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第一章 東堂正宗派遣:勇者編
◆43 でも、俺様は、魔王討伐に成功した勇者なんだからさ
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俺、勇者マサムネは、瀕死の状態になった聖女リネットを見捨てて、魔王討伐に赴(おもむ)いた。
聖女様は、魔族の刃から俺を庇って負傷したにも関わらず、俺様は、彼女から貰い受けた治癒ポーションを使うことなく、飛び去ったのだ。
結果、彼女は当然、出血多量でお亡くなりになってるものと思い、それでも彼女の宿願であった魔王討伐を果たしたんだから、凱旋行軍の際にでも、亡骸に花でも手向けようと思っていた。
ところが、聖女リネットは生きていた。
しかも、すっかり体調を戻したようで、今では俺様が騎乗している馬を曳いている。
さすがに、気恥ずかしくて、かける言葉が見当たらない。
彼女との円滑な関係を修復するための知恵を借りるため、俺は久方ぶりに、東京本部との通信機能をONにした。
「こちら、マサムネ。本部応答願います」
「おお! マサムネ君。魔王退治おめでとう。
一時はどうなることかと思ったけど、本当無事で良かったよ」
珍しく兄の星野新一が、通信に応じてくれた。
「まあね、色々あったけど、結果オーライだよね。
それはそうと、聖女様たちと会話がしづらくてさぁ」
「そりゃあ、気まずいよね。君は彼女たちを見捨てたんだから。
援軍の医療部隊が急行してなかったら、聖女様は死んでたもんね」
上司の新一は、モニター画面を通して、異世界の状況を的確に読み取っていた。
映像は俺の体内から発出したナノマシンによってもたらされるから、撮影範囲は宿主である俺様の、ごく近い範囲に限られている。
だが、王国軍大将が俺をもてなす席で語った内容や、実際に行軍する王国軍勢のようすを観ただけで、新一さんは大方の状況を察することができているようだ。
さすがに俺も、気まずいとはわかっている。
自分がポーションを掻っ攫ったおかげで、聖女様が危うく生命を落としかねなかったことも、理解している。
実際、聖女様以外にも、森に探索に入ったパーティメンバーからは、甚大な被害が出ていることだろう。
誰であれ、接触できたら、まずは人命救助を優先すべきだと、手配していた王国軍の指揮官に感謝だな。
おかげで、聖女リネットは救かった。
さすがに、死なれては後味が悪い。
彼女から治癒ポーションを貰い受けてたから、俺は爪の毒に掛かって死なずに済んだのだから。
聖女様は、言ってみれば俺の生命の恩人である。
「そう。それだよ!」
俺があれこれと、聖女様を見捨てた言い訳を探しあぐねているのを見て、新一は膝を一打ちした。
「ポーションをくれてありがとう、という感謝の言葉を素直に言ったらどうかな。
見捨てた事実は、今さら覆ることはないんだからさ」
「でも、俺様は、魔王討伐に成功した勇者なんだからさ、謝るってのはなぁ……」
ここで俺の頭の中で、甲高い声が鳴り響く。
妹・星野ひかりの怒声が、割って入ってきたのだ。
「なにくだらないメンツを気にしてんの!
あなた、生命の恩人にすら感謝できないの!?」
俺は苛立って歯噛みする。
やっぱ、この女はダメだわ。
ちっとも俺の立場になって、考えてくれない。
ヒトの上に立ってはならん人材だ。
「うるさい! お前が言うな」
「なによ。逆ギレ!?」
「あんたは聖女様から治癒ポーションを受け取るな、と指示したよな。
もし、指示通りにポーションを彼女に返していたら、俺様は魔王の毒で死んでたぞ!」
付与されていた自己治癒力では、あの爪毒の浸透を防ぎきれなかった。
治癒・回復の効力が弱かった。
貰い受けたポーションの治癒力を足して、ようやく毒から身を防げたのだ。
ほんと、魔王に遭う前にポーション飲んどいてよかった……。
実際、俺の抗議に一理あるのを認めたらしく、ひかりの叱責はトーンダウンした。
「それはそうだけど、それはたまたまで……」
「そんなの、言い訳だね。
謝ってもらおうか!」
「私が? 誰に!?」
「もちろん、あんたが俺様に、だ。
俺様が危うく死ぬところだったんだ。
そのような危険に晒すような、間違った指示を出してすいませんでした、ってな」
「……」
「なんだよ、バイト相手には頭が下げられないってのか?
だったら、あんたの言葉、そのまま返してやる。
なにくだらないメンツを気にしてんだ!」
「う、うるさい。調子に乗るな!」
今度はひかりの方が、一方的に通信を切りやがった。
本部のくせに交信を断つなんて。
責任感ないな……。
聖女様は、魔族の刃から俺を庇って負傷したにも関わらず、俺様は、彼女から貰い受けた治癒ポーションを使うことなく、飛び去ったのだ。
結果、彼女は当然、出血多量でお亡くなりになってるものと思い、それでも彼女の宿願であった魔王討伐を果たしたんだから、凱旋行軍の際にでも、亡骸に花でも手向けようと思っていた。
ところが、聖女リネットは生きていた。
しかも、すっかり体調を戻したようで、今では俺様が騎乗している馬を曳いている。
さすがに、気恥ずかしくて、かける言葉が見当たらない。
彼女との円滑な関係を修復するための知恵を借りるため、俺は久方ぶりに、東京本部との通信機能をONにした。
「こちら、マサムネ。本部応答願います」
「おお! マサムネ君。魔王退治おめでとう。
一時はどうなることかと思ったけど、本当無事で良かったよ」
珍しく兄の星野新一が、通信に応じてくれた。
「まあね、色々あったけど、結果オーライだよね。
それはそうと、聖女様たちと会話がしづらくてさぁ」
「そりゃあ、気まずいよね。君は彼女たちを見捨てたんだから。
援軍の医療部隊が急行してなかったら、聖女様は死んでたもんね」
上司の新一は、モニター画面を通して、異世界の状況を的確に読み取っていた。
映像は俺の体内から発出したナノマシンによってもたらされるから、撮影範囲は宿主である俺様の、ごく近い範囲に限られている。
だが、王国軍大将が俺をもてなす席で語った内容や、実際に行軍する王国軍勢のようすを観ただけで、新一さんは大方の状況を察することができているようだ。
さすがに俺も、気まずいとはわかっている。
自分がポーションを掻っ攫ったおかげで、聖女様が危うく生命を落としかねなかったことも、理解している。
実際、聖女様以外にも、森に探索に入ったパーティメンバーからは、甚大な被害が出ていることだろう。
誰であれ、接触できたら、まずは人命救助を優先すべきだと、手配していた王国軍の指揮官に感謝だな。
おかげで、聖女リネットは救かった。
さすがに、死なれては後味が悪い。
彼女から治癒ポーションを貰い受けてたから、俺は爪の毒に掛かって死なずに済んだのだから。
聖女様は、言ってみれば俺の生命の恩人である。
「そう。それだよ!」
俺があれこれと、聖女様を見捨てた言い訳を探しあぐねているのを見て、新一は膝を一打ちした。
「ポーションをくれてありがとう、という感謝の言葉を素直に言ったらどうかな。
見捨てた事実は、今さら覆ることはないんだからさ」
「でも、俺様は、魔王討伐に成功した勇者なんだからさ、謝るってのはなぁ……」
ここで俺の頭の中で、甲高い声が鳴り響く。
妹・星野ひかりの怒声が、割って入ってきたのだ。
「なにくだらないメンツを気にしてんの!
あなた、生命の恩人にすら感謝できないの!?」
俺は苛立って歯噛みする。
やっぱ、この女はダメだわ。
ちっとも俺の立場になって、考えてくれない。
ヒトの上に立ってはならん人材だ。
「うるさい! お前が言うな」
「なによ。逆ギレ!?」
「あんたは聖女様から治癒ポーションを受け取るな、と指示したよな。
もし、指示通りにポーションを彼女に返していたら、俺様は魔王の毒で死んでたぞ!」
付与されていた自己治癒力では、あの爪毒の浸透を防ぎきれなかった。
治癒・回復の効力が弱かった。
貰い受けたポーションの治癒力を足して、ようやく毒から身を防げたのだ。
ほんと、魔王に遭う前にポーション飲んどいてよかった……。
実際、俺の抗議に一理あるのを認めたらしく、ひかりの叱責はトーンダウンした。
「それはそうだけど、それはたまたまで……」
「そんなの、言い訳だね。
謝ってもらおうか!」
「私が? 誰に!?」
「もちろん、あんたが俺様に、だ。
俺様が危うく死ぬところだったんだ。
そのような危険に晒すような、間違った指示を出してすいませんでした、ってな」
「……」
「なんだよ、バイト相手には頭が下げられないってのか?
だったら、あんたの言葉、そのまま返してやる。
なにくだらないメンツを気にしてんだ!」
「う、うるさい。調子に乗るな!」
今度はひかりの方が、一方的に通信を切りやがった。
本部のくせに交信を断つなんて。
責任感ないな……。
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