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第一章 東堂正宗派遣:勇者編

◆12 私は勇者様を信じております。

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 俺、東堂正宗とうどうまさむねは、現地の人たちに援助してくれるようお願いした。

 たしかに、ナノマシンの性能は凄かった。
 肉体的損傷を、あっという間に修復した。
 腕がちぎれる激痛も瞬時におさまった。
 とはいえ、ほんのわずかな間があった。
 その、ごくわずかな間隙をぬって、魔物が襲いかかってきたら、どうなる?
 おそらく、無事では済むまい。
 しかも、ナノマシンは魔法攻撃に対しては無力なのだ。
 わが身の安全確保には、万全を期したい。

 だが、俺様、〈勇者マサムネ〉の援助要請を耳にしながら、現地人の反応は薄かった。
 リネットだけではない。
 同行する男たちも、目をしばたたかせるばかり。

 やがて、聖女リネットが代表して、おずおずと声を発してきた。

「あのう……あなた様が私どもとは比較にならないぐらい、お強いことはすでに理解しております。
 私どもが全滅を覚悟した、恐るべき魔物の襲撃を、一気に弾き返したのでございますから」

「おう。だったら、感謝しろよな。
 俺様は命の恩人なんだからな!」

「はい、それは……。
 でも、そんな命の恩人であるあなた様が、私どもに力を貸せ、と仰せになられます。
 が、実際、非力な私どもが、強者であるあなた様に、何かお力になれることがあるのでしょうか?」

「あるさ!」

 俺は聖女様に迫りながら、畳みかけた。

「たしかに、俺様は貴様らより、ずっと強い。
 遠い異世界から、はるばるやってきた勇者なんだからな。
 でも、魔力が無尽蔵むじんぞうってわけじゃない。
 今のような物理的な攻撃には幾らでも対処できるが、もし相手が魔法攻撃を仕掛けてきたら、さすがの俺様も無傷ではいられないかもしれん。それを懸念しているのだ。
 ……いや、大丈夫だ。俺様は決して殺されたりはしない。
 でも、さっきも、じかに急所に牙を剥かれていたら危なかった。
 治癒魔法を使うまでもなく、負傷しない程度の力は欲しいのだ」

 聖女様を取り巻く男たちが、うろたえて騒ぎ始めた。

「あれほどお強いのに……」

「意外と小心者なのかな。異世界人というのは」

「でも、我々が生命を救ってもらったのも、まごう事なき事実。
 意外と防御力が弱いのかもしれん」

「あり得るな。攻撃に特化した魔力配分をしておるのかも」

「なるほど……」

 おいおい、陰口は相手に聞こえないようにするもんだよ、と注意してやりたいが……。
 そうか、彼らが声をひそめてささやきあってる会話を聞き取れること自体も、異世界転送の際に身につけた能力かもしれん。
「聴覚過敏」とか、そんなの。
 知らんけど。

 ーーなどと、俺が考え込んでいるとーー。

 聖女様が、意を決意したように、申し出てきた。

「では、私が持っている治癒ポーションを、譲らせていただきます」

 騎士のレオンが心配して、即座に口を挟んだ。

「聖女様、よろしいのですか?
 大切なポーションを……」

 ちなみに、聖女リネットが持っている治癒ポーションは、聖魔法が刻まれた特別製らしい。
 普通のポーションは、傷を負ったり体力を激しく消耗したりした後に飲んで、治癒・回復するもの。
 だが、このポーションには、特別な性能があった。
 事件が起きる前ーー深傷を負ったり、死に瀕したりする前に、あらかじめ飲んでおくと、治癒・回復の魔法効果が半日以上も継続する、という優れものなんだそうだ。

 ラッキー!
 これで安心して、危地に飛び込むこともできようってもんだ。

 俺は満面に笑みをたたえて、聖女様に念押しする。

「ほんとにもらっちゃっていいんだよな、このポーション。
 後で返せって言われても、あげないぞ」

「はい。勇者様のためです。私は勇者様を信じております」

 聖女リネットの顔は、明るく輝いていた。

 ありがたい。
 後ろでささやき合ってるお仲間さんたちのように、俺様も聖女様をおがみたくなってきた。

 でも、今の俺は、勇者サマーー。
 誰が相手であろうと、両手を合わせて拝んだり、頭を下げるわけにはいかんのだ。

 俺は大きく息を吸い込んでから、言い放った。

「おう! まかせておけ。俺様は宇宙レベルで強い!」
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