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sideユーゴ 最愛の人
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馬を駆り、急いで王都の宿舎に戻りながら、俺は高揚した気持ちを抑えられないでいた。
ずっとずっと、再会を夢見ていた、最愛の人に会えたんだ。そればかりか、昨夜は一緒にベッドで寝る事まで出来て…本当はあのまま結ばれたかったけど、まさか、閨事を知らないなんて思わなかった。
びっくりはしたけど、シャルが誰にも穢されてなかったのは最高に嬉しい。
処女だと知っていたら、俺だって性急に求めたりしなかったのに。
あんなに獣みたいにがっついて嫌われてたらどうしようと思ったけど、シャルはあれが何だったのかよく分かってないみたいだった。
ちょっと怒ってたけど、お小言だけで終わったのは助かった。
次からは、初めてのシャルがびっくりしないように、もっと慎重に優しく進めて行こう。
「それにしても昨夜のシャルナ、可愛かったな…」
つい、あの感触を思い出してしまう。
初めてそういう意味で口付けしたけど、柔らかくて暖かくて、いい匂いがして…
堪らなくて、止まれなくなった。
強制的に眠らされなかったら、きっと強引に初めてを奪ってしまっていたと思う。
翌朝、シャルが何も知らないんだと分かった時は、『眠り』の魔法を掛けられて良かった、って胸を撫でおろしたよ。
シャルが俺よりずっと長く生きている事は知っているし頭では理解しているけど、見た目は少女のようだし、昔から俺はシャルナを母とは見ていない。
まあ、拾われたばかりの頃はまだ小さかったから、頼れる姉のようには思っていたけど…10才を過ぎる頃にはもう、大人になったら絶対にシャルを自分のものにする、と決めていた。
これは絶対内緒だけど、シャルの湯あみをこっそり覗いて一人でした事もある。
でもそんな風に俺に陰で穢されてる事なんて知らず、いつも優しい微笑みを向けてくれるシャルに劣情を抱いている事に、罪悪感も感じていた。
このままずっと一緒にいたら、いつか我慢出来なくなって酷い事をしてしまうかもしれない。
だから、15歳になる頃、シャルに「王都の士官学校に通いなさい」と言われた時、その話に飛び付いたんだ。
シャルと離れるのは身を切られるより辛かったけど、このまま一緒にいて、まだ何も成していない身でシャルを傷付けるような事になったら、自分が自分を許せない。
ちゃんと立派な大人の男になって、強くなって、シャルを迎えに来ると決めた。
それまでは会う事も我慢して、自分を律して、脇目もふらず頑張って―――
まだ下っ端だけどやっと騎士団に入れてシャルに会いに行こうとしたら、まさか『迷い』の魔法と結界で拒否されてるとは思わなかったけど。
でも、絶対に居場所を突き止めて求婚してやる、決して諦めたりなんかしない。
そう思っていた矢先に、騎士団の仕事で魔導師の護衛をする事になった。
どんな人物かは聞いていなかったし、知る必要はないと言われていたから、何も思わず現場に向かったけど、その魔導師がシャルナだったなんて運命以外の何ものでもないよ。
暗緑色のローブを頭から被っていて顔は良く見えなかったけど、小柄な身体つきから女だと分かった。
女の魔導師なんて、そんなに居るものじゃない。
だから彼女を見た時、もしかして…とは思った。決定的だったのは、その魔導師が口を開いた時だ。
「もう準備はしておいたから、あなた達はあそこにスライムを追い込んでちょうだい」
その声を聞いた瞬間、心臓が飛び出すかと思った。
この声、絶対シャルだ。
でもスライムを退治したシャルはさっさと帰ろうとして焦った。その時、小さなスライムが襲い掛かろうとしていたのに気付いて咄嗟に叩き落したけど、おかげでやっと間近で顔を見る事が出来た。
フードから覗く、黒い艶のある髪にワインのような綺麗な赤い瞳。透き通るような肌と可愛らしい顔。
昔と変わらない記憶通りの姿。
やっと、会えた。
――――
「おっと、ぼんやりしてた。どうどう」
色々思い返していたらいつの間にか騎士団の宿舎に着いていて、俺は速度を緩めると、厩舎に馬を戻した。
この時間だと、皆、個人的な鍛錬をしているか、朝食を摂っている頃だろう。
俺も朝食を摂ろうと食堂へ向かい、騎士見習いの少年達が用意したパンとスープ、塩漬け肉を皿に載せていたら、ぽんと肩を叩かれる。
「ようユーゴ、朝帰りか?」
ニヤニヤ笑いを浮かべるのは、同期のリノだった。上昇志向が強く、功績を争ってよくいざこざを起こしている奴だ。
特に親しい訳じゃないし、普段は絡む事もないのに面倒だな。
「ん~、どうだろうね」
言葉を濁したけど、リノはしつこく食い下がって来る。
「いやいや?昨日、討伐護衛に行った奴らからお前が魔導師に抱き着いてたって聞いたぜ?なんだよ、あんなにモテる癖に女の一人も作らなかった馬鹿真面目なお前が、いつの間にそんな事になったんだよ」
…くそ。
やっぱり、目立ってたみたいだ。
まあ、俺が悪いんだけど、このままじゃ不味い。
シャルが俺を士官学校に送り出す時、言っていた言葉が蘇る。
『私と関わりがあると知られたら色々面倒なの。だから絶対に学校でも、私の養い子だなんて言っちゃ駄目よ。書類上、あなたは遠い国の商人の隠し子という事になってるから、それを貫きなさい』
シャルは、魔女の自分は異分子だとよく言っていたし、そんな自分と繋がりがあると知られて、俺が理不尽な目に遭う事を危惧していた。
俺は考えすぎじゃないか、と思ってるけど、シャルに面倒や心配は掛けたくない。
「あー…あれはさ。ちょっと、人違いしたんだ。それより、バレちゃしょうがないけど確かに、朝帰りだよ。最近出来たんだ、恋人」
そう言うと、リノは
「へぇー?どこで知り合ったんだ?どんな女なんだよ」
と食い付いて来た。
「あー、ちょっと街でね。彼女はそりゃもう、すごく、すごく…可愛いよ!ちょっと世間知らずで初心なんだけど、それがまたいいっていうか、しっかりしてるように見えるくせに、実は案外色々抜けてる所も可愛いし、今日だって、いや今日だけじゃなくて本当はずっと一緒にいたいくらいだよ」
話している内にシャルへの想いが暴走して、つい熱弁してしまう。
でもそれが逆に真実味があったみたいで、
「へぇーあのお前がなあ?ホントに惚れてんだな、その女に。まあいい。それじゃな」
リノは満足したのか興味を失ったのか、そう言い置いて去って行った。
ふぅ…何とか誤魔化せたかな?
これからは、シャルの家に行く時も気を付けなきゃ。
そんな事を考えながらスープを口に入れると、塩加減を間違えたのか物凄くしょっぱくて、早くもシャルのシチューが恋しくなった。
ずっとずっと、再会を夢見ていた、最愛の人に会えたんだ。そればかりか、昨夜は一緒にベッドで寝る事まで出来て…本当はあのまま結ばれたかったけど、まさか、閨事を知らないなんて思わなかった。
びっくりはしたけど、シャルが誰にも穢されてなかったのは最高に嬉しい。
処女だと知っていたら、俺だって性急に求めたりしなかったのに。
あんなに獣みたいにがっついて嫌われてたらどうしようと思ったけど、シャルはあれが何だったのかよく分かってないみたいだった。
ちょっと怒ってたけど、お小言だけで終わったのは助かった。
次からは、初めてのシャルがびっくりしないように、もっと慎重に優しく進めて行こう。
「それにしても昨夜のシャルナ、可愛かったな…」
つい、あの感触を思い出してしまう。
初めてそういう意味で口付けしたけど、柔らかくて暖かくて、いい匂いがして…
堪らなくて、止まれなくなった。
強制的に眠らされなかったら、きっと強引に初めてを奪ってしまっていたと思う。
翌朝、シャルが何も知らないんだと分かった時は、『眠り』の魔法を掛けられて良かった、って胸を撫でおろしたよ。
シャルが俺よりずっと長く生きている事は知っているし頭では理解しているけど、見た目は少女のようだし、昔から俺はシャルナを母とは見ていない。
まあ、拾われたばかりの頃はまだ小さかったから、頼れる姉のようには思っていたけど…10才を過ぎる頃にはもう、大人になったら絶対にシャルを自分のものにする、と決めていた。
これは絶対内緒だけど、シャルの湯あみをこっそり覗いて一人でした事もある。
でもそんな風に俺に陰で穢されてる事なんて知らず、いつも優しい微笑みを向けてくれるシャルに劣情を抱いている事に、罪悪感も感じていた。
このままずっと一緒にいたら、いつか我慢出来なくなって酷い事をしてしまうかもしれない。
だから、15歳になる頃、シャルに「王都の士官学校に通いなさい」と言われた時、その話に飛び付いたんだ。
シャルと離れるのは身を切られるより辛かったけど、このまま一緒にいて、まだ何も成していない身でシャルを傷付けるような事になったら、自分が自分を許せない。
ちゃんと立派な大人の男になって、強くなって、シャルを迎えに来ると決めた。
それまでは会う事も我慢して、自分を律して、脇目もふらず頑張って―――
まだ下っ端だけどやっと騎士団に入れてシャルに会いに行こうとしたら、まさか『迷い』の魔法と結界で拒否されてるとは思わなかったけど。
でも、絶対に居場所を突き止めて求婚してやる、決して諦めたりなんかしない。
そう思っていた矢先に、騎士団の仕事で魔導師の護衛をする事になった。
どんな人物かは聞いていなかったし、知る必要はないと言われていたから、何も思わず現場に向かったけど、その魔導師がシャルナだったなんて運命以外の何ものでもないよ。
暗緑色のローブを頭から被っていて顔は良く見えなかったけど、小柄な身体つきから女だと分かった。
女の魔導師なんて、そんなに居るものじゃない。
だから彼女を見た時、もしかして…とは思った。決定的だったのは、その魔導師が口を開いた時だ。
「もう準備はしておいたから、あなた達はあそこにスライムを追い込んでちょうだい」
その声を聞いた瞬間、心臓が飛び出すかと思った。
この声、絶対シャルだ。
でもスライムを退治したシャルはさっさと帰ろうとして焦った。その時、小さなスライムが襲い掛かろうとしていたのに気付いて咄嗟に叩き落したけど、おかげでやっと間近で顔を見る事が出来た。
フードから覗く、黒い艶のある髪にワインのような綺麗な赤い瞳。透き通るような肌と可愛らしい顔。
昔と変わらない記憶通りの姿。
やっと、会えた。
――――
「おっと、ぼんやりしてた。どうどう」
色々思い返していたらいつの間にか騎士団の宿舎に着いていて、俺は速度を緩めると、厩舎に馬を戻した。
この時間だと、皆、個人的な鍛錬をしているか、朝食を摂っている頃だろう。
俺も朝食を摂ろうと食堂へ向かい、騎士見習いの少年達が用意したパンとスープ、塩漬け肉を皿に載せていたら、ぽんと肩を叩かれる。
「ようユーゴ、朝帰りか?」
ニヤニヤ笑いを浮かべるのは、同期のリノだった。上昇志向が強く、功績を争ってよくいざこざを起こしている奴だ。
特に親しい訳じゃないし、普段は絡む事もないのに面倒だな。
「ん~、どうだろうね」
言葉を濁したけど、リノはしつこく食い下がって来る。
「いやいや?昨日、討伐護衛に行った奴らからお前が魔導師に抱き着いてたって聞いたぜ?なんだよ、あんなにモテる癖に女の一人も作らなかった馬鹿真面目なお前が、いつの間にそんな事になったんだよ」
…くそ。
やっぱり、目立ってたみたいだ。
まあ、俺が悪いんだけど、このままじゃ不味い。
シャルが俺を士官学校に送り出す時、言っていた言葉が蘇る。
『私と関わりがあると知られたら色々面倒なの。だから絶対に学校でも、私の養い子だなんて言っちゃ駄目よ。書類上、あなたは遠い国の商人の隠し子という事になってるから、それを貫きなさい』
シャルは、魔女の自分は異分子だとよく言っていたし、そんな自分と繋がりがあると知られて、俺が理不尽な目に遭う事を危惧していた。
俺は考えすぎじゃないか、と思ってるけど、シャルに面倒や心配は掛けたくない。
「あー…あれはさ。ちょっと、人違いしたんだ。それより、バレちゃしょうがないけど確かに、朝帰りだよ。最近出来たんだ、恋人」
そう言うと、リノは
「へぇー?どこで知り合ったんだ?どんな女なんだよ」
と食い付いて来た。
「あー、ちょっと街でね。彼女はそりゃもう、すごく、すごく…可愛いよ!ちょっと世間知らずで初心なんだけど、それがまたいいっていうか、しっかりしてるように見えるくせに、実は案外色々抜けてる所も可愛いし、今日だって、いや今日だけじゃなくて本当はずっと一緒にいたいくらいだよ」
話している内にシャルへの想いが暴走して、つい熱弁してしまう。
でもそれが逆に真実味があったみたいで、
「へぇーあのお前がなあ?ホントに惚れてんだな、その女に。まあいい。それじゃな」
リノは満足したのか興味を失ったのか、そう言い置いて去って行った。
ふぅ…何とか誤魔化せたかな?
これからは、シャルの家に行く時も気を付けなきゃ。
そんな事を考えながらスープを口に入れると、塩加減を間違えたのか物凄くしょっぱくて、早くもシャルのシチューが恋しくなった。
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