24 / 94
第22章 応山公の名物裂
しおりを挟む
熙子の威厳に打たれ、家臣一同が平伏する中、綱豊も顔面蒼白だ。しかし、徳川将軍家をなまくら刀や猟犬に例えられては堪らない。
「お照、言葉が過ぎる!」
「殿、落ち着いて下さいませ。皆も面を上げよ。話し辛い」
熙子はそこで一転、慈母が子供に言い聞かせるような優しい声音になった。
「よろしいですか。わたくしは、決して武家を蔑んでいるのではありません。むしろ貴んでおる。世を平穏に保つには、武家の力が必要なのです。強き武家あってこそ、上は畏き辺りから、下は庶民に至るまで、安心していられるのです」
そこで、新井白石が熙子の考えに疑問を呈した。
「恐れながら申し上げます。無論、武力の重要性を否定するものではありません。されど、東照神君が江戸に幕府を開き、太平の世を実現して既に百年。いつまでも武を政の中心とは出来ません」
学者とは偉いものだ。吉之助は、熙子に堂々と反駁する白石の勇気に驚いた。間部なども目を白黒させている。
が、近衛熙子という女性は、さらに上を行く。
「太平の世ですか。しかし、悲しいかな、永遠の平和などない。治にいて乱を忘れず、という言葉を知らないのですか」
「そ、それは・・・」
「そもそも、今が太平の世ですか。なるほど、国内は一応治まっています。しかし、目を外に転じれば、明国を滅ぼして新たに立った清国は、かつての蒙古と同じ騎馬の民とのこと。国内の平定が済めば、外に兵を向けて来ぬとも限らぬ。そして、南方では、すでに数多の島が南蛮人や紅毛人の手中に落ちたと聞く。その支配地ではキリスト教への改宗を強要され、従わぬ者は殺されるか奴隷にされるか、だそうな。おぞましい限りじゃ。さらに、北の蝦夷地でも、年々オロシャ船との接触が増えているというではありませんか。もし、その内のひとつとでも事を構えることになれば、どうなりますか。いざとなれば、国内とて一枚岩とは言い切れまい。要するにじゃ、太平の世など、所詮、画に描いた楽土同様、幻に過ぎぬ」
近年、歴史研究が進み、江戸幕府は鎖国政策をとった後も、想像以上に、海外の情勢に注意を払っていたことが分かってきた。
それはそうだろう。世界的な弱肉強食の時代である。日本自身、前の豊臣政権下とは言え、大陸に攻め込んでいる。江戸幕府も薩摩藩を通じて琉球を支配下に置いた。そして、明という大帝国の滅亡。これは衝撃だったに違いない。さらに島原の乱。蜂起したキリシタンの背後にスペインのフィリピン総督などの存在を疑わない方がどうかしている。
その後も国際情勢は厳しさを増すばかり。ただ、この物語の舞台となっている江戸中期の前半については、日本は完全に蚊帳の外にいられた。その後の流れを見れば、単なる幸運に過ぎない。しかし、幕府、特に政権中枢は、将軍綱吉の性格もあって完全に内向きになっていたのである。
「お照。そのようなこと、どこで?」
「この程度のこと、御殿の奥にいても分かります。殿、よい機会ですからお尋ねします。殿は、将軍になりたいのですか。なりたくないのですか」
「無論、なりたいと思う」
「ならば殿。殿が次期将軍に相応しいことをお示し下さい。世を治めるにあたり、文を重んじるのも結構。法を整備することも大事でしょう。されど、武を侮り、軍備を疎かにしてはなりません。何より、武家の棟梁たる者、一朝事あれば、帝の剣となり盾となり、自ら進んで血の穢れを引き受けるくらいの覚悟がなければ困るのです」
「分かっている。分かっているとも」
「ふふふ、頼もしいこと。ならば殿、迷うことはありません。鶴御成をやりなされ。見事に鶴を仕留め、帝に献上するのです。徳川将軍家が今後も天下の守護者であり続けると、殿ご自身が世に示すのです」
「わ、分かった」と、綱豊が声のトーンを一段上げてはっきり答えた。
「皆も分かりましたか。皆、殿のお覚悟を心に刻みなさい。そして、一丸となって殿をお支えするのです。よいな」
「ははっ」
「ところで、間部」
「はっ」
「出羽守は、具体的に何と言ったのですか。殿お独りでせよと?」
「い、いえ。出羽守様は、単に公方様に代わって鶴御成をするように、とのみ・・・」
間部の答えに満足そうに微笑むと、熙子は駄目押しの言葉を吐いた。
「ならば、歴代将軍の例に倣い、殿の御名で諸大名を集め、盛大に狩りを催しましょう。それにより、殿こそが次期将軍であると、誰の目にも明らかになるでしょう。殿、ここは勝負所でございますよ」
「うむ。お照の言う通りにしよう。詮房、準備を整えよ。皆も協力してくれ」
「ははっ」
まず綱豊が立ち、綱豊の差し伸べた手を取って熙子も優雅に立ち上がる。そこで、熙子が綱豊に尋ねた。
「殿。狩野吉之助とはどの者ですか」
「吉之助、面を上げよ」
「はっ」
「おや、絵師にしては随分と厳めしい面構えですこと」
「お照。吉之助は狩野家の出だが、長年甲斐で山役人をやっていたのだ」
熙子は、「そうなのですか」と言って、吉之助の顔をもう一度見た後、床の間の方に目を向けた。そこには、吉之助が描いた富士図が掛けてある。表具の仕立て直しも済んでいる。
「狩野。この富士、見事です。殿もわたくしも気に入りました」
「恐悦至極に存じます」
「それと、この中回しは、祖父・応山様ゆかりの名物裂と見たが、如何?」
中回しとは掛け軸の部位で、画の描かれた本紙を取り囲む部分である。そして、応山とは、熙子の祖父・近衛信尋の法名である。信尋は後陽成天皇の皇子だが、兄・後水尾天皇を支えるために近衛家に養子に出た。政治家としても有能であったが、能書家としてさらに名を馳せている。また、優れた茶人でもあった。
吉之助は、近衛信尋が帛紗などに好んで用いた独特の唐草文金紗の裂地と同じものを、自作の富士図の表装に用いたのである。
「ご明察でございます。殿から、御前様にも御覧いただくと伺っておりましたので」
「おい、吉之助。予は、裂のことなど聞いておらぬぞ」と綱豊。
「ふふふ。殿、種明かしなど、興醒めというものです。いや、待て。狩野、そなた、もしやわたくしを試したのか」
「め、滅相もございません。け、決して・・・」
「まあ、よい。それにしても、この裂地、よく手に入りましたね。都から取り寄せたのですか」
「いえ、江戸にて調達いたしました。元御用絵師で今は表具師を生業とする勝田家に相談いたしました」
「よく気付きました。狩野吉之助、今後とも殿の御ため、しっかり励むように」
「ははっ」
綱豊と熙子の退出後、間部が一同に今後の段取りについて簡単に説明し、散会となった。吉之助は、最後に御成書院を出た。障子戸を閉めるとき、床の間に掛けられた「甲斐国富士図」にもう一度目をやる。
思えば、自作の画をきちんと表装し、ひとつの作品として他人に納めたのは初めてだ。しかも、藩主夫妻に、気に入った、と言ってもらえた。やはり嬉しいものである。
吉之助が一同の背を追って大広間の横の廊下を歩いていると、竜之進が話しかけてきた。
「驚きましたね」
「何が?」
「御前様ですよ。新年行事などで遠くからお姿を拝した限りでは、さすが摂関家の姫君、何と雅な方かと思っていましたが、全然違いますね。あれはまるで、話に聞く北条政子だ」
「ははは、尼将軍か。竜さん、上手いこと言うな」
「しかし、我々は、殿を次の将軍職に就けたいのですよね」
「そうだな」
「でも、殿が将軍になったら、徳川の天下はあの方に乗っ取られそうですよ。いいんですかね」
「はっははは。そうかもしれんが、その心配は早過ぎるだろ」
「ですかね」
「それより、大丈夫なのか」と、今度は吉之助が心配顔になる。
「何がです?」
「何って、鷹狩だよ。殿は、鷹狩はお得意なのか。御前様は威勢よく、次期将軍としての武威を示すなんておっしゃっていたが、逆に、恥を晒すことになる恐れはないのか」
「あっ」
同時に、少し前を歩いていた間部と安藤美作が揃って振り返った。まずいな、という彼らの表情から、推して知るべし、であろう。
江戸時代、関東周辺にも鶴が飛来した。歌川広重の名所江戸百景の中にもある。しかし、まだ七月中旬、蝉の声が騒がしくなり始めたばかり。遥か遠いシベリアから越冬のために鶴が飛来するのは、少し先のことである。
「お照、言葉が過ぎる!」
「殿、落ち着いて下さいませ。皆も面を上げよ。話し辛い」
熙子はそこで一転、慈母が子供に言い聞かせるような優しい声音になった。
「よろしいですか。わたくしは、決して武家を蔑んでいるのではありません。むしろ貴んでおる。世を平穏に保つには、武家の力が必要なのです。強き武家あってこそ、上は畏き辺りから、下は庶民に至るまで、安心していられるのです」
そこで、新井白石が熙子の考えに疑問を呈した。
「恐れながら申し上げます。無論、武力の重要性を否定するものではありません。されど、東照神君が江戸に幕府を開き、太平の世を実現して既に百年。いつまでも武を政の中心とは出来ません」
学者とは偉いものだ。吉之助は、熙子に堂々と反駁する白石の勇気に驚いた。間部なども目を白黒させている。
が、近衛熙子という女性は、さらに上を行く。
「太平の世ですか。しかし、悲しいかな、永遠の平和などない。治にいて乱を忘れず、という言葉を知らないのですか」
「そ、それは・・・」
「そもそも、今が太平の世ですか。なるほど、国内は一応治まっています。しかし、目を外に転じれば、明国を滅ぼして新たに立った清国は、かつての蒙古と同じ騎馬の民とのこと。国内の平定が済めば、外に兵を向けて来ぬとも限らぬ。そして、南方では、すでに数多の島が南蛮人や紅毛人の手中に落ちたと聞く。その支配地ではキリスト教への改宗を強要され、従わぬ者は殺されるか奴隷にされるか、だそうな。おぞましい限りじゃ。さらに、北の蝦夷地でも、年々オロシャ船との接触が増えているというではありませんか。もし、その内のひとつとでも事を構えることになれば、どうなりますか。いざとなれば、国内とて一枚岩とは言い切れまい。要するにじゃ、太平の世など、所詮、画に描いた楽土同様、幻に過ぎぬ」
近年、歴史研究が進み、江戸幕府は鎖国政策をとった後も、想像以上に、海外の情勢に注意を払っていたことが分かってきた。
それはそうだろう。世界的な弱肉強食の時代である。日本自身、前の豊臣政権下とは言え、大陸に攻め込んでいる。江戸幕府も薩摩藩を通じて琉球を支配下に置いた。そして、明という大帝国の滅亡。これは衝撃だったに違いない。さらに島原の乱。蜂起したキリシタンの背後にスペインのフィリピン総督などの存在を疑わない方がどうかしている。
その後も国際情勢は厳しさを増すばかり。ただ、この物語の舞台となっている江戸中期の前半については、日本は完全に蚊帳の外にいられた。その後の流れを見れば、単なる幸運に過ぎない。しかし、幕府、特に政権中枢は、将軍綱吉の性格もあって完全に内向きになっていたのである。
「お照。そのようなこと、どこで?」
「この程度のこと、御殿の奥にいても分かります。殿、よい機会ですからお尋ねします。殿は、将軍になりたいのですか。なりたくないのですか」
「無論、なりたいと思う」
「ならば殿。殿が次期将軍に相応しいことをお示し下さい。世を治めるにあたり、文を重んじるのも結構。法を整備することも大事でしょう。されど、武を侮り、軍備を疎かにしてはなりません。何より、武家の棟梁たる者、一朝事あれば、帝の剣となり盾となり、自ら進んで血の穢れを引き受けるくらいの覚悟がなければ困るのです」
「分かっている。分かっているとも」
「ふふふ、頼もしいこと。ならば殿、迷うことはありません。鶴御成をやりなされ。見事に鶴を仕留め、帝に献上するのです。徳川将軍家が今後も天下の守護者であり続けると、殿ご自身が世に示すのです」
「わ、分かった」と、綱豊が声のトーンを一段上げてはっきり答えた。
「皆も分かりましたか。皆、殿のお覚悟を心に刻みなさい。そして、一丸となって殿をお支えするのです。よいな」
「ははっ」
「ところで、間部」
「はっ」
「出羽守は、具体的に何と言ったのですか。殿お独りでせよと?」
「い、いえ。出羽守様は、単に公方様に代わって鶴御成をするように、とのみ・・・」
間部の答えに満足そうに微笑むと、熙子は駄目押しの言葉を吐いた。
「ならば、歴代将軍の例に倣い、殿の御名で諸大名を集め、盛大に狩りを催しましょう。それにより、殿こそが次期将軍であると、誰の目にも明らかになるでしょう。殿、ここは勝負所でございますよ」
「うむ。お照の言う通りにしよう。詮房、準備を整えよ。皆も協力してくれ」
「ははっ」
まず綱豊が立ち、綱豊の差し伸べた手を取って熙子も優雅に立ち上がる。そこで、熙子が綱豊に尋ねた。
「殿。狩野吉之助とはどの者ですか」
「吉之助、面を上げよ」
「はっ」
「おや、絵師にしては随分と厳めしい面構えですこと」
「お照。吉之助は狩野家の出だが、長年甲斐で山役人をやっていたのだ」
熙子は、「そうなのですか」と言って、吉之助の顔をもう一度見た後、床の間の方に目を向けた。そこには、吉之助が描いた富士図が掛けてある。表具の仕立て直しも済んでいる。
「狩野。この富士、見事です。殿もわたくしも気に入りました」
「恐悦至極に存じます」
「それと、この中回しは、祖父・応山様ゆかりの名物裂と見たが、如何?」
中回しとは掛け軸の部位で、画の描かれた本紙を取り囲む部分である。そして、応山とは、熙子の祖父・近衛信尋の法名である。信尋は後陽成天皇の皇子だが、兄・後水尾天皇を支えるために近衛家に養子に出た。政治家としても有能であったが、能書家としてさらに名を馳せている。また、優れた茶人でもあった。
吉之助は、近衛信尋が帛紗などに好んで用いた独特の唐草文金紗の裂地と同じものを、自作の富士図の表装に用いたのである。
「ご明察でございます。殿から、御前様にも御覧いただくと伺っておりましたので」
「おい、吉之助。予は、裂のことなど聞いておらぬぞ」と綱豊。
「ふふふ。殿、種明かしなど、興醒めというものです。いや、待て。狩野、そなた、もしやわたくしを試したのか」
「め、滅相もございません。け、決して・・・」
「まあ、よい。それにしても、この裂地、よく手に入りましたね。都から取り寄せたのですか」
「いえ、江戸にて調達いたしました。元御用絵師で今は表具師を生業とする勝田家に相談いたしました」
「よく気付きました。狩野吉之助、今後とも殿の御ため、しっかり励むように」
「ははっ」
綱豊と熙子の退出後、間部が一同に今後の段取りについて簡単に説明し、散会となった。吉之助は、最後に御成書院を出た。障子戸を閉めるとき、床の間に掛けられた「甲斐国富士図」にもう一度目をやる。
思えば、自作の画をきちんと表装し、ひとつの作品として他人に納めたのは初めてだ。しかも、藩主夫妻に、気に入った、と言ってもらえた。やはり嬉しいものである。
吉之助が一同の背を追って大広間の横の廊下を歩いていると、竜之進が話しかけてきた。
「驚きましたね」
「何が?」
「御前様ですよ。新年行事などで遠くからお姿を拝した限りでは、さすが摂関家の姫君、何と雅な方かと思っていましたが、全然違いますね。あれはまるで、話に聞く北条政子だ」
「ははは、尼将軍か。竜さん、上手いこと言うな」
「しかし、我々は、殿を次の将軍職に就けたいのですよね」
「そうだな」
「でも、殿が将軍になったら、徳川の天下はあの方に乗っ取られそうですよ。いいんですかね」
「はっははは。そうかもしれんが、その心配は早過ぎるだろ」
「ですかね」
「それより、大丈夫なのか」と、今度は吉之助が心配顔になる。
「何がです?」
「何って、鷹狩だよ。殿は、鷹狩はお得意なのか。御前様は威勢よく、次期将軍としての武威を示すなんておっしゃっていたが、逆に、恥を晒すことになる恐れはないのか」
「あっ」
同時に、少し前を歩いていた間部と安藤美作が揃って振り返った。まずいな、という彼らの表情から、推して知るべし、であろう。
江戸時代、関東周辺にも鶴が飛来した。歌川広重の名所江戸百景の中にもある。しかし、まだ七月中旬、蝉の声が騒がしくなり始めたばかり。遥か遠いシベリアから越冬のために鶴が飛来するのは、少し先のことである。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
融女寛好 腹切り融川の後始末
仁獅寺永雪
歴史・時代
江戸後期の文化八年(一八一一年)、幕府奥絵師が急死する。悲報を受けた若き天才女絵師が、根結いの垂髪を揺らして江戸の町を駆け抜ける。彼女は、事件の謎を解き、恩師の名誉と一門の将来を守ることが出来るのか。
「良工の手段、俗目の知るところにあらず」
師が遺したこの言葉の真の意味は?
これは、男社会の江戸画壇にあって、百人を超す門弟を持ち、今にも残る堂々たる足跡を残した実在の女絵師の若き日の物語。最後までお楽しみいただければ幸いです。
南町奉行所お耳役貞永正太郎の捕物帳
勇内一人
歴史・時代
第9回歴史・時代小説大賞奨励賞受賞作品に2024年6月1日より新章「材木商桧木屋お七の訴え」を追加しています(続きではなく途中からなので、わかりづらいかもしれません)
南町奉行所吟味方与力の貞永平一郎の一人息子、正太郎はお多福風邪にかかり両耳の聴覚を失ってしまう。父の跡目を継げない彼は吟味方書物役見習いとして南町奉行所に勤めている。ある時から聞こえない正太郎の耳が死者の声を拾うようになる。それは犯人や証言に不服がある場合、殺された本人が異議を唱える声だった。声を頼りに事件を再捜査すると、思わぬ真実が発覚していく。やがて、平一郎が喧嘩の巻き添えで殺され、正太郎の耳に亡き父の声が届く。
表紙はパブリックドメインQ 著作権フリー絵画:小原古邨 「月と蝙蝠」を使用しております。
2024年10月17日〜エブリスタにも公開を始めました。

【完結】風天の虎 ――車丹波、北の関ヶ原
糸冬
歴史・時代
車丹波守斯忠。「猛虎」の諱で知られる戦国武将である。
慶長五年(一六〇〇年)二月、徳川家康が上杉征伐に向けて策動する中、斯忠は反徳川派の急先鋒として、主君・佐竹義宣から追放の憂き目に遭う。
しかし一念発起した斯忠は、異母弟にして養子の車善七郎と共に数百の手勢を集めて会津に乗り込み、上杉家の筆頭家老・直江兼続が指揮する「組外衆」に加わり働くことになる。
目指すは徳川家康の首級ただ一つ。
しかし、その思いとは裏腹に、最初に与えられた役目は神指城の普請場での土運びであった……。
その名と生き様から、「国民的映画の主人公のモデル」とも噂される男が身を投じた、「もう一つの関ヶ原」の物語。

キャサリンのマーマレード
空原海
歴史・時代
ヘンリーはその日、初めてマーマレードなるデザートを食べた。
それは兄アーサーの妃キャサリンが、彼女の生国スペインから、イングランドへと持ち込んだレシピだった。
のちに6人の妻を娶り、そのうち2人の妻を処刑し、己によく仕えた忠臣も邪魔になれば処刑しまくったイングランド王ヘンリー8世が、まだ第2王子に過ぎず、兄嫁キャサリンに憧憬を抱いていた頃のお話です。
猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~
橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。
記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。
これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語
※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります
織田信長 -尾州払暁-
藪から犬
歴史・時代
織田信長は、戦国の世における天下統一の先駆者として一般に強くイメージされますが、当然ながら、生まれついてそうであるわけはありません。
守護代・織田大和守家の家来(傍流)である弾正忠家の家督を継承してから、およそ14年間を尾張(現・愛知県西部)の平定に費やしています。そして、そのほとんどが一族間での骨肉の争いであり、一歩踏み外せば死に直結するような、四面楚歌の道のりでした。
織田信長という人間を考えるとき、この彼の青春時代というのは非常に色濃く映ります。
そこで、本作では、天文16年(1547年)~永禄3年(1560年)までの13年間の織田信長の足跡を小説としてじっくりとなぞってみようと思いたった次第です。
毎週の月曜日00:00に次話公開を目指しています。
スローペースの拙稿ではありますが、お付き合いいただければ嬉しいです。
(2022.04.04)
※信長公記を下地としていますが諸出来事の年次比定を含め随所に著者の創作および定説ではない解釈等がありますのでご承知置きください。
※アルファポリスの仕様上、「HOTランキング用ジャンル選択」欄を「男性向け」に設定していますが、区別する意図はとくにありません。
三国志 群像譚 ~瞳の奥の天地~ 家族愛の三国志大河
墨笑
歴史・時代
『家族愛と人の心』『個性と社会性』をテーマにした三国志の大河小説です。
三国志を知らない方も楽しんでいただけるよう意識して書きました。
全体の文量はかなり多いのですが、半分以上は様々な人物を中心にした短編・中編の集まりです。
本編がちょっと長いので、お試しで読まれる方は後ろの方の短編・中編から読んでいただいても良いと思います。
おすすめは『小覇王の暗殺者(ep.216)』『呂布の娘の嫁入り噺(ep.239)』『段煨(ep.285)』あたりです。
本編では蜀において諸葛亮孔明に次ぐ官職を務めた許靖という人物を取り上げています。
戦乱に翻弄され、中国各地を放浪する波乱万丈の人生を送りました。
歴史ものとはいえ軽めに書いていますので、歴史が苦手、三国志を知らないという方でもぜひお気軽にお読みください。
※人名が分かりづらくなるのを避けるため、アザナは一切使わないことにしました。ご了承ください。
※切りのいい時には完結設定になっていますが、三国志小説の執筆は私のライフワークです。生きている限り話を追加し続けていくつもりですので、ブックマークしておいていただけると幸いです。

江戸情話 てる吉の女観音道
藤原 てるてる
歴史・時代
この物語の主人公は、越後の百姓の倅である。
本当は跡を継いで百姓をするところ、父の後釜に邪険にされ家を出たのであった。
江戸に出て、深川で飛脚をして渡世を送っている。
歳は十九、取り柄はすけべ魂である。女体道から女観音道へ至る物語である。
慶応元年五月、あと何年かしたら明治という激動期である。
その頃は、奇妙な踊りが流行るは、辻斬りがあるはで庶民はてんやわんや。
これは、次に来る、新しい世を感じていたのではないのか。
日本の性文化が、最も乱れ咲きしていたと思われるころの話。
このてる吉は、飛脚であちこち街中をまわって、女を見ては喜んでいる。
生来の女好きではあるが、遊び狂っているうちに、ある思いに至ったのである。
女は観音様なのに、救われていない女衆が多すぎるのではないのか。
遊女たちの流した涙、流せなかった涙、声に出せない叫びを知った。
これは、なんとかならないものか。何か、出来ないかと。
……(オラが、遊女屋をやればええでねえか)
てる吉は、そう思ったのである。
生きるのに、本当に困窮しとる女から来てもらう。
歳、容姿、人となり、借金の過多、子連れなど、なんちゃない。
いつまでも、居てくれていい。みんなが付いているから。
女衆が、安寧に過ごせる場を作ろうと思った。
そこで置屋で知り合った土佐の女衒に弟子入りし、女体道のイロハを教わる。
あてがって来る闇の女らに、研がれまくられるという、ありがた修行を重ねる。
相模の国に女仕入れに行かされ、三人連れ帰り、褒美に小判を頂き元手を得る。
四ツ谷の岡場所の外れに、掘っ立て小屋みたいな置屋を作る。
なんとか四人集めて来て、さあ、これからだという時に……
てる吉は、闇に消えたのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる