何を言っている、今日も大繁盛じゃないか」
と、カウンターの中から左側の備え付けの酒場に視線を向けてそう言った。
「マスター、全然面白くないですよ」
その人は、ギルドマスターのラルフだった。
笑いながらそうふざけて言ってくるも、その表情は憔悴しているように、疲労が色濃く出ていた。
「眠れないんですか? もう、五日にもなるんですね……」
「ああ」
ラルフはそれしか言わなかった。
アリエッタも、そう言ってやるせない気持ちになった。
酒場で赤ら顔の冒険者が、楽しそうに酒を飲んでいるように見えて、その表情は暗かった。
コウヘイとファビオのやり取りを大勢の冒険者が目撃していた。
この町きっての冒険者をいとも簡単にねじ伏せたあの冒険者のことを、みな覚えている。
その場にいなかった冒険者でさえその噂を聞いており、そのパーティーにはゴールドランク冒険者がいることも、既に噂になっていた。
そのパーティーの名は、「デビルスレイヤーズ」だ。
目的が明らかなパーティー名の彼らは、ミスリル製のプレートアーマーに身を包んだ大柄な青年がリーダーで、幼さが残りながらも露出が激しい色気たっぷりのダークエルフと、まさに子供としか思えないほど小さなウッドエルフの若き冒険者たち。
そのシルバーランクパーティーが、ダンジョン探索に出たという話で、その日は大盛り上がりだった。
どんな異変が起こっているにせよ、その冒険者が強い魔獣を倒してくれると期待していた。
ダンジョンであるため、一日戻らないことはよくあること。
しかし、それが二日、三日と戻らない日が続き、四日目の昨日もそのパーティーが戻ってくることは無かった。
そのため、カッパーランク以下の冒険者の立ち入り規制を解除できないでいた。
既に、見切りをつけたカッパーランクの冒険者たちが、町をあとにしているという話もちらほら。
実際、テレサの町の商人が出す護衛依頼の人気が急上昇している。
恐らくその冒険者たちは戻ってこないだろう。
護衛依頼は、シルバーランクからが一般的だが、こんな状況であるため、がめつい商人が低い依頼料で済む、カッパーランクの冒険者を募ったのだった。
ギルド内で抜刀した罪として、無償でダンジョン探索の依頼を受けることになったガーディアンズが、三日目に様子を見に行った。
五階層のゴブリンシャーマンを広間で殲滅するも、コウヘイたちデビルスレイヤーズの痕跡を発見することができなかったという。
もしかしたら、その先へ進んで怪我か何かで身動きが取れなくなっているかもしれない、とファビオが言い、昨日からダンジョンに再び潜っていた。
今は、その報告を待つしかない。
「このままではやることが無いので、お茶でも淹れますよ」
「ああ、頼む」
アリエッタは、立ち上がりお茶の準備をするため給茶室へ向かう。
ポットに水を汲みいれ、着火の生活魔法を唱え、ポットを火にかける。
何を考える訳でもなく、壁に背を預け、ポットの水が沸きあがるのを待つ。
すると、受付の方から何やら騒がしい声が聞こえてきた。
「また強い魔獣でも現れたのかしら。ん、違う、これは!」
その騒ぎ声に、色めき立つ声音を感じ、アリエッタは受付の方へ駆け出した。
急いで受付に戻って、人だかりができた中心を見ると、雨で全身ずぶ濡れの四人組が立っていた。
――――――
時は少し遡り、四日前の七月一一日。
空気が変わった――そう感じたコウヘイは、恐る恐る目を開けた。
転移魔法陣の光が微かに残っており、それが照らす木々を見やりダンジョンの外だということだけはわかった。
やがて、微かに残っていた魔法陣の光が消えて、辺りを闇が包み込んだ。
既に夜のようだった――――
「ここは……」
「トーチ」
イルマがトーチの魔法を唱え、辺りをその光が照らしだす。
「うむ、テレサの森ではないようじゃのう」
「うーん、なんか懐かしい感じ。確かにテレサの森じゃないね」
何をもってイルマがそう判断したのかわからないけど、エルサもそれに同意していた。
「ど、どうしてわかるのさ?」
僕だけ取り残された気分になり、その理由を尋ねた。
「そんなの簡単じゃよ。テレサの森に、こんな幹の木があったか?」
イルマの指摘に、辺りに立ち並ぶ巨木を見て唾を飲み込む。
どの木を見ても、三人が手を広げても足りないほど太く、見上げても先が闇に飲み込まれて見えないほど高かった。
外にいるはずなのに空が見えず、本当に外にいるのか疑わしくなるほどだった。
「た、確かに……それじゃあ、ここはどこかわかる?」
テレサの森ではないことに納得しつつも、それならどこなのだ、と怖くなった。
「恐らくは、精霊の樹海じゃろうな。しかも、最深部じゃろう」
「精霊の樹海? 最深部?」
イルマの言葉に思い当たるものが何もなく、僕はそのまま言葉を繰り返した。
「ヒューマンたちの間では、エルフの大森林って言った方が有名かも。最深部っていうのは、そのまま一番奥の意味で、精霊王が住まうと言い伝えられている場所……まあ、そんなの信用ならないけどね」
今度は、エルサが説明してくれた。
意味深な言葉を残し、その表情は少し悲しそうに歪んでいた。
「そ、それってヘヴンスマウンテンを越えた大森林のこと?」
「うん、そうだよー」
いつの間にかいつもの明るいエルサに戻っていた。
現在地を理解できたのはいいけど、そんな遠くに飛ばされたってことだろうか、と僕は、転移魔法陣の凄さに驚きを隠せない。
「それにしても、この感じは懐かしいなあ。みんな元気にしてるかなー」
案外、生まれ故郷が近いのかもしれない。
エルサは、僕とは違い大分落ち着いた様子でそんなことを言っている。
「どうしよう。これって戻れるのかな?」
場所がわかったけど、今はダンジョン調査依頼の最中で、ラルフさんたちに報告をしなければならない。
五階層でゴブリンジェネラルが出たとなると、その先の階層でどんな魔獣が出現するかわかったもんじゃない。
下手をすると、一五階層に出現するといわれているリトルドラゴンが、もっと浅い階層で待ち構えている可能性だって捨てきれない。
ファビオさんたちにも調査依頼をしたとアリエッタさんが言っていたのを思い出して、僕は焦る。
早くこの情報を伝えないと多くの死傷者が出てしまう。
「ねえ、イルマ――」
僕が、早く帰還する方法がないか相談すべくイルマに声を掛けたとき。
ガサゴソ、ガサゴソっと、何かが蠢く音が聞こえてきた。
「しっ」
イルマが、口元で指を立てる仕草をして、僕の言葉を制止した。
――――突如聞こえた音に、三人の間に緊張が走った。
特に、精霊の樹海にはじめて来たコウヘイは、中腰になり、来る何かに備えるべく、メイスへと手を伸ばし、いつでも対応できるように身構えるのだった。
三日三晩、降りやまない雨によるせいか、それともダンジョンの魔獣異変によるせいか……
ここテレサの町の目抜き通りを行く人々の足取りは重く、表情は暗い。
カッパーランク以下の冒険者がダンジョン探索禁止になってから、早くも一週間が経とうとしていた。
カッパーランクの冒険者は、一人前といわれるシルバーランクの一つ手前であり、それほど高い能力を必要としない。
それが故、半人前の冒険者を、異変が起こっているダンジョンへ入れないための策でもあった。
但し一言に半人前と捨て置くことも難しい。
それは、シルバーランクへのランクアップ試験には、知識などの筆記試験があることから、読み書きができない者たちにとって、難攻不落の壁となって立ちはだかっているからだ。
そのため、カッパーランク冒険者が全体の半数を占めているのが、識字率の低いこの世界での冒険者事情である。
魔獣相手に文字の読み書きなど関係ないと思われるかもしれないが、シルバーランクからは、要人、商人や旅人などの護衛や遺跡調査といったクエストが増え、ある程度の教養が求められる。
そんなこともあり、戦闘の実力がありながらもカッパーランクに留まらざるを得ないテレサの冒険者たちも足止めをくらい、くだを巻いて酒に興じる外無かった。
そもそも、ここテレサは、ダンジョンが発見される前は、二、三〇〇人ほどの小さな農村で、特に特産物と呼べるほどの珍しいものはなく、貧村といっても過言ではなかった。
それが、ダンジョン発見により、人口千人の町へと発展した。
冒険者ギルドが設置される前からも、クエストへ向かう冒険者たちが休憩のために立ち寄ることはあったが、テレサに冒険者ギルドが設置されたことに因り、急激にその数を増やした。
訪れる冒険者の数が、一〇〇人、二〇〇人と増えれば、人口も五〇〇人、八〇〇人と増えていった。
現在は、住人となっている冒険者も数多くいるが、出入を計算しても五〇〇人近い冒険者が常に滞在していた。
その冒険者が活動しているからこそ賑わいを見せていた目抜き通りも、ダンジョン探索規制により、活動できる冒険者が一〇〇人にも満たなければ、このあり様も想像に難しくないだろう。
一般的な割合からいえば、少なくとも二〇〇人がシルバーランク以上でもおかしくないが、ダンジョンがあるとはいっても、しょせんは帝国の南方の辺境という土地柄のため、有力な冒険者はあまり多くはない。
農作業の合間に、腕に覚えのある若者が、ゴブリンなどの下級魔獣討伐や薬草採取で、生活費の足しを稼いでいる程度だった。
それは、村人にちょっと毛が生えた程度で、冒険者としてのランクは低い。
他の国なら国境を越えて他国の冒険者が移動してくることもあるが、サーデン帝国の南は、交流が禁止されているバステウス連邦王国であるため、それも期待はできない。
だからという訳でもないが、ガーディアンズを難なく捻った、帝都から来たという冒険者に、期待したのだったが……
「今日も閑古鳥が鳴いていますね……」
何とは無しにそう呟いたアリエッタは、待てど暮らせどクエスト受注にやってくる冒険者がいないことに、本日、何度目かわからないため息を漏らした。
ダンジョン探索は当然で、こうも雨が降りしきる中、薬草採取のクエストを受けようという冒険者がいるはずもない。
すると、アリエッタの後方から歩いてきた人物が、
「何を言っている、今日も大繁盛じゃないか」
と、カウンターの中から左側の備え付けの酒場に視線を向けてそう言った。
「マスター、全然面白くないですよ」
その人は、ギルドマスターのラルフだった。
笑いながらそうふざけて言ってくるも、その表情は憔悴しているように、疲労が色濃く出ていた。
「眠れないんですか? もう、五日にもなるんですね……」
「ああ」
ラルフはそれしか言わなかった。
アリエッタも、そう言ってやるせない気持ちになった。
酒場で赤ら顔の冒険者が、楽しそうに酒を飲んでいるように見えて、その表情は暗かった。
コウヘイとファビオのやり取りを大勢の冒険者が目撃していた。
この町きっての冒険者をいとも簡単にねじ伏せたあの冒険者のことを、みな覚えている。
その場にいなかった冒険者でさえその噂を聞いており、そのパーティーにはゴールドランク冒険者がいることも、既に噂になっていた。
そのパーティーの名は、「デビルスレイヤーズ」だ。
目的が明らかなパーティー名の彼らは、ミスリル製のプレートアーマーに身を包んだ大柄な青年がリーダーで、幼さが残りながらも露出が激しい色気たっぷりのダークエルフと、まさに子供としか思えないほど小さなウッドエルフの若き冒険者たち。
そのシルバーランクパーティーが、ダンジョン探索に出たという話で、その日は大盛り上がりだった。
どんな異変が起こっているにせよ、その冒険者が強い魔獣を倒してくれると期待していた。
ダンジョンであるため、一日戻らないことはよくあること。
しかし、それが二日、三日と戻らない日が続き、四日目の昨日もそのパーティーが戻ってくることは無かった。
そのため、カッパーランク以下の冒険者の立ち入り規制を解除できないでいた。
既に、見切りをつけたカッパーランクの冒険者たちが、町をあとにしているという話もちらほら。
実際、テレサの町の商人が出す護衛依頼の人気が急上昇している。
恐らくその冒険者たちは戻ってこないだろう。
護衛依頼は、シルバーランクからが一般的だが、こんな状況であるため、がめつい商人が低い依頼料で済む、カッパーランクの冒険者を募ったのだった。
ギルド内で抜刀した罪として、無償でダンジョン探索の依頼を受けることになったガーディアンズが、三日目に様子を見に行った。
五階層のゴブリンシャーマンを広間で殲滅するも、コウヘイたちデビルスレイヤーズの痕跡を発見することができなかったという。
もしかしたら、その先へ進んで怪我か何かで身動きが取れなくなっているかもしれない、とファビオが言い、昨日からダンジョンに再び潜っていた。
今は、その報告を待つしかない。
「このままではやることが無いので、お茶でも淹れますよ」
「ああ、頼む」
アリエッタは、立ち上がりお茶の準備をするため給茶室へ向かう。
ポットに水を汲みいれ、着火の生活魔法を唱え、ポットを火にかける。
何を考える訳でもなく、壁に背を預け、ポットの水が沸きあがるのを待つ。
すると、受付の方から何やら騒がしい声が聞こえてきた。
「また強い魔獣でも現れたのかしら。ん、違う、これは!」
その騒ぎ声に、色めき立つ声音を感じ、アリエッタは受付の方へ駆け出した。
急いで受付に戻って、人だかりができた中心を見ると、雨で全身ずぶ濡れの四人組が立っていた。
――――――
時は少し遡り、四日前の七月一一日。
空気が変わった――そう感じたコウヘイは、恐る恐る目を開けた。
転移魔法陣の光が微かに残っており、それが照らす木々を見やりダンジョンの外だということだけはわかった。
やがて、微かに残っていた魔法陣の光が消えて、辺りを闇が包み込んだ。
既に夜のようだった――――
「ここは……」
「トーチ」
イルマがトーチの魔法を唱え、辺りをその光が照らしだす。
「うむ、テレサの森ではないようじゃのう」
「うーん、なんか懐かしい感じ。確かにテレサの森じゃないね」
何をもってイルマがそう判断したのかわからないけど、エルサもそれに同意していた。
「ど、どうしてわかるのさ?」
僕だけ取り残された気分になり、その理由を尋ねた。
「そんなの簡単じゃよ。テレサの森に、こんな幹の木があったか?」
イルマの指摘に、辺りに立ち並ぶ巨木を見て唾を飲み込む。
どの木を見ても、三人が手を広げても足りないほど太く、見上げても先が闇に飲み込まれて見えないほど高かった。
外にいるはずなのに空が見えず、本当に外にいるのか疑わしくなるほどだった。
「た、確かに……それじゃあ、ここはどこかわかる?」
テレサの森ではないことに納得しつつも、それならどこなのだ、と怖くなった。
「恐らくは、精霊の樹海じゃろうな。しかも、最深部じゃろう」
「精霊の樹海? 最深部?」
イルマの言葉に思い当たるものが何もなく、僕はそのまま言葉を繰り返した。
「ヒューマンたちの間では、エルフの大森林って言った方が有名かも。最深部っていうのは、そのまま一番奥の意味で、精霊王が住まうと言い伝えられている場所……まあ、そんなの信用ならないけどね」
今度は、エルサが説明してくれた。
意味深な言葉を残し、その表情は少し悲しそうに歪んでいた。
「そ、それってヘヴンスマウンテンを越えた大森林のこと?」
「うん、そうだよー」
いつの間にかいつもの明るいエルサに戻っていた。
現在地を理解できたのはいいけど、そんな遠くに飛ばされたってことだろうか、と僕は、転移魔法陣の凄さに驚きを隠せない。
「それにしても、この感じは懐かしいなあ。みんな元気にしてるかなー」
案外、生まれ故郷が近いのかもしれない。
エルサは、僕とは違い大分落ち着いた様子でそんなことを言っている。
「どうしよう。これって戻れるのかな?」
場所がわかったけど、今はダンジョン調査依頼の最中で、ラルフさんたちに報告をしなければならない。
五階層でゴブリンジェネラルが出たとなると、その先の階層でどんな魔獣が出現するかわかったもんじゃない。
下手をすると、一五階層に出現するといわれているリトルドラゴンが、もっと浅い階層で待ち構えている可能性だって捨てきれない。
ファビオさんたちにも調査依頼をしたとアリエッタさんが言っていたのを思い出して、僕は焦る。
早くこの情報を伝えないと多くの死傷者が出てしまう。
「ねえ、イルマ――」
僕が、早く帰還する方法がないか相談すべくイルマに声を掛けたとき。
ガサゴソ、ガサゴソっと、何かが蠢く音が聞こえてきた。
「しっ」
イルマが、口元で指を立てる仕草をして、僕の言葉を制止した。
――――突如聞こえた音に、三人の間に緊張が走った。
特に、精霊の樹海にはじめて来たコウヘイは、中腰になり、来る何かに備えるべく、メイスへと手を伸ばし、いつでも対応できるように身構えるのだった。
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