狩野岑信 元禄二刀流絵巻

仁獅寺永雪

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章間 改名と新顔の紹介

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 第八十四章で主人公の改名というイベントが発生。ひとつの名前で通した方が分かりやすいかもしれないが、名は体を表すという。少し悩んだ末、改名させた次第。

 余談だが、江戸時代の古地図を見ると大名屋敷にやたら「松平」が多い。これは家康が天下統一後に松平姓(源氏)を乱発したため。お陰でいちいち家紋と官位から調べ直さなければならない。もっとも、それを先にやったのは秀吉で、麾下の大名たちに羽柴姓(豊臣氏)を与えまくった。家康も豊臣政権下では羽柴内大臣豊臣朝臣家康と名乗らされていたはずだが、これは徳川家にとっては黒歴史に違いなく、長い江戸時代の間にほぼなかったことにされた。

 一方、信長は、政略上、婚姻や養子縁組、或いは人質を取るということは盛んに行ったものの、家臣に自分と同じ織田姓(平氏)を名乗らせて喜ぶ趣味はなかったようである。らしいと言えばらしいか。

 ともかく、物語も終盤。狩野吉之助改め松本友盛は、大典侍局が張り巡らす陰謀から主君を守ることが出来るのか。宿敵・新見典膳との決着は? そして彼は、絵師として如何なる境地にたどり着くであろうか。

 物語を進める前に、改名、呼称の変更、新顔の主なところを紹介しておこう。


◆ 改名する者

松本友盛(まつもと・とももり)
 本作の主人公、狩野吉之助から改名。主君が将軍世嗣となったことで甲府藩士から直参旗本に転身。将軍世嗣の親衛隊長的な武官職と同時に幕府御用絵師のまとめ役に任じられ、江戸画壇への復帰を果たす。「狩野岑信」は筆名。号は隨川。

松本志乃(まつもと・しの)
 友盛の妻、元狩野志乃。夫が旗本に出世したことで彼女も「奥様」と呼ばれる身分に。

松本鈴(まつもと・りん)
 友盛・志乃夫妻の養女、旗本松本家の跡取り娘。元おりん。友盛にとって絵画の一番弟子でもある。筆名は狩野鈴女。

島田時龍(しまだ・ときたつ)
 島田竜之進から改名。友盛との相棒関係は旗本になっても継続。妻・美咲、長男・竜太郎、長女・美雪の四人家族。

徳川家宣(とくがわ・いえのぶ)
 将軍世嗣、友盛・時龍の主君。元の甲府藩主・松平綱豊。友盛など元甲府藩の者達(甲府派)からは「上様」、他の大名や幕臣からは「大納言様」と呼ばれる。

◆ 呼称のみ変わる者

近衛熙子(このえ・ひろこ)
 家宣の正室。将軍世嗣となった夫と共に江戸城に居を移す。西之丸大奥の主となり、「御簾中様」と呼ばれる。

間部詮房(まなべ・あきふさ)
 家宣の片腕。甲府藩用人から旗本、さらに大名へと驚異的なスピード出世を遂げる。与えられた官位から、「越前」又は「越前守様」と呼ばれる。

駒木左門(こまき・さもん)
 友盛の元配下。最下級ながら旗本となったことで、通称を「勇佑」から「左門」に変更。念願叶い幕府勘定所で勤務することに。

米田金七(よねだ・きんしち)
 旗本松本家の家臣、元餅つき金ちゃん。お鈴に次ぐ友盛の二番弟子。後の伊予松山藩御用絵師・豊田隨園。

◆ 新たに登場する者(江戸城内)

徳川竹子(とくがわ・たけこ)
 通称・竹姫。目の覚めるほどの美少女。亡き鶴姫の生まれ変わりと認定され将軍綱吉の養女となる。下級公家の娘との触れ込みだが・・・。

信如(しんじょ)
 竹姫に付き従う盲目の少女。竹姫を守り育てた乳母の子という話だが・・・。

小笠原長重(おがさわら・ながしげ)
 西之丸老中。長年柳沢吉保の幕政運営に協力してきた古参の重臣。本丸老中から横滑りで将軍世嗣の相談役となる。官位は佐渡守。

井上正岑(いのうえ・まさみね)
 御用絵師の支配役を務める中堅の若年寄。幕府内の勢力図が変化する中、抜け目なく老中への昇進を狙っている。官位は大和守。

◆ 新たに登場する者(御用絵師)

狩野常信(かのう・つねのぶ)
 友盛の実父。竹川町狩野家の二代目当主。狩野探幽と並ぶ前期狩野派を代表する名手。一方、政治工作には無関心で住吉派の台頭を許してきた。号は養朴。

狩野周信(かのう・ちかのぶ)
 友盛の同母兄、竹川町家の跡継ぎ。若年時より弟の友盛とは犬猿の仲。号は如川。

狩野吉之丞(かのう・きちのじょう)
 友盛の異母弟(常信の後妻の子)。素直な好青年。後の隨川甫信。

狩野主信(かのう・ゆきのぶ)
 中橋狩野宗家の二代目。初代安信の孫。責任感の強いまとめ役タイプ。号は永叔。

狩野守政(かのう・もりまさ)
 鍛冶橋狩野家の二代目。江戸画壇の覇者・狩野探幽が晩年に得た跡取り息子。諸事鷹揚なお坊ちゃん気質で、公私ともに分家である駿河台家の洞春福信を頼りにしている。号は探信。

住吉広保(すみよし・ひろやす)
 大和絵系御用絵師・住吉家の二代目。狩野派に先んじて江戸幕府最初の奥絵師となった父(住吉具慶)の後釜を狙う野心家。
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