59 / 148
第一章 東堂正宗派遣:勇者編
◆46 あれ? 俺、なんかしちゃいました?
しおりを挟む
今、俺様、勇者マサムネが立っている舞台は、ファンタジーものの王道場面ーー王様のいる王宮である。
俺様は、魔王討伐を果たした英雄として、王宮に招かれていた。
王宮はおとぎ話に出てくるような瀟洒なお城だった。
同じお城とはいっても、魔王城とは随分と趣が異なっている。
真っ白な大理石で出来た床ーーその上に敷かれた赤色の絨毯の上を、俺、東堂正宗は〈勇者マサムネ〉として、堂々と胸を張って歩く。
横には金銀で装飾された柱が立ち並び、天井には画家によって精緻に描かれた天国情景が展開している。
(うん、子供向けの絵本に出て来るような、いかにもな〈お城〉だな……)
全く武張った設備がなく、廊下もまっすぐで、広い。
この廊下に出る前に控室や応接室など、いくつもの部屋に通されて、謁見のための正装に身支度をさせられた。
どの部屋も煌びやかに装飾されており、すぐにも舞踏会場に使えそうな雰囲気だった。
聞けば、この城自体が軍事施設ではなく、もっぱら来賓用の迎賓館として建設されたものらしい。
実際に、これらの部屋を用いて、祝賀会や会食が催されるようだ。
ま、どんな機会であれ、もてなしを受けるのは、いい気分だ。
俺様は、生来の王族か上級貴族にでもなったような気分になって、豪華な装飾を施された廊下を進み、謁見の間へと向かう。
「この度は、本当にご苦労様でした」
俺様の傍《かたわ》らで歩く、先導役の騎士が見知った顔だった。
「あなた様のお力で、魔王を撃退できました」
「あれ? 聖女と一緒にいた騎士レオンか。いつもご苦労さん」
〈漆黒の森〉でのパーティーでも、凱旋時に俺の馬を曳くメンバーでも、彼はいつも聖女様と一緒にいた。
彼女と一緒になって、俺の世話をしていた。
「私は本来、王族付きの近衛騎士なのです」
次の瞬間、明るく澄んだ声が聞こえた。
「そうなのですよ」
いつの間にか、俺様のすぐ後ろに、女性神官ーー聖女リネットがいた。
ほんとこの二人、いつもいつも気配を感じさせないな。
忍者か盗賊のスキルでもあるんじゃないか?
「白騎士レオン様には、私の護衛役として、特別に魔王討伐パーティーに参加してもらったんです」
「なるほど。じゃあ、めでたし、めでたしじゃないか」
「はい」
柔らかに微笑む聖女様。
ふと見れば、右腕に包帯がしてある。
治癒魔法を受けたうえに物理的治療も施されたというのに、まだ傷がある。
つくづく俺様が影悪魔に斬られなくて良かった。
まあ、俺の代わりに斬られたようなもんだから、彼女にも労いの声ぐらいはかけてやるべきだな。
「もう腕は大丈夫なのか?」
「お気遣い、ありがとうございます。
おかげさまで、あとは静養するだけで良いと医者が申しておりました」
実際、影悪魔の毒はそれなりに強かったが、魔王の爪に仕込まれていたような、魔法が込められた精神毒ではない。
普通の治癒ポーションで対応できるものだった。
もっとも、体内に普段から聖魔法が宿されている〈聖女様〉でなければ、即座に絶命していたであろうが……。
そういった旨を、淡々と彼女は語ってくれた。
「そうなんだ。それは、よかった」
俺様は陽気に応え、
「ほんと、無事で良かったよね!」
と同意を求めようとして、先導する白騎士に目を向けた。
(うん?)
横顔に目を遣って、ようやく気づいた。
めでたいはずなのに、騎士のレオンさんは哀しそうな顔をしている。
「どうした? 魔王討伐したのに、嬉しそうじゃないね」
「すいません。私が叶わぬ恋心を抱いておりましたので……」
「へえ~~」
言いにくそうに応える騎士さんの表情に、そそるものがあった。
イケメンが苦渋に満ちた顔をすると、どうしてこうも俺の心が爽やかになるのだろう。
とにかく、突っ込んでやるか。
恋バナでのお約束だし。
「誰? 相手は?」
騎士に近づいて、後ろに目配せしながらささやいた。
「あの聖女様じゃないの?」
「ち、違います!」
騎士さんは顔色を変え、慌てて否定する。
後ろを振り返ったら、聖女様は顔を赤らめながらも、首を横に振っていた。
意外だ。
「ありゃ。お似合いだと思ったんだけどな。
レオンさんモテそうじゃん。イケメンだし」
コホンと一つ咳払いをし、無理に平静を保つ風情で、騎士は答えた。
「いえ……私が想う女性は、私などにはもったいないお方で……最初から叶わぬ想いだと諦めております。
習わしですから……私は身を退かざるをえないんです。
正直、あなた様が羨ましくて、死にそうなほどですが……」
あれ? ここでどうして俺様が絡むんだ?
羨ましくて、死にそう?
なんだか、わけがわからんが……。
ま、失恋した男ってのに、イケメンもブ男もないわな。
俺は騎士さんの肩をポンと叩いた。
「ま、頑張れ。
俺もよくフラれたからわかるけど、いずれ良いこともあるさ」
「あると良いのですけど……」
重く沈みこむ騎士レオンを、聖女様が憐れみの目で見つめる。
あれ?
俺、なんかしちゃいました?
空気重いよ。
明るく元気にいこうよ!
俺様は、魔王討伐を果たした英雄として、王宮に招かれていた。
王宮はおとぎ話に出てくるような瀟洒なお城だった。
同じお城とはいっても、魔王城とは随分と趣が異なっている。
真っ白な大理石で出来た床ーーその上に敷かれた赤色の絨毯の上を、俺、東堂正宗は〈勇者マサムネ〉として、堂々と胸を張って歩く。
横には金銀で装飾された柱が立ち並び、天井には画家によって精緻に描かれた天国情景が展開している。
(うん、子供向けの絵本に出て来るような、いかにもな〈お城〉だな……)
全く武張った設備がなく、廊下もまっすぐで、広い。
この廊下に出る前に控室や応接室など、いくつもの部屋に通されて、謁見のための正装に身支度をさせられた。
どの部屋も煌びやかに装飾されており、すぐにも舞踏会場に使えそうな雰囲気だった。
聞けば、この城自体が軍事施設ではなく、もっぱら来賓用の迎賓館として建設されたものらしい。
実際に、これらの部屋を用いて、祝賀会や会食が催されるようだ。
ま、どんな機会であれ、もてなしを受けるのは、いい気分だ。
俺様は、生来の王族か上級貴族にでもなったような気分になって、豪華な装飾を施された廊下を進み、謁見の間へと向かう。
「この度は、本当にご苦労様でした」
俺様の傍《かたわ》らで歩く、先導役の騎士が見知った顔だった。
「あなた様のお力で、魔王を撃退できました」
「あれ? 聖女と一緒にいた騎士レオンか。いつもご苦労さん」
〈漆黒の森〉でのパーティーでも、凱旋時に俺の馬を曳くメンバーでも、彼はいつも聖女様と一緒にいた。
彼女と一緒になって、俺の世話をしていた。
「私は本来、王族付きの近衛騎士なのです」
次の瞬間、明るく澄んだ声が聞こえた。
「そうなのですよ」
いつの間にか、俺様のすぐ後ろに、女性神官ーー聖女リネットがいた。
ほんとこの二人、いつもいつも気配を感じさせないな。
忍者か盗賊のスキルでもあるんじゃないか?
「白騎士レオン様には、私の護衛役として、特別に魔王討伐パーティーに参加してもらったんです」
「なるほど。じゃあ、めでたし、めでたしじゃないか」
「はい」
柔らかに微笑む聖女様。
ふと見れば、右腕に包帯がしてある。
治癒魔法を受けたうえに物理的治療も施されたというのに、まだ傷がある。
つくづく俺様が影悪魔に斬られなくて良かった。
まあ、俺の代わりに斬られたようなもんだから、彼女にも労いの声ぐらいはかけてやるべきだな。
「もう腕は大丈夫なのか?」
「お気遣い、ありがとうございます。
おかげさまで、あとは静養するだけで良いと医者が申しておりました」
実際、影悪魔の毒はそれなりに強かったが、魔王の爪に仕込まれていたような、魔法が込められた精神毒ではない。
普通の治癒ポーションで対応できるものだった。
もっとも、体内に普段から聖魔法が宿されている〈聖女様〉でなければ、即座に絶命していたであろうが……。
そういった旨を、淡々と彼女は語ってくれた。
「そうなんだ。それは、よかった」
俺様は陽気に応え、
「ほんと、無事で良かったよね!」
と同意を求めようとして、先導する白騎士に目を向けた。
(うん?)
横顔に目を遣って、ようやく気づいた。
めでたいはずなのに、騎士のレオンさんは哀しそうな顔をしている。
「どうした? 魔王討伐したのに、嬉しそうじゃないね」
「すいません。私が叶わぬ恋心を抱いておりましたので……」
「へえ~~」
言いにくそうに応える騎士さんの表情に、そそるものがあった。
イケメンが苦渋に満ちた顔をすると、どうしてこうも俺の心が爽やかになるのだろう。
とにかく、突っ込んでやるか。
恋バナでのお約束だし。
「誰? 相手は?」
騎士に近づいて、後ろに目配せしながらささやいた。
「あの聖女様じゃないの?」
「ち、違います!」
騎士さんは顔色を変え、慌てて否定する。
後ろを振り返ったら、聖女様は顔を赤らめながらも、首を横に振っていた。
意外だ。
「ありゃ。お似合いだと思ったんだけどな。
レオンさんモテそうじゃん。イケメンだし」
コホンと一つ咳払いをし、無理に平静を保つ風情で、騎士は答えた。
「いえ……私が想う女性は、私などにはもったいないお方で……最初から叶わぬ想いだと諦めております。
習わしですから……私は身を退かざるをえないんです。
正直、あなた様が羨ましくて、死にそうなほどですが……」
あれ? ここでどうして俺様が絡むんだ?
羨ましくて、死にそう?
なんだか、わけがわからんが……。
ま、失恋した男ってのに、イケメンもブ男もないわな。
俺は騎士さんの肩をポンと叩いた。
「ま、頑張れ。
俺もよくフラれたからわかるけど、いずれ良いこともあるさ」
「あると良いのですけど……」
重く沈みこむ騎士レオンを、聖女様が憐れみの目で見つめる。
あれ?
俺、なんかしちゃいました?
空気重いよ。
明るく元気にいこうよ!
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
異世界成り上がり物語~転生したけど男?!どう言う事!?~
繭
ファンタジー
高梨洋子(25)は帰り道で車に撥ねられた瞬間、意識は一瞬で別の場所へ…。
見覚えの無い部屋で目が覚め「アレク?!気付いたのか!?」との声に
え?ちょっと待て…さっきまで日本に居たのに…。
確か「死んだ」筈・・・アレクって誰!?
ズキン・・・と頭に痛みが走ると現在と過去の記憶が一気に流れ込み・・・
気付けば異世界のイケメンに転生した彼女。
誰も知らない・・・いや彼の母しか知らない秘密が有った!?
女性の記憶に翻弄されながらも成り上がって行く男性の話
保険でR15
タイトル変更の可能性あり
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕の授かったスキルは役に立つ物なのかな?
アノマロカリス
ファンタジー
よくある話の異世界召喚。
ネット小説や歴史の英雄話好きの高校生の洲河 慱(すが だん)
いつものように幼馴染達と学校帰りに公園で雑談していると突然魔法陣が現れて光に包まれて…
幼馴染達と一緒に救世主召喚でテルシア王国に召喚され、幼馴染達は素晴らしいジョブとスキルを手に入れたのに僕のは何だこれ?
王宮からはハズレと言われて追い出されそうになるが、幼馴染達は庇ってくれた。
だけど、夢にみた迄の異世界…
慱は幼馴染達とは別に行動する事にした。
自分のスキルを駆使して冒険する、魔物と魔法が存在する異世界ファンタジー。
現在書籍化されている…
「魔境育ちの全能冒険者は好き勝手に生きる!〜追い出した癖クセに戻って来いだと?そんなの知るか‼︎〜」
の100年前の物語です。
リュカが憧れる英雄ダン・スーガーの物語。
そして、コミカライズ内で登場する「僕スキなのか…」がこの作品です。
その作品の【改訂版】です。
全く同じな部分もあれば、新たなストーリーも追加されています。
今回のHOTランキングでは最高5位かな?
応援有り難う御座います。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
拝啓、あなた方が荒らした大地を修復しているのは……僕たちです!
FOX4
ファンタジー
王都は整備局に就職したピートマック・ウィザースプーン(19歳)は、勇者御一行、魔王軍の方々が起こす戦闘で荒れ果てた大地を、上司になじられながらも修復に勤しむ。平地の行き届いた生活を得るために、本日も勤労。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
(完結)足手まといだと言われパーティーをクビになった補助魔法師だけど、足手まといになった覚えは無い!
ちゃむふー
ファンタジー
今までこのパーティーで上手くやってきたと思っていた。
なのに突然のパーティークビ宣言!!
確かに俺は直接の攻撃タイプでは無い。
補助魔法師だ。
俺のお陰で皆の攻撃力防御力回復力は約3倍にはなっていた筈だ。
足手まといだから今日でパーティーはクビ??
そんな理由認められない!!!
俺がいなくなったら攻撃力も防御力も回復力も3分の1になるからな??
分かってるのか?
俺を追い出した事、絶対後悔するからな!!!
ファンタジー初心者です。
温かい目で見てください(*'▽'*)
一万文字以下の短編の予定です!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
これダメなクラス召喚だわ!物を掌握するチートスキルで自由気ままな異世界旅
聖斗煉
ファンタジー
クラス全体で異世界に呼び出された高校生の主人公が魔王軍と戦うように懇願される。しかし、主人公にはしょっぱい能力しか与えられなかった。ところがである。実は能力は騙されて弱いものと思い込まされていた。ダンジョンに閉じ込められて死にかけたときに、本当は物を掌握するスキルだったことを知るーー。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【ヤベェ】異世界転移したった【助けてwww】
一樹
ファンタジー
色々あって、転移後追放されてしまった主人公。
追放後に、持ち物がチート化していることに気づく。
無事、元の世界と連絡をとる事に成功する。
そして、始まったのは、どこかで見た事のある、【あるある展開】のオンパレード!
異世界転移珍道中、掲示板実況始まり始まり。
【諸注意】
以前投稿した同名の短編の連載版になります。
連載は不定期。むしろ途中で止まる可能性、エタる可能性がとても高いです。
なんでも大丈夫な方向けです。
小説の形をしていないので、読む人を選びます。
以上の内容を踏まえた上で閲覧をお願いします。
disりに見えてしまう表現があります。
以上の点から気分を害されても責任は負えません。
閲覧は自己責任でお願いします。
小説家になろう、pixivでも投稿しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
生活魔法しか使えない少年、浄化(クリーン)を極めて無双します(仮)(習作3)
田中寿郎
ファンタジー
壁しか見えない街(城郭都市)の中は嫌いだ。孤児院でイジメに遭い、無実の罪を着せられた幼い少年は、街を抜け出し、一人森の中で生きる事を選んだ。武器は生活魔法の浄化(クリーン)と乾燥(ドライ)。浄化と乾燥だけでも極めれば結構役に立ちますよ?
コメントはたまに気まぐれに返す事がありますが、全レスは致しません。悪しからずご了承願います。
(あと、敬語が使えない呪いに掛かっているので言葉遣いに粗いところがあってもご容赦をw)
台本風(セリフの前に名前が入る)です、これに関しては助言は無用です、そういうスタイルだと思ってあきらめてください。
読みにくい、面白くないという方は、フォローを外してそっ閉じをお願いします。
(カクヨムにも投稿しております)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる