東京異世界派遣 ーー現場はいろんな異世界!依頼を受けて、職業、スキル設定して派遣でGO!

大濠泉

文字の大きさ
上 下
29 / 148
第一章 東堂正宗派遣:勇者編

◆16 〈勇者の上司〉も楽じゃない

しおりを挟む
 異世界で活躍中の東堂正宗とうどうまさむねが、東京異世界派遣本部との通信回路を遮断したときーー。
 本部の管理室では、星野ひかりが、天井を振り仰いで呆れ声を発していた。

「あんな自分勝手で、無責任なヒト、初めてみたわ!」

 一方で、兄の新一は、カップを手にハーブティーを飲んでいる。
 気持ちを落ち着かせるためだろうか。
 一呼吸置いてから、妹をさとすかのように口を開いた。

「正宗くんなりに頑張っているんだし、ここは見守るしかないよ。
『災難の先触れはない』っていうからね。
 彼なりに最悪の事態を避けようとしているだけだよ」

「そんなことーー。
 聖女さんが危険にさらされても、良いっていうの!? 
 それが勇者の振る舞い!? 自分勝手すぎるわよ」

「だけど、今回の派遣案件は、仕事の契約が結べたかどうかすら怪しいぐらいの不明瞭なものだったからね。正宗くんばかりを悪くは言えないさ。
 依頼主である異世界むこうの教皇さんは、機械の翻訳機能がまともに起動しないほど、曖昧で難解な表現を多用するヒトだった。
 それなのに、久しぶりに異世界派遣ができて、収益があっただけでも有難いぐらいなんだからさ。
 こころよく異世界に飛んでくれただけでも、正宗くんには感謝だよ」

 兄の説得(?)を受けて幾分、気がしずまった星野ひかりは、自分に言い聞かせた。

「そうね。
 マサムネ君にとっては、初めての異世界派遣。
 魔王討伐なんて、大仕事よね……」

「そうそう。正宗くんにとっては初仕事なんだからさ。
 少々、現地での対応がマズかろうと、大目に見てやらなきゃ」

「うん……」

 落ち着きを取り戻し、ひかりは椅子に座り直し、コーヒーをすすり始めた。
 そんな妹の姿に安堵したのか、兄の新一はハーブの香りを楽しみながら、今回の依頼を受けた時のことを思い起こしていた。

◇◇◇

 僕、星野新一は、ティーカップを手にしたまま瞑目めいもくした。

(実際、今回の契約を成立させるまで、かなり難儀した。
 というか、会話に齟齬そごをきたしまくったというか……)

 仕事内容の確認をしようにも、相手の使う表現がことごとく詩的で、何を言わんとしているのか、とにかく判然としなかった。
 そのくせ、要求だけは性急に仕掛けてくる。

 契約専用のモニターには、顎髭が異様に長い、白髪の老人が二人、それぞれ金と銀の冠をいただいた姿で映っていた。

 老人の名は、ロンマニス三世とルダレル四世。
 異世界ソッチで、最大領土を誇る王国の国王と、最大信徒数を誇るレマナー教の教皇様だった。

 金の冠をかぶる教皇は、しわがれた声で、朗々とうたい上げた。

「おお、闇夜をらすあかりとなるは、勇者。
 なんじは神の御使い。
 神の啓示を受けしかの者が、召喚されるは必然ーー嗚呼ああ、偉大なる聖霊よ、勇猛なる神よ。
 来るべき赤の月、明滅の時刻に降臨すべきは、漆黒の森ーー嗚呼、偉大なる……」

 ーーとかなんとかまくし立てて、勢い任せに〈勇者〉を派遣すべき日時と場所までを、手前勝手に指定してきたのである。

 実際、向こうの世界での日時や場所を召喚時間として指定されたところで、こちら側で都合よく設定できるわけがない。
 コッチとソッチの世界では、そもそも時空がズレてるし、そんな詳細な設定を組むシステムが、コッチにはないしーー。

 と色々と考えを巡らした。
 が、まぁ、でも、いいや。
 仕事になるなら。
 なんでもいいから、送りつけてやれーー。

 ってことで、僕は東堂正宗くんを、ソッチの世界へ送ることにした。

 そしたら、なんだかんだで、ほぼドンピシャのタイミングで〈勇者召喚〉がなされたようだった(召喚儀式をした聖女様たちは、魔物に襲われて退散してしまっていたが)。

 正直、僕としては、今回は、無事にドンピシャのタイミングで、向こうの世界に〈勇者〉を派遣できただけで、おんだった。
 信じられないほど、運が良い、と思った。

 たしかあの教皇さん、予言の力によって地位を得たっていうけどーー案外その予言力、ホンモノかも……。

 それなのに、もう一人の依頼者である国王の方は、ハッキリしない性格をしていた。
 ボソボソと小さな声で喋るだけで、印象が薄かった。
 おかげで、何を言っていたか忘れてしまったほどだった。

 たしか「漆黒の森の探索」と「派遣隊の救出と援護」しか、依頼してなかったはずなんだよな。

 まあ、「勇者よ、神よ」とうたうばかりの電波系詩人の教皇様よりは、目先のことというか、具体的な依頼内容で、応対しやすかったんだけど、国王と報酬の話を煮詰めている段階で、

「おお、勇者が魔王を討つさまが見えるーー!」

 といった教皇様の叫び声がとどろいたかと思うと、いきなり通信が切れてしまった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕の授かったスキルは役に立つ物なのかな?

アノマロカリス
ファンタジー
よくある話の異世界召喚。 ネット小説や歴史の英雄話好きの高校生の洲河 慱(すが だん) いつものように幼馴染達と学校帰りに公園で雑談していると突然魔法陣が現れて光に包まれて… 幼馴染達と一緒に救世主召喚でテルシア王国に召喚され、幼馴染達は素晴らしいジョブとスキルを手に入れたのに僕のは何だこれ? 王宮からはハズレと言われて追い出されそうになるが、幼馴染達は庇ってくれた。 だけど、夢にみた迄の異世界… 慱は幼馴染達とは別に行動する事にした。 自分のスキルを駆使して冒険する、魔物と魔法が存在する異世界ファンタジー。 現在書籍化されている… 「魔境育ちの全能冒険者は好き勝手に生きる!〜追い出した癖クセに戻って来いだと?そんなの知るか‼︎〜」 の100年前の物語です。 リュカが憧れる英雄ダン・スーガーの物語。 そして、コミカライズ内で登場する「僕スキなのか…」がこの作品です。 その作品の【改訂版】です。 全く同じな部分もあれば、新たなストーリーも追加されています。 今回のHOTランキングでは最高5位かな? 応援有り難う御座います。

(完結)足手まといだと言われパーティーをクビになった補助魔法師だけど、足手まといになった覚えは無い!

ちゃむふー
ファンタジー
今までこのパーティーで上手くやってきたと思っていた。 なのに突然のパーティークビ宣言!! 確かに俺は直接の攻撃タイプでは無い。 補助魔法師だ。 俺のお陰で皆の攻撃力防御力回復力は約3倍にはなっていた筈だ。 足手まといだから今日でパーティーはクビ?? そんな理由認められない!!! 俺がいなくなったら攻撃力も防御力も回復力も3分の1になるからな?? 分かってるのか? 俺を追い出した事、絶対後悔するからな!!! ファンタジー初心者です。 温かい目で見てください(*'▽'*) 一万文字以下の短編の予定です!

拝啓、あなた方が荒らした大地を修復しているのは……僕たちです!

FOX4
ファンタジー
王都は整備局に就職したピートマック・ウィザースプーン(19歳)は、勇者御一行、魔王軍の方々が起こす戦闘で荒れ果てた大地を、上司になじられながらも修復に勤しむ。平地の行き届いた生活を得るために、本日も勤労。

これダメなクラス召喚だわ!物を掌握するチートスキルで自由気ままな異世界旅

聖斗煉
ファンタジー
クラス全体で異世界に呼び出された高校生の主人公が魔王軍と戦うように懇願される。しかし、主人公にはしょっぱい能力しか与えられなかった。ところがである。実は能力は騙されて弱いものと思い込まされていた。ダンジョンに閉じ込められて死にかけたときに、本当は物を掌握するスキルだったことを知るーー。

【ヤベェ】異世界転移したった【助けてwww】

一樹
ファンタジー
色々あって、転移後追放されてしまった主人公。 追放後に、持ち物がチート化していることに気づく。 無事、元の世界と連絡をとる事に成功する。 そして、始まったのは、どこかで見た事のある、【あるある展開】のオンパレード! 異世界転移珍道中、掲示板実況始まり始まり。 【諸注意】 以前投稿した同名の短編の連載版になります。 連載は不定期。むしろ途中で止まる可能性、エタる可能性がとても高いです。 なんでも大丈夫な方向けです。 小説の形をしていないので、読む人を選びます。 以上の内容を踏まえた上で閲覧をお願いします。 disりに見えてしまう表現があります。 以上の点から気分を害されても責任は負えません。 閲覧は自己責任でお願いします。 小説家になろう、pixivでも投稿しています。

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

学園長からのお話です

ラララキヲ
ファンタジー
 学園長の声が学園に響く。 『昨日、平民の女生徒の食べていたお菓子を高位貴族の令息5人が取り囲んで奪うという事がありました』  昨日ピンク髪の女生徒からクッキーを貰った自覚のある王太子とその側近4人は項垂れながらその声を聴いていた。  学園長の話はまだまだ続く…… ◇テンプレ乙女ゲームになりそうな登場人物(しかし出てこない) ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げています。

処理中です...