【BL】ビッチとクズ(プロローグに表紙絵あり)

にあ

文字の大きさ
上 下
29 / 38

side 藤崎恵(めぐみ)

しおりを挟む
ピンポーン。

さっきから鳴らしているけど、応答はない。
いつもの事だ。

共用エントランスのドアを開ける鍵は預かっているけど、玄関の鍵は別にあって、それはどうしても渡して貰えなかった。
だからいつもこうして、玄関ドアの前でチャイムを鳴らし続けるしかない。

しばらくしてやっと、ガチャ、と音がして重たい金属製の扉が内側から開けられた。
バスローブを一枚羽織っただけの彼が、寝起きで不機嫌そうな顔をして私を見つめている。

いつ見ても素敵だ。

あのバスローブの下は、きっと裸なんだろう。隙間から裸の胸が少し見えて、細いけれど引き締まっていそうな他の部分を想像すると、たまらない気持ちになる。

「おはようございます。よろしくお願いします」

皆に綺麗だ、素敵だと言われる笑顔でにこやかに挨拶しても、彼――雄大の表情は変わらない。

「客来てるから、勝手にやってて」
「はい、承知しました」

・・・そんなの、玄関の靴を見てとっくに分かっている。

雄大の靴より一回り小さいスニーカー。
また、あいつだ。みなと、とかいう奴。

まだ私が見た事のない彼の裸体の隅々まで、雄大が『あの時』どんな顔をするのか、どんな声で囁くのか、全部知っている奴。
しかも、男の癖に。

雄大が色んな相手を連れ込んでは、そういう行為をしているのは前から知っている。

だけど、どんな相手だろうと何度も続けて見る事はなかったし、彼にとってはどんな相手も遊びにしか過ぎないのは、雄大の態度を見ていたら分かる。
だから許容できた。

半年前にあいつを初めてこの部屋で見た時も、大して気に留めなかった。
最初は男友達を連れて来るなんて珍しいな、と思った。だけど廊下で二人がキスしているのを見て、今まで女しか連れ込まなかった雄大の突然の趣味に驚いたものの、どうせまた気まぐれな遊びの相手だろうと思った。

あいつを見掛ける回数が5回を過ぎた頃、おかしいなと思った。

気になって『みなと』が来ている時はあいつを観察した。そうしたら、あいつと接する時だけは、雄大が楽しそうによく笑っているのに気付いた。

言葉も態度も他の人間と接するのと同じように素っ気なかったし、『みなと』がよく来るようになってからも、他の女や男を部屋で見掛ける事があったから、観察しないと気付かなかったけど、何だか胸が騒めいた。

そしてその嫌な予感は半年経つ頃には確信に変わる。

最近は、みなと以外の男女を部屋で見掛ける事が全く無くなった上に、雄大がみなとを見る目がはっきり彼の気持ちを物語っている。

「あ、あは、おはよっす」

キッチンに向かう途中、みなとが寝室から出て来た。気まずそうに笑うその首筋にも胸の辺りにも、うっ血したような痕がいくつもある。
憎たらしくて、無意識に握った手に力が入ってしまう。

「ちょ、待てよ、今ダメだろ・・・」

キッチンに入ろうとした時、廊下からあいつの焦った声が聴こえて来て、その後繰り広げられてる事なんて知りたくもなくて、私は朝食を作る事に意識を集中した。

「また、こんなに汚して・・・っ」

寝室でぐしゃぐしゃに乱れたシーツを剥ぎ取りながら、奥歯を噛みしめる。

遊びだと思っていたから、彼とあいつの痕跡が、嫌というほど付いたシーツを洗うのも耐えられたのに。
頭空っぽのビッチそうな男の癖に、こんなに雄大に愛して貰って、さっきだって私の存在なんて完全に無視していちゃついてて。悔しい。

「あんな奴のどこが、そんなにいいのよっ」

思わず枕に拳を叩き込んだら、ふわっと雄大の匂いが立ち昇って来た。
いつも傍に寄ると漂って来る、ぞくぞくする匂いに無意識に吸い寄せられて、枕に顔を伏せてしまう。

「雄大・・・」

この匂いに包まれたい。抱き締めて愛してるって言われたい。
つい、うっとりスリスリしていたら、急にバンとドアが開いて冷水を浴びせられたように跳ね起きた。

「え・・・?」

みなとの困惑した声が聞こえて、急いでシーツを持って部屋を飛び出す。

どうしよう。
見られてしまった。雄大に告げ口でもされたら、今度こそ解雇されるかもしれない。
今までだって、別の人間に替えろと何度か言われていたのを、雄大の父親と私の父の繋がりで無視して貰って来たのに。

・・・あいつを排除するしかない。

今まで実行する踏ん切りが付かないまま、下調べだけはして来た。

「そうよ、あんたなんて適当なその辺の女とやってりゃいいのよ。別に雄大じゃなくたっていいじゃない。雄大だって、あんたがいなくなりゃ、目が覚めるでしょ」

みなとが回していたらしい洗濯機が止まっていた。

中身を取り出して一応きちんと畳んだけど、どうしても我慢出来なくてあいつの履いていたボクサーパンツを手に取ると、キッチンからハサミを持って来て、縫い目に沿って小さく切れ目を入れた。そこから手で引っ張ってビリビリと破いて行く。

問い詰められても、洗濯が終わって取り出したら破れていた、と言えばいい。

ちょっとだけ胸がスッとしたけれど、二人でこもったきり出て来ない寝室から、どう聞いても何かしている声が漏れていて、また腹の底から悔しさと憎しみが湧き上がって来た。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

男子寮のベットの軋む音

なる
BL
ある大学に男子寮が存在した。 そこでは、思春期の男達が住んでおり先輩と後輩からなる相部屋制度。 ある一室からは夜な夜なベットの軋む音が聞こえる。 女子禁制の禁断の場所。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

処理中です...