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第84章 松本友盛
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「吉之助、一度甲府まで行ってきてくれ」
「御下命とあらば」
江戸城西之丸の御殿は本丸のそれと比べると半分ほどの面積しかないが、そもそも比べる対象が非常識なほど大きいので、半分と言っても並の大名屋敷の数倍ある。本丸同様、表、中奥、大奥の三区画から成っている。
今、表の大広間に面した庭園の奥、池のほとりで鯉に餌をやっているのが新しい西之丸の主、すなわち、先日まで松平綱豊と呼ばれていた人である。甲府藩主から将軍世嗣となった。それにより徳川家宣と改名。官位も従三位権中納言から従二位権大納言に上がった。
西之丸入城後、その日の内に諸大名からの挨拶を受け、翌日からは幕府各部門からの報告が開始された。
家宣は綱吉と違い、自ら政の先頭に立つ覚悟である。従って、幕閣(老中・若年寄)だけでなく、実務の責任者である奉行レベルにまで報告を求めた。久しぶりに最高権力者に直接物申せる機会だ。幕府の官僚たちは張り切って報告している。
しかし、勘定奉行や南北の町奉行だけではない。江戸幕府の奉行職は「奉行」と付かない同レベルの役職まで含めれば四十を超す。家宣の傍らに片膝を付いて控える狩野吉之助は、主君の初志貫徹の姿勢を喜びつつ、その疲れた表情が気になった。
「殿。いえ、上様。そろそろ御前様を、あっ、いえ、御簾中様をお呼びしては如何でしょうか」
「ふふ。吉之助、そなたもまだ慣れんか」
「申し訳ございません」
「よいよい」
西之丸入城の前日、用人の間部から藩中に対して指示があった。明日から主君のことは「上様」、正室・近衛熙子のことは「御簾中様」と呼ぶようにと。
「しかしなぁ。お照を呼ぶにはまだ・・・」
西之丸は長い間空き家であった。留守居役はいたが常駐ではなく、細かく見ると荒れた部分も多い。家宣としては、最愛の熙子を万全な状態で西之丸大奥に迎え入れたい。一方で側室を先に呼ぶなど思いもよらぬ。よって、家宣は慣れない場所で男の近習だけに囲まれて過ごしているのだ。
「恐れながら申し上げます。御簾中様のご気性を思えば、少々行き届かぬところがあろうとも、上様と共に過ごせることをお喜びになりましょう」
「うむ、そうか。そうだな。では、吉之助。そなたと竜之進で迎えに行ってくれ。そうだ。そなた達も今夜は浜屋敷でゆっくりして参れ」
家宣と共に西之丸に入った甲府藩士は交替で浜屋敷に帰っているが、主君の身辺警護を任されている吉之助と竜之進はずっと泊まり込んでいたのだ。
「恐れ入ります。それで上様、甲府に行けとはどの様な御用で?」
「ああ、そうだ。そのことよ」
家宣は鯉の餌の入った竹籠を近習に渡すと、池越しに西の方に目をやって言った。
「予は藩主就任以来、結局、一度も甲府まで行かなんだ。行かぬまま甲府藩は解散となり、一旦天領となった上、柳沢家に引き渡される。事務的なことは城代家老以下に任せておけば済むが、江戸の事情を知らぬ下の者や領民たちはさぞ不安であろう。やはり予の名代を遣わし、丁寧に説明したい。また、これまで仕えてくれたことに対し、感謝の気持ちを伝えたいのだ」
「それは結構なお考え。されど、上様のご名代となると、私如きでは荷が勝ち過ぎます。やはり間部様に・・・」
「いや。一日も早い幕政掌握のため、詮房には江戸に居てもらわねば困る」
「確かに」
「では」とまで言ったが、吉之助はそこで言葉を切った。家宣には旗本身分の越智吉忠という同母の弟がいる。しかし、彼が使える男なら端から使っているだろう。そんなことを考えていると、家宣が突然驚くべきことを言い出した。
「そこでじゃ、予は考えた。吉之助、そなたに松平の姓を与えようと思う」
「はっ?!」
「今日からは松平吉之助、いや、吉之助では軽いな。何がよいか。そうだ、友盛とせよ。松平友盛と名乗るがよい」
吉之助は思わずその場に平伏してしまった。
「め、滅相もない。余りに恐れ多きことにて」
「遠慮するな。そちはこれまでよく働いてくれた。恩賞じゃ、恩賞。此度、甲府藩士は全員幕臣となる。しかし、江戸と国元合わせて二千人以上(足軽小者を含めれば一万人超)おるからな。それぞれの処遇を決めるには時を要する。家禄や役職となると勝手に決めるわけにも行かぬが、名を与えるだけなら予の一存でよかろう。恩賞の前渡しと思ってくれ」
「ありがたき幸せ、とは思いますが、やはり・・・」
そこに間部がやって来た。午後の報告会が間もなく始まる、と。この男だけはどんな激務の中にあっても、常と変わらぬ端正な姿と完璧な立ち居振る舞いである。
その日の夕方、浜屋敷御長屋の狩野家に島田家の面々も集い、簡単な会食となった。
「・・・そういうことで、上様から名を賜り、私は今日から松本友盛と相成った」
妻の志乃とおりんが揃って首を傾げる。
「まつもと、とももり?」
「松平じゃなく松本? 黙って松平を貰っておけばいいのに」
「松平は将軍家御一門の姓だぞ。そんなものを下手に頂いてみろ。大変なことになる」
「しかし、松本って、何か普通だなぁ」
「失礼な。松本は甲斐の名族で、元をたどれば武田信玄公と同じく甲斐源氏の祖・新羅三郎義光に行き着くんだ。少し前に途絶えていて、間部様が、この機会に再興してはどうか、とな。上様もご了承なされた」
戦国時代、織田信長が将来の九州征伐を見据えて、重臣の丹羽長秀を惟住、明智光秀を惟任と改姓させたことは有名な話である。また、幕末、官軍の中山道方面軍の参謀に任じられた土佐藩士・乾退助は、武田二十四将の一人・板垣信方の遠い子孫であったことから板垣正形と名乗った。現代人にはピンと来ない話だが、土地の人心を得るには有効な手段だったのだろう。
次いで吉之助改め友盛が膳を脇にどけ、空いたスペースに一枚の紙を広げた。
「竜さん、これは上様から島田家に対して賜ったものだよ」
竜之進が覗き込む。長女の美雪を膝の上に乗せているので首だけ伸ばして。
「時龍。ときたつ、ですか。こっちは名前だけか」
「そうだ。島田家は元々が甲斐の名家だろ。諱だけでよかろう、ということだ。おっ、竜太郎殿、駄目駄目。これは上様のご直筆なんだぞ」
すると、逆側から竜之進の妻・美咲が素早く手を伸ばして紙を取り上げ、恭しく押し頂いた。竜之進も軽く頭を下げる。
「家臣冥利に尽きるな。上様は最早実質的な天下人。我らのことなんて忘れてしまうんじゃないかと思ったけど、大丈夫そうだ」
「当たり前だ」
「しかし、もう吉之助さんと呼べないでしょ。友盛さん、でいいですか」
「好きに呼んでくれ。そっちは竜さんが龍さんになるだけか」
「ですね」
そこで友盛は自分の妻の顔を改めて見た。友盛は元々婿養子である。同じ狩野姓でも、今の家は戦国末期に甲斐に土着し、絵画とは無関係に生き抜いてきた家で、真の主は跡取り娘の志乃なのだ。先祖代々の姓を捨てることに抵抗はないだろうか。
しかし、それは杞憂だった。彼女は実に柔軟で、かつ、現実的な思考の持ち主であった。
「お名前も大事ですけど、もっと大事なことがあるでしょう? お二人とも、ご身分やお禄はどうなるのですか」
「恐らく、私と龍さんは旗本だな。家禄は、二、三百石かな」
「そうですね。千石と言いたいけど、周囲との兼ね合いもあるから、そんなところでしょう」
「御家人ではなくお旗本に? 本当ですか」と、志乃が目を丸くする。
「凄いこと?」
ぴんと来ていないおりんに美咲が説明する。
「ええ、凄いことです。お旗本は将軍様と直にお会いすることが出来るのです。格としてはお大名と一緒で、お禄の多寡にかかわらず、お殿様と呼ばれる身分なのですよ」
「へえ、先生と竜の字がお殿様か。でもさ、長屋住まいのお殿様ってのも、何だか可笑しいや」
すると、志乃がおりんの膝を軽くはたいた。
「何という言い草ですか。あなたは我が家の養女になるのですよ。つまり、お旗本のお姫様になるのです。そんな乱暴な言葉遣いのお姫様がいますか。これからは厳しくしないといけませんね」
「ええっ、勘弁してよ」
狩野吉之助改め松本友盛、そして、島田竜之進改め島田時龍。両名は直参旗本三百石、大番組頭並西之丸付使番という見るからに中間管理職、しかし、誰にも将軍世嗣の側近と分かる仮の身分役職を与えられて甲府に赴くことになった。
一方、間部詮房のことである。彼だけは正規の人事として、いきなり旗本三千五百石、西之丸書院番番頭となった。書院番は本丸では将軍、西之丸では将軍世嗣の身辺を護るスーパーエリート部隊。間部に武官職は似合わないが、この人事は家宣が最も信頼する者が誰であるかを内外に示す政治的なものであった。
また、間部には併せて従五位下越前守の官位も授けられた。この後、彼を大名とし、さらに幕閣として登用する布石である。これも既定路線だが、幕府内には、新たな側近政治への懸念を生じる結果となった。
人は現状に満足しない。新たな権力は新たな争いを生む。そして、権力が大きくなればなるほど争いも大きくなる。松本友盛と島田時龍の両名は、好むと好まざると、そうした争いの渦に巻き込まれて行くのである。
「御下命とあらば」
江戸城西之丸の御殿は本丸のそれと比べると半分ほどの面積しかないが、そもそも比べる対象が非常識なほど大きいので、半分と言っても並の大名屋敷の数倍ある。本丸同様、表、中奥、大奥の三区画から成っている。
今、表の大広間に面した庭園の奥、池のほとりで鯉に餌をやっているのが新しい西之丸の主、すなわち、先日まで松平綱豊と呼ばれていた人である。甲府藩主から将軍世嗣となった。それにより徳川家宣と改名。官位も従三位権中納言から従二位権大納言に上がった。
西之丸入城後、その日の内に諸大名からの挨拶を受け、翌日からは幕府各部門からの報告が開始された。
家宣は綱吉と違い、自ら政の先頭に立つ覚悟である。従って、幕閣(老中・若年寄)だけでなく、実務の責任者である奉行レベルにまで報告を求めた。久しぶりに最高権力者に直接物申せる機会だ。幕府の官僚たちは張り切って報告している。
しかし、勘定奉行や南北の町奉行だけではない。江戸幕府の奉行職は「奉行」と付かない同レベルの役職まで含めれば四十を超す。家宣の傍らに片膝を付いて控える狩野吉之助は、主君の初志貫徹の姿勢を喜びつつ、その疲れた表情が気になった。
「殿。いえ、上様。そろそろ御前様を、あっ、いえ、御簾中様をお呼びしては如何でしょうか」
「ふふ。吉之助、そなたもまだ慣れんか」
「申し訳ございません」
「よいよい」
西之丸入城の前日、用人の間部から藩中に対して指示があった。明日から主君のことは「上様」、正室・近衛熙子のことは「御簾中様」と呼ぶようにと。
「しかしなぁ。お照を呼ぶにはまだ・・・」
西之丸は長い間空き家であった。留守居役はいたが常駐ではなく、細かく見ると荒れた部分も多い。家宣としては、最愛の熙子を万全な状態で西之丸大奥に迎え入れたい。一方で側室を先に呼ぶなど思いもよらぬ。よって、家宣は慣れない場所で男の近習だけに囲まれて過ごしているのだ。
「恐れながら申し上げます。御簾中様のご気性を思えば、少々行き届かぬところがあろうとも、上様と共に過ごせることをお喜びになりましょう」
「うむ、そうか。そうだな。では、吉之助。そなたと竜之進で迎えに行ってくれ。そうだ。そなた達も今夜は浜屋敷でゆっくりして参れ」
家宣と共に西之丸に入った甲府藩士は交替で浜屋敷に帰っているが、主君の身辺警護を任されている吉之助と竜之進はずっと泊まり込んでいたのだ。
「恐れ入ります。それで上様、甲府に行けとはどの様な御用で?」
「ああ、そうだ。そのことよ」
家宣は鯉の餌の入った竹籠を近習に渡すと、池越しに西の方に目をやって言った。
「予は藩主就任以来、結局、一度も甲府まで行かなんだ。行かぬまま甲府藩は解散となり、一旦天領となった上、柳沢家に引き渡される。事務的なことは城代家老以下に任せておけば済むが、江戸の事情を知らぬ下の者や領民たちはさぞ不安であろう。やはり予の名代を遣わし、丁寧に説明したい。また、これまで仕えてくれたことに対し、感謝の気持ちを伝えたいのだ」
「それは結構なお考え。されど、上様のご名代となると、私如きでは荷が勝ち過ぎます。やはり間部様に・・・」
「いや。一日も早い幕政掌握のため、詮房には江戸に居てもらわねば困る」
「確かに」
「では」とまで言ったが、吉之助はそこで言葉を切った。家宣には旗本身分の越智吉忠という同母の弟がいる。しかし、彼が使える男なら端から使っているだろう。そんなことを考えていると、家宣が突然驚くべきことを言い出した。
「そこでじゃ、予は考えた。吉之助、そなたに松平の姓を与えようと思う」
「はっ?!」
「今日からは松平吉之助、いや、吉之助では軽いな。何がよいか。そうだ、友盛とせよ。松平友盛と名乗るがよい」
吉之助は思わずその場に平伏してしまった。
「め、滅相もない。余りに恐れ多きことにて」
「遠慮するな。そちはこれまでよく働いてくれた。恩賞じゃ、恩賞。此度、甲府藩士は全員幕臣となる。しかし、江戸と国元合わせて二千人以上(足軽小者を含めれば一万人超)おるからな。それぞれの処遇を決めるには時を要する。家禄や役職となると勝手に決めるわけにも行かぬが、名を与えるだけなら予の一存でよかろう。恩賞の前渡しと思ってくれ」
「ありがたき幸せ、とは思いますが、やはり・・・」
そこに間部がやって来た。午後の報告会が間もなく始まる、と。この男だけはどんな激務の中にあっても、常と変わらぬ端正な姿と完璧な立ち居振る舞いである。
その日の夕方、浜屋敷御長屋の狩野家に島田家の面々も集い、簡単な会食となった。
「・・・そういうことで、上様から名を賜り、私は今日から松本友盛と相成った」
妻の志乃とおりんが揃って首を傾げる。
「まつもと、とももり?」
「松平じゃなく松本? 黙って松平を貰っておけばいいのに」
「松平は将軍家御一門の姓だぞ。そんなものを下手に頂いてみろ。大変なことになる」
「しかし、松本って、何か普通だなぁ」
「失礼な。松本は甲斐の名族で、元をたどれば武田信玄公と同じく甲斐源氏の祖・新羅三郎義光に行き着くんだ。少し前に途絶えていて、間部様が、この機会に再興してはどうか、とな。上様もご了承なされた」
戦国時代、織田信長が将来の九州征伐を見据えて、重臣の丹羽長秀を惟住、明智光秀を惟任と改姓させたことは有名な話である。また、幕末、官軍の中山道方面軍の参謀に任じられた土佐藩士・乾退助は、武田二十四将の一人・板垣信方の遠い子孫であったことから板垣正形と名乗った。現代人にはピンと来ない話だが、土地の人心を得るには有効な手段だったのだろう。
次いで吉之助改め友盛が膳を脇にどけ、空いたスペースに一枚の紙を広げた。
「竜さん、これは上様から島田家に対して賜ったものだよ」
竜之進が覗き込む。長女の美雪を膝の上に乗せているので首だけ伸ばして。
「時龍。ときたつ、ですか。こっちは名前だけか」
「そうだ。島田家は元々が甲斐の名家だろ。諱だけでよかろう、ということだ。おっ、竜太郎殿、駄目駄目。これは上様のご直筆なんだぞ」
すると、逆側から竜之進の妻・美咲が素早く手を伸ばして紙を取り上げ、恭しく押し頂いた。竜之進も軽く頭を下げる。
「家臣冥利に尽きるな。上様は最早実質的な天下人。我らのことなんて忘れてしまうんじゃないかと思ったけど、大丈夫そうだ」
「当たり前だ」
「しかし、もう吉之助さんと呼べないでしょ。友盛さん、でいいですか」
「好きに呼んでくれ。そっちは竜さんが龍さんになるだけか」
「ですね」
そこで友盛は自分の妻の顔を改めて見た。友盛は元々婿養子である。同じ狩野姓でも、今の家は戦国末期に甲斐に土着し、絵画とは無関係に生き抜いてきた家で、真の主は跡取り娘の志乃なのだ。先祖代々の姓を捨てることに抵抗はないだろうか。
しかし、それは杞憂だった。彼女は実に柔軟で、かつ、現実的な思考の持ち主であった。
「お名前も大事ですけど、もっと大事なことがあるでしょう? お二人とも、ご身分やお禄はどうなるのですか」
「恐らく、私と龍さんは旗本だな。家禄は、二、三百石かな」
「そうですね。千石と言いたいけど、周囲との兼ね合いもあるから、そんなところでしょう」
「御家人ではなくお旗本に? 本当ですか」と、志乃が目を丸くする。
「凄いこと?」
ぴんと来ていないおりんに美咲が説明する。
「ええ、凄いことです。お旗本は将軍様と直にお会いすることが出来るのです。格としてはお大名と一緒で、お禄の多寡にかかわらず、お殿様と呼ばれる身分なのですよ」
「へえ、先生と竜の字がお殿様か。でもさ、長屋住まいのお殿様ってのも、何だか可笑しいや」
すると、志乃がおりんの膝を軽くはたいた。
「何という言い草ですか。あなたは我が家の養女になるのですよ。つまり、お旗本のお姫様になるのです。そんな乱暴な言葉遣いのお姫様がいますか。これからは厳しくしないといけませんね」
「ええっ、勘弁してよ」
狩野吉之助改め松本友盛、そして、島田竜之進改め島田時龍。両名は直参旗本三百石、大番組頭並西之丸付使番という見るからに中間管理職、しかし、誰にも将軍世嗣の側近と分かる仮の身分役職を与えられて甲府に赴くことになった。
一方、間部詮房のことである。彼だけは正規の人事として、いきなり旗本三千五百石、西之丸書院番番頭となった。書院番は本丸では将軍、西之丸では将軍世嗣の身辺を護るスーパーエリート部隊。間部に武官職は似合わないが、この人事は家宣が最も信頼する者が誰であるかを内外に示す政治的なものであった。
また、間部には併せて従五位下越前守の官位も授けられた。この後、彼を大名とし、さらに幕閣として登用する布石である。これも既定路線だが、幕府内には、新たな側近政治への懸念を生じる結果となった。
人は現状に満足しない。新たな権力は新たな争いを生む。そして、権力が大きくなればなるほど争いも大きくなる。松本友盛と島田時龍の両名は、好むと好まざると、そうした争いの渦に巻き込まれて行くのである。
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