8 / 16
聖女フェルマ、どきどきする
しおりを挟む張り付いて脱ぎにくい服を全部脱ぐと、私はシオンの方を見ないようにして乾いた床に広げて置いた。
うわ~~~~、この、守るものが何もなくて、ものすごく心細い感じ……
シオンをちらっと振り返ると、こっちに背中を向けて座っていた。
うわっ、背中広い。
なんか、ほんと。彫刻みたいですごく綺麗だ。
またじーっと見てしまって、慌てて前を向いた。
ーーーーー……寒い。
なんか、落ち着いたら寒くなって来た。ここ、元々ひんやりしてるし。
「うっ」
ぶるるる、と震えが来て、思わず声が漏れてしまったら、シオンに気付かれた。
「寒いか?」
「うん、まあね……でも仕方ないし」
「お前が嫌じゃなけりゃ、背中にくっついててやるけど」
「ええっ!?」
「雪山とかでも、やるだろ。嫌ならやらないけど。向かい合ってくっつくのは嫌だろうから、お前は前向いてりゃいいよ。それなら大丈夫だろ?」
「ああああううう」
いや、シオンはものすごく親切な提案をしてくれている。今までの超しょっぺー塩対応からしたら、とてつもなく優しいよね。
それに、やっぱりかなり寒い。
「……うん、ごめんだけど、そうしてもらえるかな?」
そう言うと、
「分かった」
とシオンがごそごそ動く気配がした。そして、ふわ、っと私の背中に大きな体が被さってくる。私は膝を立てた足の前で両手を組んで座っていたけど、その上からシオンのがっしりした腕と、大きな両手が包んでくれる。
うわ……
これ、あったかーーい……
思わず、ほわああ、と体が緩んだよね。
「はわあ……」
声も出ちゃってた。
ぷっとシオンが笑った。
「お前、面白いなあ」
しばらく、そうしていると、寒くて仕方なかったのがだんだん温まって来た。
「……暖かくなったか?フェルマ」
「うっ、うん。ありがとシオン」
いつになく、優しい口調のシオン。
気にしないようにしてるけど、私の裸の背中に後ろからぴったりくっついているシオンの裸の胸と、触れた肌から伝わる熱いくらいの体温に、心臓がドキドキして止まらない。
シオンの心臓もどくどくしている。
「……」
沈黙が場を支配していた。
どうしよう。気まずい……胸のドキドキも治まらない。でもそのドキドキがなんか、気持ちいいような……。ずっと味わっていたいような変な気持ち。
なんか、眠い。
いつの間にか、私はうとうとしていた。
体がふわふわしていて、気持ちいい。すり、すり、と頬が暖かいものでくすぐられたような気がした。けど、夢、かな……
「フェルマ。大分服が乾いたぞ」
「ん……」
あ、やっぱり寝てたんだ。気付いたら、シオンはまだ後ろから温めてくれていたけど、服を目の前に差し出してきた。
「ありがと……」
まだ半分ぼんやりする頭で、それを受け取る。
シオンの体がする、っと離れて行って、隙間に寒い空気が入ってきたから、ぶるっと震えた。
のろのろと服を着て、ローブをまとった。まだ少し濡れているけど、仕方ない。びしょ濡れだった時よりだいぶマシだ。
振り返ると、シオンもちゃんと全部着ていて、いつものように単なる影がローブを着ているみたいになっていた。
あの超イケメンのシオンは夢だったみたいな気すらする。
「かなり魔力が戻ったから、探索でイグニス達の魔力を追ってみる」
シオンは少しの間じっとその場に佇んでいたが、イグニス様たちを見つけたらしい。
「大きな魔力が二つ、上の方にあるな。この感じはイグニス達で間違いない。フェルマは魔力はどうだ?戦えそうか?」
「うん、私は大丈夫だよ」
「分かった。じゃあ上に向かおう」
そう言ってシオンは歩き出した。私もすぐに後を追う。
もう、さっきのことなんてまるでなかったみたい。切り替え早いなあ。いや、シオンは何も気にしてなかったみたいだったな。
……まあ、いいんだけど。
なんか、私だけドキドキしちゃったみたいで、ちょっと癪だなあ。
その後、特に危ない場面もなく、私たちは上の階のイグニス様たちと合流できた。
イグニス様たちは、あの魔法陣が発動した部屋で待っていてくれたらしい。
下手に追いかけても合流できなかった時、全滅しちゃうかもしれないもんね。
「たぶん、魔力が回復したらシオンがこっちを見つけるだろうって思ったからね」
イグニス様が言う。
とにかく、無事に合流できてよかった。私たちは街に戻ることにした。
*********
大好きな王道パターン、書いててめっちゃ楽しかったです。
0
お気に入りに追加
81
あなたにおすすめの小説


今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
【完結】甘やかな聖獣たちは、聖女様がとろけるようにキスをする
楠結衣
恋愛
女子大生の花恋は、いつものように大学に向かう途中、季節外れの鯉のぼりと共に異世界に聖女として召喚される。
ところが花恋を召喚した王様や黒ローブの集団に偽聖女と言われて知らない森に放り出されてしまう。
涙がこぼれてしまうと鯉のぼりがなぜか執事の格好をした三人組みの聖獣に変わり、元の世界に戻るために、一日三回のキスが必要だと言いだして……。
女子大生の花恋と甘やかな聖獣たちが、いちゃいちゃほのぼの逆ハーレムをしながら元の世界に戻るためにちょこっと冒険するおはなし。
◇表紙イラスト/知さま
◇鯉のぼりについては諸説あります。
◇小説家になろうさまでも連載しています。
甘過ぎるオフィスで塩過ぎる彼と・・・
希花 紀歩
恋愛
24時間二人きりで甘~い💕お仕事!?
『膝の上に座って。』『悪いけど仕事の為だから。』
小さな翻訳会社でアシスタント兼翻訳チェッカーとして働く風永 唯仁子(かざなが ゆにこ)(26)は頼まれると断れない性格。
ある日社長から、急ぎの翻訳案件の為に翻訳者と同じ家に缶詰になり作業を進めるように命令される。気が進まないものの、この案件を無事仕上げることが出来れば憧れていた翻訳コーディネーターになれると言われ、頑張ろうと心を決める。
しかし翻訳者・若泉 透葵(わかいずみ とき)(28)は美青年で優秀な翻訳者であるが何を考えているのかわからない。
彼のベッドが置かれた部屋で二人きりで甘い恋愛シミュレーションゲームの翻訳を進めるが、透葵は翻訳の参考にする為と言って、唯仁子にあれやこれやのスキンシップをしてきて・・・!?
過去の恋愛のトラウマから仕事関係の人と恋愛関係になりたくない唯仁子と、恋愛はくだらないものだと思っている透葵だったが・・・。
*導入部分は説明部分が多く退屈かもしれませんが、この物語に必要な部分なので、こらえて読み進めて頂けると有り難いです。
<表紙イラスト>
男女:わかめサロンパス様
背景:アート宇都宮様
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる